五十次という商人が、駒に半値で綺麗な反物を一反だけ売ると言ってきます。
彼の情報によれば、なんと今川が戦を始めるからと買い漁っているとか。
刃物、革も、味噌も売るものがないほど、尾張に送り込まれているそうです。
古来、戦争が経済を活発化することはあるものです。
日本が太平洋戦争後の不況を脱出したのも、朝鮮戦争あってのことです。
儲かるからって、喜んでいる場合なのか。麒麟の到来を待ち望む駒にとっては、嘆かわしいことです。
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何万という軍勢が、尾張へ攻め込もうとしています。
「また戦ですか……」
農民まで戦場へ引き立てられてゆく様子が映り、暗い顔を浮かべる駒でした。
師匠が光秀だから子供たちもついていく
そのころ、越前では――。
光秀は『論語』衛霊公第十五の十二の講義中です。
子曰く、人にして遠き慮(おもんばか)り無ければ、必ず近き憂い有り。
光秀は、こう教えています。
はるか先のこと、遠くのことを絶えず気を配れば、身近にあるものを上手に収めることができる。
これが今回のプロットの鍵になっています。
「麒麟」といい、本作は中国古典を徹底的に読み込み、それを骨にして作り上げているとわかります。
これは近年の大河に、ありそうでなかったこと。骨があるドラマですね。
光秀はここまで教えて、教え子たちに一礼をします。
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細かいことではありますが、こういうところがいい。教えていると見下さずに、きっちり礼を示す。こんな先生ならば、礼儀作法も身につきます。
「三尺去って師の影を踏まず」とは言ったものです。
気配りをして、師匠を敬えというのは美しいことのように思える。けれども、それに甘えて無礼な師匠だったら、そういう敬意は生まれないと思えるのです。
そしてこれも大事な点ですけれども、長谷川博己さんはキレ散らかすエキセントリックで無礼な人物よりも、こういう紳士の中の紳士が一番光ると感じます。
光秀はこの基礎ができているから、いつも秀麗です。
米を買うお金もなくて……
そんな光秀は、塾の先生を終えて家に戻ります。
すると煕子が出迎え、明智左馬助が尾張から戻ったといいます。
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煕子はとても礼儀正しく謙虚な女性ですが、「左馬助」は呼び捨てにしております。
これは当主夫人ならではのこと。落ちぶれていても、そこは節目ってものがあるのです。その左馬助は疲れているとか。
常が赤ん坊を抱いています。
光秀は母に帰参したと告げ、丁寧に挨拶。初孫を前にして、駒からの贈り物のことが語られます。
・赤子の肌荒れに効く薬草
・夜泣き対策の薬
赤子用に思いつく薬セットだとのこと。駒殿の薬ならよく効くと光秀は喜び、元気に育つよう我が子に語りかけるのでした。
それから、我が子を常に預け、離れの左馬助のもとへ向かう……その前に、煕子がこう声をかけてきます。
「十兵衛様」
煕子がそっと光秀に語るには、左馬助の湯漬けにする米すらないとのこと。
常が寺に借りに行ったものの、色良い返事をいただけない。申し上げるべきではないと前置きしつつ、駒からの薬草を質にいれることを提案してきます。
光秀は苦い顔をして、このままではいかぬと思うていた本音を漏らします。
そこに重なる。赤子の泣き声。
光秀、ピンチです。もう、仕事を選んでいられない!
またあの話なので、嫌いな方は数行飛ばしてくださいね。
ハセヒロさんが……こんな真面目で聡明なハセヒロさんが、妻子が苦しもうが、自分のやりたい道しかやらねえとオラつく――かつてそんな朝ドラがありました。
本作は、その真逆を突っ走るよき夫であり、誠実な父です。ハセヒロさんに幸あれとしか言いようがありません。今宵は祝杯ぞ!
生真面目な左馬助からの尾張リポート
左馬助はぐったりと寝ています。
「十兵衛様!」
ガバッと跳ね起きる生真面目さよ。父・光安そっくりですね。
演じる間宮祥太郎さんは、そこにいるだけで空気がキラキラするようなイケメンで、西村まさ彦さんの渋い個性とは、違います。
でも、そっくりに見えるのだから、役者ってすごいと思います。
光安も左馬助も、あくまで当主ではない一族だという遠慮が常にある。生真面目で、目立たないようにしてそこにいる。これもすごいことだと思うんですよね。
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そんな生真面目な左馬助は、疲れているところを見られて恥ずかしそうにしています。
たとえ二人の関係がいとこであろうと、当主にはきっちりと配慮。本作のよいところって、生真面目さをプラス、長所であるとして描いている点でもあります。
◆左馬助の出張報告タイム
帰蝶様は元気でも、尾張は大変なことに。
光秀が案じていた通り、国境の大高、鳴海といった城が尾張を狙う砦になっているようです。
光秀はここで、大高城が曲者だとわかる。
『論語』だけをマスターしているわけじゃない。兵法だってできるぞ!
