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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第24回「築山へ集え!」】
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『江 姫たちの戦国』には、キラキラした感覚はあったんですよね。それこそ女の子ならば憧れる、綺麗なプリンセスワールドがあった。
『花燃ゆ』の文だって、おにぎり握って、家庭菜園で花を育てて、鹿鳴館でダンスすれば満足。セレブ主婦で満足しているのだから、無害と言えばそう。
それが『どうする家康』の瀬名は、テスラ缶を買っていそうな勘違い系セレブ主婦。
しかも我が子を巻き込んでまで破滅しますからね……。
憧れる要素が何一つとしてない。
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どうする大河ドラマというビジネスモデル
大河ドラマは変わった――ならば、その原因はどこにあるのか?
出来の良い年ではなく、今年のような異常事態が赤裸々にした、ある環境について思い当たることがありました。
最近の観光地です。
コロナ明けという反動があるにせよ、最高級の部屋はどんどん価格が釣り上がっていて、庶民からすれば手が届かない。
外国人観光客のインバウンド狙いも大きく影響しているのでしょう。
大河も自然と影響を受けます。
かつて大河ドラマというコンテンツが肥大化してブランド化すると、観光業と結びつきました。
一家揃って大河ゆかりの地を訪れる。だからこそ観光地は熱心に誘致する。
しかし、嗜好も多様化します。
「大河は一年で終わりでしょ。その点、ゲームは長く続いたりする。だから今はむしろそちらを狙っていますよ」
歴史人物ゆかりの観光関係者からそう聞いたことがあります。
アクションゲームやソーシャルゲームとのタイアップの方が効果が上がるという認識があるだけでなく、拡大しつつある。
個人単価の高い外国人観光客狙いとなると、ますます大河の優先順位は下がります。
となると不真面目な作り手はどのへんに目を向けるのか?
これ以上考えるのは、私のなすべきことではありませんけれども……。
ゆかりの地の声を無視しても良い。良識のない作り手がそんな風に考えたら、歴史をネタにした妄想街道まっしぐらになってもおかしくないのでは?
ただし、大河は新しいビジネスモデルは掴んだのかもしれません。
あまりに不親切な作りだと、解説動画に誘導できます。
本作の場合、私のような辛辣意見も多いからこそ、ファンにとっては褒める相手は救世主のように思える。
歴史うんちくを語りたい層。
歴史を知る賢い人に、推しのでているドラマを褒めちぎって欲しい層。
そこに需要と供給の幸せな融合は確かに生まれました。
歴史ネタでマンスプしたい層にも合致したのです。
◆ 高圧的に説教する男性、それって…女性を見下す「マンスプレイニング」とは(→link)
今年は、褒めて、基本的なトリビアを語るだけで、いいねやRTが稼げるから美味しいのかもしれません。
果たして大河はそれでよいのでしょうか。
どうする瀬名
瀬名は一体何なのか?
これが理想だとすれば、何が託されたのか?
それを考えてみたいと思います。
◆論点1:瀬名の描き方はジェンダーを取り入れたのか?
かすかな望みをかけ、平和を望みつづけた瀬名。
その姿は、コロナ対応でも優しく毅然とした対応を取り、事態を収束させた女性リーダーたちを彷彿とさせる。
同じNHKの『大奥』では……(と、別のドラマを結びつける)
有村架純といえば……(と、出演者の別の作品を長々と褒める)
有村であればこそできた斬新な瀬名は、私たちの時代にふさわしいのではないか。
ジェンダーギャップにおいて低迷する日本。
その意識を変えるためにも、瀬名は令和の私たちが必要としたヒロインだった。
自分以外の誰かになりきって褒める記事を書いてみました。
ジェンダーギャップの落ち込みとからめて、
◆日本のジェンダーギャップ指数125位 前年より後退、G7で最下位(→link)
そういう提灯は光るのではありませんか?
あらためて瀬名とフェミニズムの関係を考えてみましょう。
瀬名のような考え方は、「カルチュラル・フェミニズム」であるとも言えます。
カルチュラル・フェミニズム(英語:Cultural feminism、直訳: 文化女性主義)は、男性と女性の個性には根本的な差があり、その差は特別であり祝福すべきものであるという理論である。社会であまり評価されていないとする女性らしさ、女性的な要素を再評価しようという考え方。
このフェミニズム理論は、男女の間には生物学的な差異があるという考えを支持する。たとえば、「女性は男性より親切で優しい」から、女性が世界を支配すれば戦争がなくなるだろう、とか、女性の方が子供の面倒を見るのに向いている、みたいな考え方をするわけである。カルチュラル・フェミニズムは、女性の固有の特性、習慣、経験などを賛美することにより、異性間の関係や文化一般を改善することを目指している。そして、「女のやり方」の方がよい方法であるとか、現在論じられる文化は男性的すぎるので、女性の観点からバランスをとる必要があると信じていることが多い。 Wikipediaより
この巴のセリフなんか、まさにそうでしょう。
「瀬名、強くおなり。我らおなごはな、大切なものを守るために命を懸けるんです。そなたにも守らねばならぬものがあろう。そなたが命を懸けるべき時は、いずれ必ず来る」
女性は本質的に平和主義者だから――そういう決めつけは、批判的な見方も相当されます。
この主張が悪いというよりも、悪用されがち、誤解が広まりやすいことも注意点です。
それが大河とは相性がいいんですよね。
『利家とまつ』の、なんでも解決するまつの味噌汁とか。
松下村塾を救う『花燃ゆ』の文ちゃんおにぎりとか。
まさにそうであり、まとめるとこうなります。
『どうする家康』にジェンダー要素があるとすれば、カルチュラル・フェミニズムのような現在では古く、しばしば問題視される思想を基にしている。
瀬名に敵対する男性に、悪しき男性性を付与しており、問題があり、雑な描写といえる。
◆論点2:瀬名に思想はあるのか?
瀬名はふわっとした感覚的な描写で、思いつきでしかないように思えます。
ヒントを与えた巴にせよ、家康の側室にせよ、思想的な背景がわかりません。
『麒麟がくる』の駒は、自作の薬に「芳仁丸」とつけました。
安価な薬で人を救うことを「仁」と見なしている。そんな駒は、朱子学への理解があるとわかります。
『鎌倉殿の13人』の八重は、孤児を救い、育てていました。
孤児の一人であり、八重が命がけで救った鶴丸は平盛綱となります。彼は泰時にとって欠かせない人物となった。
八重は幼い我が子を殺された辛い経験が、慈悲に直結し、仁政の種は八重によって蒔かれていたのです。
こうした慈愛だけでなく、そこに思想や教え、宗教が加わることで、国の礎たる仁政撫民が育つ。
芽吹いたら、水と栄養が必要であり、そのバトンを受け取ったのが、北条政子でした。
北条政子は、人を救いたい気持ちをどうすればよいのか大江広元に相談します。
すると彼は施餓鬼を提案しました。かくして慈愛だけでなく、そこに仏教思想が組み込まれた政子は、泰時と並んで、民衆に施しをする。
女性の慈愛が確たるものとして伝わっていく描き方とは、こういうものでしょう。
実現したい理想があるなら、思想を身につけ、手続きを踏んで、周りの人から救う。
そういう地に足のついた誰かがあたたかい手をさしのべる様を、私は否定しません。素晴らしいと思う。駒も、八重も、政子も、敬愛に値する立派な女性です。
一方で瀬名はただの妄想。思いつきだから見ていて辛くなる。
◆論点3:瀬名は現代人に近いのか?
