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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第26回「いけにえの姫」】
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もう、腹を立てても無駄だから
いとはそんなまひろに、宣孝へお詫びの文を出すよう促します。
悪いのはあちらだとそっけないまひろに対し、さらに続ける。
「自分を通すのは立派だけど、殿様の気持ちも少しは思いやるべきですよ」
どう思いやれというのか。まひろがさらに憮然としていると、いとが丁寧に説明します。
まひろは賢いので、おっしゃることはいつも正しい。そのうえで、殿様にも逃げ場を作らなければならない。
確かに彼女は、理路整然と理論武装して閉じ込めるようなところがあります。
それでも納得しないまひろに、夫婦はそういう想いを抱くもので、己を貫くばかりでは誰ともやっていけないと言います。
まひろは「己を変えてまで誰かと寄り添えというのか?」と、さらにこじれて、面倒なことを言い出しました。
しかし、それこそが愛おしいということだと、いとは語ります。
後日、まひろのもとに、宣孝から嫌味たらしい歌が送られてきます。
たけからぬ 人数なみは わきかへり みはらの池に 立てどかひ無し
どうせ俺なんか人数にも入ってないだろ? イライラして腹を立ててもしょうがない。降参しますよ。
宣孝がうれしそうに読み上げておりますが、「ごめんなさい」とも「許します」でもない。なんなんですかね。
全てを投げたようにも思える。
まひろが逃げ場を作る前に、宣孝は腹を見せて降参してきたように見えます。
宣孝には別の女もいることだし、どこか投げやりにも思えますね。
まひろは道長にはまだ心を掴まれています。だからこそ、宣孝から道長がらみで何か言われれば怒るのです。
でも、もう宣孝にはそうしない。するだけ無駄。実は宣孝のほうこそ、まひろの脳内男性リストから脱落しつつあるのではないでしょうか。
まひろは、いとと福丸、乙丸ときぬを連れて、石山寺に参詣すると言い出しました。
いとは殿が留守中に来たらどうするのかと焦っていますが、そのときはそのときとそっけない。やはり気持ちは相当冷めているのか。
もう、まひろは宣孝とのことをアリバイに利用しています。
宣孝がつっかかってきたら「あなたとの仲を修復できるように神仏にお願いしたの」とでも言えば騙せるでしょう。
だいたいが「不実」であることを前提条件に結婚したんだし、別によいのです。
そして寺で誦経していると、なんとそこに藤原道長が来ました。
トンデモナイ展開になりつつあります。
昔「子宝祈願」で寺に参詣した女が願いが叶って妊娠することがありました。
神仏のおかげ?
いやいや、その寺には美青年僧侶がいて……といった伝説の類ですね。
しかも次回予告でまひろは懐妊しているうえに「この子は私一人で育てます」と思い詰めた顔で言い放っている。
一体どうなることやら。
MVP:藤原彰子
鏡がなければ人は自分の顔すら、はっきりと認識できない――冒頭でそう示されました。
今の彰子は歪んだ鏡しかないような状態です。
誰も理解してくれない。そう心を閉ざしています。
父母ですら理解していない。
弟は小馬鹿にしてくる。
そんな彰子は鏡を見つけることで、自分の可能性や持っているものを見出すのかもしれません。
彰子を映す鏡となり、彰子を閉じた扉から連れ出すのがまひろなのでしょう。
彰子とまひろをあわせ鏡にするような作りが見られます。
まひろは宣孝と心がすれ違っていく。
他の女相手には通じる贈り物だの色香ばかりを押し付けてくる。
そのくせ、まひろが孤児や他者を思いやる気持ちに寄り添うことはない。
もうこんな相手とはやっていけない。そう何かを投げたまひろは、相手を突き放すような態度をとっています。
まひろの心は閉ざされてゆきました。
まひろも、彰子も、賢いのです。でもその賢さは、彼女たちが心を開かなければ見えてきません。
まひろは父の為時がそばにいて、己の才知を伸ばす環境があった。
一方で彰子の父の道長は、実はそうでもない。教育熱心ともいえなかった。
『鬼滅の刃』のキャラクターでたとえると、まひろは胡蝶しのぶ、彰子は栗花落カナヲでしょう。
しのぶは彼女に理解ある家で育てられ、自らの価値を知った。頭の良さをアピールでき、仲間のためにそれを生かしている。言うことは辛辣。
カナヲは自分を押し殺す幼少期を送った。カナエとしのぶに引き取られてからも受け身で、ぼーっとしているように見えます。自分の意思を発揮することがなかなかできないのです。己を解き放つことができるようになると、十分賢く、怒らせると相当の毒舌であることも判明します。
胡蝶しのぶと蝶屋敷はシスターフッドの世界なり『鬼滅の刃』蟲柱
