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【ドラマ大奥医療編 感想レビュー第14回】
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幕府を喰らい尽くす“怪物”
治済はさらにとんでもないことを定信につきつけます。
大御所になりたい――。
大御所とは、そもそもが隠居した将軍のことだと定信が反論。
日本史ならではの話が出てきましたね。
上皇と天皇。
太閤と関白。
そして大御所と公方。
日本では、こうした二元政治が特色であり、他国ではさほど多くはありません。
政治が二分されて混乱しますし、なまじ地位を認めたらそれにふさわしい行事だの衣食住だの求めてくる。
定信は断固として止めようとします。そもそも何を言っているのかと。
特例を求めてくる治済。
実はそこまで大御所という呼び名が欲しいわけではないのかも、と思えます。ルール違反をぬけぬけと持ち出し、困る相手の顔が見たい。そんな邪悪な欲求を感じます。
それでも定信は要求を跳ね除け、さしものこの怪物も怯んだようで、どうなることやら……と、思ったら結果はすぐに出ました。
老中を罷免されてしまったのです。
家斉はそう言い渡すと、さらにこう来ました。
「我が母を侮ることは、私を侮ること……」
定信は、家斉が自分の心から言っているわけではないと見抜き、そこを果敢に指摘します。
うつむいてしまう家斉。
「母を怒らせても、よいことは一つもない」
怯えながらそう語る家斉。ため息をつきながら苦笑の定信は、この裁定を受け入れるしかないと返します。
そのうえで、一つ忠告を残します。
「このままではいつか、上様もこの国も、あの方に滅ぼされまするぞ!」
この定信の言葉は、幕末編にまたリフレインします。一橋家のことを忘れないでおきましょう。
屠殺される猟犬
「馬鹿なのかしらね、越中は。何度、物言いでしくじればわかるのやら。もう、徳川にはいらぬ人物かもしれぬの」
治済が呆れた様子で語る、その先にいるのは彼女の懐刀といえる武女です。
ふてぶてしいはずの武女が、すっかり怯えている様子。
猛犬が怯え、目をうるませ、今にもキャンキャンと鳴き出しそうな姿にも見えます。
「の?」
治済が笑顔でそう促すと、武女の顔からは一切の気力が尽きたように見えます。
もうそれだけは勘弁して欲しいと、身を伏せて頼み込む武女。
それは隠居願いか?と返す治済。
尼寺に籠り、口をつぐんでいるから、もう殺生だけはしたくないと懇願します。
治済は、人というより、猟犬を惜しむように語ります。
梅毒持ちの男を使い、平賀源内を襲わせた。
御典医を使い、家治と家基を毒殺した。
その手管を褒めています。
むろん指示を出したのは治済自身であり、己の策謀に酔いしれつつ、相手に責任を転嫁するような、邪悪な物言いです。
治済が大事にするものは、獲物を狩る猟犬だけ。それができぬとなれば、どうするのか?
致し方ないと言う主人を前に、武女は怯えた犬の目になっています。
それを見る治済は、この恐怖を楽しんでいます。
鳴き声を楽しみつつ屠殺する。そんな喜びが治済にはあります。
ここで思い出したいのが、シーズン1の加納久通のこと。
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彼女も主君のために、将軍となるうえでの邪魔者を手にかけてきました。
それでも久通はサッパリとした顔でそのことを告げられた。
武女と大きく違うのは、久通には「名君を生み出したい」という志があった。その志を遂げるために、謀略に手を染めた。数人の血で、大勢の民を救った。
そんな邪悪なトロッコ問題のような思考回路が組み立てられました。
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しかし、武女は?
血を流した意味などない。ただただ悪事は虚無へ呑まれてゆく。その虚しさが彼女を殺したのでしょう。
家斉の封じられた記憶
果たして武女は死んだと、家斉は、治済の口から聞かされます。
病死だと言われ、家斉の脳裏に断片的な記憶が蘇ってきました。
まだ家斉が幼いころ、武女の前に、治済が茶碗を置いて飲ませたことを。
これはミステリでもよくある描写です。
人はあまりに辛い記憶があると、蓋をして生きていくことがある。それが何かのはずみで蘇る。治済はそのことを甘くみたのでしょう。
そう閨で考え込む家斉の隣には、御台所の茂姫がいます。
家斉は断片的な記憶をたどっています。幼い頃、家斉が怪我をしたとき、母が笑って茶を勧めたのだと……記憶はそこで途切れてしまいます。
茂姫は、武女の代わりに総取締がくるまで、私が大奥で皆が仲良く過ごせるようにつとめると微笑みます。
島津からやってきた御台
元の名前が篤姫というこの茂姫は、島津重豪の娘にあたります。
幕末へ向かう道すじを考えるうえで重要ですね。
茂姫と家斉は幼くして婚約を交わしていました。それが家基の死により家斉に将軍の座が回ってくると、困ったことになります。
徳川将軍が、大名家、ましてや西国の外様である島津から御台所を迎えるなんて、想定外の事態です。
彼女の父である島津重豪はともかくパワフルで、幕府相手に一歩も退こうとしない。やむなく島津出身の御台所が生まれたことになります。
予想外の結果とはいえ、島津はこれで外様大名でありながら将軍と縁戚という特別な地位を獲得。
そうなれば地位にふさわしいセレブライフにしたい。しかも重豪は蘭癖(蘭学好き)であるため、金がどんどん出ていく。
ただでさえ石高を上方申請していて苦しい薩摩藩の財政は、ますます傾いていきます。
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そんな薩摩藩が収入源として目をつけたのが黒糖です。
近世以降、人類は効率的な甘味の大量摂取に目覚めました。
サトウキビ栽培はそのニーズに一致。
しかし成長して背の高いサトウキビを収穫するのは重労働であり、負担は相当なものです。
穀物の代わりにはならない。おまけに収穫したら搾取される。サトウキビ栽培とは、奴隷貿易の象徴とも言える重労働でした。
中南米のプランテーションの話だけではありません。薩摩藩が奄美大島で展開した「黒糖地獄」も、こうした搾取の一環だったのです。
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そうして得られた魅惑の黒糖はどこへ?
その答えも、今回は出てきます。
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