この城は三河の兵で固められていると光秀は聞きます。
今川は尾張と戦をする時、必ず三河の兵を先陣につけると言うわけで、これも嫌な話なんですよね。
自分の兵力を温存するために、支配地の兵を使う話。第二次世界大戦イギリス軍のインド兵が好例でしょうか。ただし……リスクも当然あります。
戦わされる方があまりに酷使されるようであれば「なんであいつらのために俺らが血を流すの?」という疑念が悶々と湧いてきます。
第二次世界大戦であれば、インドもそうだし、オーストラリアもそう。
イギリスのために日本と戦ったオーストラリアは、頼りにならないくせに威張っているイギリスへの幻滅が募り、イギリスからの脱却を強めていくこととなります。インドと違って白人でありイギリス人の血を引く支配者という誇りがあったものの、それすらぶち壊す不満が鬱積したわけです。
光秀の見立ては正しいのです。
今川配下の主な三河武士は?
駿河の今川義元は、隣国の遠江、三河を支配下へ置き、さらに尾張への進出を目論んでいるのです。
なんだかんだで今川義元は凄い。このころの足利一門なんて下り坂が多いというのに、これだけ強いわけですから。
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しかし、それもこの先どうなるのか? そういう見どころです。
光秀は考え込んでいます。
これまた本作の見事なところですが。
なぜ越前から尾張のことを悩むのか? 目の前のことをなんとかしないよ。米すらないでしょ――と、そういうツッコミに対して、先ほどの『論語』で返しているわけです。
光秀は左馬助に、三河の主だった武士の中で今川義元の近い者の名前を聞いてきます。
しかとは存じませぬが……そう前置きしつつ、左馬助はあの名前を出します。
「松平竹千代……」
光秀は考え込んでいます。
記憶に蘇るのは、母を恋しがり、助けを求めてきた少年です。そうそう、尾張潜入指令で出会っておりました。
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ここで光秀は、左馬助をもう一度尾張へと送り込むと言い切ります。
左馬助、がんばれ!
役目は、帰蝶様に文を渡すことでした。
一気に尾張へ攻め込むべき!
今川義元は、カリスマ性を発揮しつつ、評定スピーチをしています。
打つべき手を打った!
大高城、鳴海城。これらの城を足掛かりに、一気に尾張へ攻め込むべき――。
ここで「もはや議は尽くした……一気に尾張へ攻め込むべきと思うが、どうじゃ!」と意見を求めます。
実質的に出陣宣言ですね。
朝比奈親憲は、尾張、三河、遠江を合わせれば今川は日本屈指の大名になると言い切ります。
テンション高いです。そりゃ井伊谷の国衆も、負けないと思うわ。2017年『おんな城主 直虎』と重なり合う時系列に入ってきました。
義元も自信満々。自ら出陣すると言い切ります。そのうえで、大高城への先鋒をどうするのか意見を求めます。
その地に詳しい三河が推挙される。その中でも、松平元康(後の徳川家康)だと言われるわけです。
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それにしても……本作の今川義元はいいですね。
弱っちい公家じみた蹴鞠プレイヤー系の描写にせよ。不気味で強い描写にせよ。あんまり地に足がついていない感があった。
その点、本作は、独特の血が通った生々しさがあります。
決して弱いわけでもない。人格破綻もない。斎藤道三のように孤立してもいない。
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欠点を探す方が難しいくらい。
でも……だからこそ、失敗する予兆もヒビのように見えてくるわけでして。怖いドラマだよなぁ。しみじみと怖いドラマだ。
東庵と将棋タイムでウキウキ家康
さて、その松平元康はといえば。
智源院で望月東庵と将棋タイムです。
「さあ」
「恐れ入りました」
元康は上機嫌です。ようやく大敵である東庵に勝てたと浮かれております。
これまでの戦績は、98戦して東庵が93勝、元康5勝。2貫の貸しだと東庵は言っておりますが……。
もう、この時点で元康が怖い。なんなんだよ!
今川義元はじめ家臣が、みんな先鋒を任せるのは元康だと言っているわけです。大勝負です。
それなのに、何をウキウキと将棋してんだよ!
これ、相手が東庵だからよいものですが、どこかでバレたら「自粛しろやボケ!」と密告されそうな気もする。
そのうえで、大敵東庵殿を打ち負かしたと。おばば殿に報告しているわけですよ。
なんなんだよ、元康、お前、なんなんだよ!
