青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第36回 感想あらすじレビュー「栄一と千代」

2021/11/22

ショッカー三菱には「合本」で対抗!

渋沢栄一は「東京風帆船会社」を設立しました。

日本にとって海運は非常に大切な産業です。

となれば、当時はどれほどの規模があって、三菱がどれだけ握っていて、では、どうすれば渋沢が勝てるのか。

あるいは合本であることのメリットは?

経済大河ならではの解説を期待していたところ、今週もまたショッカー岩崎の悪人描写に時間を取られてしまいます。

「風船球のように沈めちゃる! ガハハハ!」と、わかりやすいショッカーしぐさ。

 


成一郎も40歳超えて相変わらず

そのころ渋沢邸では、栄一の娘・うたがハキハキと縁談の話をしていました。

若い方にあまり厳しいことは言いたくありませんが、放送委員が文化祭でアナウンスをしているような口調に感じられて辛い。

成一郎がオタオタしながら渋沢邸へ飛び込んできます。

彼も既に40歳を超えたいい大人です。

明治初期であれば現代の50~60代の感覚でもおかしくなさそうなのに、相変わらず本作の人物は年齢にふさわしい成熟が見られません。

成一郎は、栄一が亡くなったというゴシップに驚きながら、ドタバタ進んでいくと、奥にはなぜか五代様がいる。

それにしても、成一郎は本当に栄一が死んだと思っていたんですか?

本作の登場人物は、フェイクニュースに釣られてテスラ缶でも買ってしまいそうです。

五代様は、今週もドラマの先々を見通せるようなメリサンドルスタンスで、説明セリフで語ってくれます。

※メリサンドル……『ゲーム・オブ・スローンズ』に出てくる赤の占い師

どうやら政府筋はデタラメ記事で五代や黒田を追い詰めようとしているとか。

まるで大隈重信と岩崎弥太郎が全部悪いかのような描写ですが、そもそも火のないところに煙は立たないはず。

そしてショッカー岩崎はまた、大仰な土佐ことばでドデカイ啖呵を切っています。タップで商売の手も広げました。

そのころ貧民救済は赤字に陥っていました。

栄一は東京養育院の事業縮小を議会で求められますが、また目つきを悪くして周囲を睨みつけています。

「国が一番守らねばならんのは人だ!」

確かにその通りでしょう。

貧者を救済することは社会全体によい影響を与えることが期待できます。

しかし、そこで始まった論戦が異常なまでに子供っぽい。

「こっちを間違っているというお前が間違っているというこっちを間違っているお前が間違っている……」

って、いったい私達は何を見せられていたのでしょう?

近代大河で、経済が主軸。それなのに数字の話も、経済理念の中身も一切語られず、渋沢の功績のはずの東京養育院でも幼稚な反論に終始している。

とにかく驚くほどに説得力がありません。

案の定言い負かされ、ショッカー岩崎にコケにされています。

まぁ、仕方ないでしょう。成一郎だけでなく、本作の渋沢栄一はせいぜい高校の生徒会長ぐらいの印象です。

老獪で知的な舌戦など期待できません。

学級目標じみた歯の浮くようなセリフは言えるものの、弁論も何もあったものではないのです。

『三国志』の世界観なら憤死しかねませんね。

 


開拓使官有物払下げ事件

教科書にも出てくる「開拓使官有物払下げ事件」がザックリと描かれました。

恐れながら申し上げます。本日、大河で見た同事件の顛末は全て洗い流したほうが良いと思われます。

五代友厚と黒田清隆
五代は死の商人で黒田は妻殺し|知られざる薩摩コンビ暗黒の一面とは?

続きを見る

まとめると

「五代様は悪くないの! 悪いのは五代様に罪を着せて、本当はショッカー岩崎に利益誘導したい大隈なの!」

という、ムチャクチャな誘導。

同じ脚本家の作品『あさが来た』でも、この開拓使官有物払下げ事件は、以下のように口ポカーンの描写だったものです。

◆『あさが来た』での開拓使官有物払下げ事件は?

スコミの捏造だ! 五代様が悪いわけがない!

それまで無能で事業を全て妻にぶん投げていた新次郎が突如覚醒し、捏造だと見抜く。

優秀だったはずのヒロイン・あさは特に何もしない。

ともかく五代様は悪くないと証明された!

