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山田風太郎作品ならばエロスは?
と、ここまで読んできて気になるところはありませんか?
山田風太郎といえば、セクシーな描写が特徴です。
果たしてこの漫画は、読んでいるところを誰かに見られたら気まずいところはあるのかどうか?
そこが気になる方にお答えしましょう。
本作品は、青年誌に連載されています。はなから子ども向けでない。エロではなく、グロ、つまりは残酷描写でも引っかかります。流血や斬首がありますので。
性的な要素という点では、これまたニクいかわし方だと思えます。
とてつもなくいやらしくて、再現できない場面は、浮世絵の春画で再現して想像させてきます。
つまり、読んでいるところがバレでも気まずくありませんよ。
では、山田風太郎の魅力であるエロスは諦めろというのかというと、これまだ勧められます。
女だけでなく、男も、とてつもなく色気があります。
だらりとした江戸っ子同心の色気も、暑苦しい薩摩の熱血もあります。
女性はやはり、柳橋芸者のお蝶がとてつもなく素晴らしい。
江戸の女、武家の出らしく、つんけんとしているようで、愛する千羽の旦那の前ではそりゃもう艶っぽくて。
この漫画のすごいところって、今や死語になっちまった「苦味走ったいい男」や「小股の切れ上がったいい女」を作画で再現しているところなんですね。
色っぽい。こんなに色気にあふれた漫画、そうそうありませんてば!
時代を先取りしていた原作
セクシーであることは確かです。
しかし、これはむしろ性的搾取に異議を唱える、そんなジェンダー観においても優れた作品でもあります。
性売買の現場を警察が取り締まり、そこでの攻防に幕末の因縁が絡んでくる。そんな事件もあります。
やむなく身を売ることになった旗本の娘たちも出てきます。
肌をあらわにし、怯えた目で引き立てられてゆく彼女らは、色っぽいどころか弱々しく、痛々しいかぎり。
こうした女性たちの姿には、山田風太郎が青年時代に目にした、敗戦後の街にいた、“パンパン”と呼ばれた街娼たちが反映されています。
この作品は、身を売ることになった女性側にたち、その言い分、彼女らを捨てる社会に反論するのです。
そのあざやかさは改めて時代に先んじていたと思い知らされます。
山田風太郎はエロチックなイメージが先行しておりますが、実はジェンダー観にも時代を先んじた鋭さがありました。
なにせ宝塚が『柳生忍法帖』を舞台化したほどですからね。女性の苦難を描いているからこそ、魅力あふれる作品も多いのです。
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難解さをそのままで
山田風太郎の明治ものは素晴らしい。
しかし、あまりに難解でトリッキーであるという欠点はございます。
その辺の道を歩いている少年少女が夏目金之助と樋口なつ――つまりは夏目漱石と樋口一葉の幼い姿だった!
そんなあまりに豪華なカメオ出演が怒涛の如く押し寄せてきます。
そういう難解な要素を削るのではなく、単行本で解説をつけてなるべく入れてくるところがよろしい。
この漫画は単行本で買い揃えることをおすすめします。それは豪華な解説ゆえでごぜえやす。
ちなみにカメオ出演ではなく、レギュラーである有名人もおります。
藤田五郎――元の名は斎藤一。
警視庁で巡査をしている彼がいきいきと主人公の目の前に立ち塞がります。
『るろうに剣心』のパクリだのなんだの思う方もいるかもしれませんが、斎藤一が巡査として暴れる作品としては、こちらの原作が先となります。
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いかがでしょう。
『いちげき』の少し後、『いだてん』の少し前。そんな時代を背景に、落語家も巻き込む。
クドカンのユーモアセンスに一致する、シリアスなのに斜に構えた笑いがある。
空気まで描くような画力ゆえに、演じるならばどの役者が良いのか考えてしまう。
そんな傑作が本作です!
『るろうに剣心』、『鬼滅の刃』、『ゴールデンカムイ』と、近代史をあつかった漫画作品が人気を博している2020年代です。
そんな時代にこそ、本作は強い光を放ちます。
そしてドラマ化も期待しているところなのですが……願わくは、週刊モーニングでこの先もずっと山田風太郎近代史ものが続いていきますように!
『魔群の通過』なんてどうでしょう。期待しております!
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
漫画『警視庁草紙』(→amazon)