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【ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第17回】
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薩摩の郷中教育は「解」を見出す
夜伽の時間――胤篤は薩摩藩「郷中教育」の説明を始めました。
“問答”について。
年上の先輩からこう聞かれます。
道の端を歩いていて、ある屋敷にいた武士から唾を吐きかけられたらどげんする?
薩摩ことばでそう問いかける胤篤。
不埒もんの屋敷に押し入って成敗する。もしも、そう答えたとすると、家定は返り討ちにされると言います。
すると胤篤は、他の手を考えねばならないと言います。
「ぐっとこらえて我慢しもす!」
薩摩ことばが混じりつつそう返す家定。すると胤篤は同じことが起こるという。
そこで家定が「次からは道の真ん中を通りもす!」と返すと……よき「解」だと認める胤篤。
こうした対話から、よき「解」を見出すのが薩摩の郷中教育だと彼は語ります。
いわば臨機応変であり、それは現(うつし)に即して考えるとのことです。
西郷や大久保を育てた薩摩の郷中教育とは?泣こかい飛ぼかい泣こよかひっ飛べ!
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家定はすっかり感心。胤篤は家定が賢いという「現(うつし)」により考えを改めたのでした。
これで薩摩は、水戸を介することなく、将軍家と直に手を組む「解」に至った。薩摩の狙いは政に食い込むことであり、その一点が叶えられるのならば……と答えを促す篤胤。
家定は、薩摩が水戸から梯子を外すという狙いに気付きます。
微笑んで認める胤篤。
「はい。そのために私をうまく使って下さいということです」
この会話は、水戸藩と薩摩藩の立ち位置が端的にあらわれていて素晴らしい。幕末史の理解が深まりますね。
水戸藩と長州藩はイデオロギー先行型です。
薩摩藩は立ち回りがうまい。幕府と足並みを揃えていて、それが途中で転換する。その変わり身の速さの根源はどこか。そこまで端的に表しているともいえる。
そうした対応が汚いとか、卑怯とか、許せないとは言われます。しかし、よい方向に出れば過去を一切水に流して、協力して手を貸すスタンスでもあります。
瀧山は御台が妬ましい
身支度をしていた瀧山は、部屋子の仲野が持っている“しゃれた懐紙入れ”に目を留めます。
なんでも御台様の素敵なものを褒めたところ、くださったとのこと。
「御台様?」
何やら懸念の表情を浮かべる瀧山。
胤篤のもとへ行くと、彼は西洋の懐中時計を巻いていました。堂々たる振る舞いに瀧山がちくりと釘を刺します。
薩摩はまことに裕福。密貿易さまさまだと。
江戸幕府の海禁政策により、玄関口は長崎に絞られました。シーズン2の医療編では平賀源内が訪れ浮かれていたものです。
そうしたルールをぬけぬけと破っているのが薩摩藩です。
琉球~清を経由して、西洋のものを手にしてしまう――そんなルール違反を大奥で堂々と見せつけるとはなんということか! と瀧山は苛立っているわけです。
一方、指摘をされた胤篤は、茶目っ気のある少年のような笑みを見せています。
瀧山は仲野の懐紙入れを胤篤に返します。
御台本人ならば目を瞑る。しかし、将軍に仕える大奥の男衆に密貿易の品を下賜してはならん!
