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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第3回「挙兵は慎重に」】
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MVP:北条義時
義時はわかりにく人です。自分から動かない、巻き込まれ型です。
そんな人物をきらりと光らせるにはどうすればよいか?
かなり綿密に組み立てて来ました。
義村にからかわれつつ、米勘定をする義時。
木簡に向き合う彼の計算ゆえに、勝機が見出されます。
歴史劇としてかなり良心的で、義時が何からなんでも万能にこなせているわけではない。
しかし、彼というピースがなければバズルは完成しない。そんな説得力を持たせています。
そしてこの義時は、なかなか大変で画期的なことを思いついています。
まず、事前に兵数を把握すること!
そんなもん当たり前だと思いますか?
でも、それが当然なら、なぜ以仁王があそこまで無様な負け方をしたのでしょうか。
兵数の把握は、戦国時代ならば当たり前です。『麒麟がくる』では、斎藤道三が主人公である明智光秀と、我が子・斎藤義龍に数珠を数えさせていました。
パッと見て数が把握することが勝敗を決すると、彼の中ではもうわかりきっているのです。
しかし、そんなセオリーが定着する前の時代だからこそ、義時は計算をします。
兵数が大事だという発想を義村から聞くと、米のことを思い出す。そしてそこから実数を出すようにしているのです。
何かスイッチが入ったら、全力で打開に向けてヒントを探りにいく――そんな義時の強さが見えて来ました。
本人としてはそんなスイッチなんか入れられずに、のんびり生きたいのでしょうけれども。そうはならない運命ですから。
米の生産高から算出というのも斬新なのです。
石高からの兵数計算は、戦国時代ならば通じます。しかし源平合戦は「騎」、つまり馬に乗る騎兵の数で数えます。
馬に騎乗する戦闘員は、それだけで資産があるとわかる。西洋でも貴族より下、平民より上の階級にナイトがありました。
農耕馬以外に馬を飼育できるような家は金がある。そういう資産や物量はざっと騎馬武者の数で把握すべし。そうなっていたわけです。
それをより厳密に算出する方法を考えたのだから、義時は極めて斬新で聡明だとわかります。
でも、地味ですよね。
みんなが兎をつまみに酒を飲んでいるとき、木簡を見ているんだもん。現代であれば、陰キャとすら呼ばれそう。
もし制作サイドが「陰キャがヒーローだと盛り上がらんよな」と考えたら、無理にでも嘘くさい盛り上げ方をして、それこそ大々的なBGMをバンバンかけるでしょう。
義村がむしろ「義時には叶わねえな!」とか連発しているかもしれません。
本作はそうではない。地道で画期的な人間を描いて輝かせたいからこそ、綿密に組み立てて来ているのだとわかります。
総評
このドラマは見ていて突っ込みたくなったり、笑いそうになる場面が多い。
頼朝と後白河法皇の夢枕なんて、『何をコントしているのか』とお考えの方もおられたでしょう。
しかしそれは、この作品というよりも、この時代の人にそうしたくなることかもしれません。
夢を信じるとかアホですか?
といっても、ナレーションの言う通り、信じている話は出てくる。
緻密な思考ができないものだから、わけのわからんことを言い出します。
天変地異や疫病のシステムなんて、途轍もなく理解の範疇外のことだから「天罰だ!」となってしまうのも仕方ない。
それに、あまりに信仰心を踏んづけると、それはそれでまずいものです。
『麒麟がくる』の信長は平然と仏像を破壊し、寺を焼いた。たとえ仏像がデタラメで効果なんて無くても、信じる気持ちまで踏みにじってはいけない……そう考える光秀は、信長の行動を前にして暗い顔になっていたものです。
といっても、夢のお告げねえ……。
英雄が過去にこんなツッコミどころがある言動をしていることには、やはり嫌になるものかもしれません。
ゆえに創作者は色々と考えてきたし、シリアスにしようと努力して来た。
それを引き離し、ありのままの困惑させられる姿を描くことが本作に課せられた使命ではないでしょうか。
だからこそ、三谷さんが選ばれた。
他の人ならば「ふざけすぎだ!」と言われて叩かれ、折れてしまうかもしれない。
しかし三谷さんならできる。そういう深慮遠謀が毎週感じられてよいのです。
本作は、勢いだけで突っ走る雑なところがなく、むしろ伏線がかなり精密に張り巡らせてあって面白い。
三谷さんはいつでも進歩し続けている。
一体どこまで高みに登るのかと、たたただ、見上げるばかりです。
紙と木簡
【木簡】が大事な役割を果たした今回。
実際に鎌倉からはたくさん発掘されています。私は改めてこのことに動揺してしまいました。
