べらぼう感想あらすじレビュー

背景は喜多川歌麿『ポッピンを吹く娘』/wikipediaより引用

べらぼう感想あらすじ

『べらぼう』感想あらすじレビュー第20回寝惚けて候 ついに開くは天の岩戸か地獄の釜か

2025/05/27

まぁさんこと朋誠堂喜三二が腎虚の恐怖と向き合いつつ書き上げた青本が、大田南畝『菊寿草』のランキング一位となりました。

極上々吉 『見徳一炊夢』蔦や座

ちなみにこの『菊寿草』は、鱗の旦那が潰れたこともパロディにして書いていて、気取った江戸っ子が手に取るマストアイテム、ゴシップならおまかせの一冊でやんすね。

しかも、愉快痛快な推薦文つきで、まぁさんも春町先生も含めて、仲間でみんな大喜び。

春町先生は、次はいよいよ耕書堂の天下かと、気を引き締める顔になってまして、やっぱり真面目なんだな。

「うちの天下って、まさかぁ!」

否定しながらどこか嬉しそうな蔦重、その様子をニコニコと笑顔で見守る歌麿がいます。

 


地本問屋たち、蔦重の躍進にざわめく

蔦重快進撃の状況を受けて苛立っているのが、地本問屋の連中です。

まるで他に版元はいねぇみてえに蔦屋が巻頭かと歯軋りをしかねない状態。まぁ、鱗の旦那もいなくなったところに蔦重がきたらイラつきますわな。

たかが青本、屋台骨には関わらないと強がり、どうせまぐれ当たりだと誤魔化していると、鶴屋喜右衛門が口を開きます。

「……だといいんですが」

西村屋与八は気にしすぎだと取り合っておりません。錦絵で一矢報いてやると、何やら確信があるようです。

鶴喜がそれに礼を言いながら、それでも釘を差すことを忘れません。

「錦絵もいいですが、『細見』を大事にしてください」

今は、市中でも『細見』を出していることが何よりも大事だとさらに念押しするのです。

元文5年に発行された『吉原細見』/wikipediaより引用

他の地本問屋たちは大田南畝のランキングに興味津々……ってのも当たり前のことですね。

彼らも本屋です。ランキング1位になるような本を店頭に置かないで何が本屋なのか。客にしたってそれを目当てに店にやってくるわけで、岩戸屋源八が悔しそうに吐き捨てます。

「ありえねぇよなぁ。本屋の棚に今一番評判の本がねえなんてな!」

そりゃそうです。落胆した客が二度と足を運ばなくなったら最悪の展開。可視化できない損失がジワジワと発生している可能性は否定できませんね。

大体お前らもよぉ「青本の売り上げなんてどうということない……」って、そんな悠長なこと言ってる場合なのか? 書物問屋みてえにお堅い定番の売れ筋を扱ってねえだろ!

ここでちょっとおさらいでも。

書物問屋は仏典、経典、四書五経、漢籍、辞書、学術書の類を扱います。須原屋市兵衛の領分です。

これは必需品とみなされていて、株を買うことで仲間入りでき、それなりにルールもありました。

一方、地本問屋は、雑誌やゴシップの類を扱ういわばB級ビジネスでやんす。

株もまだないし、ルールよりも空気を読む業種ですから、そんな地本問屋がトレンド一位の本を扱わないなんてマヌケにも程がある話なんですね。

 


一橋豊千代が世継ぎとなる

さて、そのころ将軍周辺では、徳川家基の代わりに一橋治済の子・豊千代を世継ぎにする話が進んでいます。

そのことを治済に報告する田沼意次です。

実子相続はあきらめ、一橋家の豊千代と、田安家の種姫の縁組で進めたい――そんな家治の意向を伝えます。

「今日は少し硬いではないか」

治済がリラックスするように言うと、意次が苦笑しながら「お役目できている」と返します。

スペアを出す一橋の役目を理解していると返し、引き受けると答える治済。

しかし、豊千代にはすでに縁組をした薩摩の茂姫がいるとも付け加えます。

少々困った顔を浮かべた意次が続けます。その縁組はいったん無しにしていただき、茂姫は御台所ではなく、側室にして奥にお入りいただきたい。

すると治済はあっさり「島津にそう伝えておく」と返答するのでした。これを素直に受け取ってよいものか……。

徳川治済(一橋治済)/wikipediaより引用

 

