西南戦争

城山を取り囲む帝国陸軍の要塞/wikipediaより引用

幕末・維新

西郷を美化するなかれ~とにかく悲惨だった「西南戦争」リアルの戦場

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リアルの戦場は悲惨
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戦場では、薬莢、肥料となる牛骨、時計が落ちており、住民はこうしたものを拾っては商人に売り払ったのです。

彼らのことを、単に『タフだなぁ』と笑うことはできないでしょう。

農業も商売も、停滞していたのですから、日頃の作業に従事することもできません。

需要が高まるものもありました。

軍装に使われるメリヤスや、新聞の大量発行に必要となる西洋紙。

戦地では物価が上昇し、ちょっとしたバブル状態も迎えました。

こうした戦争バブルは、日本近現代史を語る上で見逃せないものです。

1894年~の日清戦争で多額の賠償金を得た日本は、戦争バブルを実感しますが、その十年後の日露戦争では一応の勝利としながらも経済面ではアテが外れ、市民の暴動や不満へと繋がりました。

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戦争パンデミック

西南戦争の戦地から離れた人々は、錦絵や新聞を見ては手に汗を握っていた――それは確かなことです。

では、何の被害もなかったか?

というと、実はそうではありません。

幕末から明治にかけて見落とされがちなこととして、パンデミック時代だったことがあげられます。

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世界的に流行したコレラや麻疹は、容赦なく人々の命を奪いました。

屯田兵や入植者が移り住んだ北海道では、彼らの持ち込んだ病が、抵抗力の低いアイヌの人々に流行拡大し、多数の犠牲者を出しております。

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西南戦争も、こうしたパンデミックを引き起こしております。全国から人々が集められるとなると、その中に保菌者がいてもおかしくないわけです。

そんな保菌者がいたであろう戦場で戦った兵士が地元へ帰国し、病気がドンドン広まります。

西南戦争時の官軍兵士/wikipediaより引用

遺体が放置されるだけでも相当危険。

特に、5月頃から戦地となった場所では天然痘の集団感染が確認され、負傷ではなく病に苦しむ兵士も続出しました。

夏になると、コレラの患者も多数確認されるようになってゆきます。

西郷隆盛が自刃する9月には、長崎、鹿児島、横浜でコレラが急速に広まりつつあり、原因不明の嘔吐や下痢症状も猛威をふるいました。

更に戦争から2年後の明治12年(1879年)には、全国的なコレラ大流行が発生します。

こうなったら、もはや勝者も敗者もありません。

官軍の第一旅団長であった野津鎮雄(のづ しずお)少将は、鹿児島でのコレラ流行を目の当たりにしました。

彼の見ている目の前で、親族の女性二人がコレラで死亡。傍らでは、母の死を理解できない幼子が遊んでいました。

さしもの勇将も、あまりのことに胸がつぶれて、足早にその場から去るほかありません。

野津は西南戦争前、同郷の西郷の暴走をみかねて戦争回避に尽くしていた人物です。

その無念がいかばかりであったか。

心中察するにあまりあるものが……。

 

見えなくなる赤い星

西南戦争で苦しんだ兵士、そして民衆の実像を見てゆくと、惨憺たる歴史に思わずため息をつくほかありません。

しかし、奇妙なことがあります。

これほどまでの地獄を出現させた西郷隆盛がほとんど全く責められたりしないことです。

彼に対する英雄視はむしろ大きくなり、その一方で、大久保利通川路利良が責められ、ときには【桐野利秋が暴走したせいで戦争になった】という論調すら見かけます。

おそらくや西郷隆盛が、反政府の星として崇拝されたことが一因でしょう。

中江兆民、内村鑑三はじめ、政府への不満を抱いた人々は、その思想の中で、

「南洲翁すら生きておられれば!」

と、まるで救世主のように西郷を崇拝しておりました。

その理想論こそが「西郷星」伝説でもあります。

ドコか源義経を彷彿とさせるような……西郷隆盛は生きていて、ロシア皇太子とともに来日して国を救う――そんな伝説まで流布されていたほどです。

あるいは

「南洲翁さえ生きていれば、アジア諸国を道徳的に従えることができた」

なんて理想論も見かけます。

明治22年(1889年)。

西郷隆盛は新憲法発布にあわせて名誉が回復され、正三位を追贈されました。

そして明治31年(1898年)、上野公園には銅像が建てられます。

犬を連れて浴衣を着た、どこかノンビリとした「西郷さん」の姿。

夫人の西郷糸子は「ンだども、ンだとも、やどんし(宿主=夫)はこげなお人じゃなかったのに……」と発言したというエピソードがあります。

真偽については諸説ありますが、ともかく明治政府としては銅像を軍服姿にして【軍人・西郷】のイメージを広げたくなかったのでありましょう。

神格化されていく西郷は、あくまで西南戦争を起こした厄介な人物なのです。

 

銅像で無害化された西郷隆盛

彼が生きていたころ持ち合わせていた【戦闘的な人物像】。

それは上野公園に立つ銅像によって、現代の我々には伝わらないよう上書きされてしまいました。

現在、メディア等で用いられる西郷隆盛のイメージは、あの親しみやすい銅像を元としたものがほとんどでしょう。

しかし……。

西郷隆盛没後140年。

明治維新から150周年にあたる2018年。

2018年こそは、あの銅像とは異なる、実像の西郷隆盛に迫るよい区切りとなるはずでした。

西郷を中心とした大河ドラマ『西郷どん』。

1年約40時間の放映枠で、史実に迫る像を示すことができていれば?

それは素晴らしい業績になったはずです。

しかし、肝心の『西郷どん』ときたら、メインのビジュアルイメージが【トランポリンで跳ね上がり、楽しそうに口を開いた西郷隆盛像】というものなんですからどうしようもありません。

あの銅像を悪化させ、戯画化したようなものです。

西郷どんBlueray完全版/amazonより引用

オープニング映像も、子供とじゃれあいながら微笑む西郷。

番宣では、西郷の実像や史実での偉業よりも「男にも女にもモテる」という軽薄なイメージが強調されました。

この大河ドラマにおいて、西郷隆盛の実像に迫ろう!なんて気概が1ミリもなかったことは言うまでもないでしょう。

熊本では、現在に至るまで西南戦争の惨禍が語り継がれています。

西郷の出身地ではなく、巻き込まれた人々の声を伝えることに、何の障害もなかったからです。

1874年の熊本城/wikipediaより引用

しかし繰り返しますように、熊本以外の地域では、西南戦争の惨禍、そして西郷の実像が知られてとは言えない状況です。

死後140年という歳月が流れ、『西郷どん』というあやまちの多いドラマが放映されることで、事態はさらに悪化したかのようにすら思えます。

いつの日か、実像に則した禍々しさも備えた西郷像。

酸鼻(さんび)を極めた西南戦争を描いた作品が映像化される日が来るのでしょうか。

それは随分の先のことになるような気がしてなりません。

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文:小檜山青note

【参考文献】
長野浩典『西南戦争 民衆の記《大義と破壊》』(amazon
猪飼隆明『西南戦争―戦争の大義と動員される民衆 (歴史文化ライブラリー)』(amazon
小川原正道『西南戦争 西郷隆盛と日本最後の内戦 (中公新書)』(amazon

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