慶長元年10月28日(1596年12月17日)は酒井忠次の命日です。
徳川の主な戦や家康の窮地で常に活躍するなど、政治・外交・合戦面での実績は抜群。
本多忠勝・榊原康政・井伊直政らと共に「徳川四天王」と呼ばれるだけのことはありますが、実はこの四天王、忠次以外の三名は徳川内でそれほど家格の高い存在ではありませんでした。
戦国時代から江戸時代へ推移していくに従い、大きく出世したのであり、結果、徳川内での序列と世間の印象では大きなギャップが生じ、面白い出来事も起きています。
しかも豊臣秀吉との間で、です。
他愛のないことだけれども、秀吉のミーハーっぷりが目立って、思わずクスリとさせられる――当時を振り返ってみましょう。

豊臣秀吉/wikipediaより引用
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三河の中で厳然としていた上下関係
「三河以来」という言葉があります。
徳川家康がまだ三河の領主だった頃から付き従っていた家臣を指し、旗本にせよ御家人にせよ、名門を意識させるものですね。
要は古くからのメンバーが重視される傾向ですが、その中でも当然上下関係はあり、家格の高かった忠次の酒井家は、同じく家老クラスだった石川家(石川数正の一族)や内藤家、あるいは松平一族と姻戚関係を築いていました。
当時の婚姻は、家格が最も明確にされるもの。
忠次自身が、松平清康(家康の祖父)の娘、つまり家康の叔母を妻にしている程でした。

家康の祖父である松平清康/wikipediaより引用
一方、忠勝や康政などはどうか?
榊原康政は、父が酒井忠尚に仕える陪臣(家臣の家臣)という家でしたし、井伊直政については大河ドラマ『おんな城主 直虎』でもお馴染み、遠江の国衆です。
本多忠勝も三河からの一族ですが、大軍を率いるような身分ではなく、だからこそ少ない兵数での武勇譚を数多く残しており、この辺はもどかしいところでしょう。
彼ら一族の婚姻関係は、当初は酒井家や石川家など家老クラスと繋がりはありません。
では、本記事のタイトルにある、秀吉に「徳川四天王を遣わせい!」と叱られたという話は?
秀吉「忠次か忠勝か康政の誰かを」
事は、小牧・長久手の戦い後に遡ります。
この合戦で無理やり矛を収めさせられた家康は、その後もしばらく燻っていましたが、結局、秀吉の戦略により朝日姫(旭姫)との婚姻が決定。
天正14年(1586年)、平たくいえば屈服させられます。

朝日姫(旭姫)/wikipediaより引用
婚姻は、これ以上ない形式的なものではありますが、同年4月28日が祝言の日と決まり、そのやり取りに際して家康は天野康景を秀吉の下へ派遣しました。
ここで秀吉が、家康に対して不満を漏らすのです。
「酒井忠次か本多忠勝か榊原康政の誰かを遣わせよ」
天野家もまた、三河の中では家老クラスの重臣一族ですから、家康としては礼を尽くした格好です。
しかし、それまで数多の合戦で名を轟かせていた「四天王(の三名)の誰かにしてくれぃ!ソッチのほうがカッコええでしょ(意訳)」と秀吉が駄々をこねたんですね。

左から榊原康政・本多忠勝・酒井忠次/wikipediaより引用
秀吉にしてみれば、単にミーハーというよりは、自身が天下人であるというメンツを重んじたのでしょう。
つまり徳川内での家格と世間のネームバリューではギャップが生じていたことになります。
それは本能寺の変を過ぎた頃から特に顕著となり、忠勝は小牧・長久手の戦いで秀吉に武勇を称えられ、康政も「秀吉に10万石の懸賞首をかけられた」なんて話もありますね。
忠次にしても、長篠の戦いでの別働隊だけでなく、羽黒の戦い(小牧・長久手の戦い)で森長可を敗走させるなど、秀吉が好物の話がてんこ盛りでした。
★
なんだか天野康景が可哀想にも思えます。

天野康景/wikipediaより引用
本人は「岡崎三奉行」の一人に数えられる有能な武将です。
それゆえ秀吉の態度には家康もブチ切れそうになっています。
しかし結局は、天下人の要望通り、家康は本多忠勝を使者として送りました。
戦国時代はやはり派手な武功が一番なのでしょう。
本多忠勝の娘・小松姫が真田信之に嫁いだのも、忠勝の活躍により以前の家格からステップアップした証拠と言えます。
他にも、以前なら考えにくかった大久保忠隣と石川家や、本多正純と酒井家、あるいは榊原康政の娘と酒井家などの婚姻が結ばれました。
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参考文献
- 藤井讓治『徳川家康(人物叢書)』(吉川弘文館, 2020年2月10日〔書店発売:2020年1月21日〕, ISBN-13: 978-4642052931)
出版社: 吉川弘文館(公式商品ページ) |
Amazon: 商品ページ - 菊地浩之『徳川家臣団の系図(角川新書)』(KADOKAWA, 2020年1月10日, ISBN-13: 978-4040823263)
出版社: KADOKAWA(公式商品ページ) |
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