部屋の真ん中、布団に横たわる頼朝。
身動き一つしない鎌倉殿の周囲に人々が集っている――先週と似た構図で始まりますが、前回は頼朝の夢だったのに対し、今回は現実です。
暗い顔を浮かべた医師は、助かるか助からないか、と何も言えなくなっています。
ただ、助からない可能性が圧倒的に高い。
即死でないだけに面倒なことになっていて、『麒麟がくる』の駒や東庵と比較すると興味深いものがあります。
昔の医学なんてどうせ迷信頼りでしょ、と思われるかもしれませんが、四世紀の差は大きい。
16世紀から17世紀は東洋医学進歩の時代でした。
日本の曲直瀬道三。
朝鮮の許浚(きょしゅん/ホ・ジュン)。
彼らが医学を確立します。
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戦国時代の名医・曲直瀬道三~信長・元就・正親町天皇などを診察した医師の生涯
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それよりはるか前である鎌倉時代の医師たちは、もっと原始的です。
汗をかいているのは生きている証だとなんとか語る程度。それに対し、りくが断固とした口調で「もっと汗をかかせる!」と言いますが、とても効きそうにありません。
政子は嘆くより落ち着いている。義時もそう。
汚い仕事も以前よりスンナリこなせる義時は、口が固く聡明な畠山重忠と梶原景時に落馬目撃者の口止めを頼みます。
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鎌倉武士たちの憧れだった畠山重忠|時政と牧の方にハメられ悲劇の最期
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善児をフル活用しかねない景時に対し、重忠は砂金と馬を与える口封じを提案。
いつも冷静な景時も、天命を受けていたはずの頼朝の転落に動揺をにじませています。頼朝が「天命が尽きた」と語っていたことを義時から聞いたからには、さらに動揺したでしょう。
水面に石を投げ入れるように、恐ろしい何かが動いています。
美しさに磨きがかかる政子
武家の棟梁の落馬――頼朝の命と共に、鎌倉殿の権威が消え去ろうとしている。主人を振り捨て、鎌倉が暴れ始める。
今週は、そんなナレーションで始まりますが、むしろ義時の物語はここからが本番でしょう。
頼朝の死はもっと早くても良かったのでは?
これまでロスだの鬱だの頼朝嫌いだの色々と言われてきましたが、さぁ、ここからでっせ! みんなで「義時なんか大嫌いじゃ!」と叫ぶ時間がいよいよ始まる!
頼朝の枕元で、皆が見守っています。
「眠っておられるようだ」という時政に対し「縁起でもないことを言うな」とピシャリと嗜める政子。
安達盛長は泣きじゃくってしまいます。
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政子はそんな盛長も嗜めつつ、頼朝の頬の血色を確かめます。
「頼家の声を聞かせたい」
死の淵にいる父と息子を会わせたい――そんな悲痛な政子のそばで、北条時政が立ち上がります。すかさずキッと父を牽制。
小池栄子さんがどうしようもなく美しい。今までも素晴らしい政子でしたが、磨きがかかりました。
夫がこんな状態でも涙ひとつこぼさず、それでいてこらえつつ、キッと睨みつける意思の強さがある。凄絶なまでの美しさよ。
時政は、北条時連を連れて、どこかへ。
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義時の弟・北条時房|鎌倉殿の13人“トキューサ”は幕府を支えた名将だった?
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そのころ義時は、比企能員を出迎えていました。
「誰にやられた?」
「闇討ちに遭われたわけではありません」
こうして能員と義時が会話を交わしているのですが、どうにも能員は脇が甘い。
・次の鎌倉殿は誰にするかと提案していた!
・そして咄嗟に闇討ちだと思う!
→貴様、何か企んでいるな?
という図式で追い込まれますよ。ピンチの時こそ本音が出ますからね。
義時はそんな能員に、頼朝落馬の真相を語ります。馬から落ちて頭を強打した、と。
同時に内密にするよう、義時が釘を刺します。
これで落馬情報が漏洩したら、義時は能員を追い詰めることができるんでは?
