エリザベス女王2世

エリザベス女王2世/wikipediaより引用

イギリス

エリザベス女王2世の激しすぎる生涯~在位70年の英国女王が歩んだ道

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ロンドン同時爆破事件の年にチャールズ再婚

2000年代は、イギリスにとっても大変な時代でした。

2001年の「9.11同時多発テロ事件」に対する報復措置として、アメリカはイラクへ戦争を宣戦します。

イギリスのブレア首相もこれに賛同し、イギリスも参戦。

しかし調査の結果、イラクにフセイン大統領からの「切迫した脅威」は存在せず、不適切な判断であったと発表されることになります。

つまり、間違った参戦でした。

このイラク戦争は、各地に禍根を残し、テロを減らすどころか危険性を増やしています。

2005年、イギリスでは「ロンドン同時爆破事件」が起き、新たな困難へと突入しました。

ロンドン同時爆破事件/photo by FrancisTyers wikipediaより引用

同年、カミラと再婚したのがチャールズです。

再婚には条件が付けられました。夫は「プリンス・オブ・ウェールズ」、妻は「コーンウォール公爵夫人」という称号になったのです。現在に至るまで、最後の「プリンセス・オブ・ウェールズ」はダイアナです。

この再婚は冷たい目で見られたものでした。

ダイアナへの裏切りを考えれば理解できなくもありません。

しかし、王室の結婚がもっと自由なものであれば、チャールズは初めからカミラと結ばれていた可能性が高いのです。チャールズの結婚生活には、時代の価値観も反映されているといえます。

 

孫のチャールズが結婚

2010年代は、そんな王室に漂う暗い雰囲気を振り払う慶事が飛び込んできました。

孫チャールズが、キャサリン・ミドルトンとの婚約を発表したのです。

キャサリンは、まさしく新時代の象徴と言えました。彼女の両親は、パーティグッズ販売で財をなした中産階級の出身です。あまりに身分が低いのではないかと言われましたが、時代は変わっておりました。

王室のスキャンダルとは、時代の鏡でもあります。

思えばキャサリンが登場する一世紀前。王族も身分を問わずに結婚できる(貴賤結婚)ようになっていった時代ですが、それは惨劇をもたらしました。

ドラガは虐殺され、全裸死体が投げ捨てられる。

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ゾフィー・ホテクは夫のオーストリア大公フランツ・フェルディナントとともに、サラエボで射殺されてしまう。

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まだまだ危険であり、混乱をもたらしかねないものではありました。

ところがキャサリンは、未来の英国王と愛を育み、結婚できるのです。時代は変わりました。

2011年、この二人はロイヤルウェディングを披露しました。

 

2013年にはジョージ、2015年にはシャーロットが生まれております。王女を由来として、日本でも動物園のサルにシャーロットと名付けたことがあります。

これは失礼でしょうか?

そう思うのは、日本人だけの可能性が高いことをご理解いただければと思います。

避諱(ひき・目上の者の名前を避ける)は、東アジアの概念です。イギリス王室のファーストネームは有名なので、むしろ避けることは難しいものです。むしろ親愛表現として通じるのです。このあたりは文化の違いです。

名前以外でも、イギリス人の王室への感情と、日本人の皇室への感情にはかなりの温度差があることもご理解いただければと思います。

2010年代、女王はじめ王室は、オープンな存在であることをアピールしてきました。

結婚を制限する法律「王室継承法」を改正し、財産管理をオープンにし、インターネットSNSアカウントを開設し、情報を発信していくのです。

2012年、ついにダイヤモンドジュビリー(在位60周年)を迎えました。ヴィクトリアを抜き、最長の在位年数を記録したのです。

この年の2012年のロンドン五輪開会式では、007ことジェームズ・ボンドに扮したダニエル・クレイグと、女王の共演映像が話題となりました。

現代の英国王室は、メディアアピール効果が抜群です。それも女王はじめ、工夫を重ねた結果なのです。

あのパフォーマンスは、大英帝国としての力を失っても、ソフトパワーは健在であるというアピールにもなりました。

それはまさに、エリザベス女王が体現している存在感でもあるのです。

 

