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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第20回寝惚けて候】
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蘭癖大名、島津重豪
田沼意次が困惑しています。
家治によると「薩摩の茂姫は御台所でなければ申し訳が立たぬ」として島津が不服を申し立ててきたそうです。
どなたに対して申し訳が立たないのか?というと浄岸院だそうで。俗名は竹姫で、彼女の遺言だそうです。
家治は困惑し、意次も「そうきたか」と言わんばかりに呆れ果てるしかない。
この浄岸院は徳川吉宗最愛の養女であると稲荷ナビが補足説明します。
彼女は二度も婚約者に先立たれ、やっと島津に嫁いだ苦労人でした。吉宗の情愛が深かったのか、苦労を重ねた彼女を殊のほか気にかけ、最愛の女性とも言われたとか。
そこで意次が治済の真意を確認しにいったのでしょう。治済が「島津が納得しない」と詫びています。
浄岸院は島津重豪の祖母に当たります。
意次は御養子選びは私の役目だと言うと、「久しいのう」と島津の殿様・島津重豪が登場しました。

島津重豪/wikipediaより引用
田沼時代の殿様は個性派揃いで、その中でも重豪はなかなかのキャラクターですね。
ガラスに入れた葡萄酒を差し出してきます。オランダ商館長である「カピタン」に頼んだそうで、オランダ語で何かを話しながら葡萄酒を勧めてきました。
重豪は「蘭癖大名」です。
江戸中期から幕末にかけて、幾人も出てきたオランダ好きのお殿様を指し、傾向としてこういうお殿様が上にいると人材発掘が進みます。
治済がそのまま飲むと、すかさず重豪が「また、くるくるなさらず!」とたしなめます。スワリングですな。
治済によると、重豪は蘭学を学べる場まで作ったそうで、造士館でごわすな。
「蘭癖にもほどがあると家中から責められておりますがな。これより先は西洋の知を学び、徒(いたずら)に銀を吸い上げられるだけの国より脱するが肝要!……と、それがしは考えておりますものでな」
そう言い切る重豪。そこは意次の意向とも一致しますので、理論展開をしたいところでしょうが、今回はともかく「将軍の御台様は宮家もしくは御摂家の姫が習わし」だと主張。
それは種姫も同じだと重豪が答え、意次が母の宝蓮院が近衛家出身だと反論します。「五摂家の出」とみなせなくもないというのが家治の考えです。
治済はワイングラスを回し、重豪はため息をつきます。重豪は田沼殿にとって種姫を御台とすることの意義がわからぬと困惑しております。
というのも、種姫の後ろ盾は白河藩の松平定信です。アンチ田沼ではないか?というわけです。
それは認めつつ、意次はあくまで上様の望みを叶えたいと言います。
スワリングもする間もないまま、ワインを飲み干す意次。
さて、このワインもちょっと覚えておきやしょう。今回はカピタンからの輸入品ですが、日本産ワインは江戸時代初期、17世紀初頭の寛永年間にも記録が残されておりやす。

喜多川歌麿『教訓親の目鑑 俗ニ云ばくれん』/wikipediaより引用
一橋治済の陰謀が幕末まで祟る
「あれは相当、心揺れておったのう」
意次が去ると、さも愉快そうに治済は言います。
「何度も申し上げますが、私は側室でも構わぬのですぞ」
そう返す重豪。御台所にこだわっているというのは治済の意向でしたか。それにしても、なぜそんな無理筋を通すのかと重豪も訝しんでいます。そこまで田安家を排除したいのか……。
「楽しみじゃのう」
ワイングラスを透かしてみる治済。
治済にしてみれば、後世のことなど知ったこっちゃないのかもしれませんが、結果的にこの縁組が効いてきます。薩摩は将軍家との縁組があることが強みとなり、重豪は「下馬将軍」と言われたほど。
重豪の蘭癖も重要ですので、少々『逆賊の幕臣』の予習でもさせていただきますと……劇中での重豪の指摘はその通り。
世界史目線で見ますと、江戸時代前半までは北東アジアの方が豊かであり、清は世界のGDP3割を占めたとされます。そこで、このままでは貿易赤字になると懸念した西洋諸国が、植民地から吸い上げ、他国へ輸出し、均衡が崩れました。
江戸幕府が海禁政策をしていたのは、近世における北東アジア全体の傾向と言えます。豊臣秀吉による、文禄・慶長の役の報復をされることも念頭にありました。
しかし『べらぼう』の時代もなると、世界情勢が変わってきます。金銀の採掘量が減少し、輸入超過で財政が厳しくなってきたのです。
対清貿易でもこれを是正しようとしているのに、そこへ西洋との取引が加わったらどうなるのか。
西洋諸国は貿易で富を吸い上げている。巻き込まれてはならぬ、として海禁政策を維持する方向へ向かいます。
しかし、そうした先延ばしにも限界はありました。
島津重豪は、幕末の名君とされる島津斉彬のロールモデルとされます。今回の劇中では、輸入ワインを飲んでいましたが、斉彬の代になると、蒸留酒の焼酎をサツマイモから作り、科学技術を進歩させています。

島津斉彬/wikipediaより引用
ガラスも薩摩切子を造らせ、輸出に備えました。
周囲の者たちが重豪に文句を言うのも仕方ないといえます。なにせ莫大な金がかかる。斉彬はそんな重豪の再来とみなされたからこそ、藩主の就任に警戒された面があるわけですね。
薩摩は強く開明的でしたが、同時に将軍との縁組を自慢するほど幕府に近い存在でもありました。
しかし、それをぶち壊すのが徳川慶喜です。
『青天を衝け』では島津久光を怒らせる場面を「快なり〜」と爽やかに演出していましたが、あれは最低最悪のオウンゴールだったのです。
『逆賊の幕臣』ではまともに描かれることを願います。小栗忠順が主役ですと、京都政局は重視されない可能性はありますが、慶喜のやらかしから目を逸らすことはできないはず。
その恨みは田沼意次へ向かう
治済の狙いが見えてきます。
知保と宝蓮院が「田沼の仕業だ!」と怒りを燃やしているのです。
そこには毒の調合を得意とする、どこか怪しげな大崎という女もおります。疑いを焚き付けているのでしょう。
「田沼様が一橋を抱き込み、島津より異議申し立てを起こさせたのではないか」
宝蓮院とすれば、前例のある「田安外し」になる。知保はさらなる疑惑が燻ることでしょう。
一方で高岳は、意次に宝蓮院の書状を見せています。実のところは白河様こと松平定信が書いたものだと彼女は指摘しますが……。

松平定信/wikipediaより引用
松平定信が白河へ養子に出された件。
西の丸様こと家基の急死。
松平武元の死。
豊千代が養子になった件。
今回、島津が茂姫を御台所にするよう主張した件。
全て田沼意次のせいだと彼は疑念を抱いているのです。実際には治済の画策です。
意次は高岳に、大奥の選択をつきつけます。
種姫か? 茂姫か? どちらが御台所にふさわしいのか?
「大奥として、でございますか」
高岳はそう確認するのでした。
その夜、意次はワインを手にしてじっと考え込んでいます。
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