意図しているのかどうか不明ですが、理想的な陰謀家に成長しつつあるんじゃないかと期待感が高まってきましたよ。
時政を焚き付けるりく
自身の館へ戻った比企能員は、道とせつにすぐさま「鎌倉殿は死ぬ」と言い始めました。
そして、せつに向かって若君(頼家)のことを頼む!と鼻息荒くするのですが、せつは頼家の居場所を把握していない。
「それで御台所がつとまるか!」
能員に怒鳴られてしまうせつ。なんだか比企って、全体的に甘い気がしますね。
北条時政は、盟友たる三浦義澄に、頼朝の危篤を伝えています。
なんでも時政は時連ともども水垢離(みずごり)をするとか。義澄は真冬は心臓に悪いと困惑しています。
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三浦義澄(義村の父)は頼朝の挙兵を支えた鎌倉幕府の重鎮
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時政は、政子の婿だし、孫の父だから死なせたくないと熱血説得。
そして時連も「年寄りだけにやらせるつもりか!」と巻き込まれます。
しかし、とにかく寒すぎる!
耐えきれず途中で切り上げると、気が済んだかとりくが冷たく言い放ちます。そして、りくの命で時連と義澄は退出。
政子が不憫でならないと時政が涙ぐんでいると、りくは「鎌倉殿は助からない!」とキッパリ言い切ります。
「馬鹿なこと言うなぁ!」
そう叫ぶ時政の前で、りくはハキハキと北条の安泰を口にし始めます。
鎌倉殿がいれば北条は安泰というけれど、その鎌倉殿が亡くなる。
比企に全てを持っていかれるわけにはいかない!私たちの子供を惨めな思いをさせてはいけない!
そして、この鎌倉は時政が作ったのだと煽り始めます。時政がいなければ、頼朝は挙兵できなかった。人に取られてはならぬ。
では、どうしたらよいのか?と段々その気になってくる時政。
阿野全成を呼び出しました。
「鎌倉殿の跡を継いでくれ」
「私が?」
時政からの突如の打診には全成も驚くばかり。りくも、鎌倉殿の実弟は全成しかいない!と言い出します。
「若君(頼家)はどうするのか」
と、全成がうろたえていると、あの若さでは御家人がついてこないと時政は言います。
鎌倉御家人とは一体何なのか?
「強えぇ奴にしか従わねえ!」と、そんな野生の掟で生きてよいものなの?
隣で困惑している実衣も「信頼ない点で若君と夫は大差ない」と冷静に言い返すのですが、それでも全成なら大丈夫と強気の時政。
仏の道に進んでいると怯える全成に対しては、りくが「還俗しろ」と言い出します。
そして時政は、実衣に全成が継いだらお前は御台所だと煽りにいきます。
実衣は困惑しているようで、これは何かを動かされたようでもある。
「すべては北条のため!」
りくがハキハキした口調、強い目線で言うと、これぞ悪女という感があって素晴らしい。それも単なる悪女ではなく、賢いがゆえに人からそう言われてしまうタイプです。
比企と北条の間に三浦を入れて
義時は、頼家の後継手順を文官たちに聞いていました。
朝廷とのやりとりを大江広元に教えてもらい、今度は広元の指示を受けて、文官たちが動き始める。
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頼朝の参謀で鎌倉幕府の中枢だった大江広元|朝廷から下向した貴族の才覚
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ただし、喪中には昇進できないのが朝廷のしきたりであるため、頼朝が死ぬ前に駆け込み昇進しておく必要があります。
柔軟な対応というか、現実的というか。義時も本当に割り切りが上手になってきましたね。
そこへ三浦義村がやって来た。
「頼朝、死ぬらしいな」
まるで「朝メシ食ったか?」と軽口叩くぐらいのノリで頼朝の病状を聞いてきます。
父の義澄から聞いたそうだ。ということは、時政から義澄へ漏れた情報が、あっという間に息子を通じて義時のもとへ戻ってきたワケですね。
隣に座った義村に、義時はつつじ(辻殿)のことを語り始めます。
義時はこの先つつじとの間に男子が生まれたら、源氏の後継にしたいとか。そのとき乳母を三浦から出したいそうです。
義時としては、激化する北条と比企の争いに三浦を入れることにより、緩衝材としたいようです。
「そうきたか」
義村に異存はないようで、何やら弓を手にしています。
そして矢を構えながら今度は義時に条件を出す。
「乳母の件、頼朝が考えたことにしてくれ。それならどこからも文句が出ない。ようやく三浦にも出番が回ってきたか」
