鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー総論まとめ第49回「傑作か否か」

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鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー総論まとめ第49回「是か非か」
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出演者の熱気は作れるし、計測もできる!

海外ドラマの出演者は、堂々と、あるいはそれとなく、作品に対して苦言を呈することがあります。

日本では、ほぼ無風。

といっても人間嘘をつけばどこかに綻びが出るものであり、注視していれば浮かび上がってきます。

『鎌倉殿の13人』最終回では、義時が妻ののえや、義村の嘘を暴く場面がありましたが、ああいうことは可能でしょう。

駄作大河は、以下のような特徴が浮かんできます。

・出演者がとりあえず作品を褒めるけれど、どこが良いのか、具体的な指摘がない

・作品そのものがつまらないせいか、出演者同士の仲良しアピールに走りがち

近年の大河で『現場の士気が低そうだなぁ……』と感じたことは多々あります。

例えば、主演俳優のインタビューの中で、台本を読んでもセリフが「ちんぷんかんぷん」だと語ったのは悲しくなるほどでした。

たとえ専門用語が難しいにせよ、調べることはできますし、スタッフに質問してもよいでしょう。

それを「ちんぷんかんぷん」の状態で無理に暗記したものを読み上げるだけでは、演技に熱が入らなくて当然です。なんせ本人が意味もわかっていないのだから。

あるいは、こんなインタビュー例も。

準主演の俳優が「時間をかけて乗馬シーンを流しても一瞬しか本編で使われない」と語っていました。

乗馬は特別な体験です。かつ時代劇必須のスキルといえます。

大河だからこそ、その訓練が必要となったのに、コスパが悪いと語られるならばあまりに虚しいことです。

たとえ放映時間が少なくとも、その一瞬を凛として美しく魅せるため、乗馬のトレーニングにはのめり込んでいただきたいぐらい。

その点、『鎌倉殿の13人』では、演じる役者さんが馬に乗ることを楽しんでいるとわかって、実に素晴らしいものがありました。

女性でありながら乗馬の素敵な場面があった巴御前

人馬一体の境地へ向かっていった北条義時

乗馬だけでなく弓も含めて、“弓馬”の心得は武士の証でもありますから、他の出演者の皆様も十全に訓練されていたことが伝わってきて、見惚れてしまいました。

一方で、今年は展開が陰惨でもありました。

役に入り込むほど精神的に追い詰められかねない状況もあったでしょう。

それをどうやって盛り上げていくか?

メンタルケアを考えていたからこその試みも見られました。

・リスペクトトレーニングの導入

大河初の試み。

誰もが伸び伸びと創造的に働ける環境を整えることであり、

◆「鎌倉殿の13人」ハラスメント防止講習会「リスペクト・トレーニング」大河初導入「居心地いい現場に」(→link

Netflixで実践されているノウハウを提供してもらったとか。

提供した方も、それを素直に受け容れた方も、変なプライドのしこりとか無く清々しいですね。

このトレーニングのみならず、小栗旬さんのマスクからも、キャストとスタッフへの気配りが見えてきます。

・脚本の仕上がりが早い

三谷さんは「脚本の仕上がりが遅い」とゴシップニュースで取り上げられることがしばしばありました。

最後の最後まで手を入れるため、決定稿が遅いだけであり、大まかなプロットを完成させる初稿はむしろ仕上がりが早いのではないか?

私はそう推察していました。

『鎌倉殿の13人』では、ロケ、セットの組み立て、小道具、衣装、VFX、アクション、所作指導といった、早くから事前準備をせねばならない場面が多いと感じましたが、いずれも素晴らしい出来だったのです。

ウクライナの会社と作っていたVFXに遅延が生じる状況がありましたが、それでも問題なく進行できたのはスケジュールに余裕があったからでしょう。

NHKには「働き方改革宣言」が掲げられています。

1 長時間労働に頼らない組織風土をつくります

2 業務の改革やスクラップを進め、効率的な働き方を追求します

3 ワーク・ライフ・バランスの充実により人間力を高めます

4 多様な人材がいきいきと活躍できる職場を実現します

5 改革の取り組みを点検・検証し、常に改善を続けます

どれだけ美辞麗句が並べられていても、大河ドラマの制作現場がギリギリでは……?と心配してしまうと、それだけで不信感は募ってしまいます。

具体的な例を挙げると2021年です。

事前にある程度プロットが発表されて出版されているガイドから、変わっている回がありました。しかも、余った時間を補うように、さして意味のない場面が加えられていた。

直前になって「さすがに曲解が酷い」と修正が入ったのではないかと私は感じました。

それだけでなく、小道具やVFXの作り込みが甘く、出演者が疲れているのでは?と伝わってくることも。

2019年については、脚本家が「本当はこんなドラマは書きたくなかったし、テーマに興味がない」と別の番組で明かすことがありました。

彼がやつれているというゴシップも飛び交いましたし、確かに彼の本気ならば、もっとよく出来るのでは?と感じるシナリオの完成度でした。

こういうことはただただ辛く、見たいものではありません。

「よいドラマを作ろう!」

もしもあなたがそう考えたとき、実際はどうしようと思いますか?

豪華なキャストやスタッフを揃える。費用をかける。

もちろんそれはその通りですが、現場の士気も非常に大事でしょう。

前向きになって、むしろ作ることが幸せで楽しいと思える――そんな風に士気を上げるのは、非常に難しい。

観察しないと把握できない。きっちりと数字として出てくるかどうかわからない。自分の意思とは無関係に、過小評価も過大評価もされる。

他人の評価なんて放っておけ!とも言い切れるものでもない。

地道に重ねるしかなく、しかしだからこそ現場の空気は役者同士の間でも共有され、大河も士気が高い好循環に入るでしょう。

今年は士気を上げることにおいて際立った成果を残しました。

主演の小栗旬さんは演技力のみならず、現場をまとめる総大将としても優秀だったのでしょう。素晴らしいことです。

さて、ここまで書いてきて、制作した皆様にも尋ねたいことがあります。

「狙い通り、日本版『ゲーム・オブ・スローンズ』はできましたか?」

 


日本版『ゲーム・オブ・スローンズ』を大河で作る

『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GoT)とは何か?

2010年代にテレビドラマ、特に歴史ものを変えたアメリカHBO制作のシリーズ作品です。

歴史観まで変えてしまったとされ、海外の歴史をテーマとした書物にはこんなことまで書かれていることがあります。

「最近の読者は、GoTの影響で、誰もが陰謀を企んでいたものだとみなすものだが……」

というように、それほどまでに影響が大きい。

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たとえば中国では『軍師連盟』という司馬懿が主人公のドラマがあります。

諸葛亮のライバルであり、『三国志』の世界に最悪のエンディングをもたらした人物。

擁護も共感もしにくく、脇役としては有名でも、主役になることは稀有な存在でした。

その司馬懿をあえて主役にする――実際に作品を見てみれば、その意図はわかりました。

中国ではGoTの原作『氷と炎の歌』のころから、単純におもしろがるだけではない空気が漂っていました。

こういう複雑怪奇で陰謀まみれの歴史劇ならば、自国を題材にできる。

それがなぜできない?

答えとして、司馬懿主役の原作を選んだと思えたのが『軍師連盟』だったのです。

この作品では、中国であまり見かけない露悪的な演出がありました。

君主の狂乱。繰り返される自傷や拷問。陰謀。殺戮。

心理的に崩壊し、どんどん顔つきがどす黒くなっていく主人公の司馬懿。

これはきっと中国版GoTをこなしておきたかったのだろうと、見終えて思ったものです。

黒さを中和するように、お笑い要素が入っているところが『鎌倉殿の13人』とも通じるものがありました。

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日本でGoTをやろうとすれば、時代劇制作の手法が残っていて、衣装や道具のストックがある大河ドラマしかありません。

