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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第25回「はるかに遠い夢」】
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先日、痛ましい事故がありました。
◆潜水艇の残骸引き揚げ、遺体の一部も発見か 米沿岸警備隊が発表(→link)
紛れもなく悲劇で辛い事故でしたが、一方で、あまりにも無謀な彼らの行動に、驚きませんでしたか?
瀬名の「大掛かりな詐欺行動」もそう。杜撰で愚かな策でしかないから、批判されているのです。
にもかかわらず、なぜ今年の大河を受け付けない、古参のファンが駄目人間であるかのように誘導されなければならないのか。
今回の記事だけではなく、当初からずっとそうした引っ掛かりはありました。
『平清盛』以来、本作のトップにいる磯氏は「古参の大河ファン」が嫌いなようにすら思えます。
そんな連中を一泡吹かせる革新的な大河を作るのだ!というシナリオに固執している。
そのことが水源に流れ込む毒となっている気がしてなりません。
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蛇足――足のある蛇なんて求めていない
楚の国でのこと。
酒があるものの、人数分はない。
そこで話し合い、蛇の絵を最初に描き上げたものが飲むことになりました。
みんな地面に描き始めます。
一番最初に描き終えた男は、杯を手にして調子にのります。
「まだ描いてんのw ウケるwww 俺なんて蛇に足まで描けちゃうしw」
すると、二番目に描き終えた男が杯を奪い取りました。
「蛇に足はない。つまりお前のソレは、蛇に似た生き物なのな。はい、俺が酒をいただくぞ」
これが『戦国策』に由来する、蛇足の語源です。
水源に流された毒は、今やファンダムに根付いていて、さらにおかしなことになっています。
「この素晴らしい深掘りをみて! クソレビュアーみたいなアンチも、きっとこれを読めば変わると思う!」
そうわざわざアンチのハッシュタグを使って、拡散する人がいるわけです。
陰謀論や無茶苦茶なシナリオにハマりがちな人って、友達がいないとか、隠キャだからとか、そういうことでもありません。
自分が不当な攻撃を受けているという思いこみ。
自分は他の人よりも優れているという思い込み。
これが合致し、それを訂正しない仲間同士で囲いを作れば、あとはどこまでも堕ちてゆきます。
蛇足でたとえるならばこうだ。
「でも蛇に足があったらかっこいいと思いませんか? それなのに酒を奪われた私は不幸! みんなもそう思うでしょう? 私こそ一番優れているのに……」
そうネチネチ言われたところで「蛇に足はないからね」と返すしかない。そういうわけのわからない状況が生まれています。
そういう不健全なループが大河ドラマ周辺に漂っていて困ったものですが、D(どうする)アノン現象なんて起きたら、どうしたものかと。
『どうする家康』は、シナリオの作り方が陰謀論者じみていることも問題です。
「見えざるピンクのユニコーン」というのが、陰謀論者の陥りがちな思考回路。そういう組み立て方をしている。
エビデンスなしに思いこみだけで点を打ち、テキトーに組み合わせて
「ね? 瀬名チャンはピンクのユニコーンだったんだよw」
と無邪気にはしゃぐようなことをしています。
しかも、なまじ大河ゆえに、そんなピンクのユニコーンを振りかざし、口うるさい隠キャ歴史ファンを殴ることだってできちゃう♪
ネットで拾える逸話だの、SNSや掲示板で見かけた話だの、確たる証拠や理念がなければ「点」としてすら数えない。
点と数えてもあくまで点は点であり、理論の線には引っ張り込まない。
そういう思考回路が大事なはずなのに、できないことにすら気づかない人は、そのまま突き進んでしまう。
そういう人の背中を押す雰囲気が、今年の大河はあまりに濃厚でおそろしいのです。
『どうする家康』を褒めるついでに、『鎌倉殿の13人』配信停止を喜ぶ投稿までされていたことには、驚きました。
ヒロインは、なぜ殺されるのか
もう一つ、反論したいことがあります。
「作り手はフェミニストだろ? そのせいで今年の大河はダメなんだ!」
こんな意見がありますが、それはどうなのか。
田嶋陽子氏の本に『ヒロインは、なぜ殺されるのか』があります。
アメコミ由来の「冷蔵庫の女」という概念もあります。
要するに、プロットの都合上、ヒロインが死んで、そのことでヒーローが奮起するというパターンです。
このドラマの作り手は、家康という題材をみたとき、天下統一や江戸幕府を開いたといった話はすっとばし、こう思ったのでしょう。
「ヤッベwwこれだとヒロイン殺せるじゃんwww美男美女キャスティングにして盛り上げられるしwww」
ヒロイン殺しという要素に、浮かれちゃったとしか思えないんですよね。
現代劇より簡単に女を殺せる! ヤッベ、楽しい!