要するに『デスノート』の「ジェバンニが一晩でやってくれました」の朝ドラ版だったわけで、今回は新次郎不在のため伊藤博文がジェバンニになりました。

ジェバンニ伊藤は黒幕が誰かまで全てお見通し。

大隈重信という肥前閥佐賀藩出身者を追い出すことに成功したのです。

これまた【明治14年の政変】として日本史の教科書に出てきそうですが、出版社と歴史教師が頭を抱えそうな展開になりました。

前々から言われていましたように、大河ドラマで幕末明治以降の歴史を学ぶのは危険です。テストで不正解の確率が上がってしまう。

この政変、端的に言えば「薩長土肥の抗争が背景にあって、薩摩閥の黒田と五代、それに大隈をセットで追い出す」という構図がありました。

要はドロドロした政治抗争です。

それを「ショッカー退治だ!」という、スマホゲーのイベント気分で進め、最終的にはショッカー岩崎とデ・アール大隈が悪いとなる流れへ。

伊藤博文が大隈邸宅を訪問するときの演出もバカバカしくて声を失いました。

夜なのに照明もろくにない。そもそも夜中に訪問する必要があったのか。伊藤博文が変なBGMに乗っかって、足音を響かせてスローモーションで歩く。一体なんなんだ……。

この展開の何がお粗末か?

といいますと、五代様と栄一を仲良しにしたことでしょう。

薩長閥それぞれ背景にいる商人同士が睨み合うカタチにすれば、それはそれで盛り上がったと思います。

そこに大隈と岩崎を絡めれば、なお面白い。骨のある展開を書ける脚本家だったら、そうされたのでは?

薩摩→五代
長州→渋沢
土肥→岩崎

それが、いつにまにかへなへなと、腰砕けしたような関係になっています。

イケメンが演じていてファンもいるし……どうしよう! そんな見苦しい戸惑いが透けて見えてきて、何が何やら。

 

五代様は汚い商いなんてしていない?

場面は、娘うたのお見合いへ。

伊達家(伊達宗城)ゆかりの穂積青年は、東大で働く好青年で、良い話のようですが。

突っ込みたいのは、うたと穂積の所作指導。

うたは和装所作と発声指導をもっと真面目にやらないと、明治の御令嬢にはとても見えません。

なぜ彼女は、いちいち放送委員が読み上げるように話すのか。若手女優をここまで投げっぱなしって、本当に画面を見るのが苦しくなってきます。

脚本と演出の問題ですが、うたの魅力もわかりません。

自分のことを一方的にペラペラペラペラ喋って笑う。「敢えてそういうキャラを狙ってる」みたいなことを言われても、ただ単に幼稚な女性にしか見えないのです。

そもそも二人の結婚なんて、ナレーションで済ませてよいはずでは?

もしかして時間稼ぎ?

娘の恋愛を、見つめる親も気持ち悪い。自分だったらこんなの耐えられません。

傷ついた五代様はどこへ行くのか?

と思ったら東京商法会議所の栄一のもとへ。

他に友達がいないのでしょうか。実際、地元の鹿児島では嫌われていたようですが、【西の五代に東の渋沢】って、そういう意味ではないと思います。

そして五代様はこうきた。

「北海道の開拓使事件はマスコミの捏造なの! 汚い商いなんてしてないの!」

そんなことをここで言ってどうしたいのでしょうか。

本当に、このドラマの「突然告白」な世界観には驚かされます。

土方歳三も出会ったばかりの渋沢栄一に、思っていることを全部ペラペラとしゃべっていました。そんなことが近藤勇沖田総司にでも伝わったらどうなっちゃうのよ、歴史変わっちゃうんでは?と心配した程です。

土方歳三
幕末を生き急いだ多摩のバラガキ・土方歳三が五稜郭に散る|生涯まとめ

続きを見る

近藤勇
近藤勇が新選組で成し遂げたかったことは?関羽に憧れ「誠」を掲げた35年の生涯

続きを見る

五代に対して栄一はまっとうなことを言います。

「なら反論すれば? 汚いことしてないんでしょ?」

珍しく正論を言いましたね。それに対して五代は?

「そのうちどこかのマスコミが、何かいいこと書いてくれるかもだし!」

栄一もここで「なら福地桜痴なんてどう?」とお仲間を紹介してもよいでしょうに。

福地源一郎福地桜痴
漱石や諭吉がダメ出し!福地源一郎(桜痴)は渋沢栄一の御用記者だった?

