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【アーサー王】
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そしてブリテン諸島は地獄と化した……
恐ろしい事態になりました。
ローマ時代以来の町も、城壁も、塔も、民家も、破壊され尽くしました。
人々は大量虐殺の憂き目にあい、ありとあらゆる町が炎と殺戮にあふれました。
「ヘンギストさんよぉ、抜け駆けとはずるいじゃあねえか!」
ここで他のアングロ人、サクソン人も便乗。
ブリテン諸島は地獄の島と化したのです。
助けてください。ブリトン人は、このままでは殺されるか、逃げて海に落ちて溺死するかしかありません……
殺戮が始まってしばらくして、ブリテン諸島から、悲痛な手紙がローマの名将フラウィウス・アエティウスへ送られました。
この手紙は【ブリトン人の苦悶】という名で知られることになります。
しかし、ローマもフン族のアッティラらとの死闘を繰り広げており、悲痛な訴えに応じることはできません。
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「すまんが、現地で対処してくれ……」
ブリトン人は戦下手でした。
ここぞとばかりに、敵のヘンギストとその子オイスクは、ブリテン諸島も思う存分荒らし回ります。
もはやどうにもならず、訪れたブリトン受難の時代。
彼らの中には、ウェールズの山中やコーンウォールに逃げた者もいました。
大陸に渡り、のちに“ブルターニュ”と呼ばれる土地に住み着いた人々もいました。
略奪の中で息を潜め、嵐が過ぎ去るのを待つしかない弱き民たち。
そんな絶望の時代、一人の男が登場するのです。
アンブロシウス・アウレリアヌス――。
通称・アーサー王です。
英雄アーサーとは何者なのか
ローマ貴族の末裔か。
それともローマ風の名を持つブリトン人か。
当時のブリトン人は、我が子にローマ風の名付けをすることが多かったため、出自はハッキリしていません。
わかっているのは、彼が卓越した戦術を持つ名将であり、ブリトン人の希望の星となったことです。
西暦500年頃(493年説等)。
ベイドン山の戦いで、アンブロシウスはサクソン人の軍勢相手に大勝利をおさめます。
この戦いによって、サクソン人の侵略は停止することになりました。そしてブリトン人たちは英雄の出現に喜び、希望を見いだしたのです。
アンブロシウスの名は、文献によっては“アーサー”と記載されています。
ブリトン側で戦った名将アンブロシウスを元に伝説化された王が、アーサーではないかというのが定説です。
アーサー王は、ブリトン人のみならず、アングロ・サクソン系の人々にも愛されました。
「アーサー王は俺たちの王様だ!」
敵対した相手の子孫まで言うようになったのだから、なんともまあ皮肉と言いますか、興味深いと言いますか。
溶けあうブリトン人とアングロ・サクソン人
ブリトン人とアングロ・サクソン人の抗争は、長らく続きました。
しかしだんだんと混血が進み、次第に溶け合ってゆきます。
アングロ・サクソン人がキリスト教を受け入れると、対立はさらに弱まり、多民族の国としてブリテン諸島はゆるやかにまとまってゆくのです。
その名残は名前にも残っています。
◆Great Britain
偉大なるブリトン人の国
◆England
アングロ人の国
日本語に直すとどちらも「イギリス」に含まれるため、余計にややこしくなるのです。
ただし、「アーサー王はイングランドの王」としてしまうとおかしいということは、おわかりいただけたでしょう。
彼はアングロ人ではなく、アングロ人の敵であったブリトン人の王なのです。
アーサー王――。
それは追い詰められたブリトン人の希望が、伝説と化した人物でした。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
『図説 蛮族の歴史 ~世界史を変えた侵略者たち』(→amazon)