信長ほど際立って怖いとも思えませんが、なんかこう……うっすらと怖いわ。
そのおばば殿こと源応尼は、ようやく首の痛みが取れたと上機嫌です。
これも針治療のおかげだと東庵に言うと、相手は駒のお灸かもしれないと言います。
評判がよいそうです。駒はまだツボがとらえきれないと謙遜しております。
東庵殿に頼らずともやっていけると源応尼が言うと、駒はそう言う気になると言います。東庵が冗談半分の口調で調子の乗るなと嗜めるわけです。
他人から見れば「可愛くない子」である理由
元康は、大事の前に幸先が良いと言います。
大事とは、尾張との戦とのこと。だから元康、そんな大事の前になんでそんなに飄々としているのさ?
タイミングを見計らって駒は次の家へ向かうと言いだします。元康も別れを告げます。
ここで源応尼がちょっとぼやく。
肉親である祖母に会いたいのか、東庵殿と将棋をしたいのか? どちらかわからないって。
「とんとわからぬ子じゃな」
「両方です。では!」
しれっと流しそうになるんですけど、やっぱり元康が怖いんだよなぁ。
人の心をキャッチするのであれば、祖母孝行アピールをしたいのであれば「それはおばばさまです」と笑顔で言えばいい。
あっさり「将棋です」と言えば、かわいくない奴になる。トーン次第ではジョークになるかも。
「両方」
これがある意味、一番怖い。
祖母と孫の些細なやりとりなので、無害なのですが。
もっと重大であったり、ビジネス上であるとか、恋愛や友情であったりすると、やられた方は「どっちなんだよ!」と胃に穴が開きます。意地悪な答え。
で、祖母すらわからないと言い切る。織田の人質時代、土田御前はかわいくないと言った。
血の繋がりがあれば、困惑するだけです。
しかし、土田御前のように他人であれば「わけわからなくてかわいくない」となるのだと。
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古狸になる予兆が子役時代から出ていて、笑顔でも常にうっすらと怖いから、本作の家康はたまらないものがあります。
源応尼が現状を説明します。
先鋒を任され、織田信長勢に送り込まれることになる孫。
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三河の者は長らく今川様の支配を受けてきて、尾張との戦いとなれば必ず矢面に立たされる。自分の孫ゆえ、面倒をみろと今川様より命じられておる現状が、やるせない限りだと。
東庵は今川様の館に呼ばれていることに、些か気が重うなったと語ります。
まあ、そうなりますよね。東庵ですらどんよりするのに、どうして肝心の元康は軽快さすらあるのでしょう?
もう、元康が、しみじみと怖い。
で、演じる風間俊介さんもしみじみと怖い。
染谷将太さんの織田信長のように、見ていて無茶苦茶怖い像もありです。
あれはあれで素晴らしいものがあるのですけれども、家康は一見善良で平凡なようで、ただ笑っているだけで怖いのだから、どうしたらよいのかわからない奥深さを感じます。
でも、これが見たかった。
NHKでも、最高の玉を掘り出した手応えはあって、自局でも革新的な役を割り振りたくてしかたなかったのだとは思います。
で、それが2012年『純と愛』であったのではないかと思うのです。意欲作ではあった。そういう意欲作を作るつもりが、失速してしまった感はある。
2018年『西郷どん』はね……。同作で風間俊介さんが演じた、福井県民の誇りであり、若き天才であった橋下左内に文句はありません。
しかし、作品の中で西郷どんとニタニタしながら、キャバクラで薄い本を作るようなお粗末な脚本には嘆きしかなかった。
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NHK看板三度目の正直で、もののみごとな、未知の家康を作り上げてきました。
めでたい以外に、これにふさわしい言葉ってあります? すごいことですよ!
深刻そうな元康が駒から丸薬を貰う
駒が外に出ると、元康が一緒についてきて、どこまで参るのか聞いてきます。
駒が今日も寄り道かと聞いているところを見ると、マイペースに外出をしているようです。
元康は、館に戻っても戦の話ばかりでつまらないと言います。覚えておきたい台詞です。
駒が「いたしかたないこと」というと、元康も納得しています。三河を今川から返してもらうまでは、いたしかたない。
ここで元康の暗い青春が語られます。
父上は死に(信長による首箱詰め)。
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母上は実家に返される。
おばばさまと私は人質として今川に置かれる。
何もかもいたしかたないのだ……そう言いつつ、時々投げ出したくなると言います。このまま寄り道を続けて、あれもこれも投げ出したいって。
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そのうえで、駒に仕事のことを聞いてきます。
駒によると、毎日お灸を望む変わった人がいるとか。それでいて何にでも効く丸薬を作っているそうです。だったらお灸なんて不要のようでいて、そうでもない。戦の前になると、その薬が売れてゆくそうです。