続きを見る

福地を目的としていたのであれば、五代様の来訪も理解できなくはありません。

しかし栄一はそうしません。まぁ、五代の言い訳も嘘くさいですしね。もしも、調べて無実という証拠が出てこなかったら書けません。

それでも五代様はまだグチグチ言い訳をしています。

「北海道の開拓には関われなかったけど、いいもん、これからは別のことをするんだもん! 欲しいのは名誉や金だもん!」

なに言ってんだ、この人……。

開拓使がアイヌの土地や資源を奪い、屯田兵に色々と丸投げした悪事は北海道の歴史を学ぶ上で避けられません。

五代様とお友達である黒田清隆は、さしたる理由もなく漁民の家を砲撃、中にいた若い女性は苦しみながら亡くなりました。

そしてその責任を周囲に押し付け、本人はお咎めはナシ。

五代様は郷中仲間の黒田清隆のコネを使い、開拓には絡まなかったくせに、利益だけ得ようとした。そう自白しているようなものです。

うん、やっぱりこいつは有罪だべな。

そもそも屯田兵親族の中には、五代様がグラバーから買い取った銃器で亡くなった方も相当いるはず。

そんな奴が「武器で儲け、開拓で儲ける」なんてことを言うわけです。

しかも、自分たちはお金にキレイで、三菱の金儲けだけが悪いというスタンスなんだから、小賢しくて、見ているのが辛いのです。

長州閥の井上馨がやってきます。横には三井の益田孝。

五代と黒田の薩摩コンビも相当黒いですが、それでも彼等が霞んでしまうのは井上馨ら長州閥のおかげでしょう。西郷隆盛が「三井の番頭さん」と皮肉ったほど、井上は真っ黒です。

そんな井上が、海運会社の再挑戦クエストを持ってきた!

「ガチャをひけ、渋沢栄一! ガッツリ政府が重課金するぞ!」

「よし! SSR共同運輸株式会社ゲットぉ!」

いくら綺麗事を並べていても、結局、政府のお金を使ってガチャを引く。

どういう経緯でショッカー岩崎に負けたかさっぱり描かないものだから、政府の重課金チートプレイヤーにしか見えません。

井上と仲良しという時点で何の説得力もないのです。

このあと、また時代考証をしない明治の女子会。まぁ、需要があるから仕方ないですね。大手メディアでも見出しになるぐらいでした。

◆『青天を衝け』35話。千代「ぐるぐるいたします!」明治の女性たちがアメリカ前大統領接待で大活躍(→link

絶望的に痛い一文がコチラです。

「キャッキャウフフと明治の女子会が盛り上がる

なんなんでしょう、これ……。

◆あでやか!『青天を衝け』橋本愛ら女性陣メイン回に「奥様方かわいい!!」の声 元宝塚・愛希れいかにも注目集まる(→link

 


お得意の『論語』でも読めばいいのに

そして明治15年春、栄一の長女・うたが穂積陳重と結婚しました。

彼は東京大学の教授に就任。

穂積陳重は、渋沢栄一の思想を考える上で重要かもしれませんが、どうせ本作では「いい娘婿」としてしか出てこないでしょう。

本作定番のめでたい場面で時間稼ぎも、私には見知らぬ誰かの結婚式に強制出席させられたような不快感しかありません。

だって、見ているだけでおいしいご馳走も酒もないしさ。

このあと、そんなめでたい婚礼の席のあとなのに、栄一は千代に対して「おかしろくねぇ」レベルのしょうもないことをグチグチ。

「若い二人が羨ましいのぉ〜!」とか「ショッカー岩崎には理想主義、メリサンドル五代には欲深いって言われてどうしたらいいのぉ」とか言っている。

もう数えで43歳にもなる、明治時代の不惑でしょ。

お得意の『論語』でも読めばいいじゃないですか。それか座禅でもしたらよろしいのでは?

もうコチラは「面壁(めんぺき・壁に向き合って座禅して反省すること)しろ!」と言いたい気持ちで窒息死しそうです。

でもお千代は、タップゲーの放置少女みたいなものですからね。スマイルで褒めてくれます。

「そのままでいいよ! それでもみんな褒めちゃうよ!」

「お千代ちゃんもぉ?」

「うん、千代、栄一さんだーいすき♪」

こんな調子よ。もう夫妻ともに『論語』のかけらもない会話ばかりです。

賢妻なら、例えばこれぐらい言って欲しい。

人の己を知らざるを憂えず、人を知らざるを憂うなり。『論語』「学而」

あなたが他の方から理解されないと憂う気持ちはわかります。しかし、ここは己とて相手を理解してないのではないかとご心配なさってもよろしいのでは?

