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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第44回「審判の日」】
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公暁の狙いは義時だ!
そのころ千世は、夫の実朝にこう告げていました。
「右大臣様、いってらっしゃいませ」
実朝が嬉しそうに、上皇にふたつ感謝しなければならないと笑顔を浮かべます。
過分な官位。
そして千世とひきあわせてくれたこと。
感激している千世に別れを告げ、実朝が出かけます。
夕方に降り始めた雪が積もり始めています。
義村は三浦館で待機しています。出席しないよう命じられ、従っていたのですが、もしも公暁が本懐を遂げたらば挙兵するとのこと。それまでは動かぬよう、配下の三浦勢に命じます。
朝時は、無事に実朝が本宮に入ったと泰時に告げ、取り越し苦労だったとホッとしていますが、泰時はまだわからないと緊張している。
実際、公暁が別当におらず、書類が残されていたとわかります。
行列の図でした。
公暁が隠れる場所。狙う者に印がついている。
と、泰時がハッと気づきます。
「まさか! 父上!」
粉雪は亥の刻を過ぎたあたりから、牡丹雪となっている――。
そう歩き巫女の予言を思い出させるように語られる中、続きは次回へ。
MVP:つつじと北条政子
母としての愛を、こうもまっすぐ見せてくるとは思わなかった。
しかも、それをひどい形で我が子は突き返します。
母の愛とは聖なるもので無償のもので、誰しも感動すると古今東西思われてきております。
それがこんな結末へ向かうなんて……。
これまで目立ってきた母親像が、損得ありきのりく、実衣、のえだったせいか、あまりに真っ直ぐな彼女たちには胸が痛くなるばかり。
母の愛をこんなに残酷に体現され、どうしたらいいのか、ちょっとわかりません。
今年の三谷さんの描く女性像は、滑らかになっていると思えます。
実衣と政子がおめかしするというやりとりも素敵でした。
そういう滑らかな女性像が、的確に打ち込まれた。
天に選ばれたMVP:北条義時
昨年の『青天を衝け』が、儒教の孟子から「仁者無敵」を掲げるなら、今年はさしずめ老子の「天地不仁」からこう言いたくもなります。
天地は仁ならず、万物を持って芻狗(すうく)と為す。『老子』
【意訳】仁ある者に敵はないっていうけど、そもそも天地に仁なんてないんだよなァ〜〜残念でした!
この芻狗(すうく)とは、儀式で使う藁でできた犬人形なのですが……頼朝が死んだあと、義時はこの藁人形になってしまったと思えます。
義時は不気味です。
空っぽです。
『麒麟がくる』の光秀は、反対に思想がみっちり詰まった人物であり、メインビジュアルでは麒麟が光秀に重なっていました。
仁をもたらしたいという思想ゆえに頭でっかちで、その思想に染まったからこそ本能寺に向かっていく。
そんな悲劇性を感じたものです。
一方、北条義時は空っぽだ。
前半は散々「全部大泉のせい=頼朝が悪い」と言われていましたが、後半になると「主役は泰時ではない」と言われてしまう。
◆ NHK大河「鎌倉殿の13人」いつの間にか主人公交代…小栗旬「義時」→坂口健太郎「泰時」へ(→link)
便宜上、大河には主役がいますが、実際には群像劇であることも往々にしてある。
三谷さんが本作を書く上で意識している『ゲーム・オブ・スローンズ』もそう。
そしてもうひとつ。義時には思想がない。
空っぽゆえに歴史上、果たすべき役割が入り込んでくる。ゆえに本人は空洞。
これはドラマとしての設定だけではなく、資料をたどっても青年期まではさして目立たない。細川重男先生は「何もしない男」と彼を呼び、「もう帰っていいですか?」とキャッチフレーズをつけています。
それに反して泰時は、思想がある光秀と同系統の人物といえる。
最終章の義時を見ていて、思い出した小説があります。
イギリスの人気歴史小説作家バーナード・コーンウェルの『神の敵アーサー: 小説アーサー王物語』(→amazon)です。
タイトルを見た時点では、わけがわかりませんでした。
アーサー王はイギリス人の国民的英雄なのに、神の敵とは何ごとか?
要するにキリスト教の上陸前、ケルト民族の神を信じているから「神の敵」なのです。
それが義時とどう関係あるのか?
