大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、良くも悪くも話題になったのが登場人物のセリフでした。
三谷幸喜さんの脚本らしく、素っ頓狂なトボケがあったり、現代語みたいな言い回しがあって、「思わず笑ってしまう」という受け止め方もされています。
◆ 【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人」第4回「矢のゆくえ」現代語のせりふが醸し出す臨場感(→link)
一方で、あれは時代劇ではない、フザけている、といった声も聞かれるようで。
そこでふと気になったのが「時代劇らしいセリフ」ということ。
実は、このドラマ、登場人物ごとに異なるレベルの言葉遣いがされていて、なかなか興味深い世界観が醸し出されているように思えます。
一体どういうことか?
坂東武者たちの教養などと共に考察していきましょう。
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現代人は当時の言葉を理解できない
2020年大河ドラマ『麒麟がくる』の“衣装”を覚えていらっしゃいますか?
長谷川博己さん演じる明智光秀をはじめ、その他多くの出演者たちが、劇中でかなり「色鮮やかな」和服を着用していました。
特に、細川藤孝と光秀が対峙したシーンなどは、明るいオレンジと鮮やかな黄緑色が画面を彩り、現代にしたってかなり派手に見える程(画像はこちら→link)。
そこに視聴者から「ありえない!」というクレームがついたのです。
困惑したのはドラマの衣装担当でしょう。
実は、あの派手な衣装は、戦国時代の色合いを忠実に再現した結果であり、間違いではありませんでした。
勘違いした方が、根拠なく文句をつけてしまったわけです。
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では、なぜそんなことが起きたのか?
というと、江戸時代以降の落ち着いた色合いが刷り込まれていて、「昔の人はこういう服を着ていたに違いない」と認識されてしまったのでしょう。
こうした勘違いや思い込みは「時代劇のような言い回し」でも当てはまります。
NHKは『タイムスクープハンター』という、当時の言い回しを再現した番組を放映しておりました。
しかし、江戸期や明治期の言葉ならともかく、戦国時代や鎌倉時代となると、字幕なしでは意味がわからない。
現代の視聴者に理解してもらうには、結局のところ、当時の正しい言葉など使えないんですね。
どれだけクラシカルな時代劇口調であろうが、三谷さんの用いる現代口調であろうが、実はどのみち間違い。
それをわかった上で、上手に嘘をつくことが歴史劇脚本のキモでもあるわけです。
語彙力と言い回しに注目を
時代劇のセリフは全部ウソ。発音も言い回しも当時のものではない。
とはいえ実際のドラマでは、いかにもソレっぽい台詞になっていますよね。
そこには最低限のルールもあります。
例えば、以下のように
「これはまさに平家打倒のチャンスですな!」
なんて外来語を入れてしまうのはナシ。
では、北条義時が石橋山の合戦で、こう発言したらどうでしょう?
「山の麓も山中も大庭の兵だらけ……これでは四面楚歌です!」
いかにも正しいように思えますが、不正解。
源頼朝ならまだしも、義時が使う言葉としてはふさわしくありません。
北条義時が頼朝を支え鎌倉幕府を立ち上げ 殺伐とした世で生き残った生涯62年
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なぜか?
京都で育った頼朝ならば「四面楚歌」の由来である『史記』を学んでいてもおかしくはありません。
一方、伊豆の野山で武芸は磨いても、勉学に励む時間が少なかったであろう義時が、この時点で漢籍に目を通しているとは考えにくい。
『鎌倉殿の13人』で用いられていた、コーエーテクモゲームスの3DCGマップを覚えていらっしゃいますか?
あの地図を当時の義時たちが参照できたら、どれだけ助かったことか。
もしも合戦において、敵と味方の兵数が同規模であれば、正確な地図のあるほうが100%負けないぐらいに破壊力があるでしょう。
また『信長の野望』なり『三国志』で遊んでいると、ほぼ必ず武将の能力値が設定されていますが、それこそ精密なマップ以上に欲しいものだったはず。
見栄えが良くて名門出身。しかし、どの程度の強さなのか? 頭は賢いか?
それが見抜けて作戦を任せられたらいいのに!
そんな思いは、歴史的に見て“人類共通の悩み”だったりします。
だからこそ研究も進むのでしょうか、現代では「そうした能力を計る有効的な手段がある」と考えられています。
偏差値でも親の職業でもなく、2020年代に注目を集めている存在。
それが語彙力と言語処理能力です。
三谷さんがどこまで意識されているかお聞きしたいところですが、『鎌倉殿の13人』では、かなり精密な設定と見受けられます。
京都から来てはいるけれど、激情型で策士とは言えない文覚は、繰り返しを用い、脅迫するようなフレーズを多用。実は単純な言い回しをしている。
京都にいた源頼朝やりく(牧の方)は、豊かな知識や語彙力を元にした言い回しを好む。
具体的な「セリフ」から見てみましょう。
一番わかりやすいのが、ドラマ放送後に話題をさらった時政のこれ。
「首ちょんぱじゃねえか!」
この一言だけで、彼が聡明ではない直情型な方であるとわかりますよね。
もっと知略が高い設定であれば、
「立ち上がったところで失敗すれば、討たれてしまうのだ」
ぐらいの落ち着きある言い回しとなっていたでしょう。
たとえ当時の言葉は使えなくても、それっぽいセリフだけで、人物の特性を表すことはできる。
これは何も日本だけではなく、海外にも当てはまります。
例えば、アメリカHBO制作の『ゲーム・オブ・スローンズ』は、イギリス人キャストの比率が高い作品でした。
英国流のアクセントが、アメリカ人には「なんか時代劇っぽい」と思えるからこそ、英国の俳優が起用されたのです。
『鎌倉殿の13人』でも、このアクセントの違いが活用されています。
歌舞伎役者です。
歌舞伎の言い回しは、日本人にとって「時代劇っぽい」と思える典型的な言葉遣いでしょう。
本作は、近年の大河作品でも特に出番が多く、
・北条時政(坂東彌十郎さん)
・北条宗時(片岡愛之助さん)
・文覚(市川猿之助さん)
と、序盤の重要ポジションに配置されました。
時政と宗時の父子は、あまり聡明にも見えず、セリフ回しも直情的。
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それでも、演じる歌舞伎役者さんに威厳や品があるため、それらしく見えてくるのでしょう。
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