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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第26回「いけにえの姫」】
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あんな幼い娘を入内させるなんて…
源倫子のもとで道長の長男である田鶴が遊んでいます。
そこへ道長がやってくると、「迦陵頻の舞を習った」として踊り始めます。今度、ゆっくり見るから、と息子を遠ざける道長。
「彰子は何をしていたのか?」と尋ねると、彼女は黙っています。
「姉上は何もしていない」
父にかまってほしいのか、田鶴が姉に代わって答えると、倫子に促されてようやく引き離されてゆく。
こうした会話の積み重ねで、彰子の幼さが強調されてゆきますね。
夫婦だけになると、倫子は道長のやつれた様子を見て、激務に追われていると気遣い、道長から「相談がある」と切り出されると「嬉しい」と喜んでいます。
あまり仕事のことで相談されることがないのでしょう。
しかし、その中身はとても嬉しいとは言い難いもの。
道長は「彰子を入内させたい」と告げました。天変地異をおさえるためには彰子の入内が必要だというのです。
「入内して幸せな姫などいない」と語ってきた道長ですから、当然、倫子は嫌がります。
彼女には優しい婿を迎え、穏やかに過ごして欲しいと願ってきたのです。道長も、同じ思いでしょう。
それでも入内やむなしと道長はすでに心に決めている。
中宮は出家しても帝を操っている。負けの見えている勝負だと倫子が拒絶すると、「勝負ではなく生贄だ」と語る道長。手塩にかけた尊い娘だからこそ生贄に出す値打ちがある。
これ以上帝のわがままを許すわけにはいかない。何もしなければ朝廷の力が失われると道長は続けます。
しかし、倫子にとって朝廷の力などどうでもいいこと。
自分は左大臣であるゆえ、倫子が不承知だとしても、やらねばらなぬと道長は言います。
「相談でございませんでしたの?」
「ゆるせ」
「殿、どうしても彰子を生贄になさるのなら、私を殺してからにしてくださいませ。私が生きているかぎり、彰子を政の道具になどさせませぬ」
倫子は凛然としてそう言い放ちます。
強い女性ですね。黒木華さんだからこそできる、そんな意志の強さがみえます。
しかし、倫子が母の穆子に相談すると、拍子抜けするような対応が返ってきました。
「やってみなければ、わからないわよ」
思い返せば、倫子自身も、先の帝に入内するかしないか、という時期がありました。
当時の貴族なら、誰でも姫を入内させたいように思えますが、それも帝次第だとわかったのが、倫子の父である源雅信が苦悩する姿です。
入内させて権力を安定させたい。しかし、愛する可愛い娘を花山天皇にはやりたくない。そんな苦悩があったものです。
だからこそ倫子も、入内しなかったことが正解だと考えているし、彰子にも同じ幸せを与えてあげたいと願う。
そうした条件を踏まえて、母の藤原穆子から出てきた意外な言葉。
「入内したら不幸になると決まったわけではない」
として穆子は、飄々と「ひょっこり中宮が亡くなったりしたら……」とまで言葉に出して、さすがに倫子からたしなめられてしまいます。
ともかく先のことはわからないのは事実。
なんせ中宮は帝より四歳年上ですし、今はくびったけでも「そのうちお飽きになる」と冷静に分析しているのでした。
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彰子は事態を理解できているのか?
道長は「改元すべきだ」と言い出しました。
そこで挙げられた三案とは?
延世
長保
恒久
藤原実資は「長保」がいいとプッシュします。
左大臣の御代が長く保たれるという解釈のようで、道長は「帝の御代」と訂正。
もしもここで道長が喜んだりすれば、実資は内心「俗物が!」と舌打ちしそうなところですが、道長はそうしません。実資は続けます。
帝は傾国の中宮に誑かされているけれど、左大臣の姫君が入内すれば後宮がまとまり、帝も上向いて保たれる。
「中納言殿は、まことにそう思うのか?」
道長が重ねて確認すると、実資は「もちろんでございまする」と返答。
実資ほど前例にうるさい男がそう言い出すのであれば、まずは大きく異例ではないことがわかります。
道長と倫子という、彰子に距離が近い両親が「まだ幼い」と判断している。
一方で、距離が遠く、彼女の人となりを知らない晴明や実資は入内を勧めてくる。
つまり、肉体の年齢としてはそこまで早いわけではないことがわかります。
実資は聡明で観察眼はあります。
日記には「入内はない」と記し、オウムが覚えるまで「ないないないない……」と口にしてはいました。
道長の反応がいま一つだったため、まだ機が熟していないと判断したのでしょう。
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彰子は「仰せのままに」と受け止める
田鶴と妍子が毱遊びをしています。
二人の姉である彰子はぼんやり。琴も覚えていないと田鶴が言うと、師匠が怒っていたとまで付け加えます。
倫子はそんな田鶴を嫡男なのだからしっかりするようにと嗜め、姉上は帝の后となるような尊い姫だと言います。
自分でそう口にして思わず呆然としてしまう倫子。田鶴はそんな母に、父上と喧嘩しているのか?と尋ねます。なんでも倫子はいつもプンプンしているのだとか。
苛立ちつつ、倫子の心も揺れ動いているようです。
道長はその彰子と向き合っています。
「彰子、父はそなたを帝の后にしたいと考えておる。驚かぬのか?」
「仰せのままに」
「母上は固く不承知なのだが、お前はまことによいのか」
「仰せのままに」
「内裏にあがれば、母上や田鶴とも気軽に会えない。されどこの国の全ての女子の上に立つことは晴れがましきことでもある。父の言っていることがわかるか?」
「仰せのままに」
「わかるかと聞いておるのだ」
「……」
「ああ、今日はもうよい。また話そう」
彰子は何も考えていないように思えますが……果たしてそうでしょうか?
俯き、目を伏せているけれど、何か考えているようにも見える。
考えているけれども、そのことに口が追いつかないか。どうせ説明しても聞いてもらえないと諦めているか。
もっとじっくりと心を開かせればよいけれども、道長にはできないのでしょう。
心の声でこう言うくらいですから。
「あのような何もわからぬ娘を入内させられるのか……」
しかし、考えてみてください。弟からも、師匠からも、そして親からもうっすらと「頭が悪いから」と思われているとして、そういう相手に、自分の心情を話す気になれます?
どうせ小馬鹿にしたり、哀れんだ目で見てくる相手に、心を開いて話そうと思えるかどうか。
この父と娘は、信頼関係が構築できていません。
彰子は読んで書くとなると、饒舌になるかもしれないですよ。
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