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『光る君へ』感想あらすじレビュー第1回「約束の月」

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MVP:ちやは

まるで菩薩のような国仲涼子さんが、背後から刺されていきなり死ぬ。

これでこの話は見えてきました。

いくらなんでもバイオレンス上等すぎる道兼ですが、そこは中世です。命は軽いし、身分が高い連中はやりたい放題が通じる。

『鎌倉殿の13人』の坂東武者よりはマシかもしれませんが、平安京貴族も荒ぶっていました。

そういう世界観を紹介するために、犠牲となった優しい母。

強引に思えるかもしれませんが、話としての見応えはあります。

映像が圧倒的に美しく、衝撃的で、プロットとしても緻密です。嘘をつくにせよ、こうも巧みに描くのであればよいのでしょう。

ちやはを殺した藤原道兼役の玉置さんは、顔と姿が絶品ですね。

時代劇に彼が出ていればもう、何も心配することはないと思えるほど、絵師が筆で描いたような佇まいを見せてくる。

道兼は極悪非道だけれども、あの従者の刀を抜いて刺し殺す流れるような動き。

血飛沫が散った頬。

目をいからせてズンズンと歩く姿。

これを見られただけで満足だと思えてしまう。凄いことです。

 


紫式部は、偽りを広めた罪で地獄に堕ちた

鎌倉時代の『宝物集』には、紫式部地獄に堕ちた話が掲載されています。

虚言で人を惑わせた罪により、地獄に堕ちたのだ、と。

これを知った時は『なんでそうなるのか……』と驚いたものですが、理由はわかってきた気がします。

ストーリーは、人を騙すうえで重要です。

例えば藤原為時ならばいくつも知っているであろう故事成語。

「蛇足」というたった二文字の言葉にも、「蛇の絵を描くはずが足まで描いてしまった絵師」にまつわるストーリーが潜んでいます。

何かにエピソードを付与すると、それだけでもスッと人の意識に潜り込んでくる。

ちやははまひろに、鳥が逃げたら生きていけないと教えました。まひろは小さな胸の中で、小鳥が命を落とす物語を思い描いてしまう。

たかが鳥です。お腹が空いたら焼いて食べてしまってもよいようなものではある。

でもそれに名前をつけ、背景まで考えるようになると、傷つける心が摘み取られてしまうことでしょう。無事を願うようになることでしょう。

たかが鳥が、されど鳥になるのです。

物語を作ること。それを付け加えること。それにより覚えやすくなり、操られやすくなる。そのことを罪だとみなせば、地獄ゆきも納得できる。

このまひろという名を持つ紫式部は、初回から地獄へ踏み出したと思えました。

目の前で母親が殺されたら、それはもう地獄でしょう。

しかしまひろは、涙ひとつこぼさず、しばらく耐えています。

その忍耐が限界に達したのが、父が嘘をついて母の死を誤魔化すと宣言したとき。偽りのストーリーが彼女の母の死を覆ったとき、まひろは絶望して泣き出しました。

嘘をつくことがどれほど罪深いか、人を絶望させるか。そう訴えるかのような涙でした。

たとえどんなに辛い目にあったとしても、真相を暴き出せればそれで救われるのに。それを嘘で塗り固めたら、人は地獄に堕ちてしまう。

偽ることの罪深さと浅ましさが、この初回では何度も出てきました。

身を捧げるとうやうやしく誓った藤原詮子にせよ、帝の顔が気に入らなかったら嫌だと三郎には語ってしまう。

父や兄の前では「入内する健気な詮子」というシナリオで振る舞うようにしているけれど、本音はそうではない。

藤原兼家は狡猾です。安倍晴明は有無を言わさぬ態度で騙す一方、藤原為時をコロリと騙してしまう。

藤原宣孝はヘラヘラと、世渡りのためならおべんちゃらを使えと言いにくる。

ちやはは誠実で心優しい。国仲涼子さんがまるで菩薩のように演じています。

でも、夫が他の妻の元に通うことを本当に容認できているのでしょうか。

生きていくならみんな騙しあって生きていかなきゃいけない――そんな世界の中、まひろと三郎だけは何かが違うように見えます。

藤原詮子は三郎にだけは本音を語れる。藤原兼家は三郎には世の中を見通す力があるという。藤原道兼は弟の何かを恐れているようにも思える。

まひろは大人のついた嘘をを見破り、まっすぐな目でそのことを問いかける。

どこかこの世界で浮いている、不思議な目を持っている。わかりあえるのは互いだけで、恋愛感情ともまた違ったものがある。

そういう意味ではソウルメイト。とても不思議な関係に思えてきます。

まだ幼い二人ですが、成長するにつれ、妥協や忖度もしなければならなくなります。

幼い頃のように、ズバリと言うこともできなくなる。空気を読めないとヒソヒソと言われてしまったり、妥協したり相手をおだてたり、鬱陶しいことが増えてゆく。

そういう鋭すぎる目を持ったために苦しむ、どこかずれてしまった二人というのは実に興味深い。

嘘偽りを見抜く目を持った二人が、帝を、朝廷を、日本を、やがて世界まで届く、華麗で眩い作り物『源氏物語』を生み出してゆくというのは、なんと興味深いことでしょうか。

そんな世界を騙す共犯者同士を描くこの話だって、私たちを丸め込むストーリーです。作り物です。

作り物だけど、だからこそ、精緻で花よりも花らしいものが咲く。

そんなふてぶてしいほどの挑戦を初回で感じました。

これだけ美しく作り込まれているのならば、もう、それだけで讃えるべきではないか。そう思ってしまう、圧巻の第一回です。

目の前で開いた花は、想像以上に香り高く、美しいものでした。


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文:武者震之助note

【参考】
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