大田南畝先生は泰平の江戸に住まう

蔦屋重三郎が、『菊寿草』の作者かつ幕臣でもある大田南畝のもとを訪ねます。

畳が焼けていて、いかにも金がない様子の自宅。蔦重が、ギャラで釣れる文人の臭いを嗅ぎつけております。同行している須原屋市兵衛は「どうだろう、まぁ」と返す。

実は若き天才少年「寝惚先生」として大田南畝がデビューを飾った際、その原稿を激賞した一人がこの須原屋市兵衛でした。

須原屋市兵衛、平賀源内、平秩東作、そして大田南畝と、江戸文人ネットワークが繋がっている。

ですんで、ここで市兵衛が「喜三二先生のようなご身分ではない」と言うのは、いろんな意味が伺えるところでもあるんですな。

くれよくれ
金はおくれよ
ホーホケキョ

くれ竹の
世の人並みに松立てて
破れ障子に
春は来にけり

すると、外から声が聞こえてきました。破れた障子からは梅の枝が差し込まれます。

襟を正した蔦重が、南畝先生に挨拶をします。

障子の向こう側からは、あどけない子どもの泣き声が聞こえてきました。破顔一笑して、我が子を抱いた南畝が障子を開けて顔を見せます。

「おう、びっくりしたか、定吉!」

子供をあやしながら高らかに笑う南畝。

鳥文斎栄之が描いた大田南畝/wikipediaより引用

だいぶ先のことを言いますと、南畝はなかなか隠居できねえんです。

なぜかというと、この定吉が心を病んで出仕できなくなり、代わりに父として勤めねばならなかったわけでして。そんな未来を予見して暗い気持ちになっているのもなんですんで、皆さんにもお裾分け。

南畝と向き合った蔦重が確認します。

「お母上様と御新造様はおでかけで?」

ここで思い出した江戸の川柳があります。

煤掃(すすはらい)孔明は子を抱いて居る

大掃除のとき、関羽や張飛は頑張って汗をかいているのに、諸葛亮は子どもを抱いているだけじゃねえか。そんなツッコミセンスですな。

子守は楽でもないし、甘く見てはいけません。

そうはいってもこの南畝の場合、母も妻も何か働いていて、彼はぼーっとしているように思えなくもありません。

南畝は他に誰もいないところへ来客があったことを「めでてえこって」と喜んでいる。お土産の“棒状の煎餅”を独り占めできるのが嬉しいそうで、どんだけ腹減ってんだ。

 


嗚呼、江戸は、この世はめでたい

「世に吉原があるたぁ、まぁ、めでてぇねぇ」

江戸っ子らしく、しみじみと言う南畝。蔦重は畳が焼けていることを指摘します。

「十年欠かさず陽は昇り、十年欠かさず日は暮れた。めでてぇこったの太平楽」

そう返されます。なるほどね。考えてみりゃ、地震や火事がありゃ畳は変わっているわけでしてね。

「障子が破れておりやすが」

「穴の向こうにゃ富士が見える。あなあなあなあな穴めでたし」

蔦重は笑って「なんでもかんでもめでてぇんですか」と言います。

「そうよ。了見しとつでなんでもめでたくなるものよ」

「ひとつ」を「しとつ」と江戸っ子らしく言う南畝先生。いやあ、江戸っ子オブ江戸っ子っすわ!

なんでもめでてぇ。太平の世。これが江戸っ子のセンスなんですね。

田沼意次と平賀源内との対話でも「誰も戦のやり方を覚えておらぬ」とありました。

さらに遡りまして、同じ制作チームの『麒麟がくる』があります。光秀は戦のない世の中を熱望し、それを作り上げることが最終目標でした。

明智光秀/wikipediaより引用

そんな麒麟到来の後の世がこの江戸です。

何事もなくノホホンとしていられることそのものが「あ、めでてぇな!」と浮かれ騒いでこそ、江戸っ子でしょう。

それを察知した蔦重は、なんでもかんでも「めでてえ」と寿(ことほ)ぐお江戸案内を書けないか?と持ちかけます。

南畝は「ああ、いいねぇ」と快諾。やりたいものがあるか?と問われると「今なら狂歌」と返します。

さきほどの「くれ竹の」がそうなんだとか。定吉を抱いている須原屋市兵衛も「近頃やる人が増えた、その会も増えた」と付け加え、南畝が畳み掛けます。

「一度覗きに来るか? 狂歌の会」

「行かないでか!」

引き受ける蔦重です。

ちなみに寝惚先生が天才少年としてデビューを果たしたのは「狂詩」で、漢詩のパロディでした。

「狂歌」はそれよりもハードルがだいぶ下がり、参加者も増えているわけですな。

実はちっとおもしれぇ現象があるんです。

若い中国人の間で俳句が少しばかり流行っているんだってよ。

漢詩はルールが多すぎてどうにもうまくいかない。ACGN(アニメーションAnime・漫画Comic・ゲームGame・小説Novel)を愛好する若者は、詠み易い俳句に向かうんだそうで。

日本語も受験科目として点がとりやすいということもあってか、なかなか人気。

日本後選択でACGNが好きな人は俳句を嗜むってことですな。まさかこんなことで現代社会と江戸時代が繋がるとは驚きやしたぜ。

 

岩戸屋、本を仕入れに蔦重のもとへ来る

蔦重が耕書堂に戻り、大田南畝を訪問したことを聞いたりつが「狂歌は読み捨てだ」と言っています。

いわばおふざけチャットログのようなモンで、わざわざ残すようなものではない。

その場のノリであり本にするもんでもないと、りつは懸念しています。

すると歌麿が、喜三二先生の『見徳』を百部擦り増しするか?と聞いてきます。その売れ行きに驚く蔦重。歌麿はしみじみと幸せそうですね。

するとそこへ地本問屋の岩戸屋がやってきます。

驚きながらも受け入れる蔦重。なんでも『細見』を仕入れているそうで、今日は『見徳』も欲しいと切り出しました。頼まれている分もあって50部必要だそうで……一気に来たねぇ!