『枕草子』の由来は有名です。Wikipediaからでも。
『枕草子』の執筆動機等については巻末の跋文によって推量するほかなく、それによれば執筆の動機および命名の由来は、内大臣伊周が妹中宮定子と一条天皇に当時まだ高価だった料紙を献上したとき、「帝の方は『史記』を書写されたが、こちらは何を書こうか」という定子の下問を受けた清少納言が、「枕にこそは侍らめ」(三巻本系による、なお能因本欠本は「枕にこそはし侍らめ」、能因本完本は「これ給いて枕にし侍らばや」、堺本と前田本には該当記事なし)と即答し、「ではおまえに与えよう」とそのまま紙を下賜されたと記されている。
何が凄いか?というと、高級品の紙をプレゼントしていること。
そして帝が『史記』を写していること。
彼らにとって読み書きとは教養です。では、義時たちはどうか?というと、事務文書のやりとりにしか使わない。政子が文を全く読めないと言い切ったのも、無理もない。
紙と木簡の情報量は段違いです。紙の普及とは、言論や文学の普及とも重なります。
そんな紙が変えた人間の意識を示す言葉として、
洛陽の紙価貴(たか)める
という言葉があります。
左思という文学者の著作が大評判になり、書き写すために紙が飛ぶように売れて、値段が上がったっていったという意味です。
彼は西晋、三世紀半ばから四世紀初頭の人とされています。おなじみの『三国志』から少しあとの時代ですね。この時代は紙の普及とともに、思想や文学が大きく発展しました。曹丕『典論』由来の「文章経国思想」も、この時代が発祥といえます。
昔、こんなことを思ったことはありませんか?
「えっ! 諸葛孔明や司馬仲達がこんなふうに戦っていた頃、日本はまだ卑弥呼だったの?」
文明の進展の差に驚いてしまう。
そんな経験がおありでしたら、本作を見る上でも思い出してみてください。
京都では紙を当たり前のように使っているけれど、坂東武者はまだ木簡を使っている。魏晋南北朝時代まで到達すらしていなかったのかもしれない。
でも問題はそこじゃありません。
進歩――今でいうならアップデートです。
このドラマに出てくる北条の人間には、後に漢籍を読みこなすようになる者たちがいます。
なんせ頼朝と政子の子である源実朝は、和歌を愛し、宋への留学に憧れるほどの貴公子に育ちました。
仏教も、鎌倉時代といえばともかく発展する。この時代の人々は、段違いで賢く、精密になってゆくのです。
こうまでメキメキと伸びていった、この時代は何なのか?
本作で、そこまで到達することを期待したくなります。
木簡を作った方に拍手を
あらためて、今週大事な役割を果たした木簡に注目させてください。
小道具として、これを作るのは相当手間がかかります。木簡に使われる墨も、紙とは別物なのです。
華流ドラマでも木簡や竹簡の時代だと「よくやるなぁ……お疲れ様です」と頭を下げたくなる。そんな気持ちを大河で味わえることの幸せよ。
なぜこの時代が大河にならないのか?
人気もあるだろうけど、小道具が大変と言うこともあると思います。
料理ひとつとっても再現難易度が上がるだろうし、衣装もそうです。ともかく何もかも手間がかかるはず。
殺陣にしても、相当荒く原始的になる。
『鬼滅の刃』で言えば、伊之助みたいな連中ばかりなので、危険だし、ともかく大変でしょう。
弓矢の扱いも難しいし、俳優さんたちが怪我をせず頑張ってくださいと祈る気持ち。
三谷さんの脚本のスピードを不安に思う意見もありますね。
どうしてもよりよいものを書きたく、妥協できずに長くなってしまうタイプの方もいます。
しかし現時点までを見る限りは、遅れすぎて現場が崩壊したり、混乱することはないと感じます。
今週みたいに、大量の木簡となると、そりゃー大変です。一から作ったのか、ストックなのかは不明ですが、あんなに出すだけで凄まじい!
それに小道具のクオリティも高いんですよね。
書状も綺麗です。NHK大河が書道の上手い人を連れてくるなんて、そんなの当たり前だけど、そういう当然のことを高次元で保っている。僭越ながら称賛されることだと思います。
そんな状況ですから、脚本が遅れたら大変です。下手をすれば時間が足りず、木簡ならぬプラスチック簡で誤魔化したくなったりするかもしれません。
ですので、三谷さんの原稿については細かい直しが入るにしても、大筋は事前に伝えて、準備が進められているのではないでしょうか。
脚本について何の心配もしていません。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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※リンク先ないものも順次アップしていきます |
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト