鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第36回「武士の鑑」

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鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第36回「武士の鑑」
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「小四郎……恐ろしい人になりましたね」

鎌倉にとって、もはや害でしかない北条時政

執権の父を貶めるため、義時はさらに策を練ります。

所領の分配を尼御台に任せると言い、広元もこれには納得です。

別に恋愛感情ではなく、このあまりに尊い何か特別な存在に心酔しています。

広元は色気がある方ではない。

比企能員が設定した宴で美女たちのお酌を受けていてもムスッとしていた。

そんな広元が甘ったるくなるとすれば、それは尊敬できる相手だからです。

「できません……」

政子本人は断ろうとしますが、それでも広元は、尼御台から御家人に所領を与えてやって欲しいと粘る。

自分が口を出せば政(まつりごと)が混乱すると警戒していました。彼女は頼朝の言いつけを心に留めている。なんと貞淑で素晴らしい女性なのでしょうか。

政が混乱してしまうと警戒する姉に対し、義時がこう言い出します。

「恐れながら……既にに混乱の極みにございます。今こそ、尼御台のお力が必要なのです」

「それでことがおさまるのなら」

そう政子が言うと広元も頷き、立ち上がって去ろうとする義時に政子は言います。

「稲毛殿が亡くなったそうですね」

「はい」

「あなたが命じたのですか?」

「命じたのは執権殿です」

「なぜ止めなかったのですか?」

「私がそうするようお勧めしたからです」

唖然とする政子、その前に座る義時。

これで執権殿は御家人たちの信を失った。執権殿がおられる限り、鎌倉はいずれたちゆかなくなる。父上から政から退いていただくためのはじめの一歩であり、重成殿はそのための捨石です。

そう淡々と語ります。

「小四郎……恐ろしい人になりましたね」

「すべて頼朝様に教えていただいたことです」

そう淡々と言い切る弟に、父上を殺すだなんて言わないで欲しいと政子は訴えます。義時は今の自分があるのは父上がおられたからだとそれは否定します。

「そのさき、あなたが執権になるのですか?」

「私がなれば、そのためになったと思われます」

「私が引き受けるしかなさそうですね」

「鎌倉殿が十分に成長なさるまでの間です」

政子にそう言う義時。この対話は重要だと思います。

姉も、弟も、どちらも権力が欲しいわけでもない。

幼主が成長するまで母が政治を行うことを、東洋史では【垂簾聴政(すいれんちょうせい・御簾の向こうで政治を聞いている)】と称します。

政子は仕方ないと折れている。そしてただひとつ、保証して欲しいことを訴えます。

頼家の二の舞にはしたくない。私にはもうあの子しかいない。

我が子を守るために、引き受けざるを得ないと腹を括る政子です。

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しかし、実朝の乳母である実衣は、恩賞を尼御台がするなんて聞いたことがないと怒っている。そして姉上の考えそうなことだと吐き捨てる。

いつまでも鎌倉殿をお飾りにしておこうというのだろうけど、そうはさせないと言います。

そう毒づく実衣を止め、私は未熟だと語る実朝。

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義時が、時政に訴状を突きつけています。梶原殿の時の比ではないと煽り、父を相手に凄みます。

「少々、度が過ぎたようにございます」

「小四郎、わしをハメたな!」

「ご安心ください。これはなかったことにいたします。あとは我らでなんとか」

と言って、訴状は破り捨てる。

しかし、執権殿が前に出れば出るほど反発は強まる。謹んでいただきたいと釘を刺しています。

「恩賞の沙汰は? やらせてもらうぞ!」

義時は静かに首を横に振ります。

「すべてご自分の蒔かれた種とお考えください」

何もかも息子の義時にしてやられ、思わず高笑いする時政。

そしてこう言います。

「やりおったな、みごとじゃ!」

7月8日――尼御台の決めた恩賞の沙汰を二階堂行政が読み上げています。

動揺したりくが「執権殿をさしおいて政子がしゃしゃりでるとは!」と怒り、政子が口出しすると政(まつりごと)が混乱すると責めている。自分だって散々引っ掻き回していることは全く無視。

時政は怒り、脇息を蹴り飛ばします。

りくも驚くほど、時政は激怒しているのでした。

 


MVP:畠山重忠、北条義時、そして政子

この三人はそれぞれが天命を体現したように思えました。

不可解に思えた重忠と義時の一騎打ち。

あれはかなりおかしい。

重忠はとどめを刺せたのに、そうしなかったのはなぜか?

