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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー総論まとめ第49回「是か非か」】
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女は再婚する
『鎌倉殿の13人』では、再婚する女性が複数出てきます。
八重。
巴御前。
比奈。
「貞女は両夫に見えず」という儒教価値観が根付く前の時代です。
それが当然とはいえ、どうしたってそこにひっかかるかもと恐れていたら、ぼかしたり変えたりする。
本作は逃げませんでした。
中世考証をしっかりした結果でもあり、より実像に近くなっています。
彼女は生殺与奪を握る権力者だ
そして本作最大のジェンダー観における成果は、なんといっても北条政子でしょう。
政子は、主人公である義時の生殺与奪を握っていました。
政子が義時を守るために戦えと言えば、御家人たちは奮起する。
政子がもういい、ご苦労様と見限ったら、義時は死ぬ。
演説の内容も、義時の最期も、ドラマの創作要素が入っている――要は、この作品は、政子が義時の運命を握る存在だったということです。
思えば頼朝の妻となることで、義時を運命に引きずりこんだのが彼女でした。
それでいて義時が政子を傀儡にしようとすると逃れ、自らが尼将軍となることでだし抜きます。
政子の全戦全勝。
男性主人公で、生殺与奪を女性が握っているなんて、なかなか画期的なことじゃないですか。
これは政子だけでもありません。
八重が矢を放つところから源平合戦が始まり、八重の子である泰時が新しい時代にすることが強調されている。
承久の乱の勝敗の一端を、政子と兼子が握っているように描く。
慈円が『愚管抄』に書いたように、このドラマの世界観は女人入眼――女性が重大事を決めていました。
この点はGoTに優った箇所にも思えます。
あのドラマは女性権力者を描いたという点において高評価を受ける一方、女性の扱いが男性に比べて悪く、特にラストの女性君主の扱いがあまりに期待外れだという声もあり、作り直しをする署名運動が起きたほどでした。
北条政子が慈悲深い尼将軍として君臨するこの作品は、世界に出しても高評価を受けると確信しています。
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しかし、見る側は追いついているのか?
ここまで書いてきて、疑念は湧いてきます。
大河というと、過去の作品との比較に終始してしまう。
日本のマスメディアや視聴者は、GoTのことなんかさして話題にしていないと思えます。
日本は世界的にみてもGoTの人気がそこまで高くないとも言われているのですが、それでも三谷さんやスタッフは意識して名前を挙げているのだから、記事にするならそこにふれるべきなのにそうしない。
人間は自分の守備範囲で話をしたいものです。
自分が過去に見た大河。出演者の過去作品。こうしたものと比較してしまう。
結果、制作側の意図が通じなくなっていることがしばしばあり、そこを指摘していきます。
そもそもが「時代劇」ではない
「こんなのは時代劇ではない」
そんな意見もあります。
それはある意味、制作側の意図にかなっていて、現在、私達が見ている時代劇は、江戸時代にエンタメとして練り込まれた歌舞伎はじめ演劇の影響を受けています。
鎌倉時代はそんな洗練された時代よりはるかに昔であり、時代劇のセオリーを破っても当然のことなのです。
例えば『鎌倉殿の13人』は殺陣が荒々しいものでした。
構えも何もなく、突如、人を掴んで川に引き摺り込む。
馬の上から跳んで相手に飛びつく。
中世ならではの荒々しさの再現といえます。
同様の事例は『麒麟がくる』でもありました。
当時の色彩感覚を再現した衣装が派手とされる。
存在していても何ら不思議ではない、駒や伊呂波太夫が叩かれる。
帰蝶の立膝がありえないとされる。
いずれも当時を再現した結果、視聴者の知っている時代劇と違うとしてバッシングの対象となったのです。
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そうした現象だけでなく、今回は敢えて時代劇から外した演出やセリフ回しを使用しています。
北条時政の「首ちょんぱじゃねえか!」という台詞は話題をさらいました。
こうした台詞は笑わせようというだけではなく、人物像や語彙力を示す上でも効率的であったといえます。
演出面でもGoTを参照したいとスタッフは語っています。
つまり“敢えて”これまでの時代劇でなくしているのです。
それが好みに合わないのであれば、”not for me”、「好みに合わない」で終わる話。叩くのは筋違いです。
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しかもスタッフがさんざんそんな演出意図を説明しているのに、「ネットの声」やら実在するかわからない記者の声を使い、こういう記事を発信するメディアにこそ、私はブーイングをぶつけたい。
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現代のドラマ視聴者になってください。女性を叩くことが先に立ち、理由は後付けでしょうから無駄でしょうけど。
作る側が進歩したならば、見る側もそうあるべきではないか?と思うのです。
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