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【ドラマ大奥医療編 感想レビュー第14回】
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怪物退治が始まった
狩り場から戻った家斉は、茂姫のもとへ向かいます。
目をカッと見開き、我が子に寄り添う茂姫。
「打首に、して」
茂姫は、将軍の子を間引いているあいつを殺せと訴えます。
「あいつとは誰じゃ、御台?」
絶望する茂姫は、我が子を返せ、それができないなら殺せ、上様ならできるはずだと泣きつきます。
この瞬間の茂姫の絶望感は、今でもよく聞くシチュエーションかもしれません。
義母の嫌味や悪虐ぶりを夫に話す妻。しかし夫は「うちの母はそんな人じゃない」と聞く耳を持たない。
そんな悪虐の姑を庇う夫に絶望する妻というのは、よくある話です。
それでも家斉は何もしないわけでもない。
松平定信の元へ向かい、真相究明に乗り出します。母に滅ぼされるという言葉の意味を。
「あの女はの……人の皮を被った化け物じゃ」
世継ぎであった家基を殺し、家治も弑し奉った。それは定信だと思っているものも多いけれども、治済の仕業だと定信は信じています。
ただ、証拠はない。
これも単純な話かもしれません。
二人を殺して利益を得るのは誰か?
動機を探れば出てくるものであり、定信は自分でないと断言できる。ただ、そうなればチャンスだということも知っている。そこから導いたと。
家斉はそこまでするなら、治済が将軍になればいいのでは?と返します。
定信はそこも理解しています。
あの女には志がない――世をよく治め、徳川を守りたい気持ちなぞない。
定信は、道は違えど、田沼もそうだったとは理解できる。けれども、それすらない空虚な女はわからない。
そこまで説明されても、家斉は、孫はかわいいはずだと思いたい。人の心を持つ母だと思いたい。茂姫が言うように孫を殺すなんて、理解できない。
邪魔者を消すなら理解できるけれど、なぜ孫を?
家斉は信じたくないようで、それしかないと思っているようにそう絞り出します。
定信は、言います。
人が悶え苦しむ様を楽しむ趣味のものもいる――。
その瞬間、家斉の記憶が噛み合いました。
幼い家斉に怪我をさせてしまった武女は、命に換えても償うと頭を下げました。すると治済は微笑み、毒を差し出します。
命などいらないけれども、飲んで死ぬか試して、苦しむ様を見るのは面白い。ただの娯楽として武女に毒を飲ませたのです。
「飲め」
歌うように主からそう言われた武女は毒を飲み干し、血を吐きながらのたうち回ります。
治済の目は、あやしいほどに爛々と輝いている――地獄のような光景を思い出し、全てを悟った家斉。
夕日のさす仏間で、治済は位牌を目にしていました。
まるでそれは戦果のよう。誰も位牌の数をおかしいと思わないのか?とつぶやき、誰も聞いてくる者がいないと退屈そうに言います。
「これが天下ってやつみたい」
徳川家の人間を弄ぶように殺しても咎められない。確かにそれは天下人のふるまいかもしれない。
「思ったより退屈」
それはそうでしょう。天下取りの過程が楽しいのは、切磋琢磨し、競い合うから。
血筋を生かし、策謀だけで追い落として権力を握っても、やることは息子を種馬にし、幼子を殺すだけ。
己の命も、志も、賭けていない天下取りが、面白いわけがないのです。
黒木家の来訪者は
そのころ、黒木はやっと帰宅しました。
江戸後期ともなると街はすっかり「時代劇」でおなじみの景色です。伊兵衛と妻の“るい”がいい仲に思え、天水桶の影に隠れるところまで実にそれらしい。
長旅のあと、妻の密通を疑う旦那。ありがちですね。
そんな黒木に、青史郎が「おとっつぁん」と声をかけます。
なぜ私が父だとわかるのかと問いかけると、るいが抱きついてきて何よりの証拠を見せます。
伊兵衛が「おかえり」と余裕をもって語る姿を見て、密通とは考えすぎだと黒木も安心したように見えますね。
黒木は夕食をとりながら、赤面には熊の種でもいいという成果を語ります。
伊兵衛は熊痘(ゆうとう)だとまとめ、源内の天才性に改めて感動しました。
これで青史郎も長生きできる。
伊兵衛はそう言いながら「じゃ、あとは親子水入らずで」と去ろうとします。なんと5年も留守を守ってもらったとか。
天邪鬼な性格で、いいやつなんだなぁ。去り際、俺のガキにも種を分けて欲しいと伊兵衛は言います。
大奥で自分のことばかり考えている人との対比が、そこにはあります。
近代とは、公共の利益や福祉を、民衆まで考えてこそ訪れる――そういう芽生えが江戸にはある。
そうして出ていく伊兵衛が叫びます。何者かがやってきているらしい。
黒木が出ていくと、松方が提灯を手に立っています。カメラワークと照明が素晴らしくて、まさに近代の浮世絵だ。
夜の光景をどう描くのか?ということは、西洋絵画知識を得つつあった江戸後期の浮世絵師が色々と考えていて、そういう絵師が描いたような風情がここにあります。
松方を見た黒木と伊兵衛は、いまさらなんだ!と返す。
すると徳川家斉が出てきて、腰の刀を外して土下座。
赤面を治して欲しいと訴えます。
何気ないようで、スムーズなので、スッと見ていけるけれども、この家斉は所作がなかなか大変だと思います。
刀を外すという動作そのものに馴染みがないし、そこから即座に土下座するのだって大変です。それをこなすこのドラマは盤石だ!
