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【ききょうが斬るまひろと道長のゲス恋】
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黒髪
平安時代中期の女性は、髪の長さと美しさが問われる時代でした。
女性が髪を伸ばす文化圏は多くあります。
しかしまとめることが多く、垂らしたままの状態は珍しい。
理由は単純、邪魔なのです。日本でも長く垂らす髪が続きながら、江戸時代半ば頃からようやく結いあげるようになりました。
髪が長いと洗うのも一苦労です。
なんせ一日中けて、洗髪のために休まねばならないほど。
髪を垂らし続けた結果、女性のヘアアクセサリーは江戸時代にかんざしが用いられるまで、長らく廃れていました。
当時の髪の毛は、黒く、長いことが重要です。
清少納言はくせ毛であることが悩みだったそうで、『光る君へ』のファーストサマーウイカさんは、ウィッグをつけない地毛をはねて、その癖毛を表しているそうです。かなりのこだわりポイントだとか。
ただ、かもじもつけているように思えますし、平家で財力があれば、もっときっちりしたかもじを用意できた気もします。
滋子の婚礼衣装は、宋代の服装とされますが、色が白とピンク。中国での婚礼衣装は赤であり、白は喪服ですので、むしろ不吉に思えてしまい残念な設定でした。
宋服でくせ毛をカバーする意図があったそうですが、中国でもくせ毛はあまり好まれておらず、不美人とされる人物はわざわざ「くせ毛であった」とされることもしばしばあります。
2011年の『平清盛』と比べると、2024年の『光る君へ』は宋服考証もかなり向上したことがうかがえます。
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指先
中宮定子に初出仕したとき、清少納言は、指先のあまりの美しさに感動しました。
清少納言ですら初めてのことで緊張してガチガチになっていると、定子がそっと絵を差し出してきた。
そのとき、袖から薄紅でつややかな指先が!
なんて美しい……清少納言はそう感激し、定子に心を掴まれたのでした。
いやいや清少納言がただの指フェチか、定子のことを好き過ぎるだけでは?
と突っ込みたくなるかもしれませんが、これにも当時の事情があります。
女性はなるべく袖から指を出さないようにしていたのです。だからこそ、垣間見える指先に感動してしまった、と。
言われてみれば、上流の女性は指をあまり見せません。『光る君へ』では衣装の重さだけでなく、指を隠すことにも出演者は苦労しているそうです。
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香と体臭
ドラマでも、文字の上でも、表現が難しいのが香り。
ゆえに想像力を働かせていただきたいのですが、とにかく平安時代は入浴が大変です。
その体臭を隠すために香を炊いた……なんて言うと、いささか嫌な気持ちになるかもしれません。
しかし、目的はそれだけではありません。
当時は照明が暗い。真夜中に忍んで行くと、視覚以外の感覚が重要となる。
そこで出番となったのが香です。
肌や汗と混ざり合った香りは、当時の人にとって忘れ難いものでもあります。工夫をこらし、香を衣に焚きしめ、愛の記憶と結びつけてきた。
こうした香の調合は秘伝であり、各家が受け継いできました。
『源氏物語』でも女君たちが香を調合し競う場面が出てきます。
例えば『源氏物語』でも、光源氏が空蝉の脱ぎ残した単衣のにおいを嗅いでいます。
イケメンにしちゃ気持ち悪いな……と感じる方もいたかもしれませんが、香の意味合いを知っていれば理解しやすいことでしょう。
体臭が魅力的とされる例もあります。
平安貴族にもおなじみ、絶世の美女である楊貴妃は『長恨歌』で入浴する様が描かれています。
彼女は体臭が濃く、それを隠すために特別な香を身につけていた。それが元々の体臭と入り混じって、それはもう魅力的であったとか。
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『源氏物語』「宇治十帖」には、薫と匂宮という貴公子が登場します。
いつもニオイがするのがいい男ってどういうことなのよ、と困惑されるかもしれませんが、当時からすれば素晴らしい魅力だったのです。
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