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彰子は覚醒したら、手がつけられないほど強く、賢く、したたかになります。意思強固です。そしてそれを叶えられる鏡が紫式部です。
周囲の無理解を忌避するためか、紫式部は彰子と二人きりになって教育を施したとされます。
その様子が楽しみになってきました。
周囲どころか視聴者が唖然とするほど高度なやりとりを繰り広げるのかもしれません。
なまじ地味だの、ボンクラだの思われているから、こういうタイプが本領発揮すると周囲が困惑するんですよね。
そんなの本質を見抜けなかった側が迂闊なだけなのですが……人間を見抜くことはなかなか難しいようです。
天譴論と生贄
今回は難解に思えます。
帝のせいで天変地異が起こるとはどういうことか。
「天譴論」(てんけんろん)が背景にあります。
天譴論とは儒教思想で、天命を受けて世を治める君主が不届なことをすると、天が罰を与えるという考え方です。
これについては『青天を衝け』の渋沢栄一が曲解をしており、芥川龍之介が反論しています。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
◆渋沢栄一の「震災は堕落した社会への制裁」に猛然と批判する芥川龍之介(→link)
それにしても、こういうことを語る人物が、大河ドラマ主役に値したのかどうか。
本当は怖い渋沢栄一 テロに傾倒し 友を見捨て 労働者に厳しく 論語解釈も怪しい
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次に、穢れなき姫を入内させて浄めるという発想です。
なかなかぶっ飛んだ話ですが、来年の『べらぼう』に関係あるかもしれません。
いよいよプロットがあらわになってきたあの作品では、曲亭馬琴が大きく取り上げられるることになります。馬琴の代表作である『南総里見八犬伝』は、冒頭で衝撃的な展開が起こります。
里見義実は、安西景連により攻められ、滅亡寸前に追い詰められる。
義実は、愛娘である伏姫の愛犬の八房にこう語りかけた。
「もしも憎き敵の首を取ってくれば、お前に伏姫をくれてやろう」
すると八房は姿を消し、景連の首を取って戻ってくる。
伏姫は犬であろうが約束は約束だとして、八房と姿を消す。
と、姫は懐妊の兆しを察知。
まさか八房との間の子なのかと驚いた伏姫は、覚悟の自害。
すると光る八つの玉が飛び出し、八犬士の元へ飛んでゆく。
『南総里見八犬伝』は、日本版『水滸伝』という位置付けの作品です。
『水滸伝』では世を乱す魔星が、英雄豪傑女侠のもとへ散ってゆくのですが、馬琴は八犬士を聖戦士にしたい。
その媒介として、穢れなき伏姫の肉体が用いられています。
彰子を伏姫と見立てるとすると、帝が怪物ということになります。帝その人というよりも、操る女妖が悪だということでしょう。
『南総里見八犬伝』では、玉梓という究極の悪女がおります。
清少納言からすれば論外でしょうが、定子はこの玉梓の位置付けでしょう。
伏姫が犠牲となる話は、中国の怪異伝説を記した『捜神記』にある話を元にしています。
敵に攻められた高辛氏が、敵将を討った者に娘を娶せると御触れを出すと、盤瓠という犬が首を取ってきたのです。
ちなみに安倍晴明の母・葛の葉が狐だという伝説も、『捜神記』はじめ中国の伝説にたどりつけます。
漢籍教養の豊かな馬琴がそうしたように、清らかな娘を生贄にすることで浄化を図るというシナリオを、安倍晴明ならば作り上げることができたのかもしれません。
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起きた事件の経緯や主体者は変えられないけれども、動機を変えてゆくのは歴史ものの定番技法です。
道長がまだ幼い彰子を入内させることは動かせない。
「彰子がかわいそうだから、年齢をいじろう」
「道長でなくて、詮子のゴリ押しにしてしまおう」
こういう時系列をいじることや、行った人物を変えることは禁じ手です。
この範囲内のアレンジでは、『麒麟がくる』の本能寺の変があります。
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今回もその一例で、道長が野心のためにそうしたのではなく、世直しのためにそうすることにしました。
この改変、私としては許容範囲です。
では許容範囲外だとどういう例があるのか?というと、『青天を衝け』での天狗党の乱です。
史実では、徳川慶喜の決断によって大量処刑された天狗党。それをドラマでは、田沼意尊が無断で勝手に殺したことになっていました。
無理にでも慶喜を“イイ人”として描こうとしたからでしょう。
その結果、慶喜は命令指揮系統すら把握できない無能にも見えてしまいました。慶喜の長所である聡明さを潰してまで、いい人アピールをして……つくづく、あの大河は何だったのかと思います。
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