現代人といっても、相当狭い範囲だと思います。
Amazon制作のドラマ『ザ・ボーイズ』に、キャプテン・アメリカのパロディであるホームランダーというヒーローが出てきます。
彼は古臭い“普通のアメリカ人”の家庭環境にこだわりがある。
専業主婦の母親がいて、クッキーを作って、子どもたちのことを家で待っている。一戸建てのマイホームにフォードのマイカー。
そういう一時期、マジョリティにとってスタンダードであったに過ぎない像こそ真実だと思っているわけです。
それがいかにアホで迷惑なのか、あの悪趣味なドラマではこってりと描いていきます。
『どうする家康』の制作者が考える理想像も、こういう古く、かつマジョリティ目線しかないものにすぎません。
瀬名は、第二次世界大戦後の短い期間に理想とされた“専業主婦”枠の中を泳ぎ回る女性でしょう。
やたらと裁縫をし、おにぎりを握る。家事育児を完璧にこなし、良妻賢母であることにしか、己の価値を見出せない。
『麒麟がくる』の駒は確固たる医学知識と腕があった。伊呂波太夫には機転、踊りの技術、一座を率いるリーダーシップがあった。帰蝶にはゆるぎない知性と意思があった。
『鎌倉殿の13人』は、政治力を持つ女性たちが何人も登場しました。北条政子、丹後局、藤原兼子など。
そういう家庭の外で発揮できる力があるとわからない。夫と我が子以外にどう振る舞うのかすら、わかっちゃいない。
瀬名が優しいという点にも、私は疑念を覚えます。
親や親友の弔いすらろくにしないし、五徳を人前で平気で貶めるような叱り方をします。夫の前だけ、ぶりっ子しているようにも思えますね。
たまたまいい家に生まれた、親ガチャにあたった。
夫ガチャでも当たって、権力者の妻になった。
夫のおかげで周りはチヤホヤしてくれて、しょうもないことでも褒めてくれる。
愚かだからそうした忖度を信じ込んで、自分はすごいと思い込んでしまう――そんな夢の中にいて、せいぜい刺繍の腕前でも、家庭菜園でも褒められていれば無害です。
しかし、妄想にとりつかれたら、もう見ちゃいられない。
断っておきますと、私は昭和一時期の専業主婦が悪いと言いたいわけではありません。
そういう嘘っぱちの社会構造を真実だと思い込み、押し付けてくる層が腹立たしいのです。
戦国時代のできる妻には、夫を叱り飛ばす強さがあった。
前田利家の妻・まつがその典型例。
吉田松陰の妹は幕末らしい烈女だった。
ただし、一番上と二番目の話であり、三番目は年齢差があって兄とそこまで関わらない。
悪質な大河ドラマはこうした歴史上の人物を薄め、無理に“専業主婦神話”に押し込めてきた。そういうドラマの作り手は、むしろ検証していかねばならない。
『おんな城主 直虎』や『麒麟がくる』や『鎌倉殿の13人』ではできていたのに、本当に今年はどうしたのでしょう……。
瀬名はwokeでスピリチュアル
先週のタイトル
「瀬名、覚醒」
からして決定的に危険だったと後に気づきました。
“woke”(ウォーク)というスラングがあります。
「覚醒した」という意味です。
何か陰謀論やスピリチュアル、カルトにハマった人が、「私は目覚めたからあなた方とはちがうの!」と謎のマウントをとってくるような現象を、揶揄して言うわけですね。
瀬名はまさしくwokeでスピリチュアル。
地に足のついていない妄想を滔々と語る様は、ゾッとしてしまいました。
私の身近にもいました。
友達だと思っていたら、いきなり“目覚め”、朝から晩まで、自分こそが世界が知らない真実を知ってしまった系のことを語っている人。
全くもって別人に思えてしまい、陰謀論に友を盗まれてしまった気分です。
そんなイヤ~なリアリティをもってヒロインを“覚醒”させないでくれ、と泣きたいほどです。
これも先ほどさんざん書いてきた“専業主婦信仰“が関係していると思えます。
日本の女性には、家庭に押し込められ、孤独な環境で夫と我が子に向き合い、達成感を味わえなかった人もいるわけでして。
でも、私でもできる、世界を変えられる!――そんな妄想に取り憑かれて、この世界をまるごとリセットする幻想に巻き込まれていく女性はいたわけです。
瀬名って、そういう女性と重なってしまって辛いものがあります。
これを理想のヒロインだと思って描いているのであれば、作り手に相当のマザーコンプレックスがあるのではないでしょうか。
目を覚ましてほしい。こんなヒロイン像は、むしろ若い層を遠ざけますよ。
羊頭狗肉
羊頭を掲げて狗肉を売る。『無門関』
今年の大河は「羊の頭を置きながら、犬の肉を売る」そんな商法に見えてしまいます。
制作者は「かつてないスケールで合戦を描く」と堂々と宣言していた。
それがあの結果です。
同じく「脚本家は周りが驚くほど資料を読み込んでいる」とも言う。
どうしてそれを素直に信じられましょう?
