『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』/wikipediaより引用

西郷どん感想あらすじ

『西郷どん』感想あらすじ第12回「運の強き姫」

2018/03/26

こんばんは、武者震之助です。

おそろしいことを知りました。

なんと、本作では18~25話が島流し編なのだそうです。

NHKによると、「西郷どん」の第18~25話は、西郷が奄美大島、徳之島、沖永良部で過ごした時期を描く。西郷どん奄美大島ロケ始まる(南海日日新聞より引用)

おおう……2010年代に放映された大河ドラマで、なおかつ主人公が明治時代まで存命であった作品と比較しますと……。

◆2013年『八重の桜』

慶応3年(1867年)秋〜慶応4年(1868年)秋

この作品は、ヒロインの見せ場である会津戦争に重きを置かれており、25回から29回がそれにあたります。

◆2015年『花燃ゆ』

安政7年(1860年)2月〜元治元年(1864年

この作品は吉田松陰の死に至るまで引っ張りすぎて、中盤以降イベントが詰め込みすぎとなっております。

◆2018年『西郷どん』

安政5年(1858年)〜元治元年(1864年)※推定

やはり『花燃ゆ』コース? 薩長同盟をあくまで貫くつもりなのか……。

おそらく、かな~りタイトな進行。

今後、次々に起きるイベントを吸収しきれるのでしょうか。

5~6月の放送8回分がすべて離島編になる配分です(その間、いかにして薩摩や京都、江戸のことが描かれるか)。

 


御台所修行はほぼ終わったが

はい、そんなわけで本編に入りますと……。

安政2年(1855年)、お由羅騒動の連座者が罪を許されました。

大久保家の次右衛門が解放されて、西郷の父・吉兵衛と相撲が取りたかったとか何とか言います。

ちょっと相撲は食傷気味かなぁ。

江戸はまた桜が咲いています。

確かに日本人は今も昔も桜が好きですが、何度も表現すると陳腐。

『八重の桜』みたいに桜プッシュするドラマならまだしも、ダメ作品ほど桜を咲かせたがる気がするんですよね。

そういえば『花燃ゆ』でも、初夏に亡くなった高杉晋作の枕元で桜が散っていたなぁ。

篤姫のお輿入れが決まらず苦労しているようです。

なんでも江戸に来てから2年経過しているとか。篤姫は薩摩弁も矯正され、立ち居振る舞いは洗練されてきました。

元々の篤姫がかなり幼稚だったので、とても「進歩」したかのように見えます。

ただ、肝心の西郷が成長している感じがあまりしないんですよね……。

 


井伊には井伊の主張があるワケで

篤姫の教育係である幾島も、イライラしています。

斉藤由貴さんの代打で起用された南野陽子さん、意外なまでに味があって今日も良いですね。

ただ、幾島とも薩摩とも縁が深い近衛家のことがまったく出てこないのはどういうことなのでしょうか。

幾島と島津斉彬との話し合いの中で、

【井伊直弼が邪魔】

だということがアピールされました。

ただ、あまりにザックリなんですよね……。

井伊には井伊なりの言い分があるわけです。

黒船来航以来、未曾有の国難が差し迫っている状況。

西郷どんが品川宿でヘラヘラ遊んでいる間も、幕臣はハリスたちと真剣な議論・交渉を進めているわけです。

※以下の記事にわかりやすい解説があります

実はアメリカを圧倒していた幕臣・岩瀬忠震の交渉術|日米修好通商条約の真実

続きを見る

そんな中、政治権力を握るため、本来、波風立たないはずの将軍継嗣問題をかき回すのは、斉彬たちの【一橋派】とも言えます。

徳川第一の井伊としては、横から突然フザケンナと言いたいわけで。

彼には彼なりの理屈もあると言えます。

その辺の機微が何にも描かれていない。

これまたしつこいですが、井伊直弼については、本人が世捨て人同然の身から彦根藩主となり、さらには幕政を担わされるまでの複雑な経緯があります。

以下の記事をご確認いただければ、ドラマの補足になるかと思われます。

井伊直弼
悪役にされがちな大老・井伊直弼は一本気で能力も高かった?今こそ真の評価を

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しかも、です。
本作で担ぎ上げられている一橋慶喜が、遊郭でダラダラしているだけなんですよね。

「徳川家康の再来」とも称された優秀さは微塵も見えず、そのため本作を見る限り、慶喜含めて一橋派がクズというに相応しい。

ネガティブキャンペーンじゃないですよね。

 

千両、万両の元手は増税分からかも……

幾島は、大奥の力を借りたいと言い始めます。

そこで出てくるありのままの小判。ありのままに賄賂を渡すってのもなぁ。

ラッピングというか黄金色のお菓子に偽装したりしないのですかね。

ちなみに、この豊かな賄賂資金はどこから?というと、父の島津斉興(鹿賀丈史さん)時代よりもアップした年貢からだと思われます。

ドラマでは触れられないでしょうけど、斉彬の時代になったら何でもかんでもパーフェクト!みたいな西郷の夢は、やっぱり実現していないハズなんですよね。

遊女として磯田屋に流れ着いたフキどんが知ったらどうなるやら。

篤姫も輿入れの件で気を揉んでいます。

もしやことが破れたのではないか、と。

一方で、西郷どんも、篤姫に対して「本当に御台所になるつもりか」と念押しします。

こういうのも、ちょっとしつこく感じてしまいまして。篤姫の将来を心配する純粋な西郷どん、というより、どうせ何もできない愚かな人に見えてしまう。

 


吉之助の宴会芸

大奥工作をすることになった西郷どんは、幾島を連れて品川宿へ。

またかぁああああああああ!

毎週毎週、遊郭へ行かないと間が持たんのか!?

「他藩もいるから内情が探れますね」

確かに探りやすそうですけど、そんなところでウロチョロしている連中から有用な情報って聞き出せるものですかね。

女と酒に溺れている各藩選りすぐりの愚か者では?

やるせないのは、本作のスタッフが本気でこの場面を見せ場だと思っている点です。

SNSではこの場面の写真が流れて来ました。

本作のSNSは、まぁ、作品にふさわしいというか。

スカスカの作中を補う内容だと親切なんですけど、決してそうではなく。

金や酒さえ用意すればペラペラ喋ると思われている遊女も気の毒です。

幕末の娼妓には気骨ある人もいて、危険を顧みずに恋人を救ったりしているんですけどねえ……。

夜の宴会場では、アホみたいな動作で、褌を晒しながら西郷どんが踊ります。

鈴木亮平さんの突き抜けた演技自体は面白いんですけど。

だからといって大河の見せ場になるようなシーンではない。

にもかかわらず予告編でも流れているのは、本作のスタッフがこうしたシーンを見せ所だと想定しているからなのでしょう。

相撲での尻や褌姿が数字稼ぎだとしたら、主演男優が気の毒でなりません。

 

VFXを使えばいいのになぁ

薩摩では、大久保正助(大久保利通)が島津久光と交流していました。

大久保は、久光がお由羅事件の連座者赦免に尽くしたと見破っています。

ここのところ斉彬の描写が残念過ぎて、久光の印象が相対的に上がってきました。

場面は切り替わり、コンパクトな江戸城。

本作は、VFXに頼らないことを本気でこだわりだと思っている様子ですが、それは正解なのですかね。

『八重の桜』では、セットの廊下途中にブルースクリーンを張って、VFXで奥行きを出していました。

ナゼそんなことを私が知っているかというと、放映当時の舞台裏映像として、公式公開されていたからです(放映後は削除済み)。

そうでもしなければ、気づくことはありませんでした。

本作はOPから、VFXなしということにこだわっています。

けど、【VFXなし=本格派】って、さすがにセンスが古いのでは?