どこか嬉しそうに弓を射る義村。相変わらずブレない。
景時や実衣、時政は煽られて変わってドス黒くなっていく。
けれども義村ははなから黒いというか、濁る余地がない。
世の中すべてを将棋の駒を動かすように上から眺めているから、一周回って面白いか面白くないか、駒としてどう動くかばかりを見ているようだ。
しかし、こういう得体の知れない奴を頼りにする義時にも、人を見る目があります。
先走りかつ、ちょっとしたネタバレでもあるのですが。
三浦義村には「実朝暗殺黒幕説」がかなり広まっていました。ただし、昭和の頃の話であって、今回はそれを否定すると予想します。
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なんだか怪しげに動いていたからそう思えるけど、実はそうではない。
公暁の単独犯行説になるかと思います。
姉を励ましつつ葬儀の打ち合わせ
夫が鎌倉殿になり、自分は御台所になる――すっかりソノ気になってしまった実衣は、阿野全成に将軍職を引き受けるよう頼み始めます。
全成は妻に、本当に御台所になる覚悟があるのかどうか聞く。
と、実衣の目に怪しい光が灯り始めました。
実衣は女であり、妹であり、所詮は政治に関われなかった。はなから諦めているようなところがあった。
それがにわかに事情が変わりつつあり、彼女の本質に火がついてしまったように思えます。
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本物の御台所である政子は、動かぬ夫の体を拭い、看病をしていました。
そこへ義時が比奈を連れてきます。
全然休んでいない政子に代わり、比奈が看病をする。姉上は少し休んでください、鎌倉殿は顔色もいいし、持ち直すでしょう、と嘘をつく。
大江広元たちと次の鎌倉殿の準備をしつつも、姉を励ます。善意ある陰謀家の成長ですね。
政子はそんな弟に、何かあったら知らせるように言い、やっと休むのでした。
そうして政子が去ったあと、八田知家が火葬の手順を打ち合わせにきます。
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当時は高温で一気に焼く技術がない。そのため、こういう手順も大事です。
「りくの考えがわしの考えじゃ!」
義時は時政のもとへ。
すると「次の鎌倉殿は全成でいくことにした」と告げられます。
困惑するしかない義時に対し、阿野全成も腹を括ったとかで、髪も伸ばし始めてチクチクしていると言います。
「触ってみる?」とどこか呑気な全成。
それでも義時は迷うばかり。
御台所は北条から出したいのだと頼むと、義時は「それは父上のお考えか?」と聞きます。
そうです。時政も、全成も、心底そうは思っていない。
背後には野心家の妻がいます。
「何が言いたい! りくの考えがわしの考えじゃ!」
開き直り、あっさり認める時政。
彼の野心と陰謀は悪どい――本作では、それがりくに吹き込まれ、流されてゆく姿として描かれていますね。
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義時は比奈にこのことを告げます。
あの人(阿野全成)を擁立すれば、鎌倉は二分されると暗い口調になっていく。
比奈も、北条と比企は競い合うばかりと嘆いています。
そもそも彼女は、比企能員が頼朝を篭絡するために連れてきた比企の姫でした。
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それが義時の正妻になり、今では、板挟みにならないよう気を遣っている。
「ご心配なく。私は北条の女子ですから」
そうニッコリ微笑む比奈。
このやりとりを頼朝の枕元でしているということが、なんとも空恐ろしくもありますね。
八田知家が火葬準備を内密に進める中、頼家がようやく父のもとへやって来ました。
「父上」
「頼家が戻ってきましたよ」
そう告げても、頼朝は微動だにしない。
頼家は、このあと義時に助からないと断言しつつ、誰がこのことを知っているかと尋ねます。
ごく少数にとどめたものの、噂は広まっている。
「いっそのこと公表する」と言う頼家に対し義時は、朝廷への申請準備中だと返します。
苛立つ頼家。跡を継ぐのが自分なのに隠すことはないと言い出します。
頼家は貴公子でありながら目を吊り上げ、髪を振り乱すようなイメージがある。
金子大地さんはそんな頼家へと向かっているように思え、ハラハラさせられます。先が怖くもあり、楽しみでもある。
しかし、いつまで隠せるわけでもありません。
鎌倉殿に何があったのか――御家人を集めて発表だ!
