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【レジェンド&バタフライ】
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平然とネタを使い回しにする
本作は『どうする家康』と同じようなネタを使い回しています。
金平糖をやたらと重視するところがひとつ。
主人公の妻がツンツンしつつ夫を叱咤激励する関係も、使い回しです。
そして明智光秀の解釈。
彼は信長が大魔王として狂っていて欲しいと勝手にプロデュースし、信長の残虐行為をけしかけていたことにします。
そのせいで、信長が何一つ自発的に行動できない根無草になり、台無しにもほどがあります。
しかも、制作サイドがこういうことを「激ヤバ新解釈!」だと言い張るわけですが、これまた『どうする家康』と通じている。
本作も『どうする家康』も、直近の大河ドラマを見て、その雑な逆張りをして新解釈だと言い張っているにすぎません。
この光秀なんて『麒麟がくる』を正反対にしただけだとすぐわかる。
『どうする家康』では、足利義昭にもそれを応用していますね。
手持ちの札が少ないから、どこかでみたものをひっくり返すだけ――そんなやっつけ仕事に私は驚きたくありません。
そういうことを「自由な発想」と無批判に持ち上げてどうするのでしょうか。
◆「レジェンド&バタフライ」経て「どうする家康」へ 気付いた“歴史もの”脚本のヒント「もっと自由な発想で描けるんじゃないか」(→link)
オールド・ボーイズ・ネットワーク映画
この映画の作り手は、いったい誰が見ると想定していたのでしょうか。
趣味や嗜好が多様化した今、国民的ヒットを狙えるような作品などはなから作れません。
かといって本作は、軽薄で雑であり、時代劇が好きな層に受けるとも到底思えない。
若者狙い?
いやいや、今どき本物の若者は、韓流や華流時代劇に行くでしょう。ゾンビやSF要素も取り込んだ、斬新でポップなものが多く、現に盛り上がっています。
こうした状況のもと、この映画を見に行く人なんて、木村拓哉さんのファンか、話題作なら一通り見ようとする層か、そのあたりしか思い当たらないのです。
だからこそ興行的にも大ゴケして、異例の早さでアマゾンプライムにも登場したのではないでしょうか。
問題は、それを最初から認識できていなかった作り手です。
冷静に判断していたら、「大ゴケ」にはならなかったのでは?
同じ監督の時代ものである『るろうに剣心』が成功したのは、原作の知名度が大きい。
しかし本作は、そういうプラス要素が無く、人気の原作がないのであれば、歴史に造詣が深い脚本家に依頼すべきでしょう。
それを現代劇で有名な脚本家に依頼し、その名声だけでどうにかしようとした。
うまくいくはずがない。
とにかく、この映画には、中身がありません。
キャストとスタッフの知名度、それに派手な広告戦略という、中身とは関係ない要素でヒットさせようとした。
しかし、そんな昭和の広告代理店が考えたような手法は、SNSがここまで普及した時代では通用しません。
古臭い戦略を押し通してしまった原因は、企画段階で誰も異議を挟めない、閉鎖的な環境にでも求めた方がよいのでしょう。
本作の作り手は、知名度とキャリアがある――そんな相手に「これではダメです」と指摘できる、猫の首に鈴をつける勇敢なネズミはいなかったのでしょうね。
これがヒットすると喧伝し、大河まで絡めたのは誰なのか?
もしも本作がヒットしていれば、同じ脚本家ということで『どうする家康』にも大きな追い風となったことでしょう。
いや、そもそもそれを大きく期待していた誰かがいますよね。
なんせ2022年のぎふ信長まつり以来、2023年初頭はそんな報道が相次いでいました。
新聞一面を大きく使った広告には、著名人の絶賛コメントがズラリで、ぬかりなく大河に誘導する流れがハッキリとあった。
よくわかる一例が以下の記事ですね。
◆松潤主演NHK『どうする家康』は「シン・大河」になる? 大ヒット大河ドラマ“勝利の方程式”とは | 2023年の論点(→link)
取り上げている作品は『どうする家康』であるとはいえ、『レジェンド&バタフライ』と共通する要素があげられています。
該当部分を引用してみましょう。
『どうする家康』が期待できる理由
『どうする家康』は「ユーモア」のある脚本を書ける古沢良太による「戦国」ものに「スター」(ジャニーズの松本潤)を配し、人気要素をもれなく押さえてある。
なにより脚本家が古沢良太であることは大きい。
映画化もされヒットした『コンフィデンスマンJP』や『リーガルハイ』シリーズなど人気テレビドラマや映画を多数手掛けてきた古沢。
漫画も描けることを生かしたクセの強いキャラクターたちによるアップテンポの会話劇を夢中で追っているとある瞬間、引っくり返され、そこに得も言われぬ快感が生まれる。
計算され尽くした構成力と天性のリズム感と腕力の強さによる逆転劇にはどこか往年の少年漫画を思わせるような明るさと切なさが入り混じり、多くの視聴者を捉えて離さない。
要するに、
・『どうする家康』は「ユーモア」のある脚本を書ける古沢良太による「戦国」もの
・主演は「スター」(ジャニーズの木村拓哉さん、松本潤さん)
という二点だけで突破できると考えていたんですね。
時代考証や時代劇に必要な素養は捨て去り、勢いだけで突き進んだ。
そしてそれを反省しないということも、記事の末尾を読めばわかります。
最後に、戦国、幕末ものでなく、近代オリンピックの歴史を描いた『いだてん~東京オリムピック噺~』(19年)は視聴率こそ振るわなかったが教養と娯楽を兼ね備え、かつ映像として見応えのある秀作であったことも記しておきたい。
何をどうしたら『いだてん』を成功作として捉えられるのか。
どう考えても失敗作です。しかし、それを潔く認めないから「何が悪かったのか?」と振り返る声はさほど聞かれず、敗戦の反省がされません。
東京オリンピックがらみでこれだけ不正行為や汚職が表に出ているにも関わらず、そのことと異例の大河選定に関わるプロセスを訝しむ声すらない。
要するに、大手メディアは諫言を捨て、媚びを売る佞臣の類を抱えているということです。
『信長の野望』なら数ターンで滅びる家のようですね。
間違ったセオリーをデカデカと“アップデート”だの“勝利の方程式”と持ち上げ、反省はろくにしない。
そういう方向だけ向いていたら、この先どうしようもないでしょう。
是非に及ばず
信長っぽく言うのであれば、さしずめこうなりましょう。
「是非に及ばず」
『レジェンド&バタフライ』は、作品そのものだけではなく、それに阿(おもね)る周囲の姿勢まで含めて「是非に及ばず」と嘆くしかない、どうしようもない代物でした。
そしてついに失敗したと数字に出てしまった。
◆番宣23本出演、普段とは違うキムタクを見せたが…木村拓哉“信長映画”がそれでも赤字の理由(→link)
土台となる脚本がどうしようもないのですから、赤字は当然の帰結としか言いようがありません。
せっかく木村拓哉さんという稀代のスターと、織田信長という最高の素材であったのに……いや、だからこそ制作サイドも慢心したのでしょう。
今後は、互いに責任を押し付け合う、敗戦処理が待ち受けていますかね?
そもそも公共放送のNHKが民間映画会社とタイアップもどきをすることそのものに、私は疑念を感じますが。
◆木村拓哉『レジェンド&バタフライ』の興収が“微妙”で…原因は『どうする家康』?(→link)
ともあれ、こうも傷ついた相手にそこまでは言わないのが「武士の情け」ですかね。
それでも『どうする家康』には、『レジェンド&バタフライ』から学べることはあります。
敗戦処理です。
早々にサブスク解禁という手は使えませんが、きっと他には何かあるでしょう。
◆ 木村拓哉『レジェバタ』、後輩映画に完敗も…「アマプラ独占配信」で赤字解消?(→link)
『どうする家康』では「なんのかんだで」で金ヶ崎の撤退戦を済ませました。
現実はそう甘くはありません。
大失敗の退き口をどうするスタッフ――そう激励させていただきます。
※なお、見応えのある歴史映画でお口直しをしたいなら、あらためて以下のレビューをご参照ください
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著:武者震之助
【参考】
映画『レジェンド&バタフライ』※ただいまアマゾンプライムで無料(→Amazon ※2023年5月現在)