まだ本格回復しておらず、全体を細かく仕上げる余裕がないため、編集人の五十嵐に補強してもらうカタチでお送りしたいと思います。
サブタイトルにもあるように今回のテーマは『禁門の変』ですね。
孝明天皇、幕府、会津藩、薩摩藩、長州藩という幕末の主役が一堂に会するビッグイベント。
幕末ファンの胸を熱くさせる大事な場面です。
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逃げの小五郎、慶喜邸に登場
まずは先週の慶喜対面シーンから。
西郷どんが、薄気味悪いほどの笑顔を向けられた場面です。
慶喜邸を出た瞬間、道ばたでホームレスを見かけます。
この段階ではまだ正体は不明ですが、桂小五郎でした。
『逃げの小五郎』と呼ばれる桂が物乞いに扮するのは割と有名な史実準拠の話で、それをアレンジするのは見せ所の一つでしょう。
しかし、慶喜邸の目の前でいかにも怪しすぎません?
余計、目立っちゃうんじゃないの?ヘタクソかっ!と思ってしまいます。
物乞いを装う桂は、長州をめぐって京都で戦が起きるのか?という心配をぶつけます。
すると……。
「侍の本懐は戦をすることじゃなか」
でました。戦ギライな西郷隆盛。
場面は宿に移って村田新八との話ですが、ほんと、西郷どんの【戦知らない】ナイーブな演出がうざいです。
ちなみに……オープニングが微妙に差し替えられてましたね。でも、五年前の八重の桜は毎月オープニング映像が変わってました。
明治維新150週年なのに、こうした細かいところの気配りがいまいちってところに、ドラマに対する熱量が滲み出ている気がしてなりません。
【八月十八日の政変】から続く大事な流れ
西郷が宿にいると、あの物乞いがやって来ました。
物乞い、西郷の前でいきなり名乗ります。
「長州藩士、桂小五郎じゃ」
って、他にアプローチ方法ないんかーい。
長州、よほど人おらへんのかーい。
と、ここで【八月十八日の政変】の説明が一瞬で終わり、おそらくや多くの視聴者さんはワケもわからず二人の会話を眺めていたことでしょう。
超基本的な流れだけでもここで説明しておきますね。
この辺の流れは、西郷どん視点ではなく、長州を基本に考えたほうがわかりやすいです。
◆八月十八日の政変(長州、薩摩らに追い出される)
↓
◆池田屋事件(潜伏していた長州、新選組に襲われる)
↓
◆禁門の変(御所に発砲した長州、会津と薩摩に負ける)
ドラマの中で、桂小五郎が西郷隆盛に会いに来たのは【八月十八日の政変】の直後のことです。
長州は、会津・薩摩に追い出されて確実にチカラを失いかけていたんですね。
ドラマの桂はここで長州のやらかしを全部バラし、しかも、西郷経由で慶喜の妾に話し付けたいとか言い出す。
いやいや、そりゃアカンって……。
長州なら朝廷がらみとかあるでしょうに。なぜ、愛人を経由せねばならない?
維新三傑の一人・桂小五郎をこんな風に扱うなんて、山口県民は怒っていいですよ。
まぁ、本作は、その程度の認識の人が作っているんですよね。
ずっとそう思ってはいましたが、あらためて脱力しかありません。
そうそう。
この段階で桂は、平岡暗殺の犯人を「薩摩の人斬り半次郎も疑われている」と言っちゃいました。これもダメでは?
桂を慶喜に会わせるだと!?
そのころ朝廷では、慶喜が朝廷工作をしておりました。
長州を追い出すための手立てですね。
幕末は確かにこういう政治もある。
しかし、それが引き立つのは別の行為と引き立ててこそ。ヘラヘラした西郷どんがチマチマしてるだけでは、幕末の楽しさなんて出るはずもない。
西郷は小松帯刀を通じて島津久光へ【桂小五郎の話】を伝えるように働きかけ、一橋慶喜にも桂と面会させるつもりのようです。
桂小五郎が本人だと担保するものはないのに、慶喜に会わせて大丈夫なんですかね。
ここで人斬り半次郎こと中村半次郎(後の桐野利秋)が登場。
さらには、川路利良もムダに登場させられます。あーあー、警察組織を作った、日本のフーシェが台無しになりそうだ。
中村半次郎を出すのも本当にムリヤリで、若手のイケメン出したいだけかと思ってしまう。
まぁ、一番出てほしくないのは松平容保(かたもり)です。
一橋慶喜に、平岡暗殺の犯人を告げるワケですが、なんでこんな中途半端なのか。他にもっと登場させるべき大切なシーンがあるでしょう。
あぁ、もう、綾野剛さん以来の容保伝説よ、さらば……。
「あいつも出世したもんだ」
西郷に呼び出された一橋慶喜は、例の「ヒー様」に扮して出向くようです。
支度を整えるふきとの会話の中で、
「珍しく西郷に呼ばれた。あいつも出世したもんだ」
という、西郷持ち上げトークをねじ込んでおります。
そして例によって宴会へ。
桂が近づくと、突然、慶喜が「てめぇ侍だろ」とその姿を見抜きます。
そもそも西郷と桂が慶喜相手に和平申し込むとか、何を飲んだらこんなラリッた話に出来ますか?
