どうする家康感想あらすじレビュー

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『どうする家康』感想あらすじレビュー第31回「史上最大の決戦」

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惻隠の心は仁の端なり

惻隠の心は仁の端なり。『孟子』公孫丑章句上篇

哀れみや情けを持つことこそ、仁の基本です。

もうニュースを引用するまでもないと思いますが、先週の茶々を「ラスボス誕生!」と絶賛する記事が多かったものです。

感想では性的なネットスラングを用いたものも見かけました。

予想通りです。まったくもって嘆かわしいうえに、日本の人権意識は国連が指摘する通り、遅れているとしか言いようがありません。

どこがおかしいか?挙げていきましょう。

◆13歳の少女が色目を使うおかしさ

『鎌倉殿の13人』では、茶々と同い年くらいのトウが、善児により目の前で親を殺されました。

そこで「こいつの弟子になって、いつか寝首をかく!」と即決したらどう思われます?

おかしいですよね。

まだ思春期の子供が、親が死んだ直後にそんな冷静な判断ができますか?

あの茶々は、いわばそういう無茶苦茶さでした。

このドラマにはこんな場面もありました。

かけっこが好きで活発であった阿月が、父親から女らしさを仕込まれる場面です。

ジェンダー意識があってないようなこのドラマでも、女らしさは先天的でなく、後天的に仕込むものだという一応の認識はあるようです。

覚悟があろうが、決意があろうが、13歳の少女がそれを示すとなれば、鋭い眼光で相手を睨むといった行動になるでしょう。色気あふれる振る舞いなんて、誰からも仕込まれていなければできませんから。

『鬼滅の刃』に堕姫という鬼がでてきます。

遊女の娘として生まれた彼女は、13歳で初めて客をとったとき、相手の目を簪で突いてしまい、その報復として焼き殺されたという設定です。

後に鬼となってからは妖艶さの化身となる彼女だって、人生経験をろくに積まないまま、暴力的な兄の影響を受けていたらそうした突発的な行動に走るということです。

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一方で本作は?

13歳の少女が計算づくで流し目を作り、不敵な笑みを浮かべられる。

重ねて聞きますが、そんなことができると思いますか?

私は性犯罪者の言い訳を思い出します。犯罪者は「被害者が誘った」という。そういう事件をどうしたって連想するのです。

◆父親からの性暴力で負った「心の傷」 少女と母親が法廷で伝えた思い(→link

被告は公判で「娘の求めに応じてしまった。わいせつな気持ちはなかった」などと主張した。弁護側は被害者の供述が信用性に欠けるなどとして、執行猶予付きの判決を求めていた。

 

◆どういう教育だったのか

仮に、中にはそうできる少女もいるとしましょう。

例えば『麒麟がくる』に出てきた伊呂波太夫の13歳時代がそうするのであれば納得できます。

そんな幼さから身と色を売ることを仕込まれていたら、しつけられた犬のようにそう振る舞ってもおかしくはない。

では茶々は、どこであの流し目と笑みを覚えたのでしょうか。

お市でしょうか?

将来男を手玉に取って操れと、楊貴妃の話でも読み聞かせていたのでしょうか。

いや、そんなわけがありませんよね。大名の姫として生まれた娘に仕込むべき教育とは、そんな遊女対象のものとは異なるでしょう。

私は『真田丸』の茶々に衝撃を受けました。

無邪気に笑う様子はまるで少女そのままで、お市と浅井長政に愛されて育った姫君そのものに思えました。

こんなに愛されてのびのびと育った女性が運命に巻き込まれることは、改めて悲劇的だと思ったものです。

◆歴史劇で結果がわかっているように振る舞うのはおかしい

この茶々は、最近見かけるWeb広告漫画を彷彿とさせます。

非業の死を遂げた悪女が、過去に戻って二周目をやり直すというパターンです。

だっておかしいんですよ。この時点で、茶々はこれだけ知っているかのようにふるまう。

・秀吉が天下を取る

・自分が他の側室を押し除けて寵愛を得る

・自分が男子を産む

・自分の男子が成人するまで生きている

この茶々は人生何周目ですか?

そういう茶々を描きたいなら、転生ものWeb漫画でお願いします。

結果がわかったように振る舞う歴史ものは、基礎すらできていないとみなされて、全く評価されません。

◆【どうする家康】家康へ復讐の野望に燃える「淀殿」爆誕へ(→link

こんなニュースなんて、タイトルの時点でもうむちゃくちゃ。

茶々が「淀」と呼ばれるのは、彼女が懐妊して淀城が産所となったから。

つまり「淀殿」は妊娠しなければ爆誕も何もあったものじゃない。

この時点でこんなことをタイトルにする時点で、実在した人物の人生なんてどうでもよくて、キャラクターカード扱いしているようなものじゃないですか。

◆茶々には家康を倒す好機があるだろうに

歴史を知っていればそう思いませんか?

秀吉に耳打ちして追い詰めてもいい。

関ヶ原で秀頼を擁立して、それこそ母のように「総大将は私じゃ!」とでも訴えて、東軍を叩き潰してもいい。

このあと茶々は、大坂城に追い詰められるまでモタモタしているんですか?

