都に激震が走る――後白河天皇をないがしろにして、平清盛が孫の安徳天皇、一歳三ヶ月の幼児を即位させたのです。
こんなかわいい赤ん坊がどうなるか?
想像すれば気が重くなると思いますが、この時点でわかることがあります。
天皇は飾り物にしてもよい存在になっていたこと。
そして、武家が天皇の権利を侵食しつつあること。
これは重要な観点です。オープニングでも武士と天皇が向き合う図式が出てきます。
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娘と後妻に鬱陶しがられる時政
そのころ伊豆の北条館では、源頼朝と北条政子の間に第一子・大姫が生まれていました。
名前の付け方からして素朴です。
大小はきょうだい内での序列を示します。それを長女につけるのだから素朴。
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ちなみに政子については、当時まだそう名乗っていなかったという指摘もありました。
そうでしょう。ただ、政子という名前は本当に彼女にふさわしいので、はじめから政子で私は賛成です。
“まさこ”という名前でも、正子、真子、雅子あたりは見かけても政子は珍しい。政治を司る運命にある女性なのですから、これはもう政子でいいと思います。
そんな政子は、父の北条時政が大姫に接近すると近寄らないで欲しいとキッパリ。父の言いなりにはなりません。
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時政の愛妻・りくも、臭いから寄らないで欲しいと言います。
確かに臭そうだ。あくまで当時の衛生ですからね。
なんせ、りくはつわりなのだとか。時政はつわりなら飯の炊ける臭いじゃねえのかと文句タラタラなのですが、個人差があるということで風下に行くよう言われます。
「ひでえなあもう」
今週も鬱陶しい愛嬌を見せる時政です。
一方で主役の北条義時は、どこか疲れた顔をしている。源頼朝を婿に迎えた北条家には、京都の不穏な気配が忍び寄っているのです。
義時はもう戻れない。後年「あぁ、佐殿がくる前に戻りたいな……」と振り返りたくなることでしょう。
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そしてオープニングが入ります。
例年より短く、スタッフロールが本編冒頭にもかかる。それだけ情報量が多いんですね。
八重は北条館の向かいに住んでいた
治承4年(1180年)、当時は異常気象に見舞われていました。
日照り続きで飢饉の不安が漂っていく。
北条館では、狩りに出かけていた坂東武者たちが戻ってきました。義時の妹・実衣(みい)が足を拭くように声をあげています。
それにしても坂東武者はかっこいい。
しかし、ここで言い切りますが、坂東武者は娯楽がない! そして野蛮だ!
同時代の京では歌や漢詩を詠んでいる。書籍を読んでいる。宋からの品物を愛玩したりする。猫や犬を愛でていたりする。
坂東武者は、犬がいれば的にしたり、殴り合ったりしてばかりでして。
相撲もまだそこまできっちりルールば決まっておらず、織田信長の頃よりワイルドで死人が出ます。
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かつて頼朝の子供を産んだ八重は、伊東の家人・江間次郎の元に嫁いでいました。
しかも北条館の川を挟んだ場所。本作の八重は自害をしていません。
失恋した女性が自害をするというのは、男性の願望ありきの部分はあります。貞操を守るという意味合いもあります。
そういう概念が当時のこの辺りには薄い、ということでしょう。それが嫌な後世の創作者は、フィクションで女性を殺しがちです。
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三浦義村は、爺様(伊東祐親)も酷な人だと義時に言ってきます。八重をこんな近くに嫁がせなくても、ってさ。
あのさあ、義村くん、義時くんにそれをいうのも十分酷いんじゃないかな? そう言いたくなりますが、そういう気遣いができないのが義村なんですね。
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仮の獲物は何か? というと、鹿かと思ったら耳をチョイチョイ。兎しか獲れない。そんな日もある。
義村は相変わらずゴシップに興味津々なのか「お前の姉上も気が気じゃないな」なんて言いつつ、一緒に飲もうと誘ってきます。
しかし仕事があると断る義時。
「米の勘定がそんなに楽しいのか?」と義村がニヤリとすると、義時はそっちの方が向いているとのことです。
ここで付け加えておきますと、家が無く彷徨っている誰かがいたら、坂東武者は何も聞かずにいきなり矢を放つと思います。
訓練の一環だぜ! とばかりに、思えば山内首藤経俊も、頼朝と義時に向けて、いきなり矢を放っていましたね。
重忠と義盛
全体的にワイルドな坂東武者の中で、話が通じそうで清らかな畠山重忠が、兎二羽を仕留めた工藤茂光に賞品を渡しています。