画像はイメージです(地本問屋の様子/国立国会図書館蔵)

しかし蔦重は、うちの本を仕入れてよいのかと戸惑っています。

「大事ねえと思うんだよなぁ。『見徳』は言い訳が立つから」

岩戸屋曰く、今年一番の本を置いてねえってなぁ、本屋としてまずい。そう言い訳ができると。蔦重も注目します。

「言い訳さえ立てば……」

これだよ、これぞ坂東だぜ。『鎌倉殿の13人』を思い出してみなせぇ。

物語が始まった時点では、坂東武者はみんな原則として平家に逆らっちゃいけなかった。それを源頼朝を言い訳に立てて、北条としちゃ娘婿ってんで源氏を押し立てた。

そうしたらバタバタと源氏についちまった。そういう状況が起きるってことだ。

 

清長の絵で描いて欲しいニーズ

小泉忠五郎が『細見』の改(あらため)作業を進めています。

するとそこへ西村屋与八がやってきて、改をやめさせると引っ張っていきます。

西与がいかにも裕福そうな若旦那に持ち込んでいるのは『雛形若菜』です。

磯田湖竜斎の後任に鳥居清長を迎え、ますますパワーアップしているんだそうで、清長の絵をうっとりと若旦那が眺めていると、

鳥居清長『雛形若菜の初模様 大文字屋内まいずみ』/wikipediaより引用

横の女郎が「主さん」と甘えるように声をかけます。

「わっち、載りとうおす」

「こりゃ、やらねえわけにはいかないねぇ」

かくして商談成立。浮世絵と当時の美的感覚でも補足させていただきますと……。

明治になると、高橋由一が油絵『花魁』を描きました。

『花魁』高橋由一/wikipediaより引用

リアルでそっくりで喜ばれるかと思ったら、モデルの花魁は泣き出したそうです。

それはなぜか?

浮世絵のように理想的に美化されていなかったからだそうです。

今だってアニメや漫画風のイラストならば、目が大きくて中に星が煌めくような絵柄になったりするでしょう。リアリティよりもああいう独特の二次元センスが重要ってことですね。

萌えイラストになるかと思っていたのに、リアルテイストで描かれたら、泣いちゃうわけですよ。

リアリティとは、浮世絵に求められるようで、そうではないのかもしれない。

例えば歌川国芳は『誠忠義士肖像』という西洋画の技法を取り入れた赤穂義士を描いておりやす。

歌川国芳『誠忠義士肖像』/wikipediaより引用

しかし人気が出ずに打ち切りになりました。

リアリティよりも、理想が大事――これが浮世絵に求められる美的感覚なのでしょう。このことは東洲斎写楽を描く上で重要な点になりそうです。

てなわけで、女郎が清長に描いて欲しいのは、現実の己よりも美しい絵になりたいという、切実な願いなのでしょう。

現代人からすりゃわかりにくいかもしれねえが、当時の江戸っ子からすりゃ夢のように美しかったわけでさ。

蔦重はりつと何事か相談中。そして歌麿に声をかけます。

歌麿は一心不乱に絵を描いています。染谷将太さんは朝ドラ『なつぞら』でも、一点集中するアニメーターの演技が素晴らしかったものでした。今回も絵師らしさがあふれていますね。

「清長そっくりに描いて欲しい」

蔦重としては、ただ似ているを超えて、清長そのものに見えるように描いて欲しいのだとか。

「やれってんならやってみるけど、そんなことしてどうすんの?」

不思議がる歌麿。蔦重には秘策があるようですぜ。

「本屋がうちの本を仕入れる言い訳が立つようにしてやんだよ」

 

蘭癖大名、島津重豪

田沼意次が困惑しています。

家治によると「薩摩の茂姫は御台所でなければ申し訳が立たぬ」として島津が不服を申し立ててきたそうです。

どなたに対して申し訳が立たないのか?というと浄岸院だそうで。俗名は竹姫で、彼女の遺言だそうです。

家治は困惑し、意次も「そうきたか」と言わんばかりに呆れ果てるしかない。

この浄岸院は徳川吉宗最愛の養女であると稲荷ナビが補足説明します。

彼女は二度も婚約者に先立たれ、やっと島津に嫁いだ苦労人でした。吉宗の情愛が深かったのか、苦労を重ねた彼女を殊のほか気にかけ、最愛の女性とも言われたとか。

そこで意次が治済の真意を確認しにいったのでしょう。治済が「島津が納得しない」と詫びています。

浄岸院は島津重豪の祖母に当たります。

意次は御養子選びは私の役目だと言うと、「久しいのう」と島津の殿様・島津重豪が登場しました。

島津重豪/wikipediaより引用

田沼時代の殿様は個性派揃いで、その中でも重豪はなかなかのキャラクターですね。

ガラスに入れた葡萄酒を差し出してきます。オランダ商館長である「カピタン」に頼んだそうで、オランダ語で何かを話しながら葡萄酒を勧めてきました。

重豪は「蘭癖大名」です。

江戸中期から幕末にかけて、幾人も出てきたオランダ好きのお殿様を指し、傾向としてこういうお殿様が上にいると人材発掘が進みます。

治済がそのまま飲むと、すかさず重豪が「また、くるくるなさらず!」とたしなめます。スワリングですな。

治済によると、重豪は蘭学を学べる場まで作ったそうで、造士館でごわすな。

「蘭癖にもほどがあると家中から責められておりますがな。これより先は西洋の知を学び、徒(いたずら)に銀を吸い上げられるだけの国より脱するが肝要!……と、それがしは考えておりますものでな」