それで栄一が反省して「確かに三菱をショッカーと決めつけるのもどうなのか」と立ち止まれば、この渋沢栄一は実は冷静沈着で恐ろしいと見えるでしょう。

バカみたいに「敵は悪い!倒すのみ!」なんてやってないで、優れた経済人ならあらゆる可能性、手立てを講じるものではないでしょうか。

ただ、本作でそういう需要はないのでしょう。タップゲー放置嫁に求められることは、肯定するセリフだけです。

それにしても、栄一は本当に冷たい男ですね。

自分のイケイケライフは思い出すのに、天狗党も平九郎も思い出さない。

若い頃だって、良いことばかりでもなかっただろうに、無反省でヘラヘラ生きていくと、賄賂のような贈り物にも平気で手を付ける不誠実な人間になってしまう。

 

コレラ患者とは思えない最期

このあと、渋沢一家のどうでもいい日常。

とりたてて見るべきものもなく、演技が不自然なためまたも苦行の時間です。

千代がミルクを飲んだから何なの?

開拓使事件を高速ですっ飛ばしておいて、一体何がしたい?

誰かの結婚式に強制参加させられたかと思ったら、今度は赤の他人のホームビデオ鑑賞会が始まり苦痛の修行が始まります。

あらためて栄一と千代の表情を見ると、二人とも全く老けていないんですよね。だから一家の長に見えない。

そして牛乳が祟ったのか。

千代がいきなり口元を押さえてどこかへ去ってゆきます。

コレラで倒れました。

私の知っているコレラとは症状が違います。きっとそういう世界なのでしょう。廊下でコレラと告げる医師は、明治というより昭和の医療ドラマのようで何がなにやら。

誰も近づけないはずなのに、枕元に向かう栄一。

コレラってそういう病気だったっけ?

まぁ、いいんでしょうね。

栄一が千代に「死ぬな!」と訴え、「ネットが号泣!」となることが目標ですから。

栄一は千代の手を握っているのも、愛情の深さを表現したいのでしょう。当時のコレラの致死率を考えると非常に危険です。

コレラジョン・スノウ
死神コレラを止めろ!ジョン・スノウは致死率8割の恐怖をどう撃退した?

続きを見る

このあと、悲しい昭和テイストの家族ドラマが引っ張られ、号泣タイム。

栄一はメイクがしっかりしていて血色がよい。

瀕死の千代は「生きてください。生きて必ずあなたの道を」と、栄一の胸をわざとらしく押さえています。

えぇと……これは本当はコレラ患者じゃない?

そしてスイッチオン!

「お千代〜いくな、おちよ~! いかないでくれ~!」

「お母様~お母様~!」

命が尽きた瞬間、タップしたように猛烈反応する演出はなんなんでしょう。

『麒麟がくる』では、光秀は静かにそっと愛妻の遺体を抱きしめていて、それはもう静謐で美しい場面でした。

千代は最期までタップゲーのよう。

麒麟がくる第39回 感想あらすじ視聴率「本願寺を叩け」

続きを見る

千代は思うままに生きて欲しいと言いますが、栄一は基本的に好き勝手に生きてきたでしょう。

大金持ちの豪農に生まれて、京都に行きたいといえば親がポンと大金を包んで、千代は文句も言わずに送り出す。

思うままに女遊びをした栄一に、苦労させられたのが千代でした。

史実でもそうだし、作中でも誰もさして文句も言わない。酷いことを散々したけど、さして反省しない。平九郎の死なんて栄一の責任は大きいのに、それすら千代は庇った。

本当に甘やかすことしかしない、放置ゲーヒロインでした。

と、思ったら最後の最後までおかしな本作品。

コレラ感染予防のため、千代はすぐに荼毘に付されたのですが、このドラマではわかりにくく、炎の向こうに栄一がいるという謎演出。

本能寺の変?

一瞬そう思ってしまいました。

 

総評

このご時世に、ここまで医療考証が危険な描写を流すとは思いもよらないことでした。

コレラとは下水道普及や整備と深い関係がある。千代は上下水道整備前ゆえの悲劇といえます。

コレラの主な症状は下痢と嘔吐。倒れるとすれば、その結果、発生した脱水症状によるものです。

倒れる前に、横になって診断を受けていてもよいでしょう。あまりに不自然な描写です。

といっても、本作は医療考証をしていません。

平岡円四郎は左右から袈裟がけに斬られたにも関わらず、さして出血もしないまま、滑舌良くハキハキと感動的なセリフを吐いてからガクリと亡くなっております。

『麒麟がくる』では、斬られた相手は即座に命を落としていたのですけれどもね。

「でもぉ! 千代と栄一が感動的に別れないとぉ」

そういう演出意図はわかりますよ。

しかし、接触感染の危険性のある伝染病なのに、そういうリスクを無視してよいものでしょうか?

