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【青天を衝け第37回感想あらすじレビュー】
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青天白日
今週の漢籍です。
がんばりました! 韓愈『崔群与書』ですね。
ただし、これは自分が言うものではありませんよ。ザッとこんな話です。
韓愈には崔群という友人がいました。その崔群が、こう評価されました。
「まあ崔群は立派だけどさ。誰もが褒めるのはおかしいよね」
すると韓愈は反論します。
「青天白日は、召使いであってもその晴れやかさを知っているだろう」
青天白日とは「誰にでもわかる魅力がある」と、褒めたのであって、誰かに対して言うのであれば、よい言葉だと思います。
しかし、五代様のように自分で言うと、ものすごく間抜けです。
「俺って誰もが褒めたくなるほどマジ立派じゃね?」
真顔でそんなこと言われても、おいおい自分で言うなよ……と、突っ込みたくなりませんか?
確かに冤罪を晴らす意味合いで使うことはありますが、惜しいところで間違えたものです。
『麒麟がくる』ではこういう恥ずかしいミスはありませんでした。
せめて栄一が、「あなたは青天白日だ」と言うとか。あるいは五代様につっこめば良かったんですけど……やはり五代様、お友達がいないとか? 史実では同郷の薩摩人脈から相当嫌われていたようですので。
代わりにいい言葉を見つけてきました。
天知る、地知る、我知る、人知る。
『後漢書』「楊震伝」
こちらもザッと流れを記しておきましょう。
楊震が賄賂をおくられました。
断ろうとすると相手は「誰にもわかりゃしませんって」と言います。
そこでこう返しました。
「天が知っている、地面も知っている、私が知っている、人も知っている!」
バレないわけないだろ。いつかわかるんだよ。として断る、清廉潔白さを示す言葉です。
五代様が力強くそう言えば、自分が正しいと確信しているニュアンスは出てきます。
いつかきっと、自分が正しいことはわかるはずだ、ということですね。
おそらくや、付け焼き刃で漢籍を出しきたのでしょう。だから、こんな妙な話になってしまう。
後生畏るべし
『鬼滅の刃』でも、タイトルに使われていた、こんな言葉があります。
後生(こうせい)畏(おそ)るべし。焉(いずく)んぞ来者(らいしゃ)の今に如(し)かざるを知らんや。『論語』「子罕」
下の世代を畏れるべきだ。これから先どれだけ伸びるかわからないのだから。
あの作品は柱、そして鬼、無惨までも凌駕する――そんな炭治郎たちを描いていますから、極めて適切な言葉といえます。
あの作品でこの言葉を知り、勇気をもらう読者もいるのではないか?と思えるのです。
で、大河ですが。
若者向け作品のほうが、よほど漢籍をきちんと引用しているってどういうことでしょうか。
そしてまさに「後生畏るべし」とうなった連載が『週刊金曜日』で掲載されています。
「渋沢栄一と朝鮮侵略」です。
筆者は日韓関史を見直している大学生。
若い世代がこうした連載をしている一方、彼らよりずっと歳上の年代が渋沢栄一顕彰を担い、『青天を衝け』の歯の浮くような捏造描写に感動したと投稿している。
◆ 『青天を衝け』36話。「お千代死ぬな。お前がいなくてはオレは生きていけねぇ」栄一の妻・千代の死(→link)
これは一体何かと私は考え込んでしまいました。
典型的な記述がこの辺ですね。
菅(すが)政権の「自助・共助・公助」を思わせるような自己責任論を主張する政府に対し、栄一は「国が一番守らねばならぬのは人だ!」と反論。
明治の歴史をきっちりと踏まえると、むしろ渋沢栄一を含めた明治のエリート階級こそが、「自助」精神、通俗道徳という呪いの土台作りに励み、その悪しき結果が現在も祟っていると思えます。渋沢栄一と明治政府は思想的にむしろ一致しています。
「お前が貧乏なのはお前の努力が足りんから!」明治時代の通俗道徳はあまりに過酷
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こちらの記事も同様。
◆『青天を衝け』千代を失い悲しみに暮れる栄一 孤独を際立たせた縁側での姿(→link)
「矛盾」というキラーワードが都合よく使われています。
話を聞いた千代は「昔から欲深い男ですよ」と笑う。千代は五代の考えを肯定し、その上で「でも私はおまえさまのここ(心)が誰よりも純粋で温かいことも知っております」と微笑む。欲深さと純粋さは紙一重であり、人間は矛盾に満ちている。
人間は矛盾に満ちている――といえば、言動不一致や嘘が許される?
そんなワケありませんよね。
華流ドラマで定義するならば「偽君子」で片付きます。
どうか未来を担う皆様には、感想を読むにせよ、SNSに投下するにせよ、複数の記事や書籍に目を通すことを心がけてもらいたいです。
例えば『週刊金曜日』の連載を読んでからでも渋沢栄一顕彰ができるかどうか?
ご自身に問いかける価値はおありでしょう。
本当は怖い渋沢栄一 テロに傾倒し 友を見捨て 労働者に厳しく 論語解釈も怪しい
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墨子悲糸
「『青天を衝け』でも褒めてたし『論語』を読まなくちゃ!」
そう誰かがおっしゃるのであれば、それはそれで結構なこと。
しかし私は墨子を勧めたいところです。
◆ 半藤一利さんは、なぜ「墨子を読みなさい」 と言い遺したのか(→link)
墨子は糸を見て悲しみました。
なぜか?
「みてごらん、この糸を。染めればどんな色にもなる。
人もこれとは同じではないかね?
善い人間のそばにいれば善くなるが、悪い人間のそばにいれば悪くなる。
何を選ぶかなんだよな。そして染まったら取り返しがつかん。悲しいねえ」
だからこそ泣いた、と。
これはまさしく今こそ考えたい言葉です。
デジタル機器の普及により【エコーチェンバー】が生じやすくなっています。
SNSで特定の意見をずっと見ていると、すっかり染まってしまう――ドラマの場合、ハッシュタグが大きな役割を果たします。
以前、私が好きなドラマのアンチが、アンチハッシュタグを得意げに伝えてきました。独特の語彙を使いながら挑発的な言葉を投げかけてきたのですが、そのとき
「アンチハッシュタグが天下万民の総意」
とでも言いたげな態度に驚かされました。
数が多ければ正しいということでしょうか。
そもそも、その数は実数なのでしょうか。
要するに、その方は染まってしまった糸なのです。
そしてそんな染まった糸を使えば、いくらでもこうした記事が打ち出せます。
◆「青天を衝け」栄一の妻、「千代さん」退場に視聴者号泣「ロスが激しすぎる」「このご時世だからこそ刺さる」(→link)
まるで定型文のように、感想を引用した記事が生成されます。
例えば以下の部分。
このシーンに多くの視聴者が涙。SNSには
「分かってはいたけど、千代さん…」
「ついにこの時が来てしまった。あまりに急な展開で暫し事実を受け止められず、涙を流すでもなく喪失感からただただ呆然としていました…」
「大河ドラマ、はじめて泣いてしまいました」
「泣いたの、(堤真一が演じた)平岡(円四郎)様の暗殺以来だ…。お千代さんも平岡様も大好きだったから本当にボロボロ泣いてしまった」
といった書き込みがズラリと並んだ。
大河ファンから愛された千代だけに
「お千代さんロスが激しすぎる…」
「千代さんロスなのは栄一だけじゃないはず…」
「青天を衝け、色々ロスあるけど、お千代さんが一番つらいな(泣)」
などの投稿も相次いだ。
先週は千代で、今週は五代様でしょうか。
これだけ型にはまった書き方だと、いずれAIでも作れてしまいそうな気がします。
でも、染まった糸は止められません。
誰かの死に感受性をアピールできるし、気持ちがいい。自分に満足してしまう。
だからこそ恐ろしい。一切の批判的目線を失ってしまう。
私はどうしたって渋沢栄一顕彰には乗れません。先ほどの『週刊金曜日』の連載を読んでそうしみじみと思い、自分は正しいと確信しました。
渋沢栄一精神がさほどに素晴らしかったら、こんな不祥事もないでしょう。
第一国立銀行とみずほ銀行の記事ですが、その中にこんな文言が。
▼第一国立銀行が現在のみずほ銀行につながっているのだから、「大きな川」とうたった渋沢さんもさぞ、渋い顔をしているのだろう。
現金自動預払機(ATM)が使えなくなるなどみずほ銀行で相次いだシステム障害問題は経営陣の退陣に発展し、親会社みずほフィナンシャルグループ社長、みずほ銀行頭取らが引責辞任する見通しだそうだ
自分の糸は、自分で守るしかありません。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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関連記事は以下にございます
◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト