こんばんは。今週は沼田をめぐる裁判劇からスタートします。それにあわせて、北条方はこんなアピールをしました。
さて、沼田裁定はどのように裁かれるのでしょうか。
「交渉のテーブルにつく」という言い回しがありますが、まさにそれを視覚的に体現しています。
この場面で思い出していただきたいのが、ちょうど十回前の「人質」です。
あの話でも利害が対立した二者が、交渉していました。
こうまとめてみると、人類の叡智が進化する過程を見ているようです。
後者の裁定も現代人から見ると不備はあるのですが、それでも「鉄火起請」を見ていて感じた「こんなの無理!」「意味がわからないよ!」という戸惑いはかなり緩和されています。
これが中世と近世・近代の差ではないでしょうか。
「話し合いで領土を決めるなんて戦国時代じゃない!」「戦国ドラマなら合戦をやれ!」という批判もありますが、まったく的外れだと思います。
本作は戦国という武力闘争で解決した時代の終焉を描いているのです。
ただ、この裁定も必ずしも正しいとは言い切れません。
裁定の場のインテリアは、先週指摘した通り無茶苦茶で悪趣味です。秀吉の頭の中の状態を暗示しているのかもしれません。
そもそもこの秀吉は、先々週の落書事件(レビューはコチラ)で極めて感情的恣意的に裁定をくだしかねない、危険な人物であると示されています。
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四百年前ではこれが最善の限界です。
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そもそも沼田は誰の地で、なぜ大事なの?
かくして沼田裁定が始まります。北条(板部岡江雪斎)と真田(信繁)は双方言い分を語り出します。
論点その一「そもそも沼田は誰の領地か?」
ここで片桐且元渾身のパワーポイントスライド(の、ようなもの)が登場。張り切って解説する且元ですが、「長い」と秀吉にぶった切られます。
これはたどっていくと、上杉領になります。
論点その二「なぜ沼田は大事か?」
且元またもプレゼンを行いますが、要するに天然の要害にあるということです。
論点その一に戻り、北条方が真田よりこちらが古いと言い出すと、真田はそれならば上杉帰属になる、織田勢から誰が取り戻したかが争点だと言い出します。
織田を追い払ったのは北条だと主張する相手に対し、真田は沼田を取ったのはこちらだと言います。
しかし、思い返してみれば滝川一益を裏切った騙し討ちでした(第七回)。
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そこを北条に突かれ、信繁は「ええそうですよ。だまし取り! かすめ取り! 勝ち取りました!」と開き直ります。
この時点で私の心は北条支持に傾きます。しばし休廷。
隠れていた真田昌幸は信繁に対し「いいぞ、その調子だ!」と励ましますが、私の心情的にはあの昌幸のかすめ取った時のドヤ顔を思い出しましてねえ。
やはり北条に肩入れしてしまうんですけどね。気になるのはここまで沈黙を貫いている徳川方(本多正信)の動向です。
そこへきりが、秀次への差し入れにもって来ます。
信繁にもミニサイズおにぎりを持参するきり。さらに秀次に「北条に沼田を取られたくないな〜、とってもいいお城なんですよ〜」とアピール。最近のきりちゃん、すっかり有能じゃないか。
休憩を挟み、石田三成が徳川の証言を求めます。
北条は、徳川が和睦の歳に沼田を引き渡すと約束したはずだと言い張ります。
真田は、同じ年に真田も徳川と約定をかわしており、沼田は真田のものだとしたのだと主張。
家康がめんどくさそうに両方へ良い顔をしたことがこんなところで響いてくるとは。
ここで秀吉は、我が子を抱いて退出。残された秀次に裁定がゆだねられます。
北条は、大名同士の約束である北条・徳川間の方が、真田と徳川の間の主従関係であるもの、いわば親子間の約束より重要であると主張。
北条は約定の重さを持ち出し、真田は約束の順序が大事だと言い張ります。
その途端、北条方の板部岡江雪斎はなんとも嫌らしい勝利を得たかのような表情を浮かべて、「真田は徳川と約束があるにも関わらず理屈をないがしろにした、そんな二枚舌の男だと誹謗するつもりか」と真田に返す刀で詰め寄ります。
ここで徳川が口を開きます。