天命だと思えます。重忠は相手を殺すよりも、相手の一部に乗り移って目的を達成することを選んだのではないか?

ここで死ぬ運命ではないと相手に見てそうしたのではないか?

そんな戸惑いと悟りを感じました。

義時は吹っ切れました。

もう悩みません。自分がどんなに手を血で染めようが、策略を弄しようが、その結果よりよい政が実現できるならばよい。頼朝が到達していた天命を聞く境地へ到達したと思えます。

では尼御台こと政子は?

彼女こそが麒麟のような気がします。

2年前の大河と言われればその通り。ただ、政子は天命を受けたものを支えて推し出す役目があります。

頼朝は見てきた通りです。

義時のことだって責めるわけでもない。

悟ったように最低限のことを要望するだけになった。天命を受けて世を変えてゆく者を麒麟は見守り、支えるのです。それができなくなったら『麒麟がくる』の光秀のように邪魔なものを排除しますが……。

今回、のえが政村を産んだことが示唆されています。

のえが政村を執権にしようとしたとき、政子はそれを阻止し、泰時にその座を継がせるよう取り計らいました。

その一仕事を終えて政子は波乱の人生を終えています。

古代中国の聖王・堯舜(ぎょうしゅん)にたとえられる泰時を失権の座に送り出してから、生涯を終える。まさに麒麟の人生に思えます。

中世的な天命が見える。そんなドラマです。

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兵形象水――兵は水の流れのように形を変える

畠山重忠は高所に布陣しました。

凡そ軍は高きを好みて下きを悪み、陽を尊びて陰を賤しみ、生を養いて実に拠る。『孫子』「行軍編」

布陣するならば高所にし、低いところは避ける。日向がよく、日陰は避けたほうがよい。水や食料が補給できる場所にすること。

基本に忠実です。

そしてこれも使いました。

兵の形は水に象(かたど)る。『孫子』「虚実編」

兵士の形とは、水のように変化する。

重忠は自分の命と血でもって、義時はじめ御家人の心を変えました。

それまで執権に怯え、顔色を窺っていた御家人たち。そんな水を沸騰させ、牙を剥くようにしてゆきました。

重忠の策を義時が引き継ぎます。

流れを変えるその過程で稲毛重成を犠牲にしたけれども、やむを得ないことだと割り切っている。

義時は流れを変えられた水なのか、流れを変える者なのか?