というと、本作の義時は「神の敵」となることを最終目標としているとも思えます。
「朝敵」という呼び方もあり、こちらの方が有名ですが、本作のサウンドトラック3枚目は、後鳥羽院を神とし、【承久の乱】を神との戦いとするタイトルの曲が収録されています。
これをみて、ますますそうだと自分の中では盛り上がりました。
アーサー王が神の敵であること。理想的とされる人物が実は背徳的だったという、そんな相反する面白さがあるわけでして。
北条義時という武士の基礎を築いた人物が、神と戦う、そんな朝敵という言葉にも同じものがある。
そしてここまで考えると、日本の神とは何か、私たちが信じるものとは何かまで揺さぶられる。
この揺さぶられることそのものが本作の意義に思えます。
日本の歴史の有り様にまで何かを突きつけてくると。
総評
人の心はわかりませぬ――。
この義時のセリフが語る状況が繰り返されるような展開でした。
人間は相手の心が……いや、自分の心ですらわからない。
これは歴史を語る上でなかなか重要な要素でして、心の動きを見ていくことでの新解釈ができないか?という探求があります。
心理学は、学問の中では圧倒的に若い。
人間の心なんて当たり前すぎて研究対象でなかったのが、近代になって見出されてゆきます。
近代の到来とともに、心理を解析する必要性が生じました。
それは近代戦も大きな要因です。フランス革命あたりから徴兵制度が導入されると、すぐに問題が浮上しました。
兵士が敵を撃てない。的を外す。
それが一人や二人ではなく、むしろ相手を殺すことそのもに人は抵抗を持つと人類は気づきました。
あるいは戦争から帰った人が廃人となってしまう。
当たり前だと考え、ほとんど意識してこなかった「人間の心そのもの」を研究しないと、どうにもならないのではないか?
こういう心理学的アプローチは「認知革命」という呼び名もあり、これを用いて歴史を読み解くことが今の最先端となっています。
『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリが代表的ですね。
批判は当然ありますが、それを踏まえつつ読むと面白い。
ただし、この手のアプローチはどうしても西洋史が中心になりますので、東洋史や日本史に適用して考えるとさらに奥が深くなってくる――本作は、そんな試みをしているように感じるのです。
最新研究を反映していない。そう苦言を呈されたりもしますが、アプローチが捻りすぎていて、かえってわかりにくいのかもしれません。
心を掘り下げ、掘り下げ、掘り下げて……その齟齬が悲劇に至る。実朝暗殺への道筋もそうして見えてきました。
そしてこのアプローチは本作だけでもなく、『麒麟がくる』の本能寺とも通じるものがあると感じます。
黒幕説を取っているように見えて、結局、最後の一押しをするのはその人自身の意思、心の動きであると。
いくら黒幕が協力しようとしても、それに実行者が乗らないと物事は成就できません。
『鬼滅の刃』では、炭治郎がこう言いますね。
「人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!」
これもそういう認知革命を踏まえた言葉に思えます。
強くなるという方向性ならよいけれども、時に破壊的にもなってしまう。
ゆえに、こういう心を掘り下げる作品は、今後、増えると思います。
役者さんは演じるにあたり、脚本を受け取って、この役はどういう心なのか考えて、水の中に飛び込むように入り込んで演じるのだと思います。
演じるを通り越して溺れるとか、あるいは役を生きる瞬間があるのだと。
心を掘り下げる脚本は、役者さんのそういう力を引き出すものがあると思う。
そうして脚本の中に描かれた心と、演じる役者の心と、見る者の心が触れ合って、ハーモニーとなってずっと響いている。
そういう次元に、このドラマは到達していると思えます。だから面白くないわけがない。
でも、そもそも戌の神様って?
今週でてきた十二神将像を調べていたら、困惑したので書きますね。
十二支とは?
中国の戦国時代以来のもの。
十二神将とは?
仏教由来で、干支と組み合わせた。
ちなみに中国と日本では異なります。
つまり、インド生まれの仏教と、中国生まれの十二支と、組み合わせたもの。それを日本人が独自解釈して敬っている。
いったい日本の宗教ってなんだろう?
とは言いながら、自分も干支のお守りを持っていたような……そんな混沌を感じてしまったのでした。
もうこれだけ神がいるなら、義時もなんとかなりますって!
源仲章は義時の代わりに殺された?実朝暗殺に巻き込まれた上級貴族
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※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト