MAGI感想

MAGI(マギ)感想あらすじエピソード1選ばれしものたち【長崎篇】

ヨーロッパでは、こんな言い回しがあります。

「国王陛下崩御! 新国王陛下、万歳!」

ナゼこんなことを言い出したのかって?

私はこう叫びたいからです。

「大河ドラマ終了! 新日本史ドラマ、万歳!」

2019年1月17日。

amazonprimeビデオにて天正遣欧少年使節をテーマとし、戦国時代を描いたドラマ『MAGI EPISPDE1』がスタート!

それは、大河終わりの始まりの日でした。

※amazonprimeビデオの視聴はコチラからどうぞ

 


大海原から始まる物語

戦国末期の16世紀――日本から遠く離れた土地で、群衆が歓呼の声をあげております。

「マギ! マギ! マギ! マギ!」

マギ――。

それこそ、人々が求めるもの。

目線の先にいるのは、異国の服を身にまとった三人でした。

ヨーロッパに渡った日本人少年三人。

彼らは聖書に登場する「東方三聖人」の再来、つまりはマギとして、熱狂的な歓迎を受けたのです。

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おいおい、おいおーい!

ちょっと待ってくださいよーーー!

OPの時点で大河を倒す気が満ち満ちていて辛い><;

西洋人の大群衆。

立派な衣装。

ロケをしている西洋建築。

カメラワークに、照明効果。

そしてOPクレジットに重なる帆船!

帆船というのは、ものすごくお金がかかるものでして。

2011年大河『平清盛』でも予算的に大問題になったのが、木造船舶でした。

それがこうもアッサリと使われている(ように見える)!

つらい……この報道と重ねると、つらい!

◆値下げで30億円の赤字へ=受信料収入は過去最高-NHK予算(→link

NHKがこんな木造船を浮かべることができるか?って、無理なことはご理解いただけるでしょう。

金食い虫の木造船なんて、VFXを駆使するしかないわけです。

その予算と技術も、あるかどうか……。

もう、アバンとOPで、amazonprimeビデオの凄まじい砲撃が、大河にむかって放たれいてる感覚です……下関戦争かっ!

そして、OPテーマがいいなあ、と思っていたら大友良英さんでした。

『いだてん』とこのドラマで、2019年は大河ドラマをWで作曲したようなモンです。

こうなると、音楽の差があるとすれば使い方です。

そして忘れてはならない。

NHKは、川井憲次さんすら、『花燃ゆ』と『まんぷく』で使いこなせていないことを。

つらい。もう、本当につらい……。

 


血塗れの逃避行

1570年代、九州・日向での出来事――。

霧深い山の中、落人らしき一団がさまよっています。

赤子を抱えた女、幼子の手を引く女。

そんな中、一人の女が歩くことに堪えきれぬのか、倒れてしまいます。

武士が彼女を立たせようとするものの、あきらめるほかありません。

「ゆるせ」

武士は刀をスラリと抜き払うと、女を斬殺。

殺気を感じた赤ん坊が泣き始まると、別の武士が泣き止ませろと言い放ちます。

しかし、赤子は泣き止まない。

女は必死で泣き止ませようとするものの、無駄なことなのです。

武士は女の背後から、赤子ごと二人を刺殺するのでした。

「我が子を!」

傍らにいた女はそう言い尽くし、呆然としています。

赤子を殺した武士は、身分が高い服装をしています。

その我が子を、彼は殺した……女の横にいるまだ幼い少年は、呆然と見守るほかありません。彼も泣き叫べば、死んでしまうのです。

父らしき武士に急かされ、供の女に手を引かれ、逃げ出す少年。

ここでナレーションが、戦国時代の説明を始めます。

そうです、戦国ってそういう時代だった!

銃声を聞きながら、逃げ惑う二人。

しかし、その逃避行はあまりに辛いものでした。

女は木を背に座り込み、主君である少年に詫びると、懐刀で頸動脈を切断し、自害します。

なまあたたかい血が、少年の顔にかかります。

少年は一人、逃げ落ちるほかないのでした……。

これやで!

見たかったのに見られなかった大河ドラマ!

これなんやでぇええええ!

本当になんなんですかね。

私達は昨年一年間、何を見せられてきたんですかね。

序盤で暴れ馬を止めるヒロインだの、橋の上でヒロインを背負う主人公だの、そんなもんをなぜ大河ドラマで見せられなければならなかった?

こういう流血。

容赦ない時代。

それが見たかった。

比較的それが出来ていた2016年『真田丸』、2017年『おんな城主 直虎』でもここまで流血は見せませんでしたね。

そうだ、これが見たかった大河ドラマだ!

もう、ここからは辛いというよりも感涙が止まらなくなりそうです。

撮影にも、いちいちお金がかかっていて、技術もよいのです。

照明の薄暗さがいいんですよね。

最近の大河へのヘンなクレームとして、画面が暗いというものがあるんですわ。

別に海外ドラマと比較して、暗くありません。

むしろ明るすぎると思っておりました。

本作は、海外ドラマ基準の美術があります。

幽玄とした雰囲気が実に心地よいものです。

 


我々は血しぶきを忘れていた!

舞台は変わりまして、京・東山。

鷹狩りを楽しむ男がおります。

織田信長、その人です。

生きることは戦うこと、戦うことは生きること。そうナレーションで説明されます。

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大河では、今さら織田信長について説明しませんよね。

むしろ、あの信長だと新奇な演出を狙って、滑ることすらある。

ところがこれは海外展開もしますから、史実に則していながら、その事実を知らない人にズバッと紹介せねばならないのです。

そんな信長に頭を下げるフロイス

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この場面、信長の休むそばに地球儀があるのです。

視聴者への距離感説明でもあるのです。

二年の長旅を経て来日したフロイスに、興味津々の信長。

信長はフロイスの苦労そのものだけではなく、そこまでして布教したい情熱の元をたどりたい、そんな思いを含ませています。

当時はまだ壊血病に為す術もなく、大変な旅路でした。

信長は、近くにいる坊主への罵倒を開始します。

自分勝手な連中だ、バテレンも同じじゃないかと言うわけです。

このへん、脚本が見事ですね。信長の、宗教への態度をきっちりと見せてゆきます。

フロイスはそんなことはないと焦ります。

信長、ここで鯉口を斬り走ると、女の裾をめくって浮かれる不埒な男を斬首!

か、かっけええええええ!

この信長がカッコよすぎて、涙がにじみました。

そしてこういう一場面が、日本の時代劇ではもう難しくなっている。

女の脚が見えるほど生々しい狼藉、そして頸動脈がブシャーッと飛ぶ斬首。

斬首の後ろから信長が見えて来て、刀をすっと収める殺陣も美しさ!

もう、ご無沙汰なんですよ。

黒澤明監督作品の『椿三十郎』の決闘場面で、三船敏郎さんに斬殺される仲代達矢さんが、あまりに吹き出す血しぶきに本当にビックリしたそうなんです。

そういう血しぶきポンプ、もう大河じゃないでしょ?

時代劇でも、ご無沙汰でしょ?

飛ばそうよ、血しぶき!

『ゲーム・オブ・スローンズ』に負けてられないんですよ。

血しぶきなら日本も負けないって示してこそですよ!

本作の演出って、割と往年の時代劇らしさがあるのです。

それは一周回ってクール!

こういうのは残すべきだと、タランティーノだって見習ったモノ。こんな形で残るのならば、これは朗報以外の何ものでもありません!

 

熱血! ヴァリニャーノの策

ここで、ナレーションでキリシタン事情が説明されます。

そして舞台は、九州・有馬の協会へ。

撮影したのは、明治村かな?

ヴァリニャーノが登場。カブラルとメスキートと話始めます。

ここから字幕つきの英語です。

まぁ、当時の宣教師が英語を喋っていたはずはありませんが、そこはそういうもの。

ヴァリニャーノは、想像を超える布教に驚きながらも、課題があると苦い顔なのです。

このやりとり。

当時のキリシタン信仰の問題点がコンパクトにまとめてあります。

・入信する領主の目的が火器という武器入手であり、信仰心がない

→上の者に下が従うならばよいのでは、という事情

・神仏像を破壊する宣教師がいる

→異教徒の信仰対象を壊すことは当然だと見なす宣教師もいる中、ヴァリニャーノはそれでは人心が離反すると危惧がある

そこでヴァリニャーノは、日本人司祭を育成しようと提案するのです。

しかし、他の宣教師は日本人への人種差別が露骨にあるのです。

日本食みたいなものを食べているのに、と馬鹿にする相手に対して、肉食では理解が得られないとヴァリニャーノは反論。

限られた予算内でセミナリオ(神学校)を作り、その中から少年を選抜し、法皇へ面会させたいと計画を語るヴァリニャーノです。

この戦国の中で、少年も西洋より成熟が早いのだと。

ヴァリニャーノの見方は、人種差別を乗り越えていて革新的なのです。

彼は、西洋が東洋に勝るとは考えておりません。

むしろ、東洋の素晴らしい少年を西洋に示したい、そんな思いがあるのです。

そして東西の架け橋を結ぶ――それこそが、ヴァリニャーノの思いなのです。

しかし、こんな思いは宣教師には理解できない部分もあるようです。

彼は若い頃、情熱のあまり暴力沙汰を起こしたこともあるとか。ナポリの名家出身であるため、父の力でアジアの責任者になれたのだろうと推察されております。

ヴァリニャーノの描き方が実にうまい!

この会話で、キレイごとだけではない布教事情、理想に燃えるヴァリニャーノのことをきちんと描いています。

彼は、人種偏見がない。

日本と理解しあってこそ布教であると理想に燃えています。

しかし、当時からすれば、

「何いってんだ、コイツ? 東洋人ごときに媚びているわけ?」

「どうせコネで出世したボンボンじゃん」

と、小馬鹿にされ潰されそうになるのです。これがいいんです。

だって、最近のダメ大河はじめ駄作って、誰かがエエことを言うと周囲が皆納得するじゃないですか。

当時の偏見や差別を背景に入れてこない。

現代人そのものの考えがあっさり通るわけです。

それが、本作では違います。

むしろ当時は、差別があって当然ですからね。

もうひとつ。

近年のNHKドラマにおけるキリスト教描写は、あまりに酷いものがありました。

2014年大河ドラマ『軍師官兵衛』もボロボロでした。

キリシタンは心キレイな人がなるという勝手な理想化があったうえに、仏教徒の女性を主人公に接近させるために、キリシタン設定にしましたからね。

海外の目線は、宗教描写に厳しいものです。

変な美化はいらない。リアリティと正確性が求められます。

本作はこの点、NHKよりはるかに上出来です。

キリシタンの内部事情もきっちりと描くのです。

 


「有馬せみなりよ」の少年たち

ここで、有馬せみなりよの場面へ。

礼拝の仕草、聖歌が美しい。

うーん、これは未知の世界だ!

宗教的な描写って専門知識や考証も大変ですし、なかなか大変なことだと思うのです。

暗い室内も美しく撮影されていて、大谷さんの音楽もマッチしていて、常にクオリティが高い。

ヴァリニャーノは、少年の派遣と法王派遣への情熱を燃やしています。

情熱だけではなく、資金のことも問題として把握しています。ビジネスもちゃんと考えた描写がいいですね。

そのためには、信長の朱印状が必要だとヴァリニャーノは考えているのです。

そこで、キリシタンへの心境と信長の性格を確認したいわけです。

フロイスから、右大臣の位返上を聞くヴァリニャーノ。

信長はすべて自分で決めたい男だと、フロイスは観察しておりました。

フロイスとヴァリニャーノの考え方は真逆。

フロイスは不安がり、ヴァリニニャーノはそんな性格ならば布教を許すのではないかと希望を持つのです。

こういうの一つとっても、いい脚本なんですよ。

あとキャスティングと描き方。

最近の駄作大河ドラマって『西郷どん』が典型的でしたが、外国人役をお笑いタレントを出すおもしろ枠にして、話題性を狙うだけですよね。

文化祭じゃないんだってば!

それに描き方も

「日本人スゴーイですね!」

と言わせるため、バラエティ番組かとツッコミたくなる扱い。

もう、差別ど真ん中だから。

人格もあれば、策謀もある――そんな来日外国人描写に飢えておりました。

 

せみなりよの少年たち

ヴァリニャーノは、セミナリオで神仏像を破壊する少年を止めます。

その土地の人間を大事にしなくてはいけない、今後このようなことはやらせないと宣言します。

彼は千々石ミゲル。

城主の弟であり、兄からは海外に行けと促されているのです。武士らしさと身分の高さを持つ少年というわけです。

次に登場するのが、時計を分析する少年です。

ラテン語すら習得した、原マルティノ。知性と好奇心がある少年であります。

三人目は、花を植える心優しい少年でした。

彼は海の向こうに行き、強くなりたいと願います。中浦ジュリアンは、母ひとり、子ひとり、だからこそ強くなりたい。そんな境遇です。

しかし、これでは足りないとヴァリニャーノは考えています。

もう一人、欲しい。

三賢人が欲しいとはいえ、往復八年です。死んでしまうかもしれない。残酷ですが、そう考えねばならないのです。

当時は『パイレーツ・オブ・カリビアン』前夜でもあります。

進歩した航海技術を背景に、海賊が荒稼ぎする時代にさしかかりつつあるのです。

一人死んだら困るから、保険で四名。そう言い放つヴァリニャーノ。

旅がいかに大変か。それを理解している、冷徹にすら見えるセリフがいいのです。

実際に、困難な旅路ですから。

 


最後の一人は誰だ

教会には、下働きの少年がいました。

キリシタンに拾われたものの、持て余されてしまったのだとか。

ヴァリニャーノたちに、裸に磔にされた男を拝んで何になるのかと語る少年。

少年は、人間の心には憎悪があると叫びます。

彼に何があったのか?

十字架を見つめる少年の脳裏に、忌まわしい記憶が蘇ります。

彼は、あの日向国で逃れていた落人のなれの果てだったのです。

あの場面がここにつながるのか!

海辺で、ヴァリニャーノは少年を説得します。

生きる目的を見つけるように説得する彼に、人が憎しみあう意味を問いかける少年。

その答えを知るためにイエスは生まれてきたと語るヴァリニャーノ。

答えのないまま、死んでいったイエスを笑う少年。

彼は自分とイエスを重ねているのでしょうか?

人のためには死なない、自分のために死ぬと語る少年。それは信長と同じだとヴァリニャーノは語ります。

少年は態度を少し変えるのです。

彼が祐益、伊東マンショとして知られる人物です。

ここでナレーションが、宗教改革について語りだします。

そうなんです、決してこの流れは、綺麗事じゃないんですよ。

宗教改革で信者が激減する中、なんとしても補わなければならない。

実は宗教をめぐって、ヨーロッパでは戦争も虐殺も起こっているのですから、平和な理想論じゃ片付かないのです。

そのあたりの裏事情をハッキリと理解するのは、プロテスタントと出会った徳川家康でした。

さて、少年たちはいよいよ旅について学びます。

水夫の死者の数を知り、身構える少年たち。それでもヴァリニャーノはやりたい、東西の間に橋を架けたいと語り出します。

お、おお! ここもうまい!

ナゼ、彼らがはるばる海を越えたのか?

その理由をきっちりと説明します。

大河ドラマの法則には従っておりませんが、ドラマとしてはものすごくよい初回です。レベルが高い!

ヴァリニャーノのキャラクタもいいんです。純粋なようで、熱血なようで、ちゃんと利害も考えている。

そういうものでしょう。綺麗事だけじゃないし、汚い計算だけでもない。

それが人間であり、歴史です。

ここで、マンショは反発。

ミゲルと言い争いになります。マンショは信長に会うことが目的でした。

戦いで失うものが多かったマンショは、むしろ戦い、負けぬ人物でありたいのです。

そんな彼に、マルティノは文明があるから見たいと思わないのかと説得にかかります。

ジュリアンは、信仰心がもたらす強さをしたいと語るのです。

四人の描き分けがちゃんと出来ているわけです。

 

信長の探求

信長は、本能寺で明智光秀と会話しております。

光秀はキリシタンに冷たい目を向けており、信長を止めようとするのです。

しかし、信長は知りたい。

彼の脳裏にあるのは、南蛮の武器や文明のことではない。

精神性を知りたい。

そういう目的があると、わかってきます。

ふぬけた答えがあれば斬ると言い切る信長からは、精神性をはかりたいということが伝わってくるのです。

こういう、何から何まで丁寧に語らず、行間を読ませる、巧みな脚本だと思います。

それにこういう形式は、配信向きでもある。

配信ならば、いつでも早送りも巻き戻しもできるわけ。

気になった場面は、すぐに止めて巻き戻して、見返すことができるわけ。

そういう鑑賞スタイルに合わせてきましたよね。

テレビのように、ボーッとながら見していてもよいという、ふぬけたスタイルでは成し遂げられないレベルの高さがそこにはあるのです。

そんな信長に面会するため、西洋服を身につける四人。ここがちょっと学園ドラマのようなのです。

歴史ドラマであっても、こういう少年のわきあいあいとしたところもある。

こういうのが正解!

最初から「これは学園ドラマで〜す!」と言い切るものは論外。なんじゃそりゃ、って。『花燃ゆ』っていうんですけどね。

一方でヴァリニャーノとフロイスは、贈り物のチェックです。

ここで出てきたのが、のちに弥助となる奴隷でした。

黒人を見て、興味津々の少年たち。

この弥助への反応が、本当にうまいと思うんですよね。

人種差別的だとか、誰かがスゴイと言いたいあまり、黒人に対する態度を不自然な反応にしてしまう脚本演出もあります。

ところが本作は、このあとの信長といい、好奇心に満ちて驚いている。

そういうところをきっちり描きます。これがリアリティでしょう。

信長は、こう言い出します。

バテレンは右手に十字架、左手に鉄砲を持って来たのだという噂がある――。

本当かどうか、光秀に聞いてみる信長。

白でもなければ、黒でもない。そんな存在こそ、彼の心を掴んでいるのです。

光秀に、信長はこう尋ねます。

信長は右手に憎しみ、左手に刀を持って乗り込んで来たという噂があるのだと。

それをどう思うか問われ、光秀は信長の両手には何もないと答えるのです。

両手とも、空か。そう返し、さすが光秀だと笑う信長。

うーん、コレが本能寺の変の理由かな?

こういう深いセリフに引き込まれるのです。

ヴァリニャーノは少年たちにふるまいに気をつけるように告げて、面会へと向かいます。

続きは次回!

 


MVP:織田信長

本作の信長役はなんとも、象徴的です。

それというのも、吉川晃司さんは2009年年『天地人』(※筆者選の最低大河ドラマ四天王・戦国男性主人公部門作品)において織田信長を演じているからです。

ご本人はあまりの酷さに不満があり、口にしていたそうです。

そんな大河で大コケした枠に、同じ役者を使う……これは、相当の智恵者がおりますな。

しかも、豊臣秀吉は緒形直人さんです。

『太閤記』の緒形拳さんのご子息!

『おんな城主 直虎』で小野万福を公演した井之脇海さんもいる!

おめでとうございます、吉川さん!

彼はあまりにも納得出来ずに、散々疑問を呈していたそうです。

そのあとの『八重の桜』、そして『精霊の守り人』で見事なリベンジを遂げたものの、三英傑を演じたにも関わらず、あんまりな扱いでした……。

そのリベンジが今、叶いました!

コレはキャスティングに、そのあたりを狙ったのではないかと唸ってしまいます。

そしてこの信長像、ここ数年の大河を含めたドラマと比較しても抜群の素晴らしさでは?

本作はセリフに奥行きがありますが、その奥行きを吉川さんがさらに深淵にまでしています。

信長が何を考えているのか?

そのミステリアスさを強調するあまり、やけにエキセントリックになってしまたり、一発勝負変人芸になることも多いもの。

そんなことは通じません。

海外の、日本史知識がない視聴者もいるのですから。

そんな海外の目線を意識しつつ、日本人視聴者も納得できる、そんなよいところにピタリとおさまった、素晴らしい信長像です。

もう、本当に泣いてしまいそう……。

 

総評

先日、大河ドラマ『いだてん』レビューで

「2030年代には大河ドラマ枠が終わり、海外資本の配信がとって替わっている」

と書きました。

どうやらこの予測は、哀しくも当たりそうですね。

はい、Amzonプライムから来ました。

ともかく金がかかる帆船を作る予算だってある!

日本スペイン外交関係樹立150周年記念作品でもある!

近年研究史で扱われている日本人奴隷の話も盛り込まれているッ!

(※コレ、大河で扱うのはかなり無理があるのです。それというのも、日本の戦場で日常的に人身売買が行われていたという背景まで描き込まないといけませんので)

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これはもう、完全に大河を打倒するべく迫って来ていますね。

大河ファンを掴みにかかった!

NHKはまずい、まずいですよ!

将来、上野樹里さん、井上真央さん、そして鈴木亮平さんが海外配信大河で輝いていても、まったく不思議ではありません。

それこそがこれからの取るべき道であると、昨年の大河総評で指摘しましたっけ。

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海外の強みは、予算だけではありません。

それは忖度なしで作ることが出来る。それも大きい。

2012年の『平清盛』での歴史論争以来、大河ドラマはただ単に出来が悪いだけではなく、迷走する作品が増えました。

ネットでの叩きを恐れたのか、極端な守りに入ってしまったのです。

日本史のダークサイドは極力避けて、ほのぼのとした守る路線に突入したかのよう。

その象徴的な作品が2013年『八重の桜』でした。

歴史的にみればミスが少なかったにも関わらず、明治維新側を悪役にするのか、会津の人殺し女、残酷な戦闘シーンを流すなと、わけのわからないバッシング記事が出回る始末でした。

