国友藤兵衛/wikipediaより引用

江戸時代 べらぼう

江戸のダ・ヴィンチ 国友藤兵衛(一貫斎)鉄砲鍛冶が発明家となり天文学も極める

こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
国友藤兵衛
をクリックお願いします。

 


災い転じて福となした江戸滞在

国友藤兵衛は江戸で様々な金属加工の技術や製品、さらには天文学などに触れる機会を得ました。

彦根藩を通して諸大名に招かれ、新たな武器”弩弓”などの発明もしています。

さらには江戸でオランダの空気銃を知り、これを改良して文政二年(1819年)、独自の『気砲』を制作します。

実に、オランダ製の空気銃より高性能で、最大20連発もできたそうで。

たちまち藤兵衛の空気銃は大名たちの人気の的となり、注文と試射の依頼が殺到します。

中には、一丁35両もの金額で売れた気砲もあったとか。

貨幣制度が複雑だった時代のことなので価値がわかりにくいですが、庶民が武家や商家へ一年奉公して一両稼げるかどうかといった時代です。

つまり35人雇えるような価格で藤兵衛の気砲が買われたということですので、高評のほどがわかりますね。

藤兵衛は多才だったのでしょう。

気砲を作るだけでなく、その扱い方をまとめた『気砲記』も執筆・出版したのです。

やがて、これらの高評は隠居していた松平定信の耳にも届きました。

松平定信/wikipediaより引用

定信は政治の表舞台からは去ったものの、老中時代にやり残した海防政策についてはまだ強く興味を持ち、憂慮もしていたようです。

そこで、海防の要になる銃火器の開発の改良策を書物にまとめるよう、藤兵衛に命じたのでした。

定信の命に従い、藤兵衛は文政元年(1818年)、鉄砲政策のマニュアル本『大小御鉄砲張立製作』を著し、献上します。

翌文政二年(1819年)には加賀藩の前田家にも献上。

しかし、加賀藩は19世紀に入ったあたりから火災や冷害の被害が大きかったこともあってか、なかなかこの本を活かせなかったようです。

 


鉄砲鍛冶の技術が望遠鏡制作に

国友藤兵衛が江戸滞在中に特に強く関心を持ったのが天文学でした。

そして驚くことに、様々な発明をしてきた藤兵衛は、金属加工や研磨技術を駆使して望遠鏡を作ってしまうのです。

確かな技術があったとしても、未経験の物を作り上げるのは至難の業でしょうから、藤兵衛の頭の柔らかさには脱帽してしまいますね。

天保三年(1832年)に反射望遠鏡の製作を始め、五年ほどかけて完成させたのです。

国友一貫斎の望遠鏡/wikipediaより引用

さらにその最中の天保六年(1835年)正月から翌年二月までは独自に太陽を観察し、黒点の存在を発見。

これによって

・黒点は太陽の面上にある温度の低い部分=燃えていない部分

・同じ黒点を見ることは二度とない

・黒点の数は増減する

ことを確かめました。

ヨーロッパにおける黒点の初観測は1828年であり、詳しい記録は残っていませんので、藤兵衛の記録が黒点に関する最古のものといっても過言ではなさそうです。

藤兵衛は、月や木星を観測して詳細な図面も描いており、当時の日本で観測されたものとは思えないような精度だとか。

籐兵衛による月のスケッチ(1836年)/wikipediaより引用

大坂の天文学者・間重新(はざま・しげよし/間重富の子)とも交流があったようで、重新から譲り受けたと思われる資料が国友家に現存しているとのことです。

もう少し、天文学に興味を持つのが早ければ、藤兵衛は天文学者として名を残したのかもしれませんね。

藤兵衛の制作した望遠鏡は四台残っており、火縄銃や気砲などと共に展示されることもあるようです。

機会があれば、ぜひ実物を見てみたいものです。


あわせて読みたい関連記事

飯塚伊賀七
からくり伊賀七こと飯塚伊賀七『べらぼう』時代に和時計やからくりなど次々に開発

続きを見る

平賀源内
ドラマ10大奥・平賀源内は史実でも田沼が重用? 天才本草学者の生涯

続きを見る

前野良沢
「蘭学の化け物」と称された前野良沢『解体新書』翻訳者の知られざる生涯とは?

続きを見る

曲亭馬琴
曲亭馬琴は頑固で偏屈 嫌われ者 そして江戸随一の大作家で日本エンタメの祖なり

続きを見る

鱗形屋孫兵衛
鱗形屋孫兵衛は重三郎の師であり敵であり 江戸の出版界をリードした地本問屋だった

続きを見る

山東京伝
山東京伝は粋でモテモテな江戸っ子文人!江戸後期の人気インフルエンサーだった

続きを見る

長月 七紀・記

【参考】
国友鉄砲ミュージアム(→link
泉秀樹『江戸の未来人列伝 (祥伝社黄金文庫 い 14-1)』(→amazon
中江克己『江戸のスーパー科学者列伝 (宝島SUGOI文庫)』(→amazon
国史大辞典
日本国語大辞典
日本人名大辞典

TOPページへ


 



-江戸時代, べらぼう
-

×