こんな思考回路に陥ったと。
田鶴だの、阿月だの、今まで描かれてきた女性にしても、自己実現と命を引き換えにして散ってゆきます。
死んでくれると実に都合がいい。
死ぬところで「ロス」だの「号泣」だのネット評価を作れますし。美女をとっかえひっかえ出せる。
歳をとって“賞味期限”が切れた女なんて邪魔なだけだから、殺してでも入れ替えていくのがいいに決まっているんですよ。と、ミソジニストの考え方ならそうなる。
『麒麟がくる』でやたらと“ファンタジー”と叩かれた駒を思い出してください。
初登場時は主人公に恋する少女だったのに、BBAになっても死なない、そのくせ足利義昭の愛人になりやがった、という批判がされた。
実際は愛人などになっていませんが、いつまでもしつこく単純な事実誤認をする人からするとそうなるらしい。
しかも駒は頭が切れる。
女なんてエロか家事育児しか価値がないし、バカしかいないのに、“ファンタジー”すぎるよな!
……と、こういうミソジニーを炸裂させた界隈からすれば、今年のヒロインを殺して入れ替えるシステムは画期的でしょうね。古典的なのですが。
どうするミソジニー
これを踏まえまして、本作の危険性をもうひとつ。それはミソジニー、女性嫌悪です。
ミソジニーゆえに誤ったニュースが、ここ数日だけでもこれだけ出てきます。
◆「日本、仕切り役に男性を送る」 G7女性活躍相会合で米タイム誌(→link)
◆呂布カルマ「男子生徒はのぞけるならばのぞく。当たり前だろ」ツイが話題 修学旅行で盗撮高校生処分に(→link)
◆「週刊現代」人事混乱に「偉くなりたかったら、女になった方がいい」発言 講談社No.3常務が辞任した(→link)
『どうする家康』製作者もこう思っていそうに思えます。
「男であるオイラが妄想した最高のヒロインを描いちゃうぞwww 画期的でしょwww 女性が輝く大河へwwww」
瀬名の描き方なんて、まさしく「日本、仕切り役に男性を送る」そのものでしたね。
瀬名にどんな気持ちがあったか。どんな優れた女性だったか。
問題はそこではありません。
・女性の意見を、なぜ当時の日本は無視したのか?
・常に無視されてきたのか? それとも通した事例はあるのか?
・事例があるにもかかわらず、後世なかったことにされたのか?
ジェンダー観点で歴史を再検証するには、こうしたプロセスが必要です。
実際、エビデンスにより覆したニュースもありました。
◆ 「男性は狩猟、女性が採集」という長年の定説が誤っていたことが大規模分析で判明(→link)
『鎌倉殿の13人』ではエビデンスを用いてそこを丁寧に描いたのに、本作は手続すら踏んでいない。
こういう間違った女性の持ち上げ方は、かえって女性に不利益をもたらしかねません。
差別の構造を解明しない限り、「お前がダメなのは女だからじゃない。能力不足だw」と、むしろ逃げるルートを整備しかねません。
寿桂尼すら出さないドラマで、女性の活躍だの最高のヒロインだの、笑止千万でしかありませんので。
大河とその周辺に圧倒的に不足しているのは「フェミニズム批評」に思えます。
私も勉強中で、北村紗衣氏の著作を読んで精進していますが、この大河や日本史周辺のミソジニーは、危機的な状況を引き起こしています。
『アカデミズムとジェンダー: 歴史学の現状と課題』という一冊があります。
これによれば、歴史学への興味関心は男女間で大きな差がないとのこと。
ところが大学進学を考える女子学生が、 SNSでの女性叩きやミソジニーじみた投稿を見ることで嫌気がさし、進路として日本史を選ばなくなる可能性があることがわかります。
大河周りは、視聴者の年齢層が高いこともあってか、ミソジニーが蔓延しています。
今年だってすぐ「こんな少女漫画みたいなものはない!」と、悪いことを女のせいにする。むしろ出来の悪い少年漫画じみたファンタジーまみれでしょうよ。
一方で、「『江(シエという表記を使う人も多い)』や『花燃ゆ』よりはマシだ! あれを見たことがないのだろう!」というわけのわからない、ミソジニー混じりの擁護もなされます。
こういう方に「『どうする家康』って、スイーツ大河ですね」というと怒るでしょうね。
私としては、この2作よりも本作は出来が悪い。大河ドラマは女性主演、女性脚本家だとより叩かれやすくなる、そんなミソジニーがあるのだと納得させられるばかりです。
NHKは大勢の人がいて、男女比ならば男性比率が高いでしょう。それでも駄作大河は女のせいにする。煮詰めたようなミソジニーではありませんか。
そこで、私なりの解毒剤を用意しました。
こちらのアルテイシア氏の記事をお借りします。
◆モブおじさんとの対話(4)迷惑おじさんになってませんか?|アルテイシアの熟女入門|アルテイシア(→link)
これを踏まえつつ、大河ファンダムの「迷惑おじさん」じみた空気に火計を仕掛けましょう!
