アニィたかはし『大河ブギウギ 光る君へ編』より

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『光る君へ』もしも清少納言がまひろと道長の関係を知ったら「ゲス恋」と鼻で笑う?

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ききょうが斬るまひろと道長のゲス恋
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持ち物のセンス

現代は、容姿で人を判断する「ルッキズム」が嫌われる時代です。

人を褒めるのはどうすればよいか?

というと、無難なのが持ち物や服のセンスを褒めること。

「今日の服はとてもお似合いですね」

「そのピアスはどこで買ったの? すごく素敵です」

こうした褒め方ならばセンスを誉めるからよいとされ、平安時代も多いにアリです。持ち物ひとつに品や財力が発揮されるからです。

源氏物語』では、着ている服装や調度品まで記載され、各人物のセンスが表されました。

単に資産家であればよいのではなく、調和やテーマが重視されます。

容姿も受け答えもハズレとされる末摘花は、このセンスもともかく悪いとされました。

例えば彼女は「黒貂の毛皮」を大事にしています。

かつては貴重品でしたが、当時としては古臭い――そんなズレたものを大事にしていることそのものが残念だという描き方でした。

紫式部だって、持ち物のセンスが大事だということくらい理解しています。

そんな彼女が「参詣にありえない服装だった藤原宣孝ってさあ〜」とけなす『枕草子』を読めば、そりゃあ不愉快だったことでしょう。

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恋文

恋文は歌だけでなく、筆跡や紙のチョイスも問われます。

藤原寧子藤原道綱母)が藤原兼家から求婚された際、そのセンスが全ていまひとつであり、彼女には困惑もあったとか。

しかし兼家の身分が高いから、断る選択肢は実質的になく、親の期待もあって求婚を受け入れました。

そんな兼家への失望を『蜻蛉日記』に記す彼女からは「恋文の第一印象からして残念だった」と言いたいような気持ちも感じさせます。

ただし、なんだかんだで兼家のことを愛していたとは思えます。

兼家の姿を見た時、そのファッションセンスにぼーっとしてしまったことも記されていますから。

 

筆跡

『光る君へ』の道長は、いつも残念フォントを使用しています。

これも史実準拠で、いつかまひろが恋文を読み返し、フッと笑い飛ばせる日が来るかもしれません。

情熱的なことを書いているようで、結局は字が汚いわ……墨もちゃんと擦ってなさそうだし、仲のいい能書家の行成に指導を頼んでみたら?

と思ってしまい、急激に恋が醒めることもありえるかもしれません。

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教養や音楽センス、そして才能、天命

『源氏物語』の光源氏は、かなり酷い言動があります。

ただし、貴族としてのスペックは最強。

学問にせよ、音楽にせよ、ありとあらゆることをすぐにこなし、教師たちが「こんな天才に指導できるなんて幸せです」と言いだすほどの設定です。

一方で息子の夕霧は「中の劣り」と評されています。

太政大臣まで上り詰めるほどの人物ですが、彼は努力が必要な秀才型でした。光源氏という天才と比較すると劣るということですね。

天才の光源氏だからこそ、恋愛にうつつを抜かしていても出世できるのだとすれば、なかなか厳しい世界観ではありましょう。

ちなみに、この教養についていえば『源氏物語』には奇妙な特徴があります。

光源氏にせよ、頭中将にせよ、漢籍教養は豊かです。

しかし、その道のプロである博士のような人物は、堅物で時代遅れ、コケにされる造型にされています。

父である藤原為時を反映しているのか。

紫式部のなかなか複雑な性格が感じられます。

なお、ドラマでも活躍し、史実でも紫式部の同僚であった赤染衛門の夫・大江匡衡も漢籍のプロでした。

 

あえてはみ出すセンスも大事

清少納言は、機転により「少しはみ出すことでアピールする」ことが得意。

一方の紫式部は、わきまえて常識的なキャラクターであるとされます。

果たしてそれは正しいのか。

『源氏物語』には、当時の貴族社会を俯瞰して冷徹に観察し、これではよろしくないと判定を下しているような、批判精神も見いだせると指摘されます。

なによりも理想のハイスペ貴公子である光源氏のことを、作者は手放しに賞賛していないと思える箇所が散見されるのです。

『枕草子』が都会的なセンスの中ではみ出す一方で、『源氏物語』はさらに大きくはみ出しているのかもしれない。

そうした感覚が、『光る君へ』というドラマには反映されているのかもしれません。

まひろの物語は、ときに当時の貴族のものからはみ出します。

もしかしたら、その逸脱にこそ本質があるのかもしれません。

ききょう目線でダメ出しをしつつ、まひろ目線で反論することで、当時の社会が、人間が、もっとより深く見えてくるのかもしれません。

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文:小檜山青
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【参考文献】
高木和子『源氏物語を読む』(→amazon
倉本一宏『紫式部と藤原道長』(→amazon
『枕草子』(→amazon

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