別に史実を守る必要はありませんが、さすがに「やっちゃダメなこと」ってあるでしょうに。幕末通して勉強してない姿勢が鮮明です。
この西郷と桂のシーンを見ている限り、
「薩摩と長州が平和主義なのに幕府がダメにした」
とか、そういう感想を持たれることになるのでしょうね。
禁門の変には、薩摩と長州の争いという一面もあるのです。
どこをどういじったら、そうなる?
新選組に見つかったら大変だ
桂は、長州の過激分子を抑えようと働きかけ、定宿にしている池田屋で行動を慎むよう厳命します。
新選組に見つかったら大変だ、とフリを入れてますね。
そこへやってきたのが中村半次郎でした。
このへんはドラマのアレンジなんでしょうけど、イケメン同士、熱い会話をしていれば数字とれる狙い?
しっかし、会話に中身も何もないのが痛いです。
玉山鉄二さんの達者な演技にごまかされそうになりますが、
「西郷知ってる?」とか
「長州は救われた」とか
それをここで話してどんな意味があんの?という印象なのです。
特に「救われた」って、なんでこの段階でそんなことが言い切れるのか。純粋かっ!
中村が立ち去るとき、新選組をチラ見せするあたりもなんだかなぁ。
新選組ファンまで敵に回す覚悟でしょうか。勇気ありすぎ。
ぜんぶ慶喜と幕府が悪いのかーい!
それから一ヶ月後の祇園祭が行われる頃。
慶喜と松平容保が再び話をしております。
長州の不穏分子が池田屋に集結していることが報告され、「今こそ好機」として慶喜は突撃させます。
しかも、こちらには「薩摩がいる」とまで発言させた。
結局ぜんぶ慶喜のせいか!
そして池田屋事件で被害を受けた長州は、そのリベンジとばかりに2,000の兵で蜂起します。
西郷はあくまで「私怨で戦をするんじゃなか」という姿勢。
御所をひたすら守れ、と、とにかく戦争反対ばっかり言っています。
確かに西郷は、禁門の変で長州との衝突を避けようとしていたようですが、それは「戦いそのものの否定」ではありません。
そんな現代人のようなモラルではないのです。
その直後、薩摩藩邸で西郷は、かつて夜遊びを叱られた迫田と再会、出世した西郷に対し迫田が土下座すると、「38番、西郷吉之助、ちょっと出てきます」だって。
はいはい、立場は変わっても低姿勢ないい人アピールですね。
でも、これ失敗では?
当時の迫田も、若手藩士の監視役というお仕事をしてただけです。
それなのにコロコロ態度を変えていたら、
『薩摩の人間って、相手が偉くなった途端に、必要以上にペコペコするの?』
みたいな印象も生まれてしまいますよね。
更には半次郎との再会も果たし、優しい目で声をかける西郷。
「よか二才(にせ)になった」と、こういうの西南戦争まで同じことやってるんでしょうな。まぁ、西南戦争まで行けば……の話ですが。
完全に幕府や会津が吹っかけたように見えますが
西郷は慶喜邸に出向き、なぜ長州と戦うのか?と問い詰めます。
って、蜂起したのは長州ですし、池田屋事件も長州の責任でしょうに。
ここでも慶喜に「太平の世はここまでか」と言わせることによって戦争主導が幕府側だとするのがまたずるいんですよね。
これから『禁門の変』の本番へと向かうわけですが、実際に、長州と薩摩が戦うと、なんにも知らない視聴者は戸惑うことでしょう。
以前から、薩摩と長州の間に覇権争いがあったことをなぜ描かない?
本作は新選組ファン、会津藩、佐幕派全員を敵に回したと思います。
しかも、こんなクズ展開で、純真な西郷どんばかり持ち上げようとするのがなんとも……。
だいたいこのタイミングで薩摩と長州が自発的に接近しているのがおかしいのです。
この両者、長いこと対立し、明治維新のために一瞬和解し、その後の明治期にも対立しています。
脚本家が曖昧なまま幕末政治にブッこんだことはよくわかりました。
しかし、それをまんま流すスタッフにも疑問を感じてしまいます。
誰が敵で味方なのか見当もつかないのは……
家臣の平岡暗殺が水戸藩士の仕業だと知ってガクブルする慶喜。
西郷の前で泣きそうになって、もうアホかと。
いや、もしかしたら『西郷の前では不思議と本音を出せるんだよな』アピールですかね。
しかし、その直後に慶喜が
【誰が敵で味方なのか見当もつかん!】
と主張していて、思わず笑いそうになりました。
だって、これって、脚本家のキモチでは?