10年前ならまだしも、現在の技術は格段に向上。

それを考えると妙なコダワリは甚だ無意味で、有害ですらあると思います。

クリストファー・ノーラン監督レベルの拘りがあるわけでもありませんし。

『真田丸』のOPはVFXを駆使していましたが、実写と誤解して、あの架空の城に行きたがる人や、ロケ地を知りたがる人がいました。

場合によっては、もう見分けがつかないレベルなのです。

 

※現在ではVFXなしで大規模な合戦シーンを撮影するのは困難。以下は『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン7 VFXメイキング動画になります

 

ずるいお金の使い方シーンが意外に長い

幾島は収賄で、本寿院への面会を果たします。

当時の大奥は倹約しており、賄賂はテキメンに効きました。

ただ、こういうお金の使い方を急に何度も見せるのは、どうした心変わりなんですかね。

前述の通り、薩摩藩の賄賂の出所は、民に課した年貢や、「黒糖地獄」と呼ばれたほど過酷な奄美大島からの収奪によるものも含まれるハズです。

西郷隆盛も島津斉彬も、清廉潔白な人物として描こうとしていたのに、どうしたことでしょうか。

ここで本寿院が登場。

泉ピン子さんのキャスティングは、スミマセン、失敗では?

将軍生母の気品や威厳が感じられないのです。

『おんな城主 直虎』で徳川家康の生母・於大の方を演じられた栗原小巻は気品と威厳だけじゃなく鬼気迫る迫力もありました。

将軍の生母となるような方は、いずれも相応の女性なワケで。

実際にどんなキャラなのかは今後見ないとわかりませんが、理不尽なイジメをする雰囲気だけはバッチリ出ている、という。

そして本作のスタッフが、このキャスティングを目玉だと思っていそうなのがどうなのかなぁ、と。

◆泉ピン子32年ぶり大河 「西郷どん」で“江戸城のドン”に(→link

 

丈夫な上に運が強い

本寿院は、丈夫な姫が御台所に欲しいと言います。

大奥には大勢の女性がひしめいておりまして。

本寿院よりも大奥を仕切る上臈(じょうろう)でもいるはずなのですが、それを期待するのは過大でしょうかね。

幾島は、篤姫は丈夫で運が強いとプッシュ。ギャンブルで勝ったから選ばれたのは、この伏線でしたか。

ここからが御台所選抜ゲームです。

似顔絵を並べて選ぶというものですが……ロシアンルーレットの記憶が冷めやらないうちに、こういうノリ(というか、悪乗り?)が好きみたいですね。

と、そのとき徳川家定が、突如、井伊直弼の方を指指し、庭まで出ていきます。

「死んだ……また死んだ!」

ペットのアヒルが死んで悲しい→死なない御台所がいい。

って、いくらなんでもこりゃヒドすぎやしませんか?

こんな子供騙しで篤姫が選ばれるのでしたら、なぜ今まで2年間も待たされたのでしょうか。

これじゃまるで斉彬がバカみたいじゃないですか。

幾島から大奥工作を打診されたときも、初めて気が付いた様子でしたし、普段あれだけ迫力を演出しているだけに、いざとなるとザルなんだなぁ、という。

居酒屋でデカいことばかり言って、実務が何もできないダメリーマン上司みたい。

そう考えると、この場にいる常識人は、茶番に異議を差し挟む井伊直弼だけということになってしまいますよ。

頑張って欲しいなぁ。

 

西郷がチラチラ邪魔をして

この年、篤姫の輿入れが決まりました。

未だに近衛家が出てきません。篤姫は、輿入れ時点では、島津斉彬ではなく近衛家の養女扱いにされています。

せっかく篤姫が決意を固めているのに、西郷どんがそれでいいのか、と聞いて来ます。

こういう【脚本家が抱いたであろう疑問を西郷どんに言わせるシステム】は、やめたほうが良いのではないでしょうか?

西郷どんがまるで成長できない主要因は、こうした場違いな言動などにあると思います。

このあと篤姫は、幾島と薙刀の稽古をします。

いい動きです。一目で身体能力の高さがわかります。

袴姿からは凛々しさと爽やかさが漂っていおり、アクション女優としても一皮剥けて、『精霊の守り人』では短槍の達人バルサを演じるわけですが、それも納得できるキレのいい動きで……ってすみません、『八重の桜』の綾瀬はるかさんのことを思い出していました。

いまだに思い出すんですよね、あのキレッキレの動き。

いや、女スナイパーを演じるわけではないですし、別にあそこまでやらなくてもいいのです。

しかし、せめて稽古着ぐらい着てはいかがでしょう?