あとこのドラマの悪癖ですね。自己実現のために我が子を巻き込む。マザーセナも信長もそうでした。

◆成長と変貌を描けない

2010年代に世界の歴史劇を一変させたドラマがHBO『ゲーム・オブ・スローンズ』です。

あの作品で最も人気のあるキャラクターはデナーリスといいます。

彼女は滅びた王朝の姫であり、兄によって政略結婚の駒にされました。

何も知らず、むしろおっとりとしていた彼女は、夫の死を乗り越え、女王としての自覚を取り戻してゆく。

視聴者は、その様子を応援しているわけですが、やがて残虐極まりない女王と化してゆき、衝撃的なエンディングを迎えます。

このデナーリスが登場時点から不敵な笑みを浮かべ「我こそが女王、七王国の玉座は私のもの!」と振る舞っていたら、本当につまらなかっただろうと思います。

大河ドラマにおいては『麒麟がくる』の信長や、『鎌倉殿の13人』の義時は、最初の頃は子どものように愛くるしい笑みを浮かべていました。

あれがはなから魔王だったり、黒執権モードだったら陳腐ですよね。

要するに、このドラマは変貌の過程が描けないんですよ。だから子役に無理をさせて瞬間風速だけを稼いでいる。

これで面白いわけがない。

◆ワンパターンのミソジニー

慈愛の国を築きたい、教祖マザーセナ!

女総大将・お市!

やたらとデカいビジョンを掲げるものの、男に頼らないと死ぬ。破滅する。田鶴や阿月も自己実現と引き換えに死ぬ。

ワンパターンのミソジニーを繰り返しますよね。

茶々も「天下とる!」と言いながら死ぬんでしょう?

女が高望みしたら死ぬんだ! 破滅するんだ! お姫様の自己実現なんて知らねーし。そう見られても仕方ないような描写の連続。

医学部を目指す女子受験生への脅しに使えそうなドラマですよね。

女はおとなしくしているほうが本質的に賢いとでも言いたいのか。

この作品は、自分の足で立ち上がった女性の膝を背後から蹴り、脚をへし折り、頭蓋骨に岩を叩きつけて潰すような暴力性に満ちています。

男性を必要としない自立した女性など、地獄に堕ちて当然だと思っているかのよう。

『麒麟がくる』で医師として自立したヒロイン駒のことを未だに許せないと書き込み続けている人にとって、本作は理想そのものでしょう。

自立した人間性の尊さを描く映画『バービー』にいらだった人には、今年の大河ドラマは良いセラピーになりそうです。

◆映画『バービー』レビュー──作品と“バーベンハイマー”対応に見る「創造主の地位の簒奪」(→link

◆『レディ・バード』や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』などで知られるグレタ・ガーヴィグ監督の最新作『バービー』が、8月11日(金)に公開される。

シェイクスピア研究者でフェミニスト批評家の北村紗衣は、本作について「あまりにもリアルに現実を映し出していた」と語る。その真意とは。

◆未成年への配慮がない

前述『ゲーム・オブ・スローンズ』の女王デナーリスは、原作では13歳の設定でした。

それがドラマ化するにあたり、5歳年上の18歳にしています。

デナーリスと同世代の人物はかなり多いため、書き直すとなれば、なかなか大変なことです。

それでもドラマはそうしました。

彼女以外で未成年の結婚をする設定の人物は、削除されるか、変更されています。

あの過激なHBOでも、ここまで配慮します。

未成年が殺される場面は何度も出てくるにも関わらず、子役に性的な場面を演じさせることだけはしないのです。

これが国際基準です。

近年の海外映像作品では、子どもが性的な場面を演じるとなると、幼く見えるようにメイクをした成人俳優が演じることが通例となっています。それが常識です。

それだけ、子役を性的な目線に晒さないということが重視されています。

そういう最低限の配慮すらできないNHKと、あろうことか絶賛するメディアはどうしたことでしょうか。

あの演技を「覚悟のあらわれだ!」と褒めるのは、13歳の少女がヒモのような水着でプールサイドに立つ様子を褒めるようなものに思えます。

そうしてカメラを向け合っている仲間同士のルールではそれが“普通”なのでしょうが、果たしてそうなのでしょうか?

ジャニーズ問題がここまで取り上げられている中で、反省というものがまるでありません。

ぴんと来ない方は。エヴァ・イオネスコが監督したフランス映画『ヴィオレッタ』をお勧めします。

◆『どうする家康』成長した茶々役・白鳥玉季の底知れなさ 13歳にしてミステリアスな魅力放つ(→link

◆ 東京、千葉は厳しいから埼玉で!? 5年間で120回 県営プールでの「水着撮影会」騒動で考える、表現の自由と児童ポルノ(→link

◆でも、問題視する方がおかしいというのでしょう?

つらつらと列挙させていただいた問題点。

こうして取り上げていると「問題視する側がおかしい」という意見も出てきます。そして定番のリアクションがあったりする。

騒ぎ立てているのは「三角メガネでザマス言葉で話す頭の硬いPTAのおばさんだ!」

と小馬鹿にして、自身の耳には入れないようにするんですね。

私のように批判を厭わない人物を侮蔑することで、マウントによる愉悦の感情すら湧いてくる可能性もある。

これまで、そういう社会構造が作られてきたし、そこに乗るとスカッとするんですね。

茶々だけの問題でもありません。このドラマの女性像って、美女の姿でも中身はおじさんだとわかるような、そんなチグハグさがあります。

SNSにある美少女アイコン、なりきりアカウントのような不自然さがある。

そういうのが好きであれば、違和感を覚えないのかもしれませんが、私はそうではありません。

 


我を諂諛する者は、吾が賊なり

我を非として当たる者は吾が師なり。我を是として当たる者は吾が友なり。我を諂諛(てんゆ)する者は、吾が賊なり。『荀子』

気合いの入ったアンチは私の師匠。

私を肯定してくれる人は、私のお友達。

私に媚び諂い、「号泣」「爆笑」「神」とかやたらというやつは賊な。狙いはなんだ!

後半戦を迎えて、大河視聴率のワースト2はほぼ確定。

そろそろ敗因の解析でも始めませんか?

このドラマについては、いっそのこと

『どうする家康:夢に終わった「シン・大河」』

というドキュメンタリーでも作って、NHK自らが放送すべきだと思います。

だって稀に見る大失敗だもの。

そのほうが視聴率が狙えるかもしれません。こういう作品もあります。

◆FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー(→link

そしてこのドキュメンタリーにより、現代社会の闇が暴かれています。

◆音楽フェスの大失敗を描く2本のドキュメンタリーが、「インターネットの病」を浮き彫りにした(→link

以下の部分に注目です。

2本の同時公開が示すインターネットの病

しかし、いずれのドキュメンタリーも最終的には、真の悪者はインターネットによって増幅されたある心理現象だと結論づけた。

それは「FOMO」、つまり「fear of missing out(取り残されることへの不安)」である。

スマートフォンを握りしめてInstagramにとりつかれる、多くの人々の心理状況を定義づける概念だ。

それぞれの作品は、フェスの参加者たちが抱いた「ソーシャルメディアにいる大勢の美しい人々」が約束した体験に、進んで飛び込みたいと思った彼らの意欲を批判すると同時に、また別のFOMOがあることも描き出している。

それは、Fyreの破綻を見て、その不幸を喜ぶ気持ちの上に築かれるFOMOだ。

大河ドラマのファンダムも、要はこれを形成しているのでしょう。

大河ファンならこれを見て楽しもう!

日曜20時にはスマホを握りしめて待機だ!

視聴者の一部にそんな心理状況が生まれます。

これがプラスに働けば良く、それに救われたのが『平清盛』でしょう。

あのドラマは視聴率こそ低迷したものの、ファンの熱気は凄まじかった。当時はまだ新感覚であったハッシュタグが盛り上がり、ハッシュタグ付きファンアートの奉納まで行われました。

磯Pはこれを受け、信じ、反省を怠ったのではないかと思います。

『平清盛』と同じスタッフとキャストを多く起用するだけでなく、欠点も改善せずに持ち越しました。

さらには低迷大河を庇う逆張りでもしたいのか。

『いだてん』のキャストも起用し、『花燃ゆ』のおにぎり推しも継承。

低評価の大河は、まるで視聴者の見る目のなさが問題だ!と挑発しているようで……本当に必要であったのは失敗の検証と、真摯な改善ではなかったのではありませんか?

こうしたファン心理がマイナスにぶれると、「反省会」になります。

叩くことに乗り遅れたくない。もっともっと叩かなきゃ! そういうムーブが起きてしまったら危険です。

むろん対策はしたとは思います。

NHKから素材が提供されて仕上がる提灯記事は相変わらず盛況です。

ただ、時代は変わります。『平清盛』の頃と今では状況が全く異なる。

にも関わらずネットの使い方に頼りすぎた。策士が策に溺れたように思えます。

ふと頭に浮かんでくるのが、このドラマの本多正信です。

机上の空論を自己陶酔気味に語るけれども、どうにも地に足がついていない。

軍師というより香具師のようで、あんな調子では足元を掬われるのではないでしょうか。大きな話をすればよいというものではありません。

では、なぜそうなるのか?

「失敗した。反省点もある」と表明すると、ファンダムから裏切り者扱いされて叩かれかねない。

ゆえに何があろうと「これは傑作です。あなたならわかりますよね!」と強気で突っ張り続けるしかありません。

そんな方には『真田丸』の真田昌幸の切り替えでも引用しましょう。

朝令暮改の何が悪い!

より良い案が浮かんだのに、己の体面のために前の案に固執するとは愚か者のすることじゃ!

いろいろ言いたいことがある方は、以下のリンクからNHKに直接ご意見を送りましょう。

◆NHK みなさまの声(→link

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文:武者震之助note

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【参考】
どうする家康/公式サイト

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