それが回りくどい言い方のためか、案の定、和田義盛がイラつき始めました。鎌倉殿の御容態を知りたがり、もうパニックになっています。
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そんな中、コツコツと火葬場を組み立てている八田知家は口が固いのでしょう。
髻(もとどり)の中に あの観音像が
政子はやつれた様子で看病をしています。
と、そこで臨終出家を提案してするのが三善康信でした。なんでも都人での間では、死ぬ間際に出家するのが流行っているようです。
一体なんなんでしょう、当時の日本仏教って。
本人の意思も何もない状態で出家させ、それでどうにかなると思っているのでしょうか?
宗教の形骸化を感じるところであり、そんな雑なやり方で極楽往生を得ようってさすがに虫が良すぎるでしょう。
こうした感想は何も私だけのものではありません。
当時は栄西らが「変えなくちゃ、日本の仏教!」とばかりに鎌倉仏教を形成していきました。
『鎌倉殿の13人』は、当時のそういう行き詰まった空気まで掬い取り、なぜそうなったか?まで理解できるようにストーリーが進んでいるようにも思えます。秀逸ですね。
義時は「やらねばならぬのですか?」と迷いながら、政子にも提案。
縁起でもないと断ろうとする政子に対し、頼家は母上もわかっていると告げます。
政子は心の底から頼朝を愛していて、離れていくことをわかっていても認められないのでしょう。そんな細やかな政子の心の機微が伝わってきます。
かくして臨終出家も進められてゆきます。
切り落とした髻(もとどり)の中から、比企尼の託した小さな観音像が出てきました。
比企尼には捨てたと言ったけれど、そうではなかったんですね。
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それを見た政子は、涙をこぼしながらふと笑みが頬に浮かびます。
自分が愛した人は、やはり優しかった。
そう確認できて安堵しているような笑み。菩薩の笑みといった風情があります。
頼朝「これは何ですか?」
政子は初めて頼朝と会ったときに出したものを運んでいこうとします。
そこへ実衣がせかせかと来て、話があると言い出す。
食べるのかと実衣に聞かれ、わからないけど置いておけば何かできるかもしれないと政子。
そんな姉に、実衣は「全成が次の鎌倉殿になる覚悟を決めた」と告げます。
どうやら父(時政)と母(りく)も認めたらしい。というか、そもそもは父母の企みで始まった話。政子はとても聞き入れる雰囲気ではありません。
実衣が「御台所を務める」というものの、務まるものかと言い切ります。
「あなたには無理です」
姉妹の間に吹く冷たい風。実衣の瞳に黒い炎が宿っていきます。
頼朝は目を覚ましません。政子はそんな夫をじっと見つめて枕元にいます。
疲れた政子がうとうとしていると、頼朝が起きあがり、皿を持ちこう言います。
「これは何ですか?」
政子は喜び、人を呼びにいきます。
しかし政子が見たのは、床に倒れ動かなくなった頼朝。
「佐殿! 佐殿!」
嗚咽を漏らして政子は愛する夫の息を探るものの、すでに彼は息絶えていました。
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頼朝の遺体が荼毘に付されます。
炎を前に合掌する者たちの胸中は……?
と、義時には、そんな風に気を回している余裕がありません。
お骨をどこに安置するか。安置するにせよ、誰が骨壷を運ぶか。すべてを手配せねばならない。
結局、安達盛長に骨壷を運ぶように頼み、いったんは断られるも、盛長こそ最も生前鎌倉殿に信頼されていたと告げます。
かくして盛長がお骨を運んでゆくこととなりました。頼朝の骨は御所の裏にある持仏堂に納められます。
坂東は坂東武者の手に戻る?
「あっけないものですね……」
「あの方を恨んで死んでいった者も多い」
そう語り合う畠山重忠と和田義盛。
義盛はろくな死に方をしないと思っていたら馬に振り落とされたと言い出す。武家の棟梁なのに恥ずかしいというニュアンスが篭り過ぎですってば。
鎌倉御家人は武勇に重点を置きすぎですね。
武士にも、そうでない人にも、多くの評価基準が用意されてしかるべきであり、とにかく武芸がイケていれば良いってものでもないでしょう。
義盛さんよぉ。
頼朝には、冗談みたいな約束通り侍所別当に指名してもらったり、あれだけ世話になっておいて、落馬くらいでここまで言うのはさすがに酷い。忠義ってもんがないのよねー。
重忠ですら、心底嘆き悲しんでいるのはお身内とごく一握りとか、冷淡に突き放すように言ってしまう。あわわわわ……。
さらに義盛はこう言いました。
「これで、坂東は坂東武者の手に戻った! 言うことなし!」
「そうでしょうか」
重忠はそう返していますが、それを頼時が見聞きしていました。
下剋上どころじゃねえ。
坂東武者、そもそも上下意識ってもんがねえ!