そして2016年『真田丸』の時点で、GoTのことを語る人もいました。

最たる証拠は、主人公である真田幸村の祝言の席における暗殺劇でしょう。

冠婚葬祭の場での暗殺劇というのは、歴史上しばしばあるものです。

しかし、真田一族が加害者になったかは定かではない。一方でGoTにあり、シーズン3での「血塗られた婚礼」と呼ばれる殺戮は大きな話題をさらったものです。

それを大河でやろうとしたのではないか?と、見ていて思いました。

ただ、『真田丸』はGoTにするには時代がちょっと新しすぎます。

鉄砲があるし、神話をそこまで信じていない。中世以前でないと、GoTにはならない。

それができる題材と脚本家、スタッフを追い求めていった結果が『鎌倉殿の13人』ではないかと思えます。

ロゴが毛筆ではなく明朝体のフォント。「十三」ではなく「13」がタイトルに入る。メインビジュアルの鮮やかな色合い。

このドラマではクラシックの名曲がサウンドトラックに使われていました。

エバン・コールさん本人のアイデアではなく、依頼されてのことです。

オープニングはVFXで作った石像を用いています。

写実的な石像は日本では珍しく、むしろギリシャやローマ、ルネサンス彫刻を連想させます。

三谷さんはシェイクスピアを意識していると語る。

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スタッフが従来の時代劇よりもGoTのような演出を目指していたと語る。

三谷さんもそこをふまえてか、「首ちょんぱじゃねえか!」といったフランクな言葉遣いをさせる。

『鎌倉殿の13人』は日本らしさが確固たる前の世界を意識していると思えました。

出演者も「いろんな国の人に見て欲しい」と語っています。

「日本らしさ」が定着する前、国民性が確固たるものとなる前。道徳心がまだ成熟されておらず、迷信や不合理が通る。

日本らしさよりも「中世の人類」であることを強調しているように思えたのです。

なぜGoTがヒットしたか?

このドラマはイギリスの薔薇戦争がモチーフのひとつとされていますが、中世イングランド以外の要素も盛り込まれています。

だからこそ普遍性を感じさせ、世界各地で「我が国でもこういう歴史はあるのではないか?」と視聴者に意識されるようになった。

その歴史の普遍性を受け取り、日本の中世でドラマを作る。その答えが『鎌倉殿の13人』だと思えます。

さて、狙い通り2020年代、世界に通じるものとして出すのであれば、世界水準の配慮や工夫も必要です。

前述した通り、撮影現場への配慮もあります。

素晴らしい――と、それだけではない画期的な箇所も見ていきましょう。

 


稗史目線

稗史(はいし)という言葉があります。

正史に対するものであり、民衆の目線や伝承によって伝えられる歴史のこと。

GoTの場合、原作を読むとより顕著であり、戦乱に巻き込まれていく子どもの視点から歴史的な出来事をみる視点がありました。

大河ドラマの場合、歴史に名を残していない人物の目線で見ることが稗史に該当します。

かつては『三姉妹』や『獅子の時代』のように、大河は主人公が架空の人物であることもありました。

近年は「オリキャラ」と呼ばれる人物も、大河には欠かせなかったものです。

『鎌倉殿の13人』では、善児とトウが稗史目線の登場人物に該当しますね。

最終回までトウが登場しており、民衆目線で歴史を見ることはできていました。

ただ、若干弱かったとも思います。

これは主人公である北条義時が民衆に目線をあまり向けていなかったことも反映されているのでしょう。

姉の北条政子と息子の北条泰時は、民衆を労る「撫民政治」の観点がありました。

ちなみに稗史目線のことを持ち出すと、「マルクス史観の弊害」を語りだす方もおられるようですが、その弊害は現在ではそこまでない。

むしろ古い考え方ですので、そこは留意した方が良さそうです。詳細は本郷和人先生のご著書からどうぞ。

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当事者による表象

マイノリティ役を、当事者が演じること。

これにより誤解やステレオタイプを防ぎ、かつマイノリティの当事者に配役の機会を増やす効果があります。

海外では当たり前のことで、歴史劇の場合は民族が特に重視されます。

『鎌倉殿の13人』では、宋人の陳和卿をテイ龍進さんが演じ、この点において進歩しました。

過去の大河を見てみますと、『春の坂道』では明人の陳元贇(ちんげんひん)を倉田保昭さんが演じています。彼は香港や台湾で活躍していたため、日本では中国人をしばしば演じていました。

今になってみればそれはないだろ……と思いますよね?

それだけ時代は進歩したのです。

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