あんな重たそうな、キンキラキンの裲襠(うちかけ)のまま薙刀ふるってないでしょうに。

『真田丸』の稲も袴で練習していましたよ。北川景子さんの凛とした美しさを活かしきれない、薙刀稽古シーンとしては最低ランクでしょう。

しかも、横にいる西郷どんがおかしいです。

なぜ、そこにいて、篤姫を庇うのでしょうか。なんか邪魔だなぁ。

 

M7.0の大地震、発生

ここで斉彬は、篤姫に許しを請います。

公方は、病弱で夫婦の営みもできぬだろうと伝え、篤姫はそれでも構わないと語ります。

非常に真面目で、出来は悪くない。

それなのに……。

そんな健気な篤姫を犠牲にしてまで果たしたい目的というのが、あのアホボン(=一橋慶喜)を担ぐことなんですよね。

悲しいBGMがここぞとばかりに流れます。

その夜、地震が発生しました。

大きな揺れです。

結論から申すとM7.0規模の「安政の大地震(安政江戸地震)」でした。

「桜島が噴火したぁ」とか言ってる有村俊斎は、心からどうでもエエ。大山格之助と揃って、今日のこの2人、ダメすぎでしたね。

磯田屋で酒を飲む西郷を、単に羨ましがってるだけ。

「お前だけ、合コンずっちーな!」とか言ってるアホ大学生です。

※大山は寺田屋事件、有村は桜田門外の変で過酷な立場になるというのに、何やってんだか……

 

非現実的なカッコよさは客をバカにしていることになる?

西郷は斉彬の無事を確認すると、篤姫の元へ走ります。

しかし、どうなっているんだ、薩摩屋敷。

斉彬と篤姫の安否確認を、西郷どんが真っ先にするっておかしくないですか。

よほど人がいないのか、西郷どんが高速移動でもしているのか。

さて、この先は……西郷どんが篤姫を危険から守り、篤姫が「一緒に遠くまで逃げて欲しい」と、駆け落ちを求めるような場面。

◆大河『西郷どん』衝撃展開 西郷隆盛と篤姫が駆け落ち!?(→link

今年1月の時点でニュースになって「ウソだと言ってくれよ!」とコアな大河ファンを嘆かせた展開です。

ニュースの時点でもウンザリしたのですが、実際に見ると輪を掛けてひどい。

いかにも建物が崩れそうな危険の中で、歯が浮くほど臭い台詞を喋っているのです。

普通の神経なら、喋る暇があるなら逃げますよね。

他の人の安否も心配もしますよね。

結局この二人は、非常時でも自分の感情を剥き出しにしているだけです。

わかりますよ。

『子供が産めないとわかっていて家定に嫁いでいく気丈な篤姫が、チョット目の前の男性に頼りたくなったっていいじゃない!』とかそういうことなんでしょう。

しかしこれ、本当に西郷大河でやるべきことでしょうか。

『篤姫』の大河ドラマと化してません?

本作を見ていると、人の死も、災害も、そしてこれからは幕末の動乱も。

すべては視聴者から涙をカツアゲする材料や、ラブロマンスの吊り橋効果発生装置に過ぎないのだな、と思うと、悲しくなってきます。

本作の作り手って、史料を見ながら、誰かの親や子が死んだことを見つけると、

「おっ、美味しいネタじゃん! リアクション次第で、数字に繋がるよね!」

とか思っていそうです。

こういう薄ら寒いシチュエーションのラブシーンが最高にイケてて、ともすれば、ナウなヤングにバカウケじゃん?とか本気で思っていそうな姿勢に、残念ながら失笑してしまいます。

※もちろん物語というのは、様々な場面の積み重ねなワケですが、視聴者に違和感を抱かせたらイカンでしょ……

この場面に関しては、このインタビューから引用した言葉をつきつけたいです。

広告って本当に「嘘」が多い。非現実的なかっこよさを演出したり、過度に誇張されることもしばしばです。ありえないロマンチックな状況で愛の告白をするバレンタイン広告を見せられてもね...。それでお客さんが釣れると思っている時点で、バカにしていますよね。(「日本は、義理チョコをやめよう」 働く女性の気持ちを掴む広告は、こうして生まれた。)より引用