その薬をお守り代わりに買うと、死んだ人がいない。あの薬が効いたと申すとな。それで戦になると売れるとか。
意地悪なことを言うと、生存者バイアスってやつじゃないですかね。薬を買って死んだ人は何も言えないわけです。
何にでも効く薬があるとは思えないものの、お守り代わりになるのだろうと駒は推察しております。
「そのような薬があるのであれば、誰でも心を動かされる。私も生きて帰れるのならば信じてみよう」
元康が深刻な顔でそう言います。
余裕こいて将棋をしていたものの、内心お守りが欲しい気持ちはあると。駒はここで、もらったその薬があると丸薬を出してきます。
駒は元康にその薬をあげると言う。
「それで元康様がご無事に戻るのであれば、私も信じてみます」と告げるのです。
「かたじけない。これは駒殿からもろうたお守りじゃ。必ず生きて戻って参る」
そう元康は告げるのでした。
駒は、その芳仁という老人の家へ向かうのでした。そこにいたのは、謎めいた老人でした。
東庵を問いただす義元
舞台は変わり……今川義元が黒白の猫を抱いて東庵と向き合っております。
義元は太原雪斎の言葉として、東庵を褒め称えます。一度針を打たれると、癖になるほど凝りが取れると。
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東庵はとぼけた口調で、
「皆様そう仰せになりますが、不思議なことに、己の凝りには一向に効き目がありませぬ」
と言うのです。
義元はここで、
「医者というのは世のため人のために生きておるという証ではあるまいか」
と嬉しい褒め言葉を返す。東庵は恐れ多いお言葉と言いつつ、肩こりが倍ほどひどくなったとぼやいてみせます。
これぞ堺正章さんの本領発揮ですし、東庵の危険性だとは思うのです。
心が真っ直ぐで綺麗で、シレッとそれを肯定しない。ユーモアにくるんでとぼけるからわかりにくいものの、おだてに乗らないということです。
これが駒と対照的といえばそうでして。駒は源応尼の褒め言葉を聞けばその気になるとあっさり認めています。
義元は肩こりがひどいからこそ治療を受けたと言いつつ、本題とも言えることを聞いてくるのです。
東庵はここ数年、松平元康と将棋をする仲だというではないか。源応尼とも親しくしているとか。
そう切り出し、三河の者である元康を大事に思うからこそ元服もさせたと言う。
岡崎城主であることも配慮してきた。先の初陣も見事であった。元康こと三河武士の棟梁にふさわしい器だと思うておる。そう言い切るのです。
ただ、そんな元康でも、今川を裏切るとなれば、我が身が危うい。
そこで、ズバリこう聞いてきます。
「元康は信ずるに足る若者と思うか? どうじゃ?」
義元を通じて家康の重要性が浮かび上がる
流石は義元、名将です。
家臣と議を尽くした。けれどもあとひとつ、確かめていないことがあった。それをクリアにしようと、自ら尋問をするわけです。
義元の問いかけに、東庵は医は仁術だと前置きをしたうえで、元康は裏表のないお方、殿がお案じになるような方ではないと断言します。
「よう申した。流石我が師雪斎和上が見込んだだけのことはある。ふふふ、安心したわい」
この片岡愛之助さんの義元の、高い完成度ときたら……。英雄の中の英雄を、見事に演じております。
『真田丸』の大谷吉継の時とはあきらかに違う。どっしりとしていて、正面切ってたくましくて、男性性の化身のような力強さが出ている。
若いころ、歌舞伎で可憐な女形をしていたことを考えると、人間というのはこうも変わり得るのかと毎回何度でも驚いてしまう。
すごいものです。演じるということは、これほどまでに変わることなのか! そういう驚異を感じます。
東庵は意図的に騙したいわけでもないでしょうし、彼に対して元康は誠意があるのでしょう。義元に対してもそうだったとは思います。雪斎からだって、それは熱心に勉強を学んだことでしょうけれども。
しかし、元康って幼少期から二面性がバリバリにあったわけです。
まだ幼い彼を土田御前が「かわいげがない」と評したのは、何かそういうものを嗅ぎ取った可能性もあるわけですし、信長が父を殺しても、納得してしまうところがあった。
今川に迎えられた時、豪華な食事でおもてなしをしても、子どもらしく喜んだわけでもない。
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ここのやりとりは、義元が隙のない人間だとわかるだけでなく、【元康がどれほど重要なカードであるか】もわかる仕組みです。
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そんな中で、元康というカードを本作は提示してきた。
このカードがひっくり返ると破滅的であり、義元をも殺し、遠い将来、豊臣政権をも破滅に追い込むと示されているわけです。
時系列的に、本作は家康の天下統一までは描きません。けれども、このあと家康が天下人となると示唆することが大事なこととなってきます。
家康といえば、三英傑の年齢差を無視してでも、老獪さを出せるベテラン俳優がキャスティングされることが多いものでした。
結果ありきの逆算ですが、本作は違う。
それでいて、彼が天下人になる要素をみっちりと描くから、とんでもないと思うのです。
信長、軍議を抜け出すってよ
永禄3年(1560年)5月。
2万5千の兵で今川義元は尾張攻めを開始しました。
一方、尾張清須城では織田家臣団が一生懸命に軍議をしています。無茶苦茶ヒートアップしている。紛糾しているぞ。
そんな中、信長はやる気があるのかないのか、よくわからない顔。どうしたんだー! と思ったらいきなり立ち上がって、どこかへふっと立ち去ろうとします。
「殿!」
「殿!」
「殿ッ!」
「殿ぉ!」
家臣たちの声を聞こえぬように、スタスタとどこぞへ向かってゆく信長。
気持ちはわかります。結論が出ないのに話し合うなんて無駄ということでしょう。
今川義元は「議を尽くした」という。家臣団と意見をぶつかり合わせたわけです。
けれども、対照的に意見をぶつかり合わせることすらしたくない人物が今回二名出てきました。
館に戻ると戦の話になって嫌だという松平元康。そしてこの信長。
本作で、この手のタイプは他にもいましたね。評定で露骨にかったるそうにしていた斎藤道三です。
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麒麟がくる第11回 感想あらすじ視聴率「将軍の涙」
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確固たる自我と自分の意見がある。
それゆえに、みんなの意見なんて出てきてもどうでもいいんだよね〜。そうなっちゃう奴らです。
といっても違いはあります。道三と信長はかったるさが顔に出ますが、元康は「聞いているフリ」はできるとみた。
例えば現代でしたら、会社でトラブルになりそうですし、学校でも授業を聞いているようで自分なりにあれやこれやを考えてしまう。そういうタイプの人物ですね。
飲みニケーションは嫌い、というか。基本的に余計なつながりは求めていない。
彼らも、評定をしないわけではありません。
他人の目を通さないと自分が見えてこないとか。そういう相手を反射板のように使う、独自のコミニケーションスタイルの発露でもある。話し相手にとってはストレスが溜まりかねない。
勝てはせずとも負けもしない手立て
信長は、袴姿の帰蝶を見つけます。
どこへ参るのか? そう確認すると、彼女は熱田宮までだと答えました。
「熱田宮? この戦支度の最中に?」
「それゆえ行くのです」
帰蝶は殿もお行きになられたほうがよいという。
せいぜい3千の兵で今川を相手にするのは、義龍に負けた時の道三と同じ兵数だと帰蝶は言い切ります。
そういえばそうでした。信長はイライラしてきます。
「だからどうした?」
「勝てぬまでも、負けぬ手立てを講じませんと」
信長は小馬鹿にするようにこう返します。
「熱田宮でお祓いでもしてくるのか?」
神頼みっていうのはもう負けてんだよ。そうオラつく信長。
信長は帰蝶の言うことを聞くけれども、それは愛情ゆえでもない。彼女は有能だと証明済なのです。
信長は、発言者の属性ありきではなく、使えるかどうかで判断するので、愛妻がせめてもの神頼みを頼んだところで「使えねえ!」とバカにする性格でしょう。
そこが土田御前には耐えられなかったと思われる。
こんな兄からすれば、白山信仰にハマる弟の織田信勝はバカそのものにしか見えない。
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織田信勝(信行)の生涯|信長に誅殺された実弟 最後は腹心の勝家にも見限られ
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熱田宮を信じて、戦に神官を巻き込み死なせた父とも違うところではある。
信長はやはり家族内で孤立していたんでしょう。
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麒麟がくる第2回 感想あらすじレビュー「道三の罠(わな)」
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そんな信長と気が合う帰蝶は、熱田宮に松平元康の母と伯父がいると告げます。
ようやくピンと来て足取りまで軽やかになってしまう信長。そのうえで「そなたが呼んだのか」と帰蝶に確認します。
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道三の娘で信長の妻・帰蝶(濃姫)の生涯|本能寺の変後はどう過ごした?
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誰の知恵かと聞いた上で、家臣のように騒ぐだけではないと褒める。その上で、もう一度誰の知恵かと帰蝶に聞き、はぐらかされてしまいます。
「ふふ、察しはつくがな」
この信長も、面白いですよね。
・素直に帰蝶を褒めないし、彼女単独の意見でないとも見抜いている
→帰蝶を過小評価しているわけでもなく、置かれた状況からそこまで動けない、ならば誰かいると察知したのでしょう
・あんなに一生懸命提案した重臣を「騒ぐだけ」とぶった切る
→しみじみとひどい。それを本人たちに言わないだけでもマシ?
