真田十勇士といえば猿飛佐助――。
テレビ朝日のドラマ『真田十勇士 SHADOWS OF THE TEN NINJA』でも、岩本照さんが主役を演じていますが、そもそも佐助とはどんな人物だったのか?
一言でいえば架空の忍者です。
実在した真田家の家臣ではなく、明治の終わりに本の中で生まれた物語のキャラクター。
では、その物語の中で、佐助はどんな忍者だったのか?

『猿飛佐助 真田三勇士』(立川長編講談文庫)/国立国会図書館蔵
真田十勇士のエース・猿飛佐助の活躍(ただし物語の中で)を振り返ってみましょう。
猿飛佐助は明治時代の立川文庫で生まれた
江戸時代には、真田幸村の活躍が『難波戦記』や『真田三代記』で描かれました。
その中に猿飛佐助の名前はありません。
確認できる最初の登場は明治四十四年(1911年)に立川文明堂が出した「立川文庫」の一冊『智謀真田幸村』です。
同作では「しのびの達人」と紹介され、地雷火(地中に埋めた爆弾)で徳川軍を吹き飛ばす活躍を見せていました。

『猿飛佐助 真田三勇士』(立川長編講談文庫)/国立国会図書館蔵
ただし、派手な場面はこの一度きり。
他は、幸村の命令で敵の様子を探ってばかりで、忍者というより諜報員に近い存在です。
しかしその翌年に発売された『真田幸村諸国漫遊記』では、グッと立場が上がって、幸村の腹心「七傑」の一人に数えられるようになりました。
この七傑が真田十勇士の原型。
佐助も忍術を本格的に使い始めるようになり、その後は一体どんな活躍をするようになったのか?
姿を消して敵の鼻や耳を引っ張った
『真田幸村諸国漫遊記』から増えていった佐助の忍術。
得意としたのは、自分の姿を消す術でした。
ただし、その術で敵を倒すわけではありません。
【意訳】
猿飛佐助はいつの間にか花房志摩の後ろへ回り、黙って鼻をぐいとつまんだ。
姿を消しているので誰にもわからない。
驚いた花房は「玄蕃殿、いたずらはやめてくれ」と隣の男を責めた。
出典:『真田幸村諸国漫遊記』
【参考】山村竜也『真田幸村と十勇士』
姿を消して鼻をつまみ、耳を引っ張る――。

立川文庫『猿飛佐助 真田郎党忍術名人』/国立国会図書館蔵
歴史作家の山村竜也氏は著書『真田幸村と十勇士』の中で、同作にはこうしたいたずらの場面が、ざっと数えただけでも5か所あると紹介しています。
透明人間になれるのに、やることが鼻つまみとは、もったいなさすぎるだろ!
と思われますが、作品が『真田幸村諸国漫遊記』というエンタメ志向の内容ですので、読者を笑わせる場面を意識したのかもしれません。
鋭い忍者というより、親しみやすいいたずら者だったわけです。
では、そんな佐助は、そもそもどこで生まれ、どうやって忍術を身につけた設定なのか?
幸村が「猿飛佐助」と名付けた
佐助の生い立ちが描かれたのは、大正二年(1913年)の『真田三勇士忍術名人 猿飛佐助』です。
同作では、佐助は森長可の家臣だった鷲塚佐太夫(わしづかさだゆう)の子。
森長可は、織田信長に仕えた実在の武将ですが、鷲塚佐太夫は物語の人物です。

森長可/wikipediaより引用
佐助は信州・鳥居峠のふもとで育ち、十歳のころには山に入って木から木へ飛び移り、猿と鬼ごっこをして遊んでいました。
そこへ現れたのが、立川文庫で甲賀流忍術の祖とされる戸沢白雲斎(とざわはくうんさい)。
白雲斎も架空の人物で、佐助は彼のもとで昼は武術、夜は忍術を学び、十五歳ごろには水遁・木遁・火遁などを使いこなすまでになりました。
その後、猪狩りに来た真田幸村と出会い、家来の豪傑6人を身軽さだけで翻弄して気に入られます。
このとき幸村は、猿のように飛び回る姿を見て、こう名付けました。
【意訳】
佐助よ、そなたは今日から鷲塚の姓を改めよ。猿のように飛び回るのが得意だから、猿飛佐助幸吉と名乗るがよい
出典:『真田三勇士忍術名人 猿飛佐助』
「幸吉」の「幸」は、幸村が自分の名から一字を与えたものとみられます。
新参者にいきなり一字を与えるのですから、幸村のひいきぶりがわかります。
ここから佐助は、いよいよ忍術名人の本領を発揮していきます。
石川五右衛門を破り、才蔵を真田家へ誘った
同作の見せ場が、大盗賊・石川五右衛門との忍術くらべです。

子供と一緒に釜茹でにされる石川五右衛門/wikipediaより引用
五右衛門が鼠に化けて走り回ると、佐助は猫に化けて飛びかかる。
五右衛門が火鉢から炎を噴き上げて姿を隠すと、佐助は師匠の形見の鉄扇を振って、あたりを水浸しにする。
術を次々に破られた五右衛門は、すっかり舌を巻いて逃げ出しました。
同じ作品で、佐助はのちの相棒・霧隠才蔵とも術くらべをして勝ち、真田家へ誘っています。
その後、佐助は幸村とともに大坂の陣で戦いますが、立川文庫での幸村は討ち死にしません。
豊臣秀頼を連れて大坂城を抜け出し、薩摩へ落ち延びるのです。
佐助も護衛として同行し、結末の違う様々な作品において、最後まで死なずに生き残りました。
山村氏は、英雄・猿飛佐助の活躍を「いつまでも見ていたい」という人々の願望に応えた展開だと見ています。
敵情を探る諜報員として登場し、鼻つまみのいたずら者を経た佐助は、こうして誰もが知る十勇士のエースになったのです。
なお、真田十勇士10人の顔ぶれは、以下の記事に詳細がございますので、よろしければ併せてご覧ください。
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真田十勇士の10人とは一体誰のことだ? 忍者は猿飛佐助と霧隠才蔵の2人
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参考文献
- 山村竜也『真田幸村と十勇士』(2016年1月 幻冬舎)