この「バレンタイン広告」の部分を、(西郷どんの)「ラブシーン」に置き換えれば、この場面に対する苛立ちの表現としてしっくり来ます。

バカにしていますよ、こんな場面。

ちなみに西郷どんに影響を与え、原作にも登場していた藤田東湖は、紀行死を遂げました。

幕末を説明するうえで絶対に欠かせない「尊皇攘夷」思想も、紀行で説明されました。

冒頭で本作は『花燃ゆ』を孤立させないため、手を差し伸べた薩長同盟大河だと書きました。

スミマセン、現時点ではまだ『花燃ゆ』の方がマシに思えます。

あのおにぎりとスイーツと「幕末男子の育て方。」に汚染された作品ですら、一応「尊皇攘夷」思想の中身は描いていたからです。

少なくとも吉田松陰の思想はある程度理解できました。

本作の西郷どんの頭には、何が詰まっているのでしょう?

 

MVP:本作の魔手から逃げ切った藤田東湖

死亡確定で逃げ切りおめでとうございます。

※史実では安政の大地震で母親を助けようとして、崩れた建物の下で圧死してしまいます

 

総評

とにかくセンスが古くさくて、滑っていて、見ているだけでいたたまれない――そんな絶望的な気分です。

2015年のどん底から、真田丸、直虎で二年連続前進したと言える大河ドラマ。

今年は一気に三歩ほど後退してしまいそうな勢いです。

篤姫は愛する西郷どんじゃなくて、こんな駄目夫に政略結婚させて可哀相! 不幸になっちゃう!」

という目線が不愉快で仕方ありません。

本作は、2010年代大河の良作で、長所だった

【色んな人生があって、人それぞれの生きた証や生きがいがある】

という点をガン無視しますよね。

一昨年の『真田丸』における真田信繁やメインヒロインのきりは、典型的な幸せとは異なる人生を歩みました。

信繁は、誰かの影に隠れ、最晩年まで自分の功績をあげることすらできず、城の主ともなれずに、最期の晴れ舞台・大坂でもさんざん理不尽な目に逢い続けます。

きりは、良妻賢母という枠からも、おとなしく優しい癒し枠ヒロインという枠からも大きく外れた女性でした。

それでも、そんな彼らでも輝いていた瞬間はあったし、最終回を見終わったあとで、

「あ~、かわいそう! ほんっとに無意味な人生だったね。一発勝負屋みたいな主人公、ウロウロしているだけのきり。なんなのアイツw」

とはならないじゃないですか。

劇中二人は結構自虐的なことを言いますけど、悲劇に酔いしれてはいないわけです。

昨年の『おんな城主 直虎』では、ヒロインがしみじみと、結婚しなかったからこういう人生だからわかったことがあった、と語る場面がありました。

ヒロインが同志である小野政次を処刑する衝撃の場面では、

「こんなにも壮絶で、こんなにも悲しく、こんなにも尊い愛があるのか!」

と、話題になったものです。

作り手側が、一見すると不幸かもしれない、報われなかった人生によりそって、あなたにはあなたなりの人生の意義や幸福があったと呼びかけるような、そういう優しさと誠意があった。

でも、きっと今年はそんなのないのだろうな。

「ええ~~好きな男と結婚できないとか不幸だよね~~不幸推し! めっちゃ不幸推しして盛り上げちゃう。でも可哀相だから、ラブシーンも入れたよ」

みたいな、すんごく上から目線の、デリカシーもない、傲慢さを感じます。

あとこれは、西郷どんが家族三人を失った回で「人生一番不幸な年」と言った時も思ったんですけど……。

現代人からすれば、想像を絶するような不幸が盛りだくさんだった幕末。

そこをまるで想像しないで、

「家族亡くして可哀相~~」

とか

「好きな相手と結婚できなくて可哀相~~」

とかユルユルレベルで話を進めちゃうのも、正直、怒りが湧いてしまいます。

西郷が英雄だけに、あまりクローズアップされませんが、彼は、戦争を引き起こすことを厭わない一面がありました。

実際に二度の内戦(戊辰戦争・西南戦争)を引き起こしています。

もちろん西郷一人が強引に進めた話ではありませんが、決定権のあった人物であるのは間違いなく、その言い訳はできないハズです。

 