最も嘆かわしいのは、こうした触れ込みです。
◆ 大河ドラマ『どうする家康』が若者世代を繋ぎ止める?ドラマ評論家・木俣冬が教えるNHKの仕掛け「二次創作化の世界に入ってきている」(→link)
出来の悪い部分を「今の若者はこういうのが好きだから」と誘導している。
しかしデータを見ると、若年層の視聴者は昨年から半減しています。
勝手に若者のせいにされるなんて、あまりに酷い話。
それでもこういう提灯記事を光らせれば誤魔化せると制作陣は判断されているのでしょうか。
『どうする家康』のこうしたやらかしは、「なろう小説」に通じるものがあります。
イマドキの若い世代に人気とされておりますが、実際には中年向き。正確に言えば、10年以上前に若者だった層が、まだ読み続けているというところでしょう。
それでもTwitterは中年が一番分厚いメディアですので、そこだけ見ていたら「ウケている」と錯覚してしまいます。
『どうする家康』も、そういう錯覚を利用していると思います。
Twitterの好評意見ばかりを拾って「号泣」「悲痛」といれた見出しのネットニュースでも作れば、それを信じる層は一定数いるのでしょう。
しかし、そういう狡猾な誘導がいつまで通じるか。
◆ジャニーズの性加害問題を生んだ「権力構造」を多くの日本企業は抱えている(→link)
本当に視聴者が望んでいるものではなく、権力構造が正解とするものを供給している――そういうメディアのスタンスは見抜かれつつある。
以下の記事では、
◆《ジャニー喜多川氏の性加害》TBS「報道特集」“総ざんげ”のキャスターに唯一欠けていた視点とは(→link)
はっきりと若い世代の不満の声があげられています。
筆者が日頃大学で教えている20歳前後の若者たちはなかなか辛辣だ。テレビや新聞という既存メディアへの不信が強まったという声は多い。
テレビ不信の声を以下にまとめてみた。
・テレビには元々期待していないし、ふだん見ることも少ないが、ジャニーズ問題での対応を見てもキャスターもタレントも言い訳ばかりでもうたくさん。
・加害者が死亡した過去の出来事なのに、真実究明にこれほど時間がかかっていることに驚く。メディアにおいても日本というシステムの劣化が欧米以上に深刻ではないか。
・“性加害”にいっさい触れず、何事もなかったかのようにジャニーズのタレントが明るく振る舞い続けている番組も多い。そうしたテレビ全体の姿勢に吐き気がする。
・報道で権力をチェックするというタテマエを言いながら、テレビは大きな権力に屈して押し黙る構図だ。ジャニーズという自分たちにとっても関心が強い問題で、テレビというメディアがダメな現状がつくづく見えてがっかりした。
将来はメディアで働くことを夢見ていた若者たちほど一様に失望している。
ジャニーズがいくら悪いと盛り上がったところで、公共放送たるNHKがジャニーズ主演と副主演の大河を堂々と放映する。
それだけでなく、わざとらしいほど擁護する提灯記事が出る。
こんなことを続けていたら、もう大河の未来なんてないかもしれない。
「あんなもの信じられるか」と、一蹴されてしまうのではないでしょうか。なんせ今は海外ドラマが気軽にいくらでも見られます。
半世紀も超えて築き上げた信頼性を投げ捨てでも、自分たちさえよければいい――こんな作り手がいくら平和だのなんだの解いたところで、wokeな戯言にしか聞こえないのも当然のことでしょう。
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【参考】
どうする家康/公式サイト