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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第15回「姉川でどうする!」】
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どうする刺客
踊っているのはただの美女?
残念、刺客でした!
しかも井伊直政(放送時点では井伊虎松)……って、これの何が面白いところなのか。
家康のセキュリティ意識がガバガバなことは認めます。
それにしたって刺客も本気で殺る気があるんですかね。
警戒感を与えず近づいて何も告げずに相手をぶっ刺す――『鎌倉殿の13人』の善児とトウの翌年にこのレベルでは、ドラマに入り込めないのも仕方ないでしょう。
それにしても板垣李光人さんは大河運が今ひとつというか、使われ方が勿体無いというか。
これだけの美形となれば、起用したくなる気持ちはわかります。
しかし、美貌だけで使われるのは、あまりに勿体無い。
これまた『鎌倉殿の13人』での市川染五郎さんと比較すると気の毒でなりません。
むろん、そんな使い方をしている制作サイドの問題ですが。
どうする愛情表現
家康と信長のブロマンスをしたい気持ちはわかりました。
しかし、このご時世です。よりにもよってハラスメント的に迫り、同意も何もないまま耳を噛んだり、辱めたり。
こんなものは愛情ではなく支配欲でしょう。
朝ドラ『らんまん』を見ていて、その差を痛感しました。
『らんまん』では主人公とお目付役が東京旅行をします。
主人公のお坊ちゃまと、お付きの竹雄という青年。
この万太郎おぼっちゃまは奔放な性格で、どこぞにいきなり走り出したりしてしまう。無頓着でわけのわからないこともする。
そんな万太郎に振り回され、呆れ、怒りつつも、結局、忠義と愛情が混ざり合ってしまう竹雄。
万太郎も竹雄の忠義に感謝しつつも、家業を捨てたい思いがあって、乱れてしまう。
そんな二人と比較すると『どうする家康』の信長と家康の関係性は何なのでしょう。
脅されて、もう嫌!
でも、なんだかんだで信長についていく。
そういう家康って、DVや洗脳から逃げ出せないだけに思えて、愛情も何も感じさせません。
イケメン二人の顔を近づければ視聴者が喜ぶとでも?
結局このドラマは、人の心情をまともに描く気がないのかもしれません。
戦場がしょぼいとか、歴史知識がおかしいとか、VFXが軽いとか、そういった問題以前に、もっと重要な人間の心情をどこかに置き忘れています。
どうするタイトル縛り
本作はタイトルの時点で失敗していたのでしょう。
「どうする!」
と、毎回オロオロする課題を消化するため、くだらない場面を入れねばならなくなった。
信長が家康の陣に鉄砲を撃ち込んだのは、関ヶ原の戦いでの小早川秀秋エピソードを前倒しにしたのでしょう。
しかし、その小早川秀秋にしたって、アタフタする情けないだけの像は古い。
肝心の人物像が古臭いまま、辻褄あわせに「どうする!」と入れてくる。
もう5月も直前で、何も成長していません。
視聴率そのものをとやかくツッコミませんが、数字も悪化していれば、スタッフのテンションも上がらないのでは?
ドラマ10『大奥』のほうが「大河だろ」と評判される始末では、余計にキツいかもしれません。
どうする戦国映画
今にして思うと、『どうする家康』への期待値は2022年が最高潮でした。
◆木村拓哉さんら出演「信長まつり」大規模通行規制 JR岐阜駅混雑、帰り客誘導(→link)
キムタクが来る!ということで、倍率が凄まじいことになった2022年の「ぎふ信長まつり」。
期待される大作映画『レジェンド&バタフライ』と同じ脚本家で、しかも戦国時代を扱う大河となれば、2023年はヒット間違いなしと期待が膨らんだものでした。
『鎌倉殿の13人』の盛り上がりも大河人気を後押ししていた。
それがどうにもおかしくなってきた。
盛り上がったのは「ぎふ信長まつり」だけで、肝心要の映画は大ゴケ。
数字だけでは測れないにせよ、本作は視聴率もふるわず、しかも新たな脅威がやってきます。
北野武監督による映画『首』です。
タイトルだけで緊迫感が伝わってくるこの作品が秋に公開されたら、大河なんてどうでもよくなってしまうのではないでしょうか。
普段は映画に行かないという戦国ファンも足を運びそうな予感がしていて、運にも見放されかけている。
主役に抜擢された松本潤さんが不憫でなりません。
箭は弦上に在れば、発せざるを得ず
箭は弦上に在れば、発せざるを得ず。『三国志演義』
そら、矢をつがえたら発射するしかないっすよ。
『三国志』の話をします。
群雄の一人に袁紹という人物がいて、その陣営には陳琳が。
彼は主君の命令を受け、袁紹の敵である曹操を罵倒する檄文を書きます。
それを読んだ曹操は激怒し、「陳琳、こいつは絶対殺すしかないわ!」と心に誓います。そして曹操が袁紹に勝利し、陳琳は捕まりました。
曹操は陳琳を連れてきて、その檄文を読ませます。
もうダメ、俺、死んだわ……そう思いつつ、檄文を読む陳琳。
曹操はここで聞きます。
「お前さぁ、俺を罵倒するのに祖父や父まで言わんでもいいよな。そもそも、なんでこんなもん書くかなあ?」
すると陳琳はこう言います。
「だって、そら、矢をつがえたら発射するしかないっすよ」
「ほーう……」
曹操は感心します。だよな、思えばコイツはクライアントの要求に応じただけだわ。
そうして彼を自分の陣営に加えたのです。下手な言い訳をしない陳琳、それを認める曹操というわけです。
一方で、曹操に敗れた袁紹は、自分に諫言するブレーンの田豊を疎んじていました。
曹操は袁紹が田豊の策を採用したら勝てなかったと後で振り返ったのです。
なぜ、こんな曹操と陳琳の話を?
実は最近、大河ドラマや朝ドラのファンダムが変わったと思う次第でして。
朝ドラの転機は2013年『あまちゃん』です。それまで親世代が見る真面目でつまらないもの、いかにも先生がおすすめしそうなイメージだったのに、この作品は何かが違うと。ドラマ通を自認する層こそが、SNS中心に盛り上がるようになった。
いわば、感想つまりは矢を放つことが競技になったのです。
矢――というのは、コンテンツを見て感じたこと。それをSNSなりブログなり、こうしてレビューに書くことです。
しかし日記帳に書いたり、せいぜい周囲と語るだけならばまだしも、こうもネットが発達すると状況は変わってきました。
矢をどう放つかだけでなく、矢の放ち方やら何やら、厄介なことになる。いわば競技になってきた。
コンテンツを純粋に鑑賞するのではない。鑑賞や批評の対象でもない。
わかりみ重視。ハッシュタグをつけて、リツイートやいいねをつけあって、盛り上がる手段となってしまった。
そうなると、もう小難しい批評だの分析はかえってこう言われる。
「そこまで考えてないっしょw」
「フツーの人は面白がって盛り上がって終わるのにw」
「考えすぎwww」
ネットニュースの見出しになるような、「ロス」「号泣」「ワロタw」と書き込んで、みんなワイワイすればいい。
大河もそうなったんですね。顕著になったのは『平清盛』あたりからですね。
歴史ファン、大河ファンは、月9のトレンディドラマで盛り上がる連中とは所詮わかりあえない。高尚で賢い……といえばいいけど、要するにマニアックで陰キャでめんどくさい。そういう自意識があったように思えます。
そういう層は人だかりの中心にはいない。城巡りに行ったり、御朱印を集めてきたような歴史ファンは「マニアww」「痛いw」と馬鹿にされてもまあ、仕方ないというか。月9好きとは趣味が違うと。
漢字ばかりの本を読んでいる、根暗で友達がいないヤツ……そりゃそうだけど、愛読書が司馬遼太郎で大河を見ていると言うと、大人から褒められるぞ。そういう感覚ですね。
それで別に不満はなかったはず。棲み分ければいいし、人は群れればいいってものでもないでしょう。
それが変わった。
矢を放ちあって、みんなで盛り上がってウェーイww と言い合えば、リア充の仲間入りができるようになった。
大河ファンは、もう隠キャじゃないw もうマジリア充www
そうなったら、そりゃ、ドラマ通のご意見やノリ重視になれますよ。歴史にこだわって、ああだこうだ言う大河ファンは痛い奴になった。
まぁ、私もその一人なのでしょう。
そういう古風な歴史好きを蹴っ飛ばしてでも、イマドキリア充を狙う――その帰結が『どうする家康』に思えてきます。
SNSが発達したんだ! 小難しい理屈抜きに、みんなでパーっと盛り上がればいい。
そう考えた本作のスタッフが、陰キャ歴史オタクや大河ファンだけでなく、一般人も取り込んで「わーっ!」と盛り上がれることをやろうとしたわけですね。
◆悩むトップ像で大河ドラマに風穴 制作統括が語る『どうする家康』の潜在力(→link)
このインタビューには本作が失敗する理由が、みっちりと詰まっていると思えます。
最初から最後まで、従来の大河好きなんて切り捨て、リア充を引き寄せたいとやる気満々でしょう。
それで勝手に「今の視聴者」像を想像し、標準を合わせたと先回りしているわけですが。
その「今の視聴者」というのは、SNSで取り上げられるハッシュタグを構成している層がどうしたって強くなるのでしょう。
特にこの制作統括は、ハッシュタグが威力を発揮した『平清盛』と同じ方なので、その傾向は一層強くなる。
しかし、そういういわば「ノイジーマイノリティ」を過大評価するのは危険ではありませんか。
『いだてん』が「最低だけど最高じゃんね!」と現実逃避したところで、失敗作という評価は覆せなかった。
確かにハッシュタグにざっと目を通し、それに迎合するような、ともかく褒めて褒めて褒めまくる感想を書けば、好かれるかもしれません……なんてことを私は思いません。
大河ファンだって、全作を絶賛するわけでもない。
『天地人』『江』『花燃ゆ』『西郷どん』には辛辣な方も多い。
構成員の男性比率が高く、ミソジニー気質のある場所では、『麒麟がくる』を素直に褒めてはいけない風潮がある。
駒を「バカw」だの「カスw」だの罵倒してから、上目遣いで「ま、あの麒麟ですらいいところはあった」とでも言い出すのがルールになっていると。
斯様にですね、褒めようが、貶そうが、ファンダムの独自ルールに背いた者は粛清されます。
大河ではなく朝ドラで、ある作品を好意的に書いていたところ、そのアンチにさんざん罵倒されました。
褒めようが、貶そうが、ドラマ通の意に背けばぶん殴られる。
旧知の知り合いでもないどころか、知らなかった相手から唐突な絶縁宣言をされる。
忍者のファンでもないようなのに、ルールの適用だけはまるで抜け忍始末みたいな世界観ですな。
そういうことを経験して、私は陳琳に倣い、己の思いのまま矢を放とうと思っただけのことです。
最後に、もう一度!
箭は弦上に在れば、発せざるを得ず。
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【参考】
どうする家康/公式サイト