そう言い切る重豪。そこは意次の意向とも一致しますので、理論展開をしたいところでしょうが、今回はともかく「将軍の御台様は宮家もしくは五摂家の姫が習わし」だと主張。

それは種姫も同じだと重豪が答え、意次が母の宝蓮院が近衛家出身だと反論します。「五摂家の出」とみなせなくもないというのが家治の考えです。

治済はワイングラスを回し、重豪はため息をつきます。重豪は田沼殿にとって種姫を御台とすることの意義がわからぬと困惑しております。

というのも、種姫の後ろ盾は白河藩の松平定信です。アンチ田沼ではないか?というわけです。

それは認めつつ、意次はあくまで上様の望みを叶えたいと言います。

スワリングもする間もないまま、ワインを飲み干す意次。

さて、このワインもちょっと覚えておきやしょう。今回はカピタンからの輸入品ですが、日本産ワインは江戸時代初期、17世紀初頭の寛永年間にも記録が残されておりやす。

喜多川歌麿『教訓親の目鑑 俗ニ云ばくれん』/wikipediaより引用

 

一橋治済の陰謀が幕末まで祟る

「あれは相当、心揺れておったのう」

意次が去ると、さも愉快そうに治済は言います。

「何度も申し上げますが、私は側室でも構わぬのですぞ」

そう返す重豪。御台所にこだわっているというのは治済の意向でしたか。それにしても、なぜそんな無理筋を通すのかと重豪も訝しんでいます。そこまで田安家を排除したいのか……。

「楽しみじゃのう」

ワイングラスを透かしてみる治済。

治済にしてみれば、後世のことなど知ったこっちゃないのかもしれませんが、結果的にこの縁組が効いてきます。薩摩は将軍家との縁組があることが強みとなり、重豪は「下馬将軍」と言われたほど。

重豪の蘭癖も重要ですので、少々『逆賊の幕臣』の予習でもさせていただきますと……劇中での重豪の指摘はその通り。

世界史目線で見ますと、江戸時代前半までは北東アジアの方が豊かであり、清は世界のGDP3割を占めたとされます。そこで、このままでは貿易赤字になると懸念した西洋諸国が、植民地から吸い上げ、他国へ輸出し、均衡が崩れました。

江戸幕府が海禁政策をしていたのは、近世における北東アジア全体の傾向と言えます。豊臣 秀吉による、文禄・慶長の役の報復をされることも念頭にありました。

しかし『べらぼう』の時代もなると、世界情勢が変わってきます。金銀の採掘量が減少し、輸入超過で財政が厳しくなってきたのです。

対清貿易でもこれを是正しようとしているのに、そこへ西洋との取引が加わったらどうなるのか。

西洋諸国は貿易で富を吸い上げている。巻き込まれてはならぬ、として海禁政策を維持する方向へ向かいます。

しかし、そうした先延ばしにも限界はありました。

島津重豪は、幕末の名君とされる島津斉彬のロールモデルとされます。今回の劇中では、輸入ワインを飲んでいましたが、斉彬の代になると、蒸留酒の焼酎をサツマイモから作り、科学技術を進歩させています。

島津斉彬/wikipediaより引用

ガラスも薩摩切子を造らせ、輸出に備えました。

周囲の者たちが重豪に文句を言うのも仕方ないといえます。なにせ莫大な金がかかる。斉彬はそんな重豪の再来とみなされたからこそ、藩主の就任に警戒された面があるわけですね。

薩摩は強く開明的でしたが、同時に将軍との縁組を自慢するほど幕府に近い存在でもありました。

しかし、それをぶち壊すのが徳川慶喜です。

『青天を衝け』では島津久光を怒らせる場面を「快なり〜」と爽やかに演出していましたが、あれは最低最悪のオウンゴールだったのです。

『逆賊の幕臣』ではまともに描かれることを願います。小栗忠順が主役ですと、京都政局は重視されない可能性はありますが、慶喜のやらかしから目を逸らすことはできないはず。

 

その恨みは田沼意次へ向かう

治済の狙いが見えてきます。

知保と宝蓮院が「田沼の仕業だ!」と怒りを燃やしているのです。

そこには毒の調合を得意とする、どこか怪しげな大崎という女もおります。疑いを焚き付けているのでしょう。

「田沼様が一橋を抱き込み、島津より異議申し立てを起こさせたのではないか」

宝蓮院とすれば、前例のある「田安外し」になる。知保はさらなる疑惑が燻ることでしょう。

一方で高岳は、意次に宝蓮院の書状を見せています。実のところは白河様こと松平定信が書いたものだと彼女は指摘しますが……。

松平定信/wikipediaより引用

松平定信が白河へ養子に出された件。

西の丸様こと家基の急死。

松平武元の死。

豊千代が養子になった件。

今回、島津が茂姫を御台所にするよう主張した件。

全て田沼意次のせいだと彼は疑念を抱いているのです。実際には治済の画策です。

意次は高岳に、大奥の選択をつきつけます。

種姫か? 茂姫か? どちらが御台所にふさわしいのか?