蛇足:本作斉彬の死生観

今さら突っ込むのも嫌になるのですが、本作の人物は雰囲気に流されて、そこだけ切り取るとそこそこカッコイイ台詞を述べており、まともに取り合うのも馬鹿馬鹿しくなってきます。

このあたり、ベクトルがズレていても、それなりに一貫性があった『花燃ゆ』よりもたちが悪い。

例えば斉彬ですが、彼は一体、命を何だと思っているのでしょうか?

軽いノリで父親と自分の命を危険にさらした「ロシアン・ルーレット」も大概ですが、ヒ素を盛られて西郷どんがオロオロしていた時は「俺は命なんか惜しくねえんだよ!」と啖呵を切っています。

この「俺は命なんか惜しくねえんだよ!」は、慶喜が毒殺されたくないと不安がっていたこととの対比なのでしょう。

しかし、マトモなのは慶喜の方で(そんなもん思っていても口にすべきじゃないですが)、斉彬はおかしい。

彼の持っている蛮勇は、総大将ではなくて鉄砲玉のような人物。

薩摩藩なら益満休之助あたりにふさわしい気構えです。

幕末の武士は、自分が死んでしまうよりも、むざむざ殿様の命を取られるほうが酷いことでした。

勝海舟は慶喜に泣きつかれたら全力を尽くしたし、会津戦争では松平容保の首が要求された結果、泥沼に突っ込みました。

慶喜の首を要求された幕府側の使者として、山岡鉄舟は「もし私とあなたが逆の立場で、島津の殿様の首を要求されたらどうするのか?」と迫りました。

西郷はそう言われて、即座に相手の言わんとするところを理解しました。

というわけで、そんな時代に軽く自分の命を捨てる気まんまんの斉彬はおかしい。

その一方で、西郷どんには簡単に命を捨てるなと言ったりする。

破綻しているとしか言いようがありません。

 

蛇足2:遊郭と娼館

以前、編集さんと

「『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GoT)の娼館はなんとも思わないのに、本作の品川宿関連が不愉快なのはナゼか?」

と話題になりました。

今日気づいたのですが、本作は

「売買春は恥ずかしい」

という価値観がすっぽ抜けているのです。

『GoT』にはネッド・スタークという堅物貴族が出てきます。

彼はピーター・ベイリッシュという男に、ピーターが経営する娼館に呼び出されます。

その時ネッドは激怒し、どういうつもりだとピーターに迫るのでした。

このあともネッドはとある用件で娼館に出入りすることになるのですが、不本意そうですし、出入りを見られた際は恥ずかしそうにしています。

周囲の人間も、

「あのお堅いスターク公が娼館に出入りするとは……」

と、揶揄するんですね。

初登場時が娼館で女と戯れているという、ティリオン・ラニスターのような人物もいます。

その場面は女性が上半身裸になっていて、品川宿の比ではないどぎつさです。

それでも『GoT』での娼館が品川宿がらみよりマシに思えるのは、

【ネッド・スタークのような高潔な人物は、娼館通いを恥だと認識している】

からなのです。

文化慣習が異なる人物や恥知らずであれば、娼館に平然と出入りしますが、想像しただけでゾッとする人物もいるわけです。

ところが本作では、西郷どん、橋本左内、一橋慶喜、幾島のような女性まで、誰も恥じることなく堂々と楽しげに品川宿に出入りする。

羞恥心のかけらもない。

本作の人物は、贈収賄がらみでも誰も恥じることなく堂々とやりとりをしています。

この、高潔な人物が誰もいない、悪臭のようにゲスさが蔓延している世界観が、ともかく嫌です。息が詰まりそうです。

誰かが常にすかしっ屁をしているようなドラマです。

明治維新150周年を記念するのであれば、顕彰目的でしょうに。

こんなゲスなドラマを作って、受信料を使ったネガティブキャンペーンでもしているのでしょうか。


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【TOP画像】
『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』(→amazon

【参考】
NHK西郷どん公式サイト(→link)等

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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