おそろしい。こういう荒んでいてあまりにワイルドな御家人に懸念を覚えたからこそ、頼時、のちの泰時はそれをなんとかするために奮闘するんでしょうねえ。
いやはや怖い。
時政は比企能員と言い争っています。
構図としては以下の通り。
全成を推す北条
vs
若君こと頼家を推す比企
大江広元は、とりあえず全成に任せると言い始めました。成長したところで頼家に譲るという算段です。
が、それでは比企能員は納得しない。
これまた、なかなか難しい話でもあります。
父・頼朝が亡くなった時点で、頼家の年齢は18才。もしも十歳年上か、あるいは年下なら、コトはすんなり運ばれたでしょう。
年上なら文句なし。年下なら選ばれないか、後見が代行する。
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しかし18才というのは、君主としてやっていけるかどうか、なかなか難しいところでして。
義時が止めに入り「御台所のお裁きに委ねる」と言い切ります。
「それがいい」
ニンマリと同意する時政。
一度は断るその裏に景時の策あり
誰を次の鎌倉殿にするか。
阿野全成か、それとも源頼家か――。
義時からそう問われた政子は困惑しています。夫からは「政に口を出すな」とキツく言われていたとして、弟からの要請を断りたい政子。
しかし義時は説得にかかります。
「これからは姉上の御沙汰でことが動くことが多々ございましょう。そういうお立場になられたのです。好むと好まざるとには関わらず……悲しみは先にとっておきましょう」
酷いことを姉に提案する義時。
涙に暮れる前にことを動かせという。果たしてそれで動くのか?
場面変わって、頼家と政子。
母に向かって自信がないと息子が告げる。そんな我が子に政子が語りかけます。
「初めて鎌倉にやって来たとき、佐殿と私はここに立った。
あなたの父上は自分の思いを語ってくださいました。坂東をまとめ上げ、いずれ平家を滅ぼすと。
そして、自分の跡を継ぐ立派な男子を産むように……あなたはまだ若い。
けれど、私と小四郎はあなたの才を信じます。
鎌倉を混乱から守れるのはあなただけ。新しい鎌倉殿になるの」
「かしこまりました、母上」
そう返す頼家ですが……このあと頼家は梶原景時に会い、「言われた通り一度は断った」と告げています。
んん?どういうこっちゃ?
と、思いきや、悪そうな顔のまま「それでいい」と返す景時。快諾したら節操がないと思われるから一度は断れ、と。
そして「これからは新しい鎌倉殿として思った通りに進めていけばよい」と語っています。
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なぜ梶原景時は鎌倉御家人たちに嫌われたのか|頭脳派武士の無惨な最期
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御家人の間で孤立しがちな景時には、自分を庇護する主君がどうしても必要だ。
頼家にとってなくてはならぬ存在であるために、動き出したようです。
私が二代目鎌倉殿だ!
かくして二代鎌倉殿・源頼家が御家人たちの前に姿を現しました。
我々は大きなものを失った。
このままでは日本中で戦乱の嵐が吹き荒れかねない。
「我らは先の右近衛大将、征夷大将軍の死を乗り越え、前へ進むのだ!」
そう言い切る頼家なのですが、どこか軽い。
重石となるにはまだまだ歳月が必要だと思ってしまう。
声がちょっと上ずっていて不安がある……そんな響きがあります。
「裏切りやがったな!」
このあと、時政とりくは義時を責めています。
そこに政子が現れ、頼家だって孫だと嗜める。それなのに時政は「あれはもう比企に取られたようなもんだ」と返すのです。
「北条がどうなってもよいのか」
そう煽るのがりく。全成が割って入るものの、りくは憤然と立ち去ります。義時は北条を思う気持ちは同じというものの、父には通じません。
「父上は北条あっての鎌倉とお考えですか? 私は逆。鎌倉あっての北条。鎌倉が栄えてこそ、北条も栄えるのです」
「意味わかんねえ!」
義時が真摯に語っても、もはや何も通じないようだ。
「頼家を助けてやってください。鎌倉のために」
そう政子が全成に告げると、実衣が皮肉げにこう返します。
「真に受けちゃ駄目よ。姉上は私が御台所になるのがお嫌だったんでしょ?」
「何を言っているの?」
「そうに決まってる。私が自分にとって代わるのを許せなかった。悲しい。そんなお人ではなかったのに。力を持つと人は変わってしまうのね」
政子が唖然とする中、実衣と全成は去って行きます。
義時にキレて場を去った時政のもとへりくがやってきました。
彼女は頼家の弱点をよく理解しています。頼朝よりも気が強く、頼朝に似て女好き。いずれ必ずボロを出す。その時が北条にとって本当の勝負だ、と。
頼家がボロを出さなかったらどうする?と時政が尋ねると、そう仕向けるとりくが返す。
孫の失敗を願う、あるいは画策するなんて、どんな祖父なんだよ~!