「大奥として、でございますか」

高岳はそう確認するのでした。

その夜、意次はワインを手にしてじっと考え込んでいます。

 

なんとあの半額でできる『雛形若葉』

吉原では蔦重が歌麿に描かせた絵を尾張屋彦次郎が見ております。

鳥居清長『十体画風俗 武家の娘と犬』/wikipediaより引用

このクオリティで入銀は『雛形若菜』の半値で済む。同じ清長なのにどういうことか?というと蔦重が種明かしをします。

「実はこいつが描いてんでさ」

歌麿を推してくる蔦重に尾張屋は驚いています。画風はお手のもの。かつ無名なので安くできる。

尾張屋はどっからどう見ても清長だと感心しております。

蔦重は、そんなジェネリック清長は何者かと評判も見込めると言います。しかし、背後の歌麿は少し納得できていないような顔にも見えます。

かくして廉価版『雛形若菜』こと『雛形若“葉”』のセールスが展開されるわけですが、蔦重の手掛ける本は吉原の外には流れないのでは?と尾張屋が懸念。

「そのあたりも年明けまでにはなんとかできますかと」

りつが念押しして、まずは一名様の売上成立!

ちなみにこのジェネリック戦術は浮世絵の定番とも言えます。一人のスターが現れたら、そのフォローをして売れ筋が定番化されてゆく。

歌川豊国と弟子の国貞がそうですね。そこを自分なりのアレンジを利かせていく絵師がいたり、販売戦術を練る版元やスポンサーもいるわけでさ。

直後に、西村屋与八が『雛形若菜』を売り込んでも、断られることが増えたという場面が入ります。

どういうことかと困惑する西与。すでに5件目のキャンセルが入り、入銀が高すぎるのかと忠五郎も困惑しています。

するとそこへ忠七が、呉服屋の手代から手に入れたという絵を手にしてきます。

『雛型若葉』です。

蔦重による、なかなか汚ねえ潰し戦術が知られることになりました。

キレた西与は耕書堂へ乗り込んでゆく。

初代西村屋与八/wikipediaより引用

「おい! 随分汚い真似してくれるじゃないか、ええっ?」

「ほんとありがとうございます。汚ねえやり方もありだって教えてくれたのは、西村屋さんですから」

しれっと返す蔦重。西与は悔しそうに『雛型若葉』の滑り出しは『雛形若菜』あってのことだと言います。自分が潰さず育てた『雛形若菜』に便乗していると嫌味を言ってきたわけだ。

そこを認めつつ、だからこそ己の力で作るのだと蔦重は言い切ります。

「けどね、錦絵商いってなァ、お前が思うほど甘くないからね」

そう吐き捨てる西与。錦絵にばかり気が入っているとニンマリするのでした。

西与が店に戻ると、忠五郎が嘆いています。

今回の『細見』は直しが多い。奇妙に思い確かめて調べてたところ、『吉原細見 嗚呼御江戸』時点で女郎の名前を教えられていたんだとか。そりゃねえぜ!

既に在籍していない女郎の情報ばかりを手に入れては、意味がないわけです。

結局、西与は、7月予定の『細見』を断念することになりました。

鶴屋喜右衛門にその件を報告しながら『雛形若菜』を潰されちまったと言い訳をします。なんでもそちらが本丸なんだそうで。

鶴喜としては『細見』を断念するわけにはいかない。そこで、自分が請け負うと申し出て、改(あらため)の進行状況を確認すると、そこで半分ぐらいやり直しが出るとの真相を告げられます。

これはもう、休みにしねえとどうしようもない。

鶴喜は苛立ちを抑えつつ『細見』を大事にするようお願いしたはずだと苦しげな表情を浮かべるしかありません。

 

岩戸屋源八の叛乱

蔦重が恋川春町の新作を読んでいます。

りつは『雛形若菜』の売り上げが激減し、次で終わりじゃないかと噂になっていると続ける。

そして『細見』のことを聞かれると、どうやら西与は発注もかけていないと蔦重。こいつは完勝ですね。

りつも歌丸も嬉しそうな表情を浮かべ、蔦重は「頼みますよ、岩戸屋さん」と何やら含みの入った言葉を発します。

さて、その岩戸屋源八は地本問屋の集まりで、不満をぶちまけていました。

どこから『細見』を仕入れたらよいのか!