こんなご時世ならば、むしろ最愛のひとと向き合うこともできずに別れる苦しみを描いてもよいでしょう。

朝ドラ『おかえりモネ』では、ヒロインの婚約者が医者であり、コロナ対応をしていたとわかります。

そのせいもあって、彼らは接触すらできなかったとわかる描写があったものですが、大河ではできませんか?

コレラでまで【フェイス・トゥ・フェイスシステム(顔を合わせないと盛り上がらないこと)】実装ってどういうことでしょうか。

これらは、実はプロットに入れてもよいことなのです。

ジョン・スノウというイギリスの医者は、貧困とコレラの関係性について指摘しました。

不衛生な水道がコレラの蔓延に繋がっている。

民衆の生活を向上させてこそ、コレラも減らせると訴えたのです。

しかし、どこの国の政府でも貧民対策はやりたがらず、腰が重い現実がある。

ジョン・スノウはそんな社会すら動かした偉大な医者として現在顕彰されているのです。

ドラマで「民の生活だ!」と言い募る渋沢栄一ならば、千代の悲劇を通してその認識を深めてもよいはず。

感染症と貧富の差には大きな関係があります。

確かに誰でも罹患する可能性はある。それも平等ではなく、貧困層ほどリスクが高まります。渋沢家が貧しかったら、千代一人ではなく、一家全員が罹ってもおかしくはない。

でも、そうはならないのでしょうね。そんなことだから説得力がないドラマなんですよ。

千代が死ぬから号泣!……欲しい反応はそれだけでしょう?

産業革命の闇
産業革命の闇が深い!大英帝国ロンドンで悪臭漂う環境に置かれた子供たち

続きを見る

 

タップゲーとコラボを期待したい

長谷川博己さんが『三国志真戦』のCMに起用されました。

 

課金では勝てない! 知略を使おう! そう訴える広告もあります。

嗚呼、彼が言うと実に説得力があると思いました。

じゃあ今年は?

 

千代がこんな感じでしたね。

いつも顔色が悪く、虚な笑みを浮かべていて、ワンパターン。

放置して京都で女遊びを楽しみ、妾を連れ帰ってもタップすれば微笑む。まさに理想の放置妻女でした。

栄一は?

 

『お願い社長』でしょう。あの広告は「称号ゲットなり!」「やっと俺が社長になってきた!」「財産がつんつん上がっていく」といった名言が揃っております。

そういうセリフを妙にハキハキと読み上げ、動画にはキレッキレのイケメンがいる。

「おかしれぇ」「がっぽんがっぽん!」「であーる」そして「ぐるぐるする!」……と、わけわからんフレーズに脳みそがとろけそうでしたが、タップゲーへのオマージュと考えれば納得できました。

 

