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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第1回「約束の月」】
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貧乏貴族・藤原為時の悲哀
まひろの父・為時は五年間官職を得られずにいました。
次こそは任官!
そう思いつつ、貧しい生活を送っている。一体どうやって生計を立てているのか。粗末な夕餉が出てきます。
いいですね。
子どものころ、百人一首辞典を見て「この時代に生まれたくない……」としみじみ思わされた質素な食事。
そこへ藤原宣孝という、ちょっと軽薄そうな男が、酒を手にしてやってきます。
まひろの父・藤原為時の親戚だそうで。出てきた瞬間に、派手で、軽薄で、あまり上品でない、そんな人物像がピタッとはまっていて、佐々木蔵之介さんの魅力が存分に発揮されている。
ちやはは前祝いかと喜んで酒を受け取っています。
するとまひろが、今宵は誰のもとへ行ったのか?と尋ねる。
幼い子にそう言われ、苦笑してしまう宣孝。複数の女性のもとへ通っていることを、まひろはお見通しです。後の二人の関係を考えると、なかなか興味深いものがあります。
宣孝は為時に「大納言と話して式部省で働きたい」と言うようにせっついています。漢詩の会で売り込みをしろと尻を叩くのですが、不器用な為時はそういうことができないようです。
そのせいか、なまじ学があると誇り高い……と、からかわれてしまう。まひろの性格もこの父に似ているのでしょう。
宣孝は見る目があるんですかね? これからは大納言の家が力を持つから東三条に行け、推挙を頼めと念押しして去っていきました。行き先は女性のもとでしょう。
東三条の大納言邸では、管弦の音が響いています。
篝火がともり、音楽が聞こえてくる、美しい場面。
兼家のもとへ為時がやってきましたが、けんもほろろに追い返され、なんとか粘って書状だけは渡します。
この書状一つとっても憐れみを覚えてしまうと言いましょうか……上質な紙を使っています。当時の紙は高級品であり、為時にとっては安くない出費でしょう。
字も実に美しい。筆を寝かせずキリッと一画目に入る緊張感、流麗さが伝わってくる。
身なりが粗末な為時が、こんな綺麗な書状を提出してくる。精一杯がんばった証であり、書状ひとつで高い教養が感じられますね。
三郎は本音を引き出し まひろは真実を見抜く
藤原詮子が三郎と話しています。
帝の顔が好きになれるかどうか――そこが気になって眠れないとか。
三郎が「床入りしてだんだんと好きになるんじゃないか」と返すと、彼女は困惑しながら「そんなことを言ってはいけない」とたしなめます。
そもそもは詮子が言い出したことだとして「がんばれ」と素っ気なく対応する三郎に対し、「まるで父上や兄上のよう、三郎だからこんなことが言えるのだ」と姉が返答する。
まひろと三郎は、歳に似合わずませているというか、観察眼があるというか。いずれにせよ物事を見通す鋭さを持っているようです。
父や兄が聞いたら火がついたように怒ると詮子がこぼすと、三郎は怒ることが嫌いなのだとか。父上の子なのだから、元服すれば偉くなると姉が続けますが、為時のような努力家からすれば虚しい話だ。
兄が二人いるから出番は無いと開き直っている三郎は、突然「足で名前を書ける」と言い出しました。
そうして姉と弟でふざけていると、通りがかった藤原道兼が三郎を突き飛ばします。戸惑う詮子に向かって慣れていると返す三郎。
砂利にひっくり返るわ。当時は不衛生だわ。今より格段に危険な転倒です。道兼の精神性は、かなり危うい。
道兼が苛立ったのは、三郎がリア充のように思えたからかもしれません。
姉とはいえ異性とああも親しげに話す三郎は、俺と違ってモテる……そんな暗いものを感じさせます。ただ暴力的なだけならまだマシで、何か鬱屈している様子が不気味です。
ちやはは、まひろと太郎を連れて参拝へ。除目によりなんとか官職について欲しいと願っています。
しかし、その晩、父は帰らない。嫡妻であるちやは以外に妻がいて、そこへ向かっているのです。
まひろは、母が願掛けしているのに、なぜ父は今宵も家を空けるのかと問いかけます。実家が豊かではないからと答えるちやは。有力貴族であればコネも利用できるということでしょう。
大人になれば、父と母の気持ちがわかると語りかけますが、果たしてどうか。
世間のルールとしてそういうものだと理解できても、心の底から納得できるようにはならないのかもしれない。
『源氏物語』には他の女を愛する男を許せないヒロインが出てきます。女たちの嘆きを見ていた彼女が物語を通してそんな気持ちを書き残したのだとすれば、それは一種の奇跡なのでしょう。
馬を指して鹿と為す
貞元3年(978年)、正月の除目――清涼殿にて行われる人事です。
希望する官職と売り込み文が持ち込まれ、審議を経て、帝が承認して決まります。
藤原為時の自薦分も読まれました。
中納言になった家の出ながら今は無官で、幼い子二人を養い、食べさせるのも困難。式部省には学識不足の者もいる。大学主席の私のようなものこそが相応しい――。
と、これを聞いた円融天皇はムッとします。学識不足の者を登用しているということは、朕の審美眼に文句があるのか?というわけで、この年も任官は叶いませんでした。
為時はあまりに正直すぎる。嘘をつけないことが仇となっています。
そんな為時は、まひろに『史記』を読み聞かせています。弟の太郎と違って彼女は興味津々。
「お前が男子であったらよかったのになあ」
そうぼやきつつ、始皇帝の死後、二世皇帝胡亥を操った悪徳宦官・趙高の逸話を話します。
趙高は胡亥を軽んじるようになってゆきます。
あるとき、群臣の見ている前で、趙高が鹿を「馬でございます」と言い、皇帝に献上しました。
皇帝は笑って、これは鹿だと言います。
皇帝が周囲に同意を求めるものの、群臣は黙っています。
そしてある者が言いました
「馬です……」
それでも「鹿です」と答えたものは趙高に始末されてゆきます。
忖度するものの浅ましさ。我が身可愛さに嘘をつく愚かさが語られる逸話といえます。
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