西与は今回だけの辛抱だと開き直っているものの、岩源はもううんざりだと跳ね返す。

蔦屋なんていずれ潰れる、潰すと言ってきたのに、そうはならない。むしろ勢いは増すばかり。そろそろ蔦重との取引を認めてもらいたいと言い出しました。

なんだろうね、こりゃ大庭景親が源頼朝に降ったあたりみてえじゃねえか。蔦重がもちろん頼朝だぜ。

「でなきゃあ……」

ここで膝を叩いて、一斉に立ち上がる本屋たち。

画像はイメージです(地本問屋の様子/国立国会図書館蔵)

すると鶴屋喜右衛門が立ち上がり、宣言します。

「認めます。店の売上に関わるといわれりゃ、認めぬわけにはいかぬでしょう」

「蔦屋の本を入れてえから嘘を言ってんだよ」

そう強がるものもいますが、鶴喜はなにやら理解している様子。

「鶴屋さんが、それでってんなら……」

かくしてみなが靡いてゆき、岩源はやってのけました。堂々仕入れるってよ。岩源はさしずめ頼朝を見逃した梶原景時ってことかい?

「これを受け入れねば、あの連中は抜けるつもりだったのだろう」

地本問屋は株がないぶん締まりがない。で、そんなことになれば蔦重が頭となって、新たな仲間が作られてしまう。それが最悪の筋書きだと鶴喜は見抜いているのです。

そうそう、こういうのは町の住所のようなモンでなく、人脈で形成されるとなかなか厳しいんですね。

そして地本問屋の集団がこうもグラグラしているのは、『御成敗式目』制定前の坂東武者の如し。というわけで、ルール制定も後半の見どころでしょう。

ただし、鎌倉幕府は北条泰時が作る、つまり坂東武者のトップが作ります。地本問屋は幕府側が制定するという違いがあります。

ともかく今は蔦重がグイグイ伸びている。

耕書堂では見事な働きをした岩源が、蔦重からタダで本をもらっていました。協力に対するお礼ですね。こりゃ自主的に見せかけたようで半分仕込みってこったね。

念願かなった蔦重としては数十冊の本ぐらいお安いご用でしょう。さらには岩源に、恋川春町新作『無益委記(むだいき)』を渡します。

前回放送で皆でアイデアを出し合って作った「お江戸SF」ですね。

このお江戸SFも今に活かせるかも。中国では『三体』はじめ歴史と組み合わせたSFがヒットしてますんで、日本史ものが読んでみてえんですよね。。

岩源はこれを手にすると、ウケるとピンときたのか、さっそく30部の注文。いいセールスだねえ。

岩源についてきた地本問屋は続々と注文を入れてゆきました。

 

蔦重と鶴喜の対峙

次郎兵衛は売り上げに驚いています。

「市中の釜が開くとこんなになるんだねえ」

「地獄の釜みてえに言わねえでくれます」

すかさず蔦重がつっこみ、これで市中の本屋に認められたのか、と、りつが念押しすると、岩源の話ならそうなる――そう言いながら蔦重もどこか断言できません。

そこで、自ら乗り込んでみることにしました。

蔦屋重三郎/wikipediaより引用

「どうも、鶴屋さん」

「これはこれは……何の御用でしょうか、蔦屋さん」

真正面から向き合う二人。蔦重は『細見』を渡し、仲間に認められた礼を言います。

「何か……勘違いされていませんか?」

市中は取引をするけれど、うちがするかどうかは別と断る鶴喜。

「私は、蔦屋さんが作る本など、何一つ、欲しくはない」

「わかりました。鶴屋さんが取引したいと思えるような本を作るべく、精進します」

「ぜひ、楽しみにしています」

そうそつなく返す蔦重。かくして話は終わりました。

鶴喜が仏頂面をしていると、北尾政演が襖を開けて顔を出します。

「あのぉ〜今の蔦重ですよね。へへっ、仲直りしたんですか?」

「……京伝先生。ひとつ本気で、戯作をやってみませんか?」

そう切り出してきましたぜ。

戯作者としての“山東京伝”始動ですね。

春町先生ほど真面目じゃないから潰されねえし、万事洒落てる鶴喜好みのインフルエンサー気質だ。こりゃえれぇことになるぜ!

 

二人の女の恨みが募る

大奥で高岳があのワインを楽しんでいると、宝蓮院が乗り込んできました。

「ひと言もなく姫の縁組が決まったとは!」

高岳は動じず、種姫は田安家の生まれとはいえ今は家治の養女だと返します。

宝蓮院は上様の意向を確かめようとすると、高岳は返します。

「嫁ぎ先は吉宗公の故郷、紀州徳川家。田安の姫様にとってこれ以上の嫁ぎ先はなかろう……と、仰せにございます」

高岳からワインを勧められ、激怒し去ってゆく宝蓮院。

西の丸から連れ出される知保の絶叫も聞こえてきます。

『千代田之大奥 元旦二度目之御飯』楊洲周延・作/wikipediaより引用

知保は新たな将軍養母にもなれず、西の丸には豊千代の生母が入るのだとか。そのことを大崎がハキハキと説明し、その指示は田沼意次だとも付け加えます。

「私は西の丸におるのじゃ、ああ〜!」

そんな悲鳴を聞きつつ、宝蓮院はつぶやきます。

「田沼……いつか天罰がくだろうぞ」

宝蓮院と知保の策は砕け散ったわけで、豊千代が家治の養子として西の丸に入りました。

宝蓮院が田沼意次を憎む理由はあります。一橋の家老として、田沼意致が西の丸に入ったのです。

田沼憎しが高まっていることに家治は気づかず、世継ぎの問題も終わり、あとは田沼意次が羽を伸ばして政策を実現することだと言い切ります。

そのためにはこれもよい……ということは田沼意次の意向も入った人事ということになりますな。

徳川家治/wikipediaより引用

誰が将軍になろうとゆるがぬ政治をすると気を引き締める意次。

「そのためには余も使え」と家治はいうわけですが……募る恨みが気になるところです。

 