徳川は沼田を譲っていない、奪い返すなら好きにせよと許可を出したまで、起請文にも「手柄次第」とあるはずだと言います。
これで真田有利に動きます。
北条は抗弁しますが、苦しくなっております。
裁定を任されていた秀次は続けて
「譲り渡すにせよ、奪い返すにせよ、こうなると真田の元だと暗に認めているのでは? 北条のものならば“取り返す”だろう?」
と真田有利の意見を出します。
おおっ、どこか無能扱いされがちな秀次、ものすごく賢いですぞ。本人もやたらと謙虚なだけで、実はなかなかきれる人物なんですね。
昌幸を前に三成が怒声「沼田が火種となるのだ!」
信繁はほっとして隠れた父に報告に行きます。するとそこへ三成が入ってきます。三成はとっくに昌幸のかくれんぼをお見通しでした。
三成は彼の計画が台無しになったと言います。
「これでは困る、北条を上洛させ戦を何としても回避したい、真田のために裁定はするものの、北条沼田は譲るつもりだったのに」
自分の計画を語り、ここは折れて欲しいと頼みます。
日本を巻き込んだ大いくさになったらどうするかと詰め寄る三成を昌幸は笑い飛ばすのですが、「沼田が火種となるのだ!」とすごみ頭を下げる三成を見て信繁の気が変わります。
ここは沼田を引き渡しましょうと言う信繁。
昌幸は悔しそうな表情をしながら、引き渡す条件として沼田のはずれにある「名胡桃」が欲しいと言い出します。
その理由は「真田一族代々の墓がある」というものですが、これが真っ赤な嘘です。
本当は沼田を見下ろす場所に名胡桃があるという、嫌がらせ兼軍事的理由でした。
この嫌がらせが、北条を地獄に突き落とすことになるのですが……本当にろくなことしませんね、昌幸は。
そしてここで先ほどの秀次の名裁きを思い出します。
あの裁定そのものは聡明ですが、彼よりもっと聡明で進歩的な三成のプランをぶちこわしにするものだったのですね。
秀次はそのあたりわからないということで、やはりちょっと残念な人物ということに。
かくして沼田裁定は決着しました。
信幸、東国一のコワモテ父ちゃん忠勝に向かって叫ぶ
関東に戻った江雪斎は北条氏政に上洛をすすめるのですが、氏政は聞きません。
さらには城の受け渡しに大軍を動員し、裁定への不服を示そうとします。
これを受け秀吉は戦を仕掛けようとしますが、三成が何とかとどめ、氏政にさらに上洛を勧めようと提案します。
沼田城の矢沢頼綱(72)は、信幸からの城引き渡し勧告を聞き入れません。
そもそもこの人が北条との使者を殺し、北条勢から根性で城を守り抜いたからゆえの(第十回)、このこじれなんですよね。
沼田を戦国の火薬庫バルカン半島にしたのは、この人の奮闘のせいと言えなくもありません。
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城の柱に己を縛り付けて暴れる頼綱に、信幸は「見た目以上に頑丈だぞ、多少乱暴に扱っても死にはせん!」となかなかひどいことを言いながら、頼綱を強制連行します。
真田信幸" width="370" height="320" />
そしてこのあと、名胡桃城奪還事件が!
北条家臣の猪俣邦憲が名胡桃城を奪回し、真田家臣で城代の鈴木主水が責任をとって自害してしまったのでした。
いきり立つ家臣を前にためらう信幸。
そこへなんと舅・本多忠勝がドスドスとやって来ます。
「何をとまどっておる! 城を奪い返すのじゃ! この本多忠勝に先陣を任せろ!」
「帰って! ここは真田の軍議だろ、あんたは徳川の家臣なんだから帰って!」
そう強気で言う婿を忠勝は気に入ったらしく、ワハハハと笑いながら去って行きます。
信幸は五日かかる上田京都間の道を佐助に疾走させ、四日で京に知らせを届けるよう指示を出します。
それにしても忠勝は一体いつまで娘の元にいるつもりなのでしょうか。
小田原城があれば! 小田原城があれば、クックック
京の真田屋敷で凶報を聞いた昌幸は激怒。
城代の鈴木主水の死を悼み「こんなことなら名胡桃をさっさと渡しておけばよかった」と悔やみます。
昌幸はその決断を、二日で上田へ届けよと指示(やめて、佐助が過労死しちゃう!)。
しかし信繁は秀吉の判断をあおぐべきだと意見します(よかった佐助死なないで済む!)。
昌幸に状況を聞いた秀吉は、北条攻めの口実ができたとほくそ笑みます。
三成はなおも上洛するように促すべきだと提案します。
はたして北条の決断は?