・気持ちがコロコロ変わる
→ムスッとしたり、ワクワクしたり。めんどくさいですよね
・推理野郎
→察しはつくものの、答え合わせせずにわくわくしている。お茶目なようで、こうもズバズバ推理されていたら、周いからすれば疲れることもあるはず
仕官を願った義景は蹴鞠に夢中で
そのころ越前では、光秀が仕官すべく鉄砲の腕を披露しておりました。
朝倉家の武将・宇野市兵から「たいしたものだ」とは褒められるものの、殿(朝倉義景)が決めるから「改めて参れ」と言われてしまう。
そうして数日後また参ると、朝倉義景は楽しそうに京都からきた公家たちと蹴鞠をしておりました。
「蹴鞠? 何が蹴鞠じゃ」
遊ぶ義景を見て、光秀は思い切りムッとした顔を見せてそう吐き捨てる。
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朝倉義景の生涯|信長を二度も包囲しながら逆に追い詰められた越前の戦国大名
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この光秀は結構思うことや考えが顔に出ます。
光秀は、遊びで誰かに取り入るようなことができない。接待ゴルフとはほど遠い男です。
そんな光秀は家に戻ると、左馬助に苛立ちをぶちまけます。
今、尾張の織田信長が大一番の戦に向かっておるのに、自分はこの国で何をしておる? そうイライラが溜まっているのです。そして、左馬助が見つけたという尾張への抜け道へと案内しろと迫るのでした。
光秀、やはりストレスが溜まっていたのです。
そのころ、熱田では――。
母の名を聞けば胸が張り裂けよう
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水野信元の生涯|織田徳川の同盟に欠かせなかった家康伯父は突如切腹を命じられ
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そんな信元に、今川勢が既に先鋒として尾張に入った、このままでは甥と戦うことになるだろうと、告げる信長。
ここで於大の方は、信康とは親子といっても16年会っていないと不安そうに言います。
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於大の方の生涯|家康を出産後すぐに離縁された生母 その後の関係は?
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顔も忘れ、声も忘れ、もはや母親と言えるかと。
そんな彼女に、信長は16年会わずとも、20年会わずとも名を聞けば胸が張り裂けると信長は言います。母は母だと。
「そうしたものでございましょうか?」
「わしならそう思う」
土田御前と絶望的な断絶をした信長がそう言うと、なんともいえないものはありますが……。まあ、信勝を殺してもそれで母と会えるならうれしい、そんな信長ですもんね。
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麒麟がくる第19回 感想あらすじ視聴率「信長を暗殺せよ」
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於大の方はここで文を差し出します。
「実はこういうお話もあろうかと思い、元康に拙い文をしたためてまいりました」
もはや道ですれ違うとも、我が子とわからぬ愚かな母であるが、それでもこの戦で我が子が命を落としたと聞けば、身も世もなくなるであろう――。
そう切々と語る松本若菜さんは、感情をほとばしらせるようで、抑圧していて、古典的な賢夫人像をよく表現しています。賢さ、優しさ、それだけではない凛とした佇まいが全て出ていて、これまたお美しい。
ここで信元は、念押しします。
以後、尾張は三河の国に野心を持たず、三河のものは三河に戻すとお約束いただきたい。元康もそれなら納得しましょう。そう言うのです。大胆な提案といえばそう。
「わかった、約束しよう」
「かたじけのうございます、では!」
信長は快諾します。
ここで、菊丸が於大の文を受け取るのでした。
なぜ織田から攻撃されないのだ?
5月16日、今川義元は本隊の兵とともに、三河・岡崎城に入ります。
先鋒の松平元康は、境川を越えて尾張へ進入しました。丸根砦の佐久間信盛は、今川の先鋒が集まっていると報告してきます。大高城に兵糧米を運び込んでいるそうです。
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そう聞かされても、黙ってむすっとしているのが信長の面倒臭さでして。本作の何がすごいって、賢く強そうなだけではなく、言動に誤解を招く面倒臭さや問題点が常に滲んでいるとことだと思えます。
天才的だけど、そばにいたくないとしみじみ思える。いろいろ考えさせられる人間像だなぁ。
そのころ、元康は鵜殿長照に大高城で迎えられます。
甲冑で歩く風間俊介さんは、もうどうしようもないほど素晴らしいので、うなるしかない。
なんだろう、所作かな? 歩き方かな? 醸し出される聡明さかな? 感嘆するところしかない。何がそんなにすごいのかわからないけど、ともかくすごいって思える。不思議です。
で、ここでの鵜殿長照は、尋常ではない元康の引き立て役になっている感がある。
というのも、元康がここで懸念を表明するのです。
奇妙なことがあった。砦の見張り数人に気づかれたのに、矢の一本も飛んでこない。拍子抜けするほど見て見ぬふりをされた。
織田方のおかしさをそのように語ります。
けれども相手はこうだ。
「そなたの動きが素早かったゆえ、手出しできなかったのだ」
本当にぃ?