狂歌の会へ参加しよう

蔦重が狂歌の会にいます。

平賀源内と親しかった平秩東作も同席しており、そこで声をかけられると何か含みがあるように「まぁ、な」と返してきます。

演じる人物の実年齢と役者が一致しない大河あるある現象で、最も弊害が大きいのは平秩東作かもしれませんね。彼は平賀源内の2歳上なんです。

かくして始まった狂歌の会。

意外とちゃんとしてて高級感もあり、剃髪した隠居姿の男が重々しく座っております。

蔦重が次郎兵衛に「和歌との違い」を説明します。

狂歌は、和歌の言葉である「雅語」を使うけれど、狂歌は普段使う言葉で詠んでよい。

古典といっても平安文学と江戸文学は異なりまさぁ。大河でいうと『光る君へ』が和歌。んで『べらぼう』が狂歌ってことだぜ。

会主こと元木網(もとのもくあみ)がいます。実は過去に風呂屋の主人として出てきましたが、今は剃髪し隠居。狂歌三昧なんですな。

元木網/国立国会図書館蔵

ここで狂歌を詠む時の号「狂名」も出てきますが、基本的にしょうもねえんすよ。

お題は「鰻に寄せる恋」です。

これも江戸らしいんでさ。鰻は昔から食べてっけど、今のような蒲焼は醤油と味醂ができてからのもんで、江戸を代表するグルメです。

わが恋は
鰻の見えぬ
桶のうちの
ぬらぬらふらふら
乾く間もなし

朱楽菅江(あけらかんこう)の歌ですぜ。

山東京伝が描いた朱楽菅江/国立国会図書館蔵

すると女性狂歌師の知恵内子(ちえのないし)が、判者こと四方赤良(よものあから)を紹介します。

大田南畝です。

この歌はどのような恋なのかとコメントする判者。

鰻のおらぬ桶をみて、好物もいないし、愛しい女も去ってしまった。それで乾く間もない涙で濡れ、彷徨い歩く男心だそうで。

赤良先生は、ふらふらよりも「むらむら」としてはどうかと評します。朱楽菅江は返します。

「むらむらに、ございますか」

「うむ。鰻はやはり、むらむらありたい」

「では、むらむらで。御指南、かたじけのうございます」

なんてくだらねえやり取りなんだ。

さて、次。

恋やせに
良しとはいわまろ
あじな気にさせる匂いも……

しょうもねえ会は続いてんでさ。こりゃ確かに詠み捨てだよな。

バカみたいなんですけど、しかしこれが重要なんです。そのまま喋った言葉で詠むところは明治以降の言文一致を先んじているし、女性も参加している。

「男女七歳にして席を同じうせず」と儒教理念が根付いていた当時にしてみれば非常に画期的。身分差もありません。

近代へ向かうイベントと言えるかもしれません。

 

あとは豪華な打ち上げも

狂歌を詠むのが終われば、鰻を美味しくいただく宴へ。南畝先生の着物の柄も鰻ですね。

南畝は次郎兵衛の狂名として「お供のやかまし」をつけます。

元木網の狂歌サークルである木網連を観察する蔦重は「今日のかかりは木網さんが?」と確認しています。

と、これがよくわからないそうで。かなりの費用になりそうですが、なんでもスポンサーこと贔屓筋が払うんだとか。

ここで「軽少ならん」という清少納言のパロディ狂名をもつ土山宗次郎がやってきます。

武士ですな。彼が赤良の贔屓筋で、やり手の勘定組頭なんだそうです。見るからに金回りが良さそうなんだとか。

その秘密は「抜く手がやり手」、つまり中抜きがうまい。中抜きした金でどんちゃん騒ぎって、これまた下劣ですな。

来ぬ人を
待つほど恨む夕鰻は
焼くやも塩か
タレ惑いつつ

軽少ならんがそう詠むとこれまた爆笑。蔦重は「蔦唐丸」として名乗ると、狂歌を詠むようふられます。

あな鰻
ああうまそうな
蒲焼の
山芋とろとろ
こりゃうまそう

イマイチですな。歌にも何もなっていないということで、赤良の添削タイムです。

あなうなぎ
いづくの山の
いもとせを
さかれて後に
身を焦がすとは

原型留めてねえじゃねぇか!