彼の個性も見えてきましたね。
初登場は和田義盛がノリノリで目立たなくなっていましたが、彼は優しいし、賢い。義時にとって癒しとなるのでしょう。
義村は、話が通じるけどなんか気持ち悪いし狡猾だ。重忠は話していて心が洗われるなぁ……と、このことを頭の隅っこに入れておくと、今後、いろいろと辛いことになります。しかし重要ですので忘れないでおくとよいかと思います。
佐殿の話になると、和田義盛がノリノリ。頼朝が立ち上がったら馳せ参じると言います。
同時に、怪しい坊主の目撃談に話が飛びました。
なんでも薄汚い衣をまとい、源氏再興を訴えているそうで。首から下げた布袋は義朝のドクロが入ってるとか。
興味深いのが皆の反応です。
そういう噂が流れる背景はあります。日照りで米がどれだけ採れるかわからない。先行きが不安。
そうなれば、そういう輩も現れる……と、なかなか奥深いドラマです。
現在は技術が異なるから、文覚のような奴はお騒がせYouTuberにでもなっているかもしれない。
人が不安に陥る心理と、そんなとき陰謀論に走る人間性って普遍的だと思えるのです。
そして時宗が叫ぶ。
「すべて平家のせいだ!」
宗時タイプって、現在だったらトランプ元大統領に煽動されて議会襲撃していそうです……。
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三浦義村は、米と平家は関係ないと即打ち消しにかかりますが、宗時は天がお怒りなのだと思い込んでいる。
面白いですよね。こういうことは何もこの時代だけでなく、昨年大河の主人公・渋沢栄一も関東大震災後「天譴論(てんけんろん)」として主張していました。
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ゆえに渋沢は『帝都物語』に出ていたりします。
以仁王の御令旨
北条館の頼朝の元には、源行家が来ていました。
それが、どうにもいかがわしい山伏の出で立ちで、源頼朝も当初はピンとこないのですが、「十郎叔父上か!」とやっと思い出します。
安達盛長も続き、あの方ならば……と納得しています。
源行家は、八条院から蔵人に任じられ、行家と名を改めたそうです。
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杉本哲太さんというキャストが光りますね。時代劇にクセのある人物として出すと味がある。新春時代劇『幕末相棒伝』も素晴らしかった。
そんな行家は、他言無用と口止めしつつ、6月の以仁王挙兵を打ち明けます。
以仁王は都に火をつけ、平清盛の首を取り、平家を滅ぼすつもりだとか。
都では源頼政が老骨に鞭打ち、以仁王を助けるとのことで、諸国の源氏を募るために行家を遣わしているそうです。
そして以仁王の御令旨(ごりょうじ)を恭しく差し出します。
頼朝も丁寧に受け取る。
今こそ源氏が立ち上がるとき!
京へ登り、清盛の首を取り、亡き義朝の墓に首を供えようではないかと煽ってきます。
これはもう本作だけの話でもない。この時代となると、あまりに計画が杜撰で唖然としてしまいますよね。
戦国時代ならこういうことにはならないはず。
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しかし平安末期は、情報網がまるでザルだ……。
源頼政はどんな人物か?
頼朝は情報を確認しています。
都に情報網がある(三善康信を置いている)のですが、それだけで賢く見える。
ただし、問題はソースの精度であり、これは後で考察するとしまして、頼朝も京都のキナ臭さは把握済みです。
頼政は誰か?というと、源氏でありながら清盛に目をかけられている人物です。
文を政子が見て、こう言い切ります。
「まったく読めませんでした!」
彼女が愚かというわけではなく、女だからでもありません。政子の聡明さは初回から見えてきています。
要するに、坂東武者という環境では、せいぜい事務的な文書しか読めないんですね。
しかし、忘れてはなりません。北条政子は『貞観政要』を愛読していたと伝わります。今後、田舎のお姉ちゃんがそこまで賢くなるのですから、楽しみですね。
御令旨の話を聞き、相変わらず前のめりな北条宗時が「戦の支度をする」と言い出すと、頼朝は舅殿(時政)と話したいと言い出します。
頼朝にしても、頼政は幼い頃に会ったきりなので、どういう人物かわからない。そこで時政に尋ねたのですが、時政は都で何度か会い、信じるに足るお方とは言います。
しかし、あまり好きではないとか。
時政が持参した土産に目もくれなかったくせに、後で、あの芋はうまかったのでもっと欲しいと言ってきた。どれだけ偉い方か知らんけど、あの態度はなんだ?と時政はムッとしている。
都と坂東の格差ですね。
都にいるのに、芋なんかモリモリと食べたら「下品やわぁ」と笑われかねない。坂東のように見た途端に破顔一笑してモリモリ食べる気を見せるわけにはいきません。
時政って、本当にいい田舎者です。人物像がハッキリしていて素晴らしい。
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