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【ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第17回】
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堀田正睦、痛恨の過ち
しかし、とんでもないことが起きていました。
堀田正睦がアメリカとの交渉で「勅許を得なければならない」と言ってしまった。
「バカか!」
激怒する家定。これでは朝廷の政治介入ができてしまうではないか! そう危機を察知する慧眼を発揮します。
堀田はそこを見落としていました。
では勅許はいつ出るのかというと、京都の公家は猛反発。
条約は結べない。
勅許は降りない。
最悪の袋小路に突っ込んでしまいました。
井伊直弼はこの失策は重要だと言います。
かくして堀田正睦の沙汰を言い渡すと告げた家定は、そのまま倒れてしまうのでした。
未完の明治維新
未完の明治維新――日本の近代化はまだ終わっていないのではないか?
そんな問題提起がよくなされます。
証左としては、坂本龍馬の人気があげられるかと思います。
彼は幕末史きっての人気者。彼が亡くならずにいたら、もっと別の明治時代があったかもしれない。
そうロマンを感じてしまうのは、実際のところ明治政府に関与せずに命を散らした点にあるとも分析できる。
坂本龍馬の思想は彼一人のものでもなく、土佐藩上層部が考えていたことでもある。そういう無念が明治の自由民権運動にも繋がった可能性が指摘される。
ミロのヴィーナスは腕がないからこそ美しいとも言われます。未完成であればこそ、無限の可能性を見出せる、と。
本当に明治時代に満足していれば、それこそ伊藤博文が人気定番であってもよいはず。
実際のところ、明治維新後の日本は一世紀もたず、アジア太平洋戦争で国家ごと崩壊しています。
当然ながら「どこかに過ちがあったのではないか?」という疑念も募る。
それを日露戦争まではよかったのに崩れたとするのが、司馬遼太郎の司馬史観とされています。
明治維新の時点で無理があるとシニカルな見方をするのが、山田風太郎です。
『大奥』はどうか?というと、また別の見方が見えてきます。
日本の近代化は明治維新というやり方でなくてもできたのではないか? 幕政からもっとソフトランディングをして変えられたのではないかと示唆しています。
阿部正弘の夢見た未来
キーパーソンは、今回退場した阿部正弘です。
阿部正弘が抜擢した勝海舟は、坂本龍馬と出会い、彼に国づくりの夢をみた。その坂本龍馬も斃れてしまったけれども、夢は果たしてそこで終わったのでしょうか?
これは『大奥』だけの見方でもなく、阿部の構想こそが近代日本へのグランドデザインであったとみなす意見もあります。
その中身が、今回は明確になりました。
前回の時点で、籠を出て己の力で飛ぶことが示唆されています。
阿部正弘の願いとは、家定だけでなく、天下万民が己の翼で飛ぶ世界だと示されている。
そんな白い鳥のような阿部だけでなく、黒い翼を持つ鳥たちも見えてきます。
井伊直弼――鴉の化身のようなこの人物は、前述の通り籠の中で朽ち果ててゆく運命でした。
それが翼を広げている。彼は単純な悪役でもなく、使命感もあると思いますが、それは次回に考えましょう。
徳川斉昭――我が子を思うがままにしようとし、かわいがるようで羽を切り、自由に飛ぶことを制限し続けました。
胤篤は教育の重要性を語りましたが、ある意味、斉昭は教育の失敗者です。これは彼の子だけの問題でもなく、水戸学を吸収した水戸藩士たちは血で血を洗い、滅びてゆきます。
教育の失敗例として斉昭周辺を再度ふりかえってみると、おそろそしくなってきます。
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そんな斉昭による教育失敗例の最たる人物が慶喜です。
毒親のもとで育てられたせいか、彼は狡猾さを身につけました。
せっかくの聡明さを自己保身にしか用いない下劣さを今後は見ることになるでしょう。
相手を思い合う家定と阿部正弘との対比として、慶喜と勝海舟が見られるかと思います。
今回示された家定と阿部正弘、そして胤篤の抱く夢とは、ごくごく単純でした。
互いを思い合うこと。
教育を受ける機会をもたらすこと。
現実と向き合い、話し合うことで物事を解決すること。
こんなに単純なことなのに、どうして私たちの明治維新はまだ未完で、この夢は叶っていないのか?
そう思えてきて悲しいようで、だからこそ希望もあるような……ここまで深く考えさせるドラマはそうそうないと思えます。
来週が待ち遠しい。素晴らしい傑作です。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考・TOP画像】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)