そう疑念を感じても、無害そうな顔でそう反論しないのが、元康のおそろしいところとみた。
で、そういう信康の迫力を風間さんは出してきていると。
清須城の信長は、その報告を受けています。砦が元康を見逃したのは意図的なものであるとわかります。
そのうえで、沓掛城から大高城まで、義元がどの道をゆくのかも考えている。
一方の元康は、しばし休んでから軍議をすると言い、自室へ向かいます。
そこで一人の影がふっと出てくる。
「誰ぞ! 春次か」
はい、菊丸でした。入れと促され、菊丸は元康の部屋へ入ります。そしてうやうやしく文箱を差し出すのでした。
「これは?」と訝しる元康に、母上である於大の方の文を差し出します。その文を手にして、元康はじっくりと読んでいます。
この戦は、勝っても負けてもよきことはない。互いが傷つくばかり。それゆえ、戦から身を引きなされ。
母は、ひたすら元康殿に会いたい。穏やかに、何事もなく、他に何も望まぬ。
ここで深く息を吸い、元康は言います。
「これが……これが母上の……」
「殿、これは三河の者全ての願いでございます。今川を利する戦にお味方なされますな。今川がおる限り、三河は百代ののちも日が当たりませぬ。私はこの日のために殿にお仕えして参りました。何卒、今川をお討ちください。織田につき、今川を討ち、再び、三河を三河のものにしていただきとうございます。どうか!」
そう聞かされ、元康は何かを決意したようです。
そのころ、光秀と左馬助は馬で走っているのでした。
MVP:松平元康
もうこれは、ちょっと高い酒でも買って乾杯すべきかもしれない。私はそうしたい。
三英傑が揃いましたが、全員ゼロから再構築していて、見事な仕上がりです。
この家康は、のほほんとしていそうで、笑顔でこう思っていそう。
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや――自分のスケールのでかさは、他人には理解されない。でも別にいいんです、私自身がわかっていればいい。
そういう奥深さを感じるんだよな。
タイトルに家康が入っておりますが、なまじ幼少期から描いただけのことはあり、家康としての原型がほぼきっちり見えているのがすごい。
・聡明
→これは見るからにそう!
・データ大好き野郎
→今ならデータベース作りに余念がないタイプでしょう。東庵はギャンブルのために記録していますが、コイツはデータ好きであるがゆえにしているタイプなのです。
・「知ったわけじゃない。見ただけです」
→織田勢の様子がおかしいと察知して、それを訴える。でも、そういう細かいところを観察して異変を察知する、物事を組み立てて推理する。そういう特技持ちは少数派なのです。ゆえに話が通じなくて、困ることもあるのでしょう。
彼は信長に「義元の顔を見てくる」と言いました。おそろしい目ですよ!
ちなみに同じ特技持ちは、BBC版『SHERLOCK』のタイトルロールにもあります。
「どうして私が医者だって知ったんだ?」
「知ったわけじゃない。見たんだ」
・誠実かつ無害そうに見えるが、割とシレッと方針転換する。ゆえに周囲は騙される
→あんなに賢い義元がどうして騙されるの? これはのちに秀吉もたどる道です。人畜無害な顔をしていて危険。それが持ち味です。で、彼の認識は「裏切るんじゃない。表返る!」あたりなので、どうしようもないのです。
・それはそれ、これはこれ
→なんで誠実そうなのに裏切るのか? それは物事を切り分けて「それはそれ、これはこれ」と笑顔で言い切るタイプだから。幼少期からそれは出ていて、信長が実父を殺しても反応が鈍いのは「実父であることはそうですけど、三河のためになるかどうかは別のことですよね」と切断できるのでしょう。
義元は「元服もしてやったし、恩義ってもんを感じるはずだ」と思っていますが、そんなものは通じません。
で、将来こうやらかす。
「確かに秀吉には恩義があると言えばそうですね。でも、豊臣のままで天下がよいのか? 麒麟がくるのか? 来ないと思いますね。ゆえに、ルールを破りまくると」
「こ、こ、こ、この忘恩古狸があ!」
「だーかーらー、恩義とよりよい未来は別物なんですって。関係ないですね♪」
この家康は素晴らしい。
フラットな身分感情を持っていて、ゆえに東庵や駒にも優しい。でも、見かけほど情に篤いわけでもない。一見善人のようで……一番敵に回したくないタイプかもしれない。
信長は露骨にこいつは危険だと周囲にも伝わるのですが、家康は無害そのものに見えてしまう。
もう一度言いますと……。
彼みたいなタイプは敵に回しちゃいけない――いつの世にも実在するのだけれども、気付きにくい。気づいた時は手遅れかもしれない。
本作最強はやはり彼なのでしょう。そりゃ天下とるわ、幕府開くわ……。
石田三成がもう、かわいそうで仕方なくなってきました。
総評
来週で一旦停止となる本作。その間、過去の大河名場面番組を流すそうです。
どうなんだろう。過去の大河が悪いとは言いませんが、本作はゼロから大河を再構築するような試みを感じるので、比較として興味深いと思うか、無駄だと思うか。
その停止前に、三英傑の家康本役まで出てきた。これはあきらかに素晴らしいことだと思えます。祝っていい話ですよ。こんなご時世でああだこうだと言われている本作ですが、紛れもない成功の兆しはバッチリと見えると思います。
ご存知の通り、麒麟を連れてくる、乱世を終わらせるのは家康です。
光秀と信長が悲劇的な結果を迎えるにせよ、光を残すことがあるべき終わらせ方です。その伏線を本作は描いてきた。
光秀と竹千代は、初対面の時点で因縁があります。
竹千代側が光秀の親切心を感じていた。それは今回も回想で出てきました。家康自身、光秀のせいで死にかけるとはいえ、彼は光秀と信長と同じ何かを見出したフックが必要です。
先週、信長は世の中何かがおかしいと言っていましたね。そういうおかしい世界は、確かにそうなのです。
これは何も日本一国だけでもない。
地球儀をくるっと回すと、大航海時代からのスペイン・ポルトガルの南米大陸陸到達があるわけです。それがどうして日本に影響を与えたかというと、銀の流通量増大です。
銀が主要な貨幣であった中国大陸の明、そして朝鮮半島、日本までもが、経済に刺激を受けて変動を始めます。
西洋も、東洋も、当時は世の中の仕組みがひっくり返って、何か違和感が出てくる。
宗教や思想面でもそうで、西洋は宗教改革。明でも陽明学がおこってくると。
そういうダイナミックな方向転換を抑える延長上に、合戦がある。
それが本作のポイントだと思えます。
武士の栄誉だとか。そういうこと以前に、戦は目的なり外交の延長上にある。世界が大激動しているからには、そうなるだろ。そういう仕切り直しを感じます。
本作の厭戦気分は、今日の駒のように「また戦ですか……」という慣れと諦念のうえにある。
合戦を名誉としていそうな、そんな戦国武将ですら、合戦は嫌だという気持ちがある。
明智光秀も、斎藤道三も、織田信長も、戦は目的を達成するための必要悪であり、好んでしているわけではないと語られています。
歴史的にみてみますと、子どもじみた戦争ごっこをしたり、無駄な親征をしたがって大騒動を起こすのは、いわゆる暗君と呼ばれる人物が多いようです。
エカテリーナ2世にクーデターを起こされたピョートル3世。
無茶苦茶な遠征で捕虜になった正統帝等。
あのナポレオンですら、自分の偉業は戦争での勝利よりも、ナポレオン法典整備だと回想を残しています。戦争のことばかり考える君主は、何かあるということはおさえておきたいところです。
今週の家康なんて、こうまとめればカッコ悪くなってしまう。
マザコンで、戦を避けようとする。
こんな評価最悪ですよね?
でもそうは思えないのが、本作の魔法です。戦国時代を描き、桶狭間こそ見所だとしていて、実際そうでありながら、戦争を肯定しない。
大河では「戦は嫌でございます!」ヒロインみたいなのが突っ込まれてきたところではあった。
そういう人物像は、特定の実在集団に紐づけられて、ダサくて非現実的だという皮肉った投稿も、大手掲示板あたりではしょっちゅうなされている。
でも、戦を嫌うのは人類普遍的な心理でありましょう。
国語の授業では、古代の詩人が戦争を嘆く作品を読まされる。白居易の「長恨歌」にしたって、玄宗の楊貴妃の悲恋のようで、政治批判と「安史の乱」の惨劇への言及は当然あるわけですし。
ピカソの「ゲルニカ」だって、反戦を訴えている。
有史以来、人間は戦争を嫌がってきた。ヨハネの黙示録の四騎士の第二の騎士は、戦争だってば。
でも、そういう【情】では通りにくい。
そこで戦争をするとマイナスで、国益なりなんなりを損ねる【理】を用意せねばならないわけです。
エンタメとは、芸術とは、戦は嫌だという【情】を結晶として作品にすることで成立してきた。
それに21世紀の進歩として【理】でもいけないとつきつけてくる。
戦国時代を派手で楽しい娯楽としてだけではなく、現代にまで通じる問題を孕んだ時代として定義し、作品としての完成度も高くしてくる。
私は昨年散々、大河の未来は暗いとネチネチとケチをつけました。予算にせよ、何にせよ、海外の歴史ものドラマに勝利できる要素はない。それどころか、わけのわからん迷走を続けていくばかりだと。
10年後、大河枠が壊れていても不思議はないと言ってきた。
それを今年撤回するのは、本作の野心と情理両輪をふまえた作品作りゆえのことです。
今までの大河としてではなく、世界の歴史ドラマとしても通じておもしろい作品となるよう、最新の知見を研究して挑んでいる。そういう手応えを感じる力作です。
このご時世の中断も、マイナスになるどころかプラスになるでしょう。
最盛期の成功作品ではなく、危機を迎えた枠ごと息を吹き込んだ作品となれば、本作は間違いなく歴史に残る。
そうなるんじゃないかと、三英傑が出揃って確信できてきたところです。
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【参考】
麒麟がくる/公式サイト



































