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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第36回「武士の鑑」】
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「手を出すな! 誰も手を出してはならぬ!」
御所では源実朝が、畠山が攻めてくるのかと不安な表情です。
流石にここまでは来ない、と三善康信が安心させようとすると、八田知家は気になることを言います。
この戦はどう転ぶかわからない。
坂東武者の一人として知家がそう語っても、京都出身の文士である康信には理解できない感覚かもしれません。
そのころ戦場では、義盛の不意打ちがあっさりと見破られていました。
なぜわかったのか?
義盛は慌てふためいていますが、やはり兵法書理解の差でしょう。
進軍の際にズンズン歩いて鳥がバタバタと飛び去っていたら、一目瞭然でバレてしまいます。そもそも重忠は高所に陣取っています。
義時はまっすぐ来る相手に備え、守りを固めていました。
と、そこへ重忠が供一騎を連れて駆け寄ってきます。
刀を構え、馬を走らせると、馬上で斬り合う、義時と重忠。
いったん馬を止め、義時が兜を脱いで泰時に渡すと、重忠も同じく兜を外し、二人は「はっ!」と声を掛け合って、馬で相手に向かってゆく。
次の一刀で勝負はつくのか?
そう思った刹那、なんと義時は馬からジャンプし、重忠に飛びついて地面に落ちます。
周囲に武士や郎党が集まると、あの計算高い義村ですら、こう宣言します。
「手を出すな! 誰も手を出してはならぬ!」
総大将同士が組み合って戦うなんて、それこそ兵法書通りじゃない。
それでもあの義村すら天意に呑まれたように見守るしかない。
泥まみれになりながら組み合う二人。蹴り飛ばし、這いずり回り、拳で相手を殴り合います。
もうこれはただの殺し合いでもない。
拳と血飛沫での語り合いかもしれない。
ただただ、殴り合うことでしか伝えられないことがあるのかもしれない。
とうとう義時に馬乗りになった重忠。小刀で義時の喉を貫いて決着をつけるかと思えました。しかし重忠は手を止め、義時ではなく地面に突き刺す。
そして立ち上がりると、馬に乗ってゆらゆらと去ってゆくのでした。
倒れた義時の目からは一筋の涙がこぼれている。
あれほど端正で優しげな重忠が野獣のようになった。
義時ももう高みにはいられない。
この二人の勝敗は何が分けたのだろう?
天命の差でしょうか。この場面はかなりおかしいように思える。なぜ重忠はとどめを刺さないのか?
私は天命ということにしたい。
重忠を見る義盛も、泰時も、義村も、何かに打たれたような顔になっている。
もう重忠は人ではない何かになったのかもしれない。
こんなにボロボロなのに荘厳です。
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執権を続けるなら首を見るべきだ!
戦は夕方には終わりました。
源実朝のもとへ、時政と時房が勝利の報告。
重忠は、手負いのところを愛甲三郎季隆に射られて亡くなり、間も無く首が届くとのことです。
実朝が報告をねぎらいつつ衝撃を受けています。
そして首桶を持った義時がきて、父に訴えます。
「次郎は決して逃げようとはしなかった……逃げる謂れがなかったからです。所領に戻って兵を集めることもしなかった。戦う謂れがなかったからです」
「もういい!」
「次郎がしたのは、ただ己の誇りを守ることのみ」
目を光らせ、首桶を父の前に突きつけ、あなたの目で改めろと訴えかけます。
「執権を続けていくのであれば、あなたは見るべきだ!」
父上!そう叫ぶ義時です。
誇り高く、己の命より名を守った重忠。そんな巨大な星からすれば、保身に走る時政はなんと小さく醜いことか。
大江広元も、執権殿は強引すぎたと振り返っています。
御家人たちのほとんどは畠山に罪がなかったと語り、八田知家も同意。
ならば、どうすればよいのか?と義時は大江広元に尋ねました。
広元が鎌倉に来てから、頼朝による粛清は苛烈化してゆきました。同時に彼は対処法も考えられます。義時はそのことをつぶさに見てきたからこそ、彼の言葉を聞きたいのでしょう。
「畠山殿を惜しむ者たちの怒りを、誰か他のものに向けては?」
またまた広元が恐ろしい提案をしてきました。
罪を誰かに押し付けよ、とのことですが、では誰に?
