水都百景録/公式サイトより引用

世界史

『水都百景録』の舞台となる明代ってどんな時代?政治腐敗と倭寇暗躍

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明代はどんな時代?
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明代は政治腐敗の時代

中国の人が『信長の野望』や無双シリーズで日本史を勉強しました。

ならば日本の人々が『水都百景録』から明代のことも学べます。

そこを少し掘ってみますと……。

工部の厳さまは、なぜあんなに態度が悪いのか?

このゲームには一日2時間だけうろつき、建築を交換してくれる“工部の厳さま”が出てきます。

交換しようとすると、慇懃無礼そのもの、言葉遣いは丁寧でも舐めた態度を取ってきます。

そこに「ン〜」「オォ?」というどこか尊大な音声もつく。

どうしてこんなに態度が悪いのか!

厳さまは朝廷から派遣されている役人で、そこそこ位も高い、エリートです。

ちなみに本作主人公である文徴明の時代には、厳嵩(げんすう)、厳世蕃(げんせいはん)父子がおり、悪徳政治家として名を馳せていました。

「厳? なんか嫌な感じだな」となってもおかしくはありません。

明代の役人はエリート意識が強く、態度が悪く、ともかく横柄というのがお約束です。

政治腐敗が激しく、かつ筆の立つ文人がその様を残したため、「明代の役人といえば下劣で態度が悪い!」というのがお約束となっています。

日本人が「代官様=金のお菓子を受け取っている悪徳役人」がお約束だと思うような感覚ですね。

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他のフィクションやゲームだと、容赦なく義侠心溢れる主人公たちがぶちのめすこともあります。

中国の嫌な役人像は、だいたい明代に完成したのではないかと思えるほど、ともかく明代の役人は悪いという印象が強いのです。

主人公である文徴明は、官を辞した王献臣の依頼を受け、蘇州にある庭園「拙政園」の設計を担当しました。

政治が拙いと庭園の名前につけてしまうほど、政治が腐敗していたのです。

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明代を舞台にしたフィクションで政治の話になると、登場人物が眉をしかめたり、下劣な笑みを浮かべたり、悪徳役人がどつき回されて民衆がスカッとしているようなことがあります。

明代あるあるといえます。

最も嫌われ者の役人は、錦衣衛という秘密警察。

「錦衣衛が向かっているぞ!」

そんな噂だけで逃げ出す人もいたとか。

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実はハードボイルドな明代

このゲームは建物の説明や特殊住民の紹介を読んで楽しむ、テキストが味わい深いという特徴があります。

そして町に暮らす一般住民の人生が辿ることも面白いのです。

女はいらないと身売りされていた。

親の虐待に耐えかねて飛び出した。

戦乱の中で父を失った。

少林寺で僧侶をしていたが、国を守るために還俗して兵士になった……。

と、なかなかドラマチックであり、決して楽な時代ではなかったことがわかります。

そんな住民は死にます。

突如「ご愁傷様です」と表示され、家の窓に喪に服している白い布がたなびき、祭壇が飾られます。そして墓を建てるよう促されるのです。墓をタップすると故人の人生が辿れます。

その死因がまたなかなか凄惨です。

・恋煩いで鬱になった

・薪取りで虎に襲われた

・首をくくった

・喧嘩で殴られた

・汲み取り式トイレに落ちて溺死

・山賊に襲われ、貞操と金品を奪われる

明代は商業が発達した時代ですので、手っ取り早く強奪をして儲けたい賊も跋扈し、治安は悪いものでした。

こうした荷物警護のための「鏢局」(ひょうきょく・民間護衛組織)は、武侠ものでおなじみの存在です。

そんな護衛をつけられない民はあっけなく命を落としてしまいます。

・八つ裂き

明代は処刑手段もバラエティがあった時代です。

そんなことまで再現しなくてもいいのに、なぜかする。

ほのぼのした絵柄で八つ裂き……厳しい世界です。

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・夜中に目を覚まして魑魅魍魎を見てショック死

大丈夫? 馮夢龍の怪談本でも読んでいませんか?

ベストセラー作家の馮夢龍はホラーも得意でした。しかも面白いんだな。

・薬で仙人になりたがって、中毒死

お宿で「仙人になりたいから丸薬をくれ」と言い出す客が出没します。

医学と道教の合わせ技で、仙人になったり不思議な力があると考えられる薬がありました。それを反映しています。

西洋医学が伝わると、こうした迷信のイメージが東洋医学に定着し、必要以上に貶められてきた経緯はあります。

しかし、迷信を抜きにした東洋医学は有用です。そこはお間違えなきよう。

そしてこの中毒死こそ、明代を象徴する死因と言えます。

仙人になれるようなあやしい薬は昔からありましたが、それが歴史に残るような大事件になったのが明代です。

紅丸案――即位したばかりの明の第15代泰昌帝(光宗)が紅丸という薬を飲んだところ、中毒死しました。

しかも同時期に別のしょうもない事件も起きていたのです。

棍棒を持った不審者が宮中に侵入する(梃擊案・ていげきあん)。

皇帝の住まいをどこにするかで揉める(移宮案・いきゅうあん)。

「明末三案」と呼ばれます。

あまりにしょうもない事件で、調べているだけで脱力しそうになります。

あやしい紅丸で皇帝崩御!

そんなインパクトがあるため、薬で中毒死という状況は、とても明代らしい死に方といえます。

初期実装の特殊住民にも、なかなか酷い処刑に関与した人物はおります。

・潘安(潘岳、魏晋)

魏晋時代は陰謀が横行し、司馬懿一族と対立した文人は処刑された時代です。

潘安は紹介文に出てくる石崇ともども処刑されました。

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・馮夢竜(明)

確たる最期が不明。清の侵攻の中、憂悶のうちに亡くなったとも、清兵に斬られたとも。

・朱元璋(明)

こちらは粛清する側。武則天どころではない。万単位で粛清し、錦衣衛を組織。明代の政治がおそろしいのは彼に根本的な原因がある。

このように、ほのぼのとした絵柄ながら、なかなか激しさのあるゲームです。

スマホで街を作りながら、明代の厳しさを味わいましょう。

なお、不慮の住民の悲劇は防げません。墓を建てねば喪中が続行します。弔いながら街を作り続けましょう

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【参考文献】
岡本隆司『明代とは何か』
檀上寛『陸海の交錯 明朝の興亡』
上田信『中国の歴史9 海と帝国 明清時代(講談社学術文庫)』
井波律子『中国の隠者』

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