そうキッパリ言い切ると、一瞬目を泳がせ考えた胤篤は、交換条件のように「添い寝を遠慮して欲しい」と答えます。
添い寝はしきたりだと瀧山が返しても、それは側室とのことだけだと胤篤は引かない。そもそもは側室が不届きなおねだりをすることから始まったはずだと食い下がります。
瀧山の呆気に取られた顔よ。悔しがる顔が絶品ですね。
財政を立て直したのに一家離散!調所広郷が幕末薩摩で味わった仕打ち
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さっそく瀧山は「隠密がいるはずだ」と阿部正弘に報告。そこまで油断ならぬのか?と言うと、瀧山はこう来ました。
「あの隙のないかわいげのなさは、陰間茶屋でも天下をとりましょうぞ」
本音が出てしまいますね。強敵だぞ、という悔しさが漏れてしまっている。
阿部はその嫉妬を受け流しつつ、上様に相談する折にでも話しておくと返します。
一方の胤篤は、中澤という薩摩の隠密に、襖越しに「首尾よくいった」と告げています。
中澤は中澤で、胤篤の部屋子が入れ替わるから、そこに自分が入れるように図っていると報告。胤篤様の命令は太守様の命――これからもなんなりと申しつけて欲しいとのこと。
「で、徳川の寝首を掻くのはいつごろで?」
と中澤に言われ、「そうだなぁ」と答える胤篤。
この腕を組み、立っている姿と鳴り響く効果音で、彼の心のうちは見えてきます。
寝首を掻くつもりでここにきた。しかし、上様の現(うつし)をみて、その気持ちは変わったのだと。
日本が向き合う西洋列強の思惑
家定立ち会いのもと、阿部と向き合う胤篤。
表の話になるからと立ち去ろうとすると、薩摩は密貿易の達人だろと家定が引き止めます。
これが胤篤の素晴らしさですね。表向きは謙虚で警戒させません。
家定も、公然の秘密として密貿易を持ち出してきました。そこで阿部も堂々と聞ける。
メリケンは再び通商を求めてくるつもりか? だとすれば、留め置いた方が良いことは何か?
胤篤は阿片(アヘン)に対する懸念を口にします。
阿片について、少し詳しく説明しておきますと……清が阿片貿易を拒否した結果、阿片戦争に持ち込まれ大敗を喫してしまいます。
そもそもイギリスはなぜ清に阿片を売りつけたのか?
イギリスでは紅茶ブームが起き、茶葉の輸入が超過しました。それに対し清に「何か買いたいものはないですか?」と持ちかけても、「ない」と返されてしまう。
そこで阿片を売りつけた。
茶葉が欲しいから阿片を売るとは極悪非道。そもそも自分で茶を栽培すればよいではないか? インドでも作っているだろう?
そう思われるかもしれませんが、中国大陸の茶葉である中国種は、インドでは気候的に不可能でした。
インドで栽培可能な茶葉はアッサム種となり、その発見まで時間がかかります。
そう考えてみると、清の前例をふまえた日本の姿勢は、正しいようで足りないところもある。
次に、かなり重要なことを胤篤は言います。
「武器取引は幕府のみとすべきである、水戸藩や攘夷派が勝手に武器を入手すると危険である」
これです。日本が直面する問題の核心に迫っていますね。
日本と清では状況が異なる。
不凍港が欲しいロシアは、すでに樺太へ進出してきている。
蚕が伝染病で壊滅していたフランスは、なんとしても生糸が欲しい。
イギリスとアメリカは、南北戦争終結で余った武器を売りたい。
2013年大河ドラマ『八重の桜』は初回冒頭が南北戦争でした。八重の持つスペンサー銃も、南北戦争で猛威を振るったライフルです。
武器を売りたいとなれば、どうすりゃよいか?
内戦を起こせばよい。
胤篤がこの時点でそこまで踏まえていたかではなく、歴史を考えるうえで伏線になっているといえます。
そしてここでキッパリと、薩摩は水戸とは同調しないと家定は言い切ります。
目を細め、お似合いの二人だと認める阿部。
そのことを瀧山に報告します。阿部は、篤胤が慶喜を断念したことで安心しているのですね。
しかし、瀧山は甘いと食ってかかる。従順に見せかけて懐に入る魂胆ではないか?そう懸念を示しても否定する。
阿部は、家定が頼りにある相手を見つけて欲しいのでしょう。瀧山はそれが妬ましいけれど、阿部は安堵しているのです。
そこで瀧山は「(家定の)頼りになる相手は阿部ではないか」と返すのですが、阿部はそれをあしらいます。なぜなのか?
阿部は病に苦しんでいました。
もう先が長くはないと思えばこそ、自分の死後を考えているのでした。
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