「重成に?」
時政が義時にそう言われてギョッとしています。
執権殿をお守りするためだと言われても、乗らねえと時政。重成も娘婿の一人ですから、さすがに時政もバツが悪くなったのでしょう。
しかし、誰かに罪をなすりつけなければ、自分は御家人たちの重圧に晒されるわけで、矢面に立つ覚悟があるのか?と義時に煽られ、口ごもってしまいます。
子は父を超えた。
所詮は保身しか頭にない時政など、猿山の大将に過ぎません。執権になって上り詰めたはずが、小さく見えてきた。いや、それだけ天命が降りてきた義時が大きくなったのかもしれません。
「しょうがねえ……死んでもらうか」
結局、時政は覚悟を決めました。その結果、どうなるのか……。
老成できないバカップル
八田知家が、血の気の多い御家人の前で吹聴します。
今回のことは稲毛重成が悪い――。
そう煽ると、御家人たちが沸騰し始め、長沼宗政という、もみあげが一際ワイルドな御家人が怒りを燃やします。
この方は、あの琵琶の名手で、実衣がクラクラした美男の結城朝光、亀の前騒動の時に出てきた小山朝政ときょうだいにあたります。
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重成は一体何をしたのか?
御家人たちに急かされ、八田知家が答えます。
執権の娘婿として、ある事無い事を吹き込み、武蔵の惣検校職を狙った、そして討伐に至った――。
哀れ稲毛重成は縄で縛られてしまいます。
「執権殿に聞けばわかる!」と懇願するも、時政は読経するのみ。さっさと終わってくれ、とばかりに無視を決め込みます。
この非道っぷりには、時房すら理不尽だと義時に訴えました。
しかし、それこそが義時の狙いでした。
娘婿である稲毛殿を見殺しにしたとなれば、御家人たちの心はますます執権殿から離れる。これぐらいしなければ事は動かぬ。
「平六を呼べ。あいつにやらせよう。私に隠れてこそこそ動き回った罰だ」
そうあっさりと言う義時。
呆然とする時房です。
引っ立てられ、義村相手に命乞いをし、執権殿と叫ぶ重成の姿が切ない、切なすぎる……しかし、仕方ない。もっといい声で鳴いてくれ。そのほうが効果的なんだ。
「おい、執権殿はなぜお見えにならない?」
「あのお人が殺せと命じたのだ」
「何……」
案の定、単純な長沼宗政は執権殿が来ないことに怒りを炸裂させ、唖然としています。
義村があっさりと重成の首を刎ねたと義時に報告。
もみあげの長沼宗政も義時の狙い通りの配置でしょう。ああいう単純で声の大きな熱血漢を使えば、コトは一気に沸騰します。
陰謀を知らぬりくは、ようやく政範の仇を討つことができたと時政にしなだれかかっています。
おまけに重成の分までしい様に長生きしてもらうとまで言う。それが何よりの供養だってよ。
さすがに暗い顔を浮かべる時政に対して、楽しいことを考えましょう促しています。
畠山もいなくなり、武蔵守にふさわしいのはあなただとけしかけ、所領全ていただこうと企んでいます。
「それはいかん」
時政はその提案のおかしさを理解し、戦で働いた者に与えると言い出します。
「気前のよいこと!」
「わしはな、皆の喜ぶ顔を見ていると、心が和むんじゃ」
そうしみじみと語る時政は、やはり天命が理解できておりませんね。
時政はりくの言いなりだ。悪女とそれに翻弄される男、いわばマクベス夫妻のように思える。
時政とりくの老成できないバカップル。いたずらに歳っただけで、成熟はしていない。
この手の組み合わせは悪女論で語られがちですが、堕落させた女と堕落する男、悪いのはどちらなのか?
時政は優しい。気のいい頼り甲斐のある男。
その本質は不変のまま、しかし低い方へと流されました。
時政をこうも悪くしたのは確かにりくでしょう。
ただし、りくと時政の組み合わせだからこその話であり、要は、両者共に悪いのです。
「和む」という時政の言葉も、サイコパスでもなんでもなく、普通の人間がやらかしがちなよくある過ちでしょう。ダメ大河でもありがちで、具体例を挙げますと、2019年『いだてん』でこんなシーンがありました。
日本統治時代で朝鮮出身の陸上競技選手である孫基禎と南昇竜。
彼らはメダルが祖国ではなく日本のものとされることに悔し涙を流し、それを見ていた日本人の足袋職人がこう言う。
「俺はうれしいよ。日本人だろうが朝鮮人だろうが、アメリカ人だろうがドイツ人だろうが、俺の作った足袋履いて走った選手はちゃんと応援するし、勝ったらうれしい」
それはただの自分の気持ちだろう!
義時風に毒づくとこうなりましょうか。
この足袋職人は足袋を作った自分と、周囲にいる日本人の心情だけを見て、それで喜び「和んで」いる。そんなもの二人の選手や、その周囲からすれば心の底からどうでも良いことです。
時政のこのありえないセリフは、要は小悪党にありがちで普遍的なものなんですね。
2021年の大河ドラマ『青天を衝け』では、渋沢栄一が周囲を笑顔にするようなことを掲げていました。
だからこそ、信頼できない人物だと感じたものです。
「たとえ自分と周囲が血反吐に塗れようが、大目標へ突き進む!」
そんな人物の方が大河ドラマのスケールに相応しいと思いませんか?
歴史劇とはそれこそが醍醐味では?
今年はその点、安心できます。
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