・マンスプレイニング(mansplaining)
男性が上から目線で説明や説教をすることを指します
「『どうする家康』って史実を全然なぞってなくない?」
「そういうことを言いますけどね。たとえば近年の説では……(と、延々と知識蘊蓄を流してくる)」
・マンタラプト(manterrupt)
男性が女性の話を遮る行為
これはドラマ内でやらかしていて、男の人物はよく女の言うことを遮りますね。
『レジェンド&バタフライ』もひどかった。これがカッコいいと思っているなら、こうです。
「わー、マンタラプトをかっこいいと思っているって、ドラマを描いているうちに価値観まで安土桃山時代になっちゃったの?」
・ ヒピート(hepeat)
女性が意見を言っても無視されるのに、同じ意見を男性が言ったら「いいね!」と称賛される現象は、ヒピート(hepeat)と呼ばれています。
『どうする家康』の瀬名の場合、むしろ逆転しているようにも思えますね。
男が語ったら「妄想」と一蹴されるけど、女の瀬名チャンならば違う……こういう安直な発想が嫌だ。
今年の脚本をもしも女性が描いていたら、袋叩きだったでしょうね。男性だから通じる強みはあります。
今年の瀬名は男性が描いたからこそ許される、そんな像そのものに思えます。
・トーンポリシング(tone policing)
批判者相手に対して、その「内容」ではなく「話し方や態度」を批判して、論点ずらしをする。
「瀬名が死んだんだ、批評はやめて悲しんで泣け! それができない奴はひとでなしだ!」
「アンチは態度が悪くて最悪です! もっと素直に感動すればいいのに!」
「クソレビュアーは言っていることは正しくても、ともかくむかつくし、俺の心を傷つけたから悪い!」
はいはい、いつものアレですね。
・ワタバウティズム(Whataboutism)
甲の問題について話してるのに「だったら乙はどうなんだ?」と論点をずらしをする。
「『どうする家康』の衣装はひどいなあ」
「『麒麟がくる』もひどかったと思いますwww」
「『どうする家康』のえびすくいはいらない」
「『鎌倉殿の13人』でも全成が風を呼んでいたのにwww」
擁護記事でも多いです。
過去の作品にもそういうことはあったという誘導。その出来が悪くつまらないから、批判しているわけです。
・シーライオニング(Sealioning)
しつこく質問を繰り返すことで、相手を疲れさせ、黙らせ「論破!」とドヤ顔をするやり方です。
「大河ドラマって、いわゆるドラマですよね?」
「大河ドラマのルールって何? 厳密な時代考証って必要ですか?」
「大河ドラマって、歴史に忠実でなければならないと、誰が決めたんですか?」
このシーライオニングって、結局は相手を武士だと思っていないからできるやり口だと思います。
武士は侮辱されたら、斬る――それでこそ花は桜木、人は武士。こしゃくなシーライオニングなぞ、斬れば決着がつく。そうする他あるまいて。
★
それにしても、私は心が栄養不足です。大河ドラマで武士道の補給ができず、深刻な武士道不足に悩まされています。
なまじ題材が武士でない年ならまだしも、今年は存在そのものが武士を出す出す詐欺であり……。
もしかして、このドラマそのものが「大掛かりな詐欺行動」であるとか?
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【参考】
どうする家康/公式サイト