黒木はそう言うならばこれまでのことは知っているのかと、怒りを滲ませる。
それを察知した家斉は、定信や松方から聞いているという。
青沼の名前も出てきました。
黒木は、人痘は難しいことではない、奥医師や国中の漢方医にそう伝えればいいだけだと帰らせようとします。
この口ぶりよ。そんな簡単なことなのに、大変だの、金がかかるだの言う、そういうことを見越しての怒りにも思える。
技術的なことでなく、政治的なことでできなくなったんだろう、悪政のせいだろう、お前らのせいだろう! そう責めているのでしょう。
それでも家斉は諦めない。
そなたらにこそやって欲しいと訴える。
善意というより政治的な話であり、奥医師も、漢方医も、母のもとにいて動かせない。
それでも家斉は、愛するもののために、自分自身のためにやらねばならない。
志を宿した目で、彼は語ります。
「男が女と同じ力を持てる、男とて、女を守れるそんな世に、変えたいのだ!」
そう訴える将軍に、黒木はどう応えるのか?
女君主から男君主への代替わり
女将軍から男将軍へ変わった――このことが重要になってきます。
歴史的に似たような事例が実際にあったかというと、あまりないようで、実はあります。
イングランド王のエリザベス1世から、ジェームズ1世への交代です。
年老いた女王の治世に飽きていたイギリス人は、活発な若い男性君主になることをはじめのうちこそ歓迎しました。
あの婆さんの時代は、なんだかんだで勢いがないもんな。そう思って迎えた壮年の男性王への期待は、すぐに失望へと変わります。
それはなぜか?
国王の性格的な問題もありますが、構造的なものもありました。
・宮廷の生活費増大
老女王一人にかかった費用と比べると、壮年王は一家まとめて面倒を見なくてはいけない。
増える予算と手間に、宮中は悲鳴をあげました。
老女王一人という時代が例外だったとはいえ、それに慣れきっていたのです。
・壮年男性の性欲が脅威に
ジェームズ1世の性格的な問題なのですが、彼はセクハラ王でした。
しかも同性にもちょっかいを出すので、宮中はパニックに陥ります。露出狂じみたことまでしました。
エリザベス1世も浮き名を流したことはあったものの、晩年は静かなものです。
そんな静けさの後に訪れた、壮年男性の性欲そのものが牙を剥いているように思えます。
急激な変化に、宮中は混乱してしまったのです。
家斉の場合、むしろ無気力に思えます。
それでも生殖はできる。どんどん増えていく。そのことそのものが暴力性を帯びてしまう。男性性の持つ毒が流れています。
男性性の毒が、大奥終焉の鍵
定信は、一橋治済が滅ぼしかねないと警告を発しました。
このことは覚えておきたい。
家斉の男性性は毒を持っていない。むしろ母性の毒を治済が発揮します。とはいえ、その治済も男性性の毒を利用しました。男の性的暴行により、源内を梅毒に罹患させ、殺したのです。
幕末になると、毒となる男性性を抱えたものが出てきます。
徳川斉昭です。
梅見の宴で美女を見れば平然と性的暴行を加え、大奥女中を孕ませ、妾にした斉昭。
そんな彼とその最愛の子である慶喜は、幕臣にこう嘆かれました。
「あのお方は精力絶倫で……」
「化物だ!」
「あの親子が幕府を滅ぼしたんだ」
この親子が大奥を迫害し、嫌われたのも確かなこと。大奥をテーマにした作品でよく描かれることは、ありえません。
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キャストも未発表ですが、誰が演じるのか。
この毒となる男性性が大奥終焉につながるという伏線が、だんだんと撒かれてきています。シーズン2はそこにも注目ですね。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考・TOP画像】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)