8月17日――くじ引きで決まった出陣日。
三嶋明神の祭りと重なる日ですが、むしろそれが好都合です。
実はこういう要素は普遍的で、大河で有名な歴史事件なら池田屋事件も祇園祭と重なっていたし、現代のテロリストも祭礼を狙いがちだ。
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源頼朝勢が狙うのは山木兼隆! その館を襲うことで狼煙を上げ、関東挙兵をするのです。
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山木と同時に堤信遠も討とう
軍議の場で北条義時は堤信遠も討つことを提案します。
「平家の味方はこうなると示すため」という理由ですが、ここが義時の賢いところでもありますね。
父の北条時政が顔にナスをなすりつけられる侮辱を受け、他ならぬ義時自身も下馬を強制され、泥水をすすらされた屈辱がある。
しかし、そういう私怨はまるで無かったかのように、あくまで対外的な効果を述べるのですね。抑制ができていて素晴らしい。
三浦勢は衣笠から合流すると言い、三浦義澄と時政は軽口を叩いています。危険だなぁ……兵の合流は慎重に決めないと。
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目指す拠点は相模。んで、相模のどこ?
鎌倉――亡き父・源義朝の本拠であったと感慨深げな頼朝です。源氏の名のもとに坂東武者が集うにふさわしい。そう語られる特別な土地。
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かくして、宿敵平家から後白河法皇を救い出す、踏み出せば戻れない、長く苦しい旅が始まるのでした。
そんなナレーションが実は重要ですよね。
幕府がそもそもまだない時代です。
例えば、戦国大名が天下を目指していたのかどうかも後付けとされますが、頼朝だって義時だってそれどころじゃない。この先何があるかわからない。
おそろしい旅であって、正直、義時は大河の主人公には向いていないと思います。
かつての大河は、いろいろあっても一国一城の主になるものがふさわしいとかなんとか言われました。それを踏まえると難しい……のですが、だからこそ、今の時代に合っているのかもしれません。
りく(牧の方)の胸に蠢く野心
時政はクジの結果に大満足。京都育ちは違うと婿に喜んでいます。
17日をよく引き当てたとホクホク。いや、むしろすごい婿を引き当てちゃったのは時政さん、あなたですよ。
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ここで、妻のりくが17日がいかによろしいかを解説し、さらにこう念押しします。
しい様は佐殿の舅として、坂東武者を率いて都に戻る――それが彼女のシナリオです。そのためにりくは、全てのくじを17日にしていたんですって。
時政は「やりおった!」と笑っていますが……嫌な予感はします。
くじ引きにトリックを仕掛けることは、割と見られます。
鎌倉時代に近い時代ならば、宋の名将・狄青も銅銭を投げて全て表が出たらという条件付けをして、事前に細工していたものを投げたとか。
りくはそういう意味では賢い。理想的です。しかし、同時に野心にも着火されている。
こんな田舎に嫁に来るなんて、何か理由があったのか。それとも嫁に来たら頼朝という逸材がいたから、燃え上がったのか。その胸には何かが灯っています。愛ではない炎が。
8月16日――挙兵の前日。
「戦は初めてなので腕が鳴ります!」そう元気に笑う仁田忠常が義時の目に入ります。
大河の登場人物一覧で、こんなにいい笑顔ばかりなのは珍しい。『信長の野望』の面白顔グラシリーズみたいですね。
※面白顔グラシリーズ:ものすごくいい笑顔だったり、シャウトしていたり、インパクトがすごい顔グラフィックのこと。便宜的に名付けました。
頼朝のもとに集いし武士はさぁ何名?
相模に集いし、精鋭の坂東武者たち。さぁ、頼りになる武人たちはどれだけ集まったのか?
あわせて18人……。
兵が少なすぎる! 思っていたのと違う!
そう焦る頼朝です。義時が、ざっと300と言っていたのに話が違うと焦っている。
隣で時政は、こんなものだと笑ってる。笑っている場合か!
まぁ、義時は動員可能数を算出しただけなので……って、それじゃダメでしょ、義時!と突っ込みたいところですが、分業していたと思えば仕方ありませんね。
動員人数の計算という彼の仕事はこなしていた。
兵の士気をあげることは、本来、頼朝がやることでしょう。
実際、この士気ってもんが一番難しい。過大評価も過小評価もできない。今回はそもそも士気の算出をマジメにしていないから、こんな結果になってしまう。
頼朝は田舎どもだとイライラしていますが、彼自身、あんまり兵法は得意じゃないんですね。いや、得意であるはずがない。読経と女心を操るくらいしかしていないでしょう。
奥州には特殊枠である兵法の天才・源義経がいますが、彼はまだ出てきません。
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山内首藤が集まれば100にはなると言いますが。頼朝は苛立ちます。
「緒戦が大事と言ったのは誰だ!」
まったくだ。
しかし苛立ちは伝わらず、時政と宗時はポジティブ笑顔。しかも宗時は「以仁王が生きていると噂を流す」とか言い出す。
自分が怪しげな僧侶・文覚に騙されるくらいピュアだからって、世間がそうだと思われても困りますね。
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義時だけは死んだ魚のような目で、300は無理でも200は集めると声を絞り出す。落ち込んでいて、読みが甘かったと反省中。時政と宗時はやっぱりともかく明るい。
「大丈夫だ! うまく進んでおる!」
そう〆る北条家の皆さん。嫌な予感しかしません。
川を挟んで政子と八重の対峙は続く
義時が暗い顔をしていると、姉の北条政子が話しかけてきます。
目線は川の向こうへ。
「ずーっといるのね」
江間の館にいるのは、頼朝の前妻というべき八重。政子はらんらんとした目の色でこう言います。
「もし佐殿とあの女がどうにかなるようなことがあったら、私、何をするか、分かりませんから……」
「そう言われても」
「わかりませんからね」
このドラマの政子と八重を見て共感することは、いかがなものでしょうか。
政子ほど武力行使する女性は当時でも少数派ですし、共感なんてとてもとても……私はひれ伏すばかりです。小池栄子さんのこの迫力がいいですねえ。
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いや、待って。義時の心労をこれ以上増やさないで~。
義時は手帳のようなものを手にして道を歩いています。
何気ない小道具ではあるけれども、坂東武者の知的水準を考えたら、これはかなりのものでしょう。やはり小四郎は賢い!そう感心されそうな紙のメモ帳です。
義時は八重に声をかけられ、館へ。たまに佐殿を見かけると彼女は語り出します。
元気でいるのか。幸せなのか。
そう語りかつつ、頼朝が幸せには見えないと言う。義時が否定しても、政子殿とはうまくいっていないと言い続ける八重。
義時がびっくりするほどうまくいっていると反論しても、かわいそうだという。まったくかわいそうではないと義時が否定しても、認めない。
そして何か慌ただしいと言い出します。戦でもあるのかと勘付いている。義時は否定しても、八重は問い詰めてきます。
八重にとって頼朝は夫。政子に「寝汗のことを話した」と語っていて、それがマウンティングだのなんだのされていましたが、それ以外にも大事なことはあります。
寝室は一番機密が漏れる場所です。ゆえに徳川将軍の大奥には、侍女と御伽坊主がつく。
八重も頼朝の本心を聞いていた。いつか必ず挙兵する。たとえ義時が濁しても八重にはわかるのです。
それと八重の性格ですね。こうと決めたら思い込む、そんな一途さがあるのでしょう。兄が妹の恋を応援していたのも、妹はそれしかないとわかっていたからかもしれません。
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義時も人がよいのか、八重にほだされたのか、仮の話としてと前置きしながら言ってしまいます。戦になって北条と江間が争うことになるかもしれない。いつでも逃げられるようにしておいた方がよい……かも。
そんな惚けた口調で言う相手に、八重はまっすぐな目線でこう言います。
「大願成就。川の向こうからお祈りしております。佐殿にそう伝えて」
八重は、それほど書物を読むようには思えません。それでも“大願成就”という難しい言葉を口にする。それだけ頼朝が繰り返していたのでしょう。
彼女にとっては頼朝が全て。だからこそ、彼が口にしていた言葉はスルリと出てきます。
なんと哀しい女性なのか……。
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