昌幸と出浦昌相は酒を飲みながら「いちいち領土問題に秀吉の決裁がいるなんてかったりぃ、あのサルめ」と愚痴ります。
昌相は「聚楽第の東が手薄だ、攻め込めるぞ」と調査結果を報告。
どこまで本気かわかりませんが、この人たちは、謀略と愚痴をつまみに酒を飲む連中なのでしょう。
一方北条氏政は、秀吉がいちいち口を挟んでいることに激怒。
これは秀吉の思うつぼですから、江雪斎は諫めます。
しかし氏政にはまったく聞く様子はありません。
秀吉は利休の茶室で、これぞ討伐の口実ができたと喜びます。こんな黒い利休はなかなかおりませんな。
北条征伐を決めた秀吉を、三成と信繁は何とか止めようとしますがまったく聞く耳を持ちません。
秀吉の圧倒的な力を示す北条征伐が始まります。
三成はうつろな目で「戦が始まるといつこもうだ、暴れ牛のようなもので誰も止めることはできぬ」、とつぶやきます。
氏政はまだ勝てると信じています。氏直はうろたえますが、氏政は違います。
秀吉が攻めて来るならば、小田原城と奥羽の伊達との盟約を頼りにする、更には徳川だけでも味方するはずだと言います。
氏政から駿府に派遣された江雪斎ですが、家康が相手をするはずもなく、追い返されてしまうのでした。
焦燥する中、時だけが過ぎてゆきます。家康は「しまいじゃな、北条は」とつぶやくのでした。
関東の名門北条家は、滅亡へと向かってゆきます。
今週のMVP:板部岡江雪斎
彼がここまで目立つドラマの作りそのものが素晴らしいのですが、その与えられた中で最大限の活躍をしていたと思います。
裁定の場面では秀次の言葉から取り乱していたものの、巨大な壁となってぴしりと主人公を封じる弁舌は見事でした。
それと対称的に、氏政にははっきりと厳しく諫言できない辛さ、哀しさ。
有能さから悲哀まで、彼の様々な表情が今週最も光っていました。
総評
『リーガルハイ』だの、『逆転裁判』だの。まさに三谷節が炸裂した沼田裁定でした。
今週の裁定の仕立ては好みが分かれるところかとは思うのですが、前述の通り「鉄火起請」(第十二回)と比較してみると、どれだけ時代が進んだかはっかりとわかると思います。
こんなかたちでの裁定があったかどうかはさておき、世の中のルールは変わってゆくという表現の範疇かもしれません。
これを三谷氏らの単なる悪ふざけ・悪ノリとだけに見なすことは難しいと思います。
沼田裁定はややこしく、さらに名胡桃の件では真田がかなり意地の悪いことをしているからです。
沼田は本来誰の城であるか、どうして大事か、そういったことを物語に組み込むには、こうした手段が適していると思います。
劇中では秀吉にくどいだの長いだの言われてすぐ引っ込めた片桐且元のプレゼン資料は、視聴者にとってはわかりやすいものでした。
そして何よりも、議論の説得力。
一昨年は、主人公がまったく納得のいかないきれい事を、唾を激しく飛ばしながら大仰に語ると、「サスガカンベージャ」と誰かが言い出して丸くおさめる。そんなパターンの繰り返しでげんなりしました。
今年は双方言い分の筋が通っていますので、見ていてあまりストレスを感じません。
沼田裁定も面白かったのですが、今週は信幸の成長が見られた回でした。
ゲームのルールが変わったとわかっている彼は、名胡桃を奪われても中央に確認する冷静さと慎重さがあります。これには舅もにっこりです。
新しいゲームのルールを理解し、従おうとする真田兄弟。
彼らは父を諫め、判断を下し、物事を悪い方向に行かないよう注意を払っています。
対称的なのは北条氏直で、彼の表情からははっきりと戸惑いが見て取れます。しかし、父に言い返すことはできず、ずるずると滅亡へと引き込まれてしまいます。
賛否両論はある描写でしょう。
しかし、小田原征伐前夜を秀吉天下統一へのステップとしてだけではなく、ゲームのルールが変わったと視聴者に見せ付け、意識させる作りはなかなかできないと思います。
本作は毎回、歴史劇のハードルを上げているかのようです。
劇中でもルールの変化を描いていますが、本作は大河や時代劇のルールを変えてしまう、そんな力を感じてしまいます。
間違いなく本作は、大河のターニングポイントとなる作品でしょう。
再来年大河の題材発表がそろそろあってもおかしくはありませんが、今後NHKは自らあげたハードルを飛び越えるべく、苦労することでしょう。
それは見る側にとっては、大変ありがたいことではあります。
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