ブレグジット

しかし、グッドニュースだけではありません。

バッドニュースもあります。

大英帝国の遺産が解消されてゆくのが、エリザベス2世の治世。のみならず、歴史をさらに遡るようなことが起こるのです。

2015年、キャメロン首相がEU加盟継続を問う国民投票を実施すると、事前の予測に反し、離脱が勝利してしまいました。

紆余曲折の末、2020年に離脱は実行され、加盟までの困難を見てきた女王は、どれほど衝撃を受けたことでしょう。

 

このブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)は、イギリス国内の分断も明瞭にしました。

スコットランドでは、圧倒的に残留派が勝利。

もはや無謀な決定をするイングランドに従う理由はないと、スコットランドは独立の気運を高めてゆきます。

2011年には、スコットランド国民党(SNP)が多数を占めるようになりました。

 

家庭問題と新型コロナウィルス

家庭問題も、まだまだおさまりません。

2017年になると96才という高齢であったフィリップが公務から引退し、翌2018年、ヘンリーがアメリカ人女性のメーガンと結婚します。

 

彼は2020年、王室の主要メンバーから身を引くこととなりました。

そして、女王の孫が苦渋の決断を下した2020年春――。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界で猛威を奮い始め、3月25日にはチャールズ皇太子が感染します。4月2日には「奇妙で腹立たしい」経験だったと発表しました。

 

続けて3月26日には、ジョンソン首相も感染を発表しており、4月12日に退院、自分の命を救った医療従事者に感謝を表明しました。

そして5月2日に誕生した男児には、ウィルフレッド・ローリー・ニコラス・ジョンソンと命名されました。

ウィルフレッドとローリーは、治療に当たった2人の医師の名前から取られています。また彼は、献身的に治療に当たったニュージーランド出身のジェニー氏と、ポルトガル出身のルイス氏の名前を挙げ、感謝を表明していました。

入院前はブレグジットを推し進め、ヨーロッパに頼らない姿勢を明確にしていたジョンソン首相ですが、感染経験でその考えが変わったのか。注目を集めています。

 

皇太子と首相が感染する中、高齢の女王にも異例の事態が降りかかります。

94回目にして、初めて誕生日の祝砲が鳴らされませんでした。

愛用ドレスメーカーも、医療用ユニフォームを作り始める状況の最中、ヘンリーとメーガン夫妻の子・アーチーが1歳を迎えても、顔を見ることすらできない。

そんな苦しい中、国民は女王の激励を望み、彼女はそれに応じました。

 

この未曾有の困難の中――医療従事者、生活を支える人々に感謝を述べ、家に留まるよう訴えました。

この困難に打ち克ち、また顔を合わせることができるはずだと、女王はBBCを通して呼びかけたのです。

彼女の父は、国民にこの苦しい戦争に勝てるはずだとラジオを通して訴えました。

父のように、4月11日、キリストの復活を祝うイースターの日曜日を前にして、女王はスピーチをして国民を激励したのです。

英女王のスピーチは、国民を力づけるものとして2020年においても必要とされています。

第一次世界大戦を経験した両親を持ち、第二次世界大戦で従軍し、新型コロナウイルスとも戦ったエリザベス2世。

その生涯最期の公務は、イギリスの与党・保守党の新党首になったリズ・トラス氏を首相に任命することでした。

女王が任命した首相は14人目であり、バッキンガム宮殿ではなく、バルモラル城でのことでした。

女王は歩行に困難があったため、ロンドンから片道820キロの距離を移動してきたのです。

そのあと体調を崩し、2日後に亡くなったエリザベス2世。

国民に愛された女王として、その名は歴史に刻まれることでしょう。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
君塚直隆『エリザベス女王-史上最長・最強のイギリス君主 (中公新書)』(→amazon
君塚直隆『物語イギリスの歴史(下) - 清教徒・名誉革命からエリザベス2世まで (中公新書)』(→amazon
森護『英国王室史話 下』(→amazon)

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