渋沢栄一と慈善事業

渋沢栄一が慈善事業に力を入れたことは確か。

ただし、同時に考えねばならない要素もあります。

◆ノブレス・オブリージュの利用

上流階級は負うべき責務があるということで、フランス語由来だけに、渋沢栄一が学ばなかったわけがない。

それがよい方向に発揮されれば結構な話です。

『ダウントン・アビー』では、グランサム伯爵が城を第一次世界大戦負傷者収容に提供しました。娘のシビルも看護にあたっていた。

こうしたイギリスの貴族階級の男性は、第一次世界大戦時に志願し出征、戦死する例が相次ぎ、多くの貴族が断絶しました。

しかし――寄付をすることで、社会的な名声を高め、悪用する手段がある。近年のアメリカ資本家がよく使う手口ですが。

・寄付することで節税する

・教育機関に寄付することで、子弟の入学を勝ち取る

・寄付することの背後で色々と悪いことをする

こういう悪用例がある。

渋沢栄一の事業を見ていくと、こうした手口の古典的なものが見えてきます。

◆天譴論を捻じ曲げた

渋沢栄一の慈愛に満ちた姿がなんとも嘘くさいのは、儒教由来の【天譴論】を捻じ曲げたことが頭をよぎるからです。

天譴論とは儒教の考え方であり、そもそもは

・君主の悪徳が天災につながる

という発想です。

ゆえに中国の皇帝は罪己詔(己を罪する詔)を出す。華流ドラマでも韓流ドラマでも、名君は「私が不徳であるがゆえのこの災難か……」と嘆くワケです。

しかし、それを明治以降の日本ですると、不敬罪になる。

ゆえに渋沢栄一はキリスト教を利用したのではないか?と思えるのです。

聖書に出てくるソドムとゴモラのように、民の行いが悪いと天罰がくだるという発想です。

そんなハイブリッド日本型天譴論を関東大震災のあと、大々的に唱えていたのが渋沢栄一です。

マスコミを通じて発表し、些細なことを針小棒大に言いはり、「被災は民衆に対する天罰」だと展開した。

こんな発想の持ち主の、どこが儒教通で民に優しいのか。疑問を感じるばかりです。

◆日本公害第一号に関与し工場法を阻止

渋沢栄一は日本の公害第一号・足尾銅山に深く関わっています。

悪辣な労働条件から労働者を守る【工場法】の成立を十年にわたり妨害しました。

それのどこが優しいのでしょう?

民に優しいどころか、複数の顔を使い分けている像が浮かんできます。

本当は怖い渋沢栄一 テロに傾倒し 友を見捨て 労働者に厳しく 論語解釈も怪しい

続きを見る

 

東の水戸学、西の優生学

今回でてきた穂積陳重は経歴だけを見れば立派な方です。

しかし、なかなかきな臭い思想の持ち主であり、要注意。当時は許容されたとしても、現代の観点からすれば間違っていて有害、差別的な思想が垣間見えます。

穂積はイギリス留学時にチャールズ・ダーウィンの進化論、ハーバート・スペンサーの社会進化論を学びました。

この社会進化論が極めて危ういのです。

ダーウィンの進化論から飛躍して、差別的な思想となり、近代において猛威を振るいました。

NHKのサイトによい説明があります。

◆ダーウィン進化論に生じる誤解(→link

この手の曲解は、ナチスドイツの「優生主義」につながります。以下の部分に注目です。

さらに、ダーウィンの進化論を曲解したことで生まれた間違った考え方の最たる物と言えるのが、第二次世界大戦中にナチス・ドイツのヒトラーが提唱した「優生主義」です。

優生主義とは、「知的で優秀な人間」「社会的に有益な人間」をつくるために、遺伝を操作して人類の進歩を促そうという考え方です。

ヒトラーはドイツ民族を世界で最も優秀な民族ととらえ、それ以外のユダヤ人などを絶滅させようと企てました。

これが悪名高き、悲惨なホロコーストです。

が、もちろんダーウィンの進化論とは何の関係もありません。

優生主義はナチスだけが陥ったように切断処理されがちですが、それ以外の国や組織にもあります。

そしていくつもの悲劇を生み出しました。

日本では旧優生保護法による強制避妊手術がそのあらわれとされています。

もうひとつ、ハンセン病者の隔離も、優生思想のもたらした悲劇とされている。

このハンセン病患者隔離においては、渋沢栄一が関与し大きな役割を果たしています。

なぜ、そうなったのか?

娘婿である穂積と気が合い、互いに感化しあったのであれば当然の帰結ではないかと思えてきます。

穂積は天賦人権説を否定しました。またロンブローゾの生来犯罪人説にも傾倒。

【犯罪者には生まれつきの身体的特徴がある】

とするもので、現在では否定されています。

こうした偏った思想は信憑性がないだけでなく差別をもたらしました。例えば毛深い人は暴力的であるとか。そういう類の迷信と大差ないものです。それでも科学的とされて信じられてしまった。

渋沢栄一の言動にも、うまく隠しているようでどうにも差別的なものがあります。

アルミホイルを奥歯で噛み締めているような感じ……というのも、周囲に後期水戸学の信奉者や、天賦人権説を否定する娘婿らが揃っていたら、そうもなりますよね。

彼の生涯は、前半生が後期水戸学で、後半生は優生学――現在否定されている危険思想の東西横綱が揃う、恐ろしいキャラクターです。

ずんぐりとした見た目からは想像しにくいかもしれませんけどね。

水戸学
水戸学とは何なのか?斉昭のパフォーマンスが幕末に投じた思想的影響のヤバさ

続きを見る

『いだてん』では、主人公の田畑がヒトラーに嫌悪感を滲ませていました。

枢軸国として同盟していた日本であり、かつ五輪の成功例として参考にするのであれば、当時、あの場面で、ああも露骨に嫌がるのはむしろ不自然だと思えました。

それでも田畑があのような反応をしたのは、NHKだって、ヒトラーを賛美するリスクを感じていたのでしょう。

ならばなぜ今年はOKなのか?

東西の危険思想に近い渋沢栄一。レオポルド2世まで褒めちぎっておりました。

レオポルド2世とコンゴ自由国
手足切断が当たり前だった恐怖のコンゴ自由国|レオポルド2世の鬼虐待

続きを見る

思想面をまじめに考察したら、大河の主役として、渋沢栄一は予選敗退になりそうなほど危険な存在です。

しかし、朝日新聞でも持ち上げる記事を載せています。

しかも陽明学にも水戸学にも言及せず、この道の大家である小島毅先生のコメントすら取りにいかない。そこまでして持ち上げる理由がわからないのです。

 

今の価値観で考えることも大事

「大河ドラマで幕末史を知った気にならないで欲しい」

私の持っている幕末の書物には、そんな先生方のぼやきがしばしば書かれています。

今年はその悪しき頂点に立つドラマかもしれません。

特に未成年の皆様には見ていただきたくない。本作にかこつけて、不気味なハラスメントめいた記事が出てきます。

◆「性の愉楽が一番の歓び」、近代国家を築いた伊藤博文の素顔  「性」を治むる者は「政」をも治むる者なり(→link

こんなものは記事タイトルの時点でハラスメントでしょ。

こういう記事を見せつつ、ニヤニヤして、

「でもね、この人が初代総理大臣なんだよ」

なんて言われる若者がいるかもしれないと思うとゾッとします。

大河はむしろ有害になったと思えてくる。

今の若い世代にはむしろ『アンという名の少女』をお勧めします。

◆美化されたドラマ「アンという名の少女」は歴史修正ではないか(→link

言わんとするところはわかります。確かに美化されていると思える。

とはいえあのドラマでは、差別がなかったことにされているわけでもない。

それに視聴者の要望もあるのです。

もう今時の若い世代は、綺麗にロンダリングされた勝ち組だけのドラマでは満足できません。

『アナと雪の女王2』は、サーミ族をモデルとしたノーサルドラが出てきます。主人公の先祖が犯した罪である迫害と差別が、物語の背景としてあります。

日本でも『ゴールデンカムイ』はアイヌへの差別が出てくる。

『鬼滅の刃』だって遊郭への差別構造が出てきます。あの作品では大正時代の厳しさも出てくる。

カナヲが大人から殴られ、虐待され、人身売買されていたのはなぜだろう?

風柱の不死川実弥は、どうして文字を書けないのだろう?

そんなことに疑問を抱いて調べてゆくと、大正時代の厳しい現実につきあたる。

極めて良心的と言えるのです。

胡蝶しのぶ
胡蝶しのぶと蝶屋敷はシスターフッドの世界なり『鬼滅の刃』蟲柱

続きを見る

不死川実弥(鬼滅の刃・風柱)
不死川実弥と玄弥の兄弟が示した“男毒”からの解放『鬼滅の刃』風柱の宿命

続きを見る

通俗道徳
お前が貧乏なのはお前の努力が足りんから!明治時代の通俗道徳はあまりに過酷

続きを見る

日本近現代史の暗部
残飯で食いつなぎ 暴力が横行 カネで赤子も殺す 日本近現代史の暗部

続きを見る

そういう今時のニーズを、修正主義と呼んでいても進歩できません。

正直なところ、こうした作品はやり過ぎであったり、美化だと思えることもなくはないかもしれません。

とはいえ、ありのままの意識でロンダリングする歴史劇ほど有害かつお粗末、不愉快なものはない。2021年の大河ドラマがそう証明しています。

『アンという名の少女』よりも、『青天を衝け』の方が邪悪で、そしてつまらないのです。

 

豎子与に謀るに足らず

今週の漢籍です。

このドラマの主演インタビューを読みました。

「ぐるぐるする」だの。「おかしれぇ」だの。喜作といると子供に戻ったようだの。

もしもこのドラマが、高校生の部活動を扱ったドラマならば納得できるようなインタビューであったと思います。

しかし、時代は明治初期。日本資本主義の父とされる人物です。

それなのに、なぜこんな幼稚な内容なのか?