本来、禁門の変でバチバチやり合う薩摩と長州が、通じ合っちゃってます。
まぁ、桂小五郎をいったん長州から引き離す(実際『禁門の変』後に潜伏していた)ことによって、後の薩長同盟へ向けて辻褄を合わせる流れなんでしょう。
しかし、慶喜が嘆きたくなるのもわかる。
なんせ史実ムチャクチャなんだもん。
どうやって整合性をとるつもりなんでしょう。
これって、主役のはずの西郷も役に立ってない。
なぜ幕末政治をここまで打ち切りマンガめいた展開にするのか?
時代考証の担当者は何してた?
ついに長州が御所へ向けて進軍スタート
そもそも本作は、薩摩が将軍家と姻戚があり、長州が朝廷に近いとか、基礎的なことやってませんよね。
あんだけ取り上げた篤姫のこともスッカリ忘れています。
長州が挙兵しているのに、西郷が長州倒すつもりないとかほざく時点で、もう絶望的なのです。
このまま戦いが始まったらどうなるのか?
想像するだけで、あーあーあーあー、と声を叫びたくなってしまいますが、刻一刻とそのときは迫ってきておりました。
慶喜と桂小五郎に挟まれて、激しく悩む西郷。
長州が御所に向けて進軍し、このままでは薩摩が朝敵になるぞ!と村田新八にプレッシャーをかけられ、いよいよ決意します。
「天子様をお守りするための出陣」であり、「長州を討つことが目的にあらず」長州を退去させるから「チェスト行け~!」と西郷。
んで、出てくるのが、長州藩の長州力さんですよ。なんの悪夢よ……。
いや、長州さんの台詞回し、思ったより悪くはなかったですけどね(長州小力さんのモノマネみたいだったらどうしようと不安でしたので)。
見どころがラリアット
長州の攻撃が始まり、乾門を守る薩摩。
蛤御門では会津と桑名が押され、久坂玄瑞も勢いよく堺町門へやってきている。
薩摩は、その救助に向かうこととしました。
まぁ、横っ腹をつくんですね。
そして追い込まれた来島(長州力)は、御所に向けて発砲し、突撃します。
続いて見どころの、ラリアット!
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
って、思ったよりも派手な演出ではなく、一応、流れの中で納めているようには見えました。
しかし来島はラリアットの後、簡単に撃たれて終わりとなります。
後に残された我々の感想は
『な、何を言ってるかわからねーと思うが……』
というポルナレフ状態。
いや、もう、時間の無駄にしか見えなかったんですよ。
最低の禁門の変。
これなら『八重の桜』の再放送で良かったんでは?
ただ、長州力さんはキッツい無茶振りの中、最大限に奮闘していたような気がしました。
と、思ったら、驚くことに急に会津藩がやってきて、長州に攻撃をしかけます。
そのドサクサで吉之助は負傷。
慶喜と会津だけが悪者になる展開で終わるのでした。
さすがに酷い、ひどすぎるぞ。
MVP 玉山鉄二さんの山川大蔵
次点は綾野剛さんの松平容保、そして吉川晃司さんの西郷隆盛ですね。
えっ? 全員八重の桜からエントリ?
いや、もう、そこからしか選べないんです。
今、『八重の桜』を再放送したら面白いことになるだろうなぁ。
ヒロイン八重が指一本で、バッタバッタと西郷隆盛以下全員を屠れることでしょう。
総評
切れていい?
幕末の政治無視、ヤンキー漫画以下の展開に、深い絶望感と怒りしか湧いてきません。
最低最悪なのは、幕府側の一角だった薩摩が、政治がらみで幕府倒す側に回るのではなく、
【ナアナアにしている】
ところですね。
だったらなぜ薩摩を主役にした?
作り手は、史実の薩摩が嫌いですよね?
自分たちだけキレイキレイに持ち上げ、会津に汚いものを押し付ける。
このメモリアルイヤーにここまでやらかすとは、明治維新三百年先まで遺恨を持ち越すような所業にすら見えてくる――それぐらい失礼だから、本気でキレたくもなるのです
今回の禁門の変は、過去に映像化された作品の中でも最低最悪。
幕末をこんな緩い覚悟で映像化したスタッフに心底呆れるばかりです。
私個人の意向や視聴者の感想など知らんこっちゃという話なんでしょうが、とにかく許せないレベルの内容でした。
『禁門の変』をご理解されたい方は以下の記事をどうぞ!
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著:武者震之助
絵:小久ヒロ
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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等