まあ、仕方ないすね。蔦重も「歌はわからないがすげえとわかる」と驚いています。

「詩は李白。書は弘法に、狂歌俺!……なんてな!」

そう言いながら自ら笑い出す赤良。

これも時代の変遷でして、『光る君へ』の頃は唐代詩人といえば白居易が一番でしたが、このころは李白になっておりますね。

四方の赤 みそひと文字の 病には つける薬も なきの一杯

そう酒を注ぐ赤良。三十一文字(みそひともじ)とは和歌の文字数ですな。

かくして大盛り上がり、すっかり江戸パリピになっておりまして、酔っ払った蔦重は気持ちよく帰宅します。

歌麿が「帰ってきた!」と嬉しそうに迎えると、蔦重は倒れ込んで歌麿に重なり、幸せそうにこう言います。

「狂歌、あれは流行る。俺が流行らせるぞ〜!」

そのまま寝てしまうと、歌麿は幸せそうな顔をしているのでした。

そして狂歌のみならず、世の注目を集めるものがありました。

文人の集いらしき宴会で、三浦庄司が目を通しているのは、工藤先生が書いたという書籍。

工藤先生こと工藤平助も、宴会芸を披露するパリピのようですが。

蝦夷――そこにはそうあるのでした。

工藤平助が著した『赤蝦夷風説考』/wikipediaより引用

 

MVP:岩戸屋源八

一つの穴が開いたら、ガラガラと崩れてゆく――そういう意味で岩戸屋の役回りは『鎌倉殿の13人』の北条時政みたいなものでしょう。

当時はまだゆるく、源平といっても固まりきれていない。

坂東のゆるい武士の中に源頼朝を置いたら、皆が靡いてえらいことになる。

それがあると困るから、忠義や家の倫理、御恩と奉公、『御成敗式目』で縛っていく様が『鎌倉殿の13人』では描かれたわけなんですね。

今の地本問屋は、そういうゆるい状態です。

須原屋市兵衛の書物問屋は株がありますので、ある程度固まっている。それがまだないわけですね。

なんとなく切り崩していきゃ割とどうにでもなる。

地本問屋の様子/国立国会図書館蔵

そう切り崩された一番手が岩戸屋というわけで、蔦重が源頼朝ならば、彼はさしずめ北条時政ということです。まぁ、蔦重を見抜いた眼力は梶原景時ってことでもいいですね。

血が流れるかどうかはさておき、人間の集団は似たように動くということが見えてきますな。

それをまざまざと見せつけて、流された彼こそ一番槍の武功でした。

なにせ、あの鶴屋喜右衛門が苦い顔を浮かべるしかありません。あれがケチのつき始めで、負けがこんできています。西村屋与八もそう。

岩戸屋は、名前も気が利いていて、いわば「天の岩戸」が動いたようなモン。そんなひっかけもできます。

本作は、こういうひっかけが多いようですね。

 

総評

狂歌の会はアホパリピそのもので、そりゃこういうもんが教科書に載らないのはわかるとなりますわな。

江戸文学が全体的に勉強にならないものとされがちなのは、しょうもねえうえに時事ネタまみれだからでしょう。

では無視してもよいのか?というと、そうではない。

前述した通り、性別や身分差がないフラットな集まりができてきました。

近世から近代へ向かう中、人間が都市部で集まって、話を煮詰めていく過程が大事なんですね。

フランスならばサロン。イギリスならコーヒーハウス。江戸でもそういう流れができてきているのです。

人間同士が集まって煮詰まる過程が実にいいじゃねえですか。

そしてこうも人が集まればビジネスチャンスが生まれる。

蔦重の歌麿プロデュース作戦も見えてきましたね。

しかし一方で、爆発する火薬をどんどん積み重ねていくような展開でもあります。

西村屋与八は蔦重への憎しみをどんどん募らせ、ライバル心の薪を積み上げている。そんな主人を見て、鱗形屋孫兵衛の息子である万次郎はどう思うのやら。

田沼意次も不穏で、着々と恨みを重ねてます。

しかもこの一橋治済の場合、やらかしが幕末まで響いて『逆賊の幕臣』にまでダメージを残すから大変なことなんですよ。

幕末に爆発する不穏な要素まで、今週は薩摩島津も含めて積み上がってきていますね。

今年の大河は簡単だとか、とっつきやすいなんて言われておりやすが、なかなかどうして歯応えがある。近世から近代へ向かう中、ここを大河ですらすっ飛ばしていたのはまずいのではないかと改めて思う次第ですぜ。

戦国時代が悪いわけじゃないけれども、ああいう局地的な展開よりグローバルな流れを把握してこそわかることもあるでしょう。

来週からそれが本格始動でごぜえやす。

嫌味ったらしいことを言っちまいますが、田沼意次と平賀源内が開国論を語っていたのは、アメリカの黒船来航の予言のわけねえじゃねえですか。なにせ、当時のアメリカはできたばかりの赤ん坊国家ですもん。

ありゃロシアの前ふりだって来週確定しそうでやんすね。いや、それがむしろ日本史の当然だとあっしゃあ思いやすが。

『べらぼう』が始まる前年にあたる明和8年(1771年)、四国沖にロシアから亡命してきたハンガリーの軍人・ベニョフスキーの船が現れました。

オランダのカピタンに手紙を託し、日本上陸をしようとして失敗しているんです。

このように、ロシアという国のことをぼんやりと作中の人物は知っていてもおかしくはありません。

それこそ島津重豪あたりは「はんべんごろう」(ベニョフスキーをこう認識されました)のことかと膝を打つことでしょう。来週も楽しみです。

📘 『べらぼう』総合ガイド|登場人物・史実・浮世絵を網羅


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【参考】
べらぼう/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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