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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第44回「審判の日」】
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義時、時房に暗殺計画を明かす
もはや警備を増やすことはできなくなった。
ならば、とばかりに北条泰時は、源実朝に鎧を着るように勧めます。
しかし実朝は断る。
せめてこれを持っていって欲しいと小刀を差し出しても、そんなものを身につけていたら罰が当たると実朝は淡々としています。
「太郎のわがまま、どうかお聞き届けください!」
泰時には珍しく、ずるい懇願をしました。自分への好意を逆手に取ったようにも思えます。
しかし、それも実朝には通じません。
義時はそのころ運慶に会っていました。以前、顔が悪くなったと指摘されたことを話題にすると、運慶もそれを認めます。
その上で、今はどうか?と義時が問う。なぜ何も言わないか?と。
「あまりにひどい時は言わないさ」
つまりは最悪だということでしょう。運慶は、なかなか決定的なことを言いながら、気の済むまで拝んでいけと十二神将像を示します。
「戌はお前の守り神だ」
実はオープニングクレジットにも白い犬が見えます。
日本では伝統的に白い犬は神の遣いとされてきました。
江戸時代になると犬に伊勢参りを代行させることがブームとなって、どこの地方にもそういう犬がいたそうです。中でも一番ご利益があるとされたのが白い犬だとか。
顔がどんどん悪くなる主人公というのも、納得できます。
当初の薄緑色の衣装を着て、ニッコリ笑っていた義時はもう遠い。
誰が見ても悪くなったからこそ、こんなやりとりに説得力があります。脚本を書く側と、演じる側。その双方に信頼関係がなければこうはいかないと思います。
義時は悪いけど、三谷さんと小栗さんの関係はとても善いと思います。
そんな義時は、時房にだけ本音を伝えます。
「お前だけには伝えておく。ここからは修羅の道だ。つきあってくれるな」
「もちろんです」
即答する時房が、実に不思議というか、便利な男でして。
やれと言われればやる。しかも有能。本作の梶原景時は、遣い手にとっての名刀になりたいと語っていました。
その目指した目標がこの時房のような気がします。
切れ味抜群のうえに、景時のように周囲から憎まれないどころか、持ち前の愛嬌で油断すらさせてしまう。
演じる瀬戸康史さんが素晴らしい。こんな人物はそうそうおりません。
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義時は、源仲章に死んでもらうことを時房に明かしました。そして今夜、公暁の鎌倉殿暗殺計画が実行されるとも……。
「すぐに取り押さえましょう」
「余計なことはするな」
「えっ」
「もはや愛想は尽きた。あのお方は鎌倉を捨て、武家の都を別の所に移そうと考えておる。そんなお人に鎌倉殿を続けさせるわけにはいかん。断じて」
この場面の義時は心底おそろしいし、重要だと思います。詳しくは後述の総論にて記述させていただきます。
母を問い詰める実朝
泰時の度重なる報告を聞いて不審に思ったのか。
実朝が、出家して善信となった三善康信に問いかけます。
確かに兄上の跡をついで鎌倉殿になった。公暁の気持ちはわからんでもない。しかしどうにもおかしい。
幼くして仏門に入った苦行が、なぜあそこまで鎌倉殿にこだわるのか?
あのころのことを知っている者の数は少ない。本当は何があった?
そう問われ、三善康信はどう答えるのか。苦悩に満ちた表情であり、もはや隠すことはできなそうに見えますが……。
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仲章の背後に迫るトウ。ついに暗殺か?