頼朝の観音像を握らされ
義時は一人、外で静かに考え込んでいます。
そこへ頼時(北条泰時)が来ました。
「思うのですが、鎌倉殿のお召し物は肩のあたりが汚れていたそうです。
つまり馬から落ちた時、手をついておられない。
そこから考えると、鎌倉殿は先に気を失われ、馬から落ちたのではないでしょうか。決して振り落とされたわけでありません」
「よくぞ見抜いた」
義時はやっとかすかに微笑みます。我が子の聡明さを知ったのです。
頼時は先入観がない。和田義盛と比べるとわかりやすい。
義盛は「どーせ武士らしくねえ無様な落馬なんだろう!」という先入観、つまりはバイアスがかかっていました。
自分がなまじ武芸ができるだけに驕っている面もあり、このバイアスが頼朝への軽蔑心の現れてもある。
しかし頼時はフラットです。
そういう先入観なしに情報を整理し、推理しています。
思考の【仮説形成(アブダクション)】というものですね。
これは何も一から作ったドラマの設定というわけでもなく、北条泰時は理詰めのことを言われると感動するタイプだったとか。
ストレスまみれの中、義時にとっても我が子の聡明さと善良さは癒しです。
後に、そこが対立の一因となりそうな予感もありますが……。
義時は、再び政子のところへ出向き、やるべきことは全てやったと告げます。どういうことか?と返されると、鎌倉を離れると言い出します。
「待ちなさい!」
「姉上、私は頼朝様のためにこの身を捧げて来ました。頼朝様が亡くなった今、ここにいる意味はありません。頼朝様に、憂なく旅立っていただくことが私の最後の仕事と思っておりました」
「ばかなこと言わないで」
「政所は文官の方々に。侍所は梶原殿や和田殿に任せておけばいい。平六(義村)もいます。
それぞれが私欲に走ろうと、頼家様をお支えすればこの先は安泰。北条も然りです。
五郎もいれば、息子太郎もいる。皆で、父上を支えていくのです。そして鎌倉の中心には姉上が。誰とでも隔てなく接することのできる姉上がいる」
「あなたは?」
「私は伊豆へ借ります。米の勘定をしながらゆっくりと過ごします」
「なりませぬ!」
「姉上。これからの鎌倉に私はいらぬ男です」
「頼家を助けてやってちょうだい」
そう言われても立ち上がり背を向ける弟に、姉は訴えます。
「あなた卑怯よ! 私だけに押し付けて自分だけ逃げるなんて! あなたに言われて腹を括ったんですから、少しは責任を持ちなさい。これまで頼朝を支えてきたように、これからは私を支えてください。お願い!」
政子は義時に手を重ねます。
そして政子は義時の手に、あの頼朝の髷から出てきた観音像を渡すのです。
「姉上……」
「鎌倉を見捨てないで。頼朝様を、頼家を」
義時はその観音像を握りしめるしかありませんでした。
MVP:政子と義時
政子と義時の二人は、これから一段上へ登るわけです。
演じる小池栄子さんと小栗旬さんが先に上り詰めて行ったように思える、圧巻の演技を見せた回でした。
政子が、段々と鎌倉を統べるだけの風格を身につけつつあると思ったら、頼朝に恋をしたばかりの娘時代のように見えることもある。
所作もますます磨きがかかって、裾さばきや袖の扱いが洗練されています。
人は、所作でこれほどまでに美しくなると証明されているようです。
そして声音が素晴らしい。
落ち着いていてしっとりとしていて、柔らかいのに断固としている。あんな口調で語られたら誰が断れるものかと思ってしまう。
小栗旬さんは疲れ、燃え尽きたようで、声が低く囁くように話します。
それでも滑舌がクリアではっきりと聞こえる発音で、澱みが全くない。
涙がこぼれそうで堪えているような苦しみ。ずっと足の裏を炙られているような、そんな痛みがずっと表情に宿っていました。
八重さんにふられたと泣いていたころから随分と遠くへきたものです。
伊豆に戻って米を数えたいと言いますが。
基本的に善良なのかと思わせるようで、いざ戦うとなれば相手の足元をすくう材料を集めているようにも思える。
敢えて悪どく生きるつもりは全くないのに、生きるためにドス黒くなる。そんな未来が見えてきます。
そして単独でも素晴らしいのに、姉と弟が並ぶことで凄みが出てくる。
同時に倒さねばならないという、そんな手強さが出てきます。
この二人を見ている限り間違いない――そう思える力強さがありました。
総評
「もう帰ってもいいですか?」
そう言い出した今回ラストの義時。
これはもう、細川重男先生が解釈する義時像で正解だと思えました。以下の記事です。
◆鎌倉殿と仁義なき「やくざ」たち 義時は「もう帰っていいですか?」(→link)
義時は野心があったわけでもない。
一番幸せだったのは伊豆にいて米の収穫量を木簡で数えて、八重さんに淡い恋心を抱いていたころ。
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義時が手に持つ帳簿が「木簡」だった理由|紙の普及が遅い東国で重宝され
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それなのに、ゴタゴタが起きて巻き込まれていく。
そんな義時像だと細川先生は推察しています。
表に出てくるかどうかはわからないけれども、三谷さんは細川先生の本を読み、影響を受けてているのではないかと思えるほど。
そして細川先生も本作に納得しているということで、そりゃ成功もするとは思えるところです。
今回も圧巻の演技とセリフの良さで、大変面白かったとは思えますが。
しかし、気になるところがなかったわけではありません。
全成擁立が妥当なのか?
時政とりくの全成擁立計画が、なんだか雑だなぁ……と感じたのが今回の欠点だと思えます。
全成は野心もないし、政治力もない。
頼朝が落馬したことをコケにしている御家人が納得するとは到底思えない人選です。
もしも源範頼が存命であればわからなくもないのですが。
あの大江広元ですらすんなりと計画に乗ったことも不可解ではあります。
正統性がないと真っ先に反対しそうに思えます。
頼朝は上洛の際、大姫の入内工作だけでなく、頼家が次の鎌倉殿であるとお披露目根回しする意図もありました。
頼朝喪中であるのに昇進するという工作には、土御門通親の支援もあって通っています。
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となると、広元は真っ先に「いや、頼家様でしょう」と言いそうなものなのです。
そういう無理のあるプロットであり、欠点は指摘していきたいところです。
ただ、意図はわかります。
女人入眼の大河ドラマ
今回は、女性のリーダーシップや思惑がクローズアップされていました。
中世は世界的にみて、近代以降よりも女性の権利が強かったことが指摘されます。
何度も書いてきましたが、この時代の日本は中国で前例があると「それはありだ」と受け入れます。朝鮮半島もその傾向があります。
政子は前漢・呂后に例えられました。
残忍な呂后に例えるとなると、現代人からすれば悪いようで、当時はそうでもない。
女性が政治を行うことは中国でも前例があるし、ありではないかと思われていたのです。
武則天という大きな前例もあります。
そこを踏まえてか、政治性を出したいのだとは思えました。
結果、りくの夫・時政、実衣の夫・全成の主体性が薄れたようにも思えます。
そしてりくはともかく、実衣の政治的野心をクローズアップするための仕掛けが全成擁立策ではないかと思えるのです。
片方の性の個性を際立たせるために、もう片方の性を歪めてよいものか?
そう思うとすれば、意図は正解でしょう。
ジェンダーについて考えさせるというやり口を、挑発的にしている意図は感じます。
このドラマは何もかもが新しく、挑発的に感じる。ゆえに好き嫌いは分かれて当然ではないでしょうか。むしろ賛美一色になることを警戒したい気持ちもあります。
休みを挟み、いよいよドラマは次の章へ向かいます。
これまで以上に怒涛の流れを見せる中、振り落とされなようについて行きたいと思います。
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【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト



