義時はおそろしい男です。

はじめのころは普通のお兄さんだった。それが兄の北条宗時から坂東武者の世の中を作る思いを託され、頼朝のやり方を見ていく。

そして亡くなってゆく人々から思いを託されてゆく。

そのたびにどんどん強く逞しく大きくなってゆきます。彼はまるでありとあらゆる水が流れ込む大河のように思えます。

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総評

昨年、大河はもう本当に終わったのではないか?とため息をついていました。

その理由の一つが戊辰戦争です。

そもそも渋沢栄一は戊辰戦争で何もしていないに等しい。

ならばせめて彰義隊を率いた渋沢成一郎を取り上げないかと考えましたが土方歳三の横でウロウロしているだけでした。

その土方も、近藤勇を失った痛恨も感じさせず妙に明るい。

そういうノリだけでなく、アクションも酷かった。

戦場では、イケメンが切腹するまで敵軍が発砲せず取り囲み、長いセリフを高らかに読み終えるまで待っている、あまりに陳腐なシーンに絶望感しかなかったものです。

翻って今年です。

畠山重忠が散った合戦シーンは、今までで一番よく、かつ日本の大河でしかできないと思えました。

そもそも日本の時代劇は、『ゲーム・オブ・スローンズ』や華流、韓流ドラマと比較すると、圧倒的に兵力が少ないものです。

実際に動員兵力はそこまで多くないわけですし、兵器性能もそこまで高くありません。

しかし、今回の合戦シーンのように、草原をわらわらと駆けてくる武者はリアルで十分怖い。

日本の時代劇でしか出せない味ではないでしょうか。

他国を真似する必要はなく、自分たちのできる最善を尽くした感があります。

まさか馬からジャンプするとは思いませんでした。

落ちた時は本当に痛そうだし、殴られて歯の間に血が溜まって赤いのが見えるし、殴り合ったせいで頭がぼーっとしている様が伝わってきた。

重忠も義時も鬼のような形相になっていて、泥臭い迫力がありました。

そういう残酷さだけではない、崇高な精神性もある。

先週、三谷さんは『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GoT)をお手本にしていることを指摘しました。

しかし2022年にそれでは問題があります。

2022年はGoT前日譚である『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が配信中です。

私は熱心なGoTファンではあるのですが、どうにも見る気がしません。時系列が前日譚にあたり、どうせ支配者同士が内乱を起こすだけで大変革はないという理由もひとつ。

それに今更ああいう歴史劇は、何かもっと進歩が欲しいとも思える。

そのことをスピンオフを作る側もわかっているのか、新作は難産で企画も何度か流れています。

それは作品の受け止め方にあると思えます。

GoTの魅力とは、頭蓋骨を砕いたり、陰謀を繰り返すだけでもなく、豪華な映像美だけでもない。

命と引き換えにしても崇高な精神性を貫く。

愚直で誠意あふれる人物の高潔な言動と犠牲が見たい。

そうした犠牲の結果、新たな世界も欲しい。

要は「希望」ですね。

そういうものがなく、ただひたすら陰惨なだけでは出来の悪い二番煎じになってしまう。現に『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』にもそうした評価は出始めているとされます。

その点、『鎌倉殿の13人』はポストGoTを狙えると思えます。

ただひたすら陰惨なようで、希望もちゃんとある。

頼朝と義時という、創業の英雄が必死になって道を拓く。

麒麟のように天命を知る政子が彼らを見守る。

そしてそんな世界を見つめる目がある。

どうすればこうした世を変えられるのか、目を逸らさずに見ている北条泰時の姿があります。

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GoTは西洋史ベースで、大河は言うまでもなく東洋史ベース。宗教や道徳観を東洋にあわせつつ、希望を見出してゆきます。

畠山重忠はあんな酷い最期を遂げたけれども、そんな日本らしい希望に満ちた退場でした。

名誉を重んじる心。

名を惜しむ気高さ。

欲望にかられて生きてゆくのではく、高潔な精神性を求めてゆく姿勢は、武士道を先取りしています。

戦術が革新的だった源義経

政治力や世の中の仕組みが先進的だった梶原景時

忠義の心を知って命を捨てた仁田忠常

時代を先んじているからこそ、命を縮めてしまう――その系譜に畠山重忠もいます。

彼はその命で武士を変えた。

彼のように生きて死ぬことが「武士の鑑」になった。

畠山重忠の流した血の中から、武士の新たな規範が芽吹いてゆく、ただ陰惨なのではなく、希望に満ちた回でした。

それは畠山重忠一人のことでなく、中川大志さんも、大河俳優として新たな道を切り拓いた存在になるのでしょう。

大河にはまだまだこういう芽が出る力がある。

そう示した今回は、紛れもなく希望に満ちた素晴らしいものでした。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

坂東武士の鑑
坂東武士の鑑とは一体どんな武士なのか?畠山重忠がなぜその代表とされたのか?

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文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

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