というところで場面が変わり、源実朝が母の政子を問い詰めていました。
三善康信から全て聞いてしまったのでしょう。
「兄上は病だったと聞いたけれども、生き返った。生き返っても居場所がなく、伊豆に追いやられた」
そのことをなぜ黙っていたのかと問われた政子は、実朝が知らなくていいことだからと返すしかありません。
実朝は語る。
公暁が私を恨むのは当たり前だ。鎌倉殿の座を返上しなければならない。公暁が出家したのは無理矢理だったと責め立てます。
政子が、あの子を守るためだったからと答えると、兄上が比企と近かったからだと畳み掛ける実朝。
「北条が生き残るためには仕方なかった!」
「全ては北条のため……」
「そんなふうに言わないで!」
「私は鎌倉殿になるべきではなかった」
「何を考えているのですか?」
実朝は悔やんでいます。
もちろん親王様は迎える。返すわけにはいかない。今やめれば上皇様に顔向けできない。だからこそ公暁が哀れでならない。
なぜ公暁をないがしろにできるのかと母を責めます。そんなに兄上が憎いのか。私と同じく自分の腹を痛めて産んだ子なのに、憎いのかと。
「実朝、やめて!」
「私は母上がわからない……あなたという人が」
がっくりと膝をつくしかない政子。
つつじも、政子も、権力闘争の前で、母の愛はあまりに脆く、儚い。
実朝はもはや自分が鎌倉殿になったことすら呪っているのでしょう。
もしも公暁と逆だったら……子が作れぬことだって問題にならなかったし、こんなに苦しむこともなかった。
母への感謝が、今や憎しみと不信に変わってしまいました。
実朝も、公暁も、母の心がわからない。人は、人の心がわからないものなのです。
理想ばかりが先行する実朝
「すまぬ、公暁……」
事情を知ってとにかく謝罪したかったのでしょう。実朝が公暁のもとへ向かい土下座をするように謝ります。
今となっては親王様の一件を断ることができないと嘆き、その上で許しを乞い、自分を憎んでいる、許せぬだろうと言います。
しかし次に放った言葉が公暁を逆上させてしまった。
「お前の気持ちは痛いほどわかる」
「あなたに私の気持ちなどわかるはずがない!」
公暁は理解を拒みます。
幼いころから周りにかわいがられ、何一つ不自由がなかった実朝。
志半ばで殺された父。日陰でひっそりと生きてきた母。その悔しさがわかるはずがない!
そう言い切ったあと、こう続けます。
「わたしはただ、父の無念を晴らしたい。それだけです。あなたが憎いのではない。父を殺したあとあなたを担ぎあげた北条が許せないのです」
「ならばわれらで力を合わせようではないか。父上が作ったこの鎌倉を源氏の手に取り戻す。我らが手を結べば必ず勝てる」
実朝がそう訴えると、公暁はうなずきます。
「ただしこれ以上血は流したくはない。悪を討つなら戦ではなく、正々堂々裁きを受けさせねば。案ずるな、義は我らにある」
そう語り合うと、公暁はまもなく式が始まると実朝に促します。
そして去ったあと、憎々しげにこう言うのです。
「だまされるものか」
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実朝には、そんな公暁の心はわかりません。
のみならず、もっと大事なことを忘れている。この言葉を義時と義村が聞いたら果たしてどう思うのか。
何を言っている?
この鎌倉で、坂東武者の助けもなく、いったい何ができるというのか?
あの頼朝だって「お前だけを頼りにしている!」と臭い芝居をして味方につけていたのに……。
実朝のことは好感が持てますし、言っていることも理解はできます。
しかし義時側に感情移入すると、こんな風に毒づきたくもなります。
坂東武者と鎌倉殿は、水と魚なのだ。水がないのに泳げる魚がいてたまるか――。
トウの暗殺失敗で追い込まれる義時
雪の朝。
義時が政子と対峙しています。
「私たちは自分のしてきたことを背負って生きるしかないのです」
「私たち? 決めてきたのはあなたでしょう?」
「正しいと思った道を選んでここまでやって来た。そうではないのですか。今さら誰に何を言われようとひるんではなりません。私たちは正しかった。いつだって」
闇そのものがうずくまっているような義時の顔。存在感。
言葉とは裏腹にまっすぐな気持ちがまるで感じられないのは、先ほどの実朝と比べてみるとよりわかるでしょう。
まるで何かに操られて話しているような、そんな恐ろしさに満ちています。
鎌倉殿の出発を実衣が告げると、義時は立ち上がります。
彼女は大江広元に取り計らってもらい、御簾の裏で儀式の様子を見れることになりました。
しかし政子が同行を断る。
実衣に一人で行くよう言いますが、尼御台が行かないのに行けるわけがないと返す。
義時が、太刀持ちとして儀式に参加すると告げています。
ここで義時が時房に漏らした計画が回想されます。
公暁が実朝を斬ったら、義時が公暁を討ち果たす。それで終わりだ……と思いきや、その源仲章がニヤニヤしながら近づいてきました。
狙った雑色(ぞうしき・使用人)をとらえたとのこと。
彼女はあっさり捕まってしまったのです。
これはトウの腕前というより、善児のころより雑になった使い方の問題かもしれません。
いくら暗殺の腕前が優れていても、ターゲットに警戒されていたらそう簡単にはいかない。
ましてや警戒されている邸に潜入するなど、非常にリスクの高いやり方であり、トウの場合、かつてはりくの暗殺を三浦義村に防がれるなど、なんだかんだで善児の殺害以来、成功しなくなっています。
義時にとっては絶体絶命のシチュエーションとなってしまいました。
なんせトウは、頼家暗殺の当事者です。仲章に口を割られたら一巻の終わりとなるかもしれない――そうした状況を踏まえ、必ず吐かせてみせると勝ち誇る仲章。
太刀持ちは自分がやるとまで示します。
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