青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第37回 感想あらすじレビュー「栄一、あがく」

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青天を衝け第37回感想あらすじレビュー
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渋沢栄一の聡明さはどこへ?

このあと、また明治人絶叫タイムの始まりです。

登場人物がここまで絶叫する作品というと『彼岸島』を思い出させてくれます。

 

ショッカー岩崎も、暗いアジトで『彼岸島』のように絶叫中。そして苦しくなって弟の前で倒れます。

「にいさん! にいさん!」

本作の人物は、何かあるとオタオタして叫ぶだけで、皆さん、いい歳なのに大丈夫かな?と不安になります。

まぁ、ショッカー岩崎は倒れても元気そうに悪役らしさを見せつけているので大丈夫でしょう。

そしてメリサンドル五代が、栄一に助言をしています。

※メリサンドル:『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場する赤いお告げ巫女

方向転換も五代様の神秘のお告げがあればありなんですよね。

それにしても、本作の薩摩って、どういう存在なのでしょう。

豚鍋思い出おじさんだった西郷隆盛は新聞死。

大久保利通はネチネチと嫌がらせのようなことをされてナレーション死。

このころ大久保路線を継承していたはずの黒田清隆は出てこない。

そして五代友厚だけがでしゃばる。しかも事業家としてではなく、神秘の予言を振りまくメリサンドルよ。

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主人公・渋沢栄一の聡明さはどこにいったのでしょうか。

五代の説明セリフばかりなので、状況もいまいち見えてきません。日本経済についての話題は、まるで岩崎と渋沢しか存在しないようだ。

しかし栄一は、広告動画のようにキメキメの「俺はすごいぜ!」的なセリフを吐いています。

「俺のがっぽんとの戦いなんだ!」

がっぽんがっぽんって、がっぽんカードに頼りすぎ。

隣で困った顔をしている成一郎も、水槽にEM菌を投入し、テスラ缶をいかにも買っていそうな顔で、まったく役立ちそうにありません。

そして伊藤博文がこそっと出てくる場面へ。

「ちょっとぉ〜悪口やめなさいよ〜」

と、珍しく正論で栄一を諭します。

本作は渋沢栄一と徳川慶喜を露骨に持ち上げるだけでなく、明治以降は伊藤と井上コンビもロンダリングして持ち上げます。

彼等は毛筆フォントでドドーン!と

金! 女! 権力!

でも書いておいたら似合う、明治きっての黒い政治家であり、司馬遼太郎すら素直に褒めない二人でした。

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実は、この辺の描き方は2010年代半ば以降の大河に顕著な傾向です。

2015年の『花燃ゆ』は長州大河だからわかります。

それが2018年の薩摩大河『西郷どん』ですら、薩長が対立していたころから持ち上げており、そして2021年『青天を衝け』でも同じような展開できました。

反面、この三作は、例えば佐幕派の中でも会津藩の扱いが極めてお粗末です。

伊藤と栄一の会話もドッチラケとしか言いようがなく。

「新しい日本をスタートしない?」

「結局、あんたが日本を一番俯瞰して見ていたんだな! 一番レアカード、星五つってことだな!」

という……お前ってスゲーよな!という居酒屋的な会話は一体なんでしょう。ホッピー10杯ぐらい飲んでるんでしょうか。

 

五代様のお別れタイム

病床のショッカー岩崎が弱気になっています。

でも、力いっぱい叫ぶ力はあり、まだまだ元気そうです。そしてショッカーなりに日本を考えている演出。

どいつもこいつも「日本スゴイ!」「いや、俺こそが一番の日本大好きだ!」的なことを言い合っていてわけがわかりません。

「愛国心はならず者の最後の拠り所」

そんな言葉を思い出しますね。

そしておねがい栄一は、岩崎の訃報を聞きます。

「うそだ!」

続けて五代も長くないそうです。つい、さっきまでピンピンしてお告げを持ってきていたのに、急にどうしたことでしょう。

人間、亡くなるとなれば、後のことを考えなければなりません。

葬儀や香典。明治の実業家ならなおのことでしょう。

しかし親だろうが、妻だろうが、恩人だろうが、このドラマの栄一は自分の感想を述べるくらいで終わってしまい、とにかく幼稚なのが辛い。

かくして五代様のお別れタイムです。

もう、このドラマには、人の死しか盛り上げる要素がないようで、毎週のように退場ラッシュにするようです。

岩倉具視とショッカー岩崎のロスは発生しそうにありませんけど、そんなにロスが好きなら兼子との間に生まれた二児の死も描いたらよかったのに。

史実で冷淡だったという長男の夭折は描いてましたよね。

そして五代様最期のお告げで、合併が決定!

船賃の値下げ競争を続けていたら、三菱サイドは1年、渋沢側は100日しかもたないとのことです。

五代様は最期までロンダリングを忘れません。

「青天白日!」

自分はクリーンだと言い張ります。いや……それ……自分で言う言葉じゃないんだぞ……。まぁ、それは後述するとして。

「渋沢君、日本を頼んだぞ」

と、最後までお告げを発しながら五代様が退場しました。

 

兼子が唯一の見どころ

再婚した兼子は訴えます。

「離縁してください」

こんなドラマでも、兼子を演じる大島優子さんの所作は抜群に美しく、時代劇のセリフもきっちり読み通す。

唯一の見どころです。

兼子は、千代に未練たらたらの栄一に不満があるそうです。

セリフはいつものロンダリングで語彙もいまひとつ。それでも大島優子さんが読むと美しく聞こえるから困る。

抑えた声音なのに、滑舌がクリアで聞き取れる。この蓮花美人はまったくもって素晴らしいものです。

そこで甘くなってはいけないと思いつつも、理解できてしまうから悩ましい。

いやはや、本物の美女というのは存在するだけで人の心を惑わせるもの。兼子がいるだけで周囲の空気まで透き通ります。願わくば、もっと色合いの落ち着いた衣装をご用意いただきたかった。

悩みどころは、栄一のセリフの読み方と所作がどうしても辛く見えてしまうところでしょうか。

栄一は「ダメだよ! 星五つ後妻に支えられないとクリアできない! ガチャでゲットしたSSR妻女はキープしなくちゃ」みたいなことを言って、事態は簡単におさまります。

目をうるませて幼稚なことをボソボソと言い募る栄一は、歳上の夫というより高校生程度にしか見えません。

兼子は……しみじみと、素晴らしい。兼子だけでもこのドラマは価値が出てきたかもしれない。

東京養育院はなんとかなったそうです。

しかしいきなりの展開で、何が危機で、どう乗り越えたのか?劇中だけの説明で理解できるのでしょうか。

兼子はバザーを開き、渋沢家の慈善事業をアピールします。

ただし、これは渋沢だけではなく、当時の上流階級女性の嗜みとも言えるもの。渋沢だけがすごいような描き方は、あきらかに偏向的です。

そして兼子という大輪の花を得ながら、千代を思い出す栄一にウンザリ。

目の前の愛妻を慈しんでこそ、素晴らしい夫ではありませんか? 仏壇で手を合わせながらならわかりますけどね。

明治18年(1885年)12月に内閣制度もでき、伊藤博文が初代内閣総理大臣に就任。

ナレーションで「3年後に大日本帝国憲法が発布されます」と言いますが、明治22年(1889年)2月11日のことで……あれ?

3年?
4年?

年数を確認しましょう。

伊藤博文の在職期間:明治18年12月22日~明治21年4月30日

大日本帝国憲法公布:明治22年2月11日

明治18年12月末から数えて明治22年2月は、期間で見れば確かに3年ちょいです。

しかし、年数をベースに語るとしたらちょっと語弊があるような……。

国旗逆さま映像とは違って、ここは修正されたりしないのかな。

 

再婚ロンダリング

周囲からの勧めで再婚――そうまとまられた栄一と兼子。

栄一の年齢と当時の価値観を考えれば、特に不思議はありません。

「男やもめに蛆がわく」という言葉には、妻の世話がなければ生活すら構築できないという意味合いがあります。

しかし、どうにも史実を雑に改悪した結果、本作はわかりにくくなっている。

兼子を前倒しで出そうとして、芸者になる過程を描きました。しかも、そこには平岡円四郎の妻・やすも関わっている。

「そっか、やすが、いい相手がいるって勧めたんだね」

そう解釈できればよろしいようで、実はこの設定には無理があります。

これは史実でもさんざん言われた、くにのことがあげられます。

娘の歌子らは、妻妾同居をしていた過程でくにとは打ち解けていました。くにが後妻に昇格するのであれば、それでよいと周囲は考えていた。

誰かが「くにはどうかと思う。別の女にすれば?」と進言したのであれば、その「誰か」は相当根性が悪いということになります。

次に、兼子は前述の通り芸者です。素人の女性ではありません。

玄人の女性と馴染みにもならずに勧めてくるとしたら、どうしたって口入れ屋、あるいは女衒の影がちらつきます。

兼子との再婚は、まるっきり捏造しておけばよかった。兼子は栄一が奉公していた家の娘という説もあるほどですから。

「なに! あの家のお嬢さんが困っているのかぁ。芸者をするほど落ちぶれていたとは……」

そういう流れであれば、ロンダリングもそこそこ成功したでしょう。

しかし、そうした過程も踏まずに、無理矢理やすを絡ませたものだから、史実と照合するとなかなかおそろしい構図ができてきます。

女衒やす――。

没落した女性を芸者に仕立て上げるという名目で誘い、兼子にこう告げる。

「あんたねえ、その歳じゃ芸者の口はないよ。いっそ妾にならないかい? アタシの知人に金持ちの男がいるんだ。妻を亡くしたばっかりでねえ」

兼子に、そう話した後で、栄一にはこうだ。

「くにさんを後妻にするって? 言いたかないけどサ、お千代さんのあとにあれじゃあ見劣りするんじゃないかい? アタシの目に叶う小股の切れ上がったいい女がいるんだよ。あれだけの美形なら、伊藤さんや井上さんにも自慢できるよ!」

そうやって縁結びをして“上前”をはねると。

史実でも、口入れ屋は兼子に「芸者は駄目だけど、妾なら」と持ちかけています。そういう現実的な流れを考えていくと、下劣な話が見えてくるんですよね。

結局、ロンダリングできるだけの展開力がないのに、無駄にやすを絡ませたせいで話が改悪されたのです。

兼子のことを考えてロングパスを放っておくほどの余裕もなかった。

そこまでやる気がなく、史実を改悪するだけなら、なぜ渋沢栄一という難易度の高い題材を選んだのでしょう。

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