それに阿ったのか、あの作品は前半部文句なしの傑作だったにも関わらず、後半迷走しました。

後半になると、八重が会津の義を主張するどころか、薩摩藩士の娘に土下座までしていた『八重の桜』。

何もかもが中途半端、気の抜けたサイダーのようだった『軍師官兵衛』。

今更振り返りたくもない『花燃ゆ』と『西郷どん』。

2016年『真田丸』と2017年『おんな城主 直虎』こそ挑戦的でレベルの高い内容でしたが、大河最後の輝きと将来回想されるかもしれません。

2019年も、明るい材料は大河にはありません。

『いだてん』は、ドラマの出来こそ高いものの、あまりに異色テーマであり、それゆえ暗雲がたちこめているのです。

そこを補うように、コレですよ。

本作ぅ!!

海外配信は、戦略ミスをしません。

大河ドラマのバッシングへの極端な忌避感、日本史を美化するプレッシャー、主人公をともかくよいこちゃんにしろという、そんな縛りはない!

天正遣欧少年使節がテーマとして選ばれているところからも、そんな気配がビンビンに伝わって来ます。

近年のNHKドラマにおけるキリスト教の描写は、惨憺たるものがあります。

宗教という最もデリケートなものでありながら、あまりに無神経。

2013年『八重の桜』は、同志社関係者チェックがあったからよかったものの、2014年『軍師官兵衛』におけるキリシタン描写は、デタラメだらけ。

同年の朝ドラ『花子とアン』では、禁酒が鉄則のメソジスト教であったモデルがいるヒロインを泥酔させる、侮辱極まりない描写。

2015年朝ドラ『あさが来た』のキリスト教描写も間違いだらけでした。

Amazonが日本のNHKが醜態をさらすキリスト教を選んだこと。

これは、海外資本だからきっちりと描ける自信ゆえであると言えますし、日本国外の目を意識しているとも言えるでしょう。

どうしても、日本人初のドラマとなると、

「日本スゴイ!」

「こんな日本史に驚く外国人の皆さん!」

というアプローチになりがちです。

しかし、海外はちがいます。

サムライでしょ、忍者でしょ、というのは勘違い。

彼らの関心はむしろ、

「日本の戦国時代から江戸時代にかけて、キリスト教徒がどれほど残虐に弾圧されたのか?」

「日本で困難にもめげずに布教した宣教師の奮闘」

「日本で女性がどんなふうに扱われていたのか?」

このあたりだったりします。

ともすれば、こういう暗いところのある歴史は、むしろ日本側からは隠蔽したがりますよね。

『沈黙-サイレンス-』のヒットにも、こうした背景があります。

 

しかし、繰り返しますが日本からはなかなか発信したがらない。

正直に言いますと、私もこういうタブーに斬り込んだ日本史ドラマが見たいわけです。

その期待は、ものの見事に裏切られましたし、もう見られないのだろうという絶望感が日に日に募るばかりです。

私のように思う視聴者を救うドラマを、海外が発信する。

これは日本の時代劇、歴史ドラマ、そして大河ドラマにとって、終わりの始まり。

黒船来航です。

吉川晃司さんがこの舞台に立つということ。

これも嬉しくてたまりません。

大河を正面切って批判する、そんな勇気と度胸があり、とびきり素晴らしい役者が、海外で雄飛する。これに心躍らないわけがないのです!

今後、この流れはますます加速します。私はこの流れに喜んで身を投げますとも!

私が見たいのは、大河ドラマじゃないんですよね。

勇気あふれる、日本の歴史を扱ったドラマです。

配信ドラマ、大歓迎ですとも!

次は本作でも注目を浴びていた弥助あたりが、来そうです。

せっかくだからこの勢いで、日本だと踏み込まないアイヌを前面に出した『ゴールデンカムイ』実写版もやっちゃいましょう!

そうガッツポーズをしたいほどです。

さて、話を戻しまして。

「大河ドラマ終了! 新日本史ドラマ、万歳!」

ナゼ、私はこう叫んだのでしょう?

それは、新たな国王を見つけたからです。

新たな国王がいなければ、暗君でもありがたがらねばならないもの。

しかし、もう新たな国王はそこにいるのです。

はい、皆さんもご一緒に!

せーの、

「大河ドラマ終了! 新日本史ドラマ、万歳!」

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

※amazonprimeビデオの視聴はコチラからどうぞ

【参考】
MAGI EPISPDE1

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