出自や前半生など、多くが謎に包まれた明智光秀。
家臣たちも同様のケースが多く、たとえ後世に名前が残されていても、実態を把握するのが難しい人が多いものです。
1582年7月2日(天正10年6月13日)に亡くなったとされる三沢秀次は、その最たる例でしょう。
この三沢秀次、溝尾茂朝(みぞおしげとも)や溝尾庄兵衛と同一人物では?ともされたりしていて、名前事情からして何ともややこしい。
それでも彼を無視できないのは
【明智光秀の最期】
に深く関わっているからであります。
山崎の戦いで明智軍が秀吉軍に完敗した後、逃亡する光秀が落ち武者狩りに遭い、大怪我を負ったところで介錯したのが三沢秀次(溝尾茂朝・溝尾庄兵衛)では?とされるのです。
死の場面に帯同していたぐらいですから、光秀にとって重要な人物であることは間違いないでしょう。
三沢秀次、あるいは溝尾茂朝、溝尾庄兵衛とは一体何者なのか?
少ない史料から振り返ってみたいと思います。
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三沢秀次=溝尾茂朝=溝尾庄兵衛?
三沢秀次は、光秀に仕える前が不明ならば、どうやって光秀に仕えたのかも全くの不明。
彼らしき人物が初めて史料に顔をのぞかせるのは永禄11年(1568年)のことで、当初は「溝尾庄兵衛」という名で光秀の家人になっていたとされます。
ただし、それ以前の越前時代から光秀に仕えていたという記述もあり、明智家がまだ極めて小規模な兵力しか有していなかった時代から行動を共にしていた古参の家臣という可能性も考えられるのです。
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では三沢秀次は具体的に何をした人物なのか?
ハッキリと動きがわかるのは、明智光秀が織田信長の重臣として活躍していた天正元年(1573年)からになります。
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当時、織田信長は、越前の大名・朝倉義景を攻撃していました。
朝倉氏が足利義昭の呼びかけに応じる形で「信長包囲網」を形成していたことは有名ですが、その包囲網が失敗に終わると、今度は織田軍の攻勢を受け、朝倉氏は苦境に追い込まれていました。
連戦連敗の中で家臣の死亡や離反が相次ぎ、当主の朝倉義景も本拠の一乗谷を捨てて逃亡を図るほど。
しかし、その甲斐なく義景は自害を余儀なくされ、朝倉氏は滅亡します。
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三沢秀次は信長が派遣した目付役だった
一方、無事に越前を平定した信長は、新たに現地の支配者を探します。
そこで白羽の矢が立ったのが、朝倉の旧臣で信長に降伏した前波吉継(まえばよしつぐ)という人物でした。
越前という地を熟知しており、暫定的に現地支配を任せるにはうってつけ。
しかし、信長にしてみれば、吉継は「ほんの最近味方になったばかりの新米」でしかありません。
当然ながら全幅の信頼を寄せているはずもなく、信長は越前に三人の「お目付け役」を配置したと考えられています。
そのうちの一人として名が登場するのが、三沢秀次なのです。
他の二名は木下祐久(すけひさ)と津田元嘉(もとよし)。
三人が越前の政務に携わり、同時に吉継を監視していました。
史料上の記載や他二名の経歴から、この時点で三沢秀次は光秀の与力として活躍していたことが推測でき、彼は光秀の代官として現地に留まった可能性が高そうです。
つまりこの段階で三沢秀次は、光秀の家臣としてそれなりの地位を築いていた――前記の通り、古参の家臣だったと考えた方が自然でありましょう。
命からがら越前を脱出すると、丹波攻めに従軍
実質的に越前の政務を担当した三沢秀次。
しかし現地における彼らの評判は芳しくありませんでした。
いささか入り組んだ話ですので、順を追って説明して参ります。
当時の越前には、前波吉継と同じく、朝倉から織田へと鞍替えした富田長繁(とだながしげ)という人物がおりました。
この長繁、吉継に腹を立てていたと言います。
というのも前波吉継だけが【守護代】という地位に任じられ、自身に与えられなかったことに怒りを覚えたのです。
かくして対立の深まっていく両者。
先に動いたのは長繁でした。
越前領内の民衆を扇動し、彼らと共に「一向一揆衆」として吉継に襲い掛かったのです。
吉継はこの戦闘でアッサリ殺害され、実質的に政務を取り仕切っていた秀次ら三名も攻められてしまいます。
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一揆衆は、後に越前を一向宗の国にしてしまうほどの勢力を有しており、当然ながら三沢秀次らだけではひとたまりもありません。
そこで彼等は、旧朝倉家臣のツテで一揆勢と和睦を結ぶと、命からがら越前を脱出。
特にお咎めはなかったようで、そのまま秀次は光秀の傘下に収まり、丹波攻めに従軍しました。
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