手元には『麒麟がくる』の長谷川博己さんのインタビューもあります。その落差が改めて酷い。

とはいえ責める気は全くありません。渋沢栄一はすごいと彼は語っていますが、具体的にどこがどうすごいのかキッチリと語られていない。

五代友厚役のインタビューも同じでした。

それこそ長谷川博己さんなんて、明智光秀と聞いたときはアンチヒーローかと思って期待がふくらんだそうですし。

佐々木蔵之介さんも悪役としての秀吉を楽しんで演じていました。

染谷将太さんなんて、賛否両論ありきの信長像をのびのびと天衣無縫の境地で演じきったものです。

どうにもそれと比べると、今年は小さな箱に手足を折り曲げて入っているような、息苦しさと浅さばかりを感じます。

役者さんが本当に気の毒。

咲き誇れない花ほど哀れなものもありません。

そんな前置きのあと、先週なぜ千代の「ぐるぐる」を私が否定したか、ということですが。漢籍でも。

豎子(じゅし)与(とも)に謀るに足らず。 『史記』

小童め、共に謀略をなすこともできんわ!

要するに

いい歳こいた大人がいつまでもガキみたいな語彙で喋っているんじゃないよ

ってことです。

夫婦の寝室で、睦あいながらならまだしも、あれは妻として提案する場面。

『麒麟がくる』の煕子がああいうしょうもないことを夫に言っておりましたか?

ましてや千代は漢籍を読みこなす教養があった。娘も読書を好んだ母について語り残しています。

そういう聡明な女性を、脚本家の手抜きとしょうもないウケ狙いのために、幼く、愚かにする。

こんな侮辱は度し難いものを感じます。

渋沢千代
渋沢千代(栄一の妻)は気高く聡明な女性|しかし夫は妾を新居に呼びよせた

続きを見る

そもそも、あれのどこがよい話ですか?

VIPの接待を頼まれた責任者が、配偶者に責任をぶん投げだと言ってくる。そのおかげでダーリンがいきいきしていた。

こんなこと職場の誰かが言っていたら、むしろ激怒しませんか?

私なら許せません。任命されたのは、あなた自身であって、あなたの配偶者ではないぞ、と。

タイトルだって、あれならいっそ「千代、もてなす」でよかったのでは?

「ぐるぐる! いいよね!」と言いたいのであれば、お好きになさればよろしい。不思議なのは、こちらにまで意見を求めてくること。

一致しないなら、それでもういいでしょう。

大隈綾子が、夫に宛てた手紙をヘラヘラとぶちまけるところは、プライバシーの概念がなさすぎます。

そんなものを妻にまで見せている大隈重信も愚かですが、それをあんな小娘のようにはしゃいでキャピキャピする綾子も情けない。

思慮深さで有名な彼女をこれまた侮辱しています。

そういうしょうもない描写、私は好きではありません。このドラマの登場人物は総じて幼稚で、共に何か計画を練りたいとは全く思えない。何の説得力も感じないのです。

 

漱石枕流の答え合わせ

先週、「漱石枕流」を引きつつ、もしも致命的なミスを庇うのならばどうなるのかと書きました。

青天を衝け第35回 感想あらすじレビュー「栄一、もてなす」

続きを見る

◆NHK、国旗逆さまに放送し謝罪 大河ドラマ「青天を衝け」(→link

そしてありました。

「こんな一瞬の場面なのに、国旗が逆さまだと気づいた国旗考証の先生はエライ!」

「再放送までに修正するなんてエライ!」

「すごい技術で修正するなんてエライ!」

いや……国旗考証なら気づくでしょう。それに修正だってそりゃするでしょう。

技術的にも黒子を消して、初代プレイステーションのようなのべっとした国旗を貼り付けただけのもの。

こんな無理矢理な擁護をしてもらえるのならば、本作は確かに最強だと思いました。

ガチャ運がいいと、視聴者までSSRになる。たまげました。


本文に登場する関連記事

渋沢千代
渋沢千代(栄一の妻)は気高く聡明な女性|しかし夫は妾を新居に呼びよせた

続きを見る

渋沢兼子(伊藤兼子)
渋沢兼子は妾として渋沢栄一に選ばれ後妻となった?斡旋業者の複雑な事情

続きを見る

岩崎弥太郎
一代で三菱財閥を築いた岩崎弥太郎の豪腕|一介の土佐郷士が巨大企業を作るまで

続きを見る

女遊びが強烈すぎる渋沢スキャンダル 大河ドラマで描かれなかったもう一つの顔

続きを見る

【参考】
青天を衝け/公式サイト

TOPページへ


 



リンクフリー 本サイトはリンク報告不要で大歓迎です。
記事やイラストの無断転載は固くお断りいたします。
引用・転載をご希望の際は お問い合わせ よりご一報ください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

-青天を衝け感想あらすじ
-

右クリックのご使用はできません
目次