麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第4回 感想あらすじレビュー「尾張潜入指令」

天文17年(1548年)――。

駿河の今川義元は、三河を制圧し、尾張進出を目指します。

両軍は小豆坂で激突、両軍譲れず、決着はつきませんでした。

織田信秀は古渡城に撤退。
痛み分けに終わったものの、織田軍の消耗は酷いものがあったのです。

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一方の消耗が酷いとなれば、何らかの構造的問題が生じたとも推察できます。

さあ、情報収集の時間です。
『孫子』「用間篇」でも参照しましょうか。

「戦国大河はやっぱ合戦だよな〜。今日は幕間のダラダラか〜」

そう思ってはおりませぬか?
だとすれば、貴殿はその瞬間、本作の仕掛けた罠にかかったのですぞ。

乱世に休みはありません。合戦がない時にこそ情報収集をしなければ、次の勝ち戦はありえない。

さあ、策に対処しましょうか。

 


鉄砲をどうすべきか?

美濃・明智荘では、明智十兵衛光秀が鉄砲射撃訓練をしております。集中した顔が素晴らしい、そんな長谷川博己さんです。

彼だけではなく、美しい背景にも注目したいです。
こういう自然美を見せることこそ、2020年代の最先端でしょう。カメラワークも、音楽の使い方も、何もかもが本気だなぁ。

ハセヒロさんも熱演していた『サムライマラソン』もそうでござったな。

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緑の香りすら漂って来そう。そんな絵に圧倒的な美しさを感じます。

さて、絵は綺麗にせよ、鉄砲はどうにも命中しないらしい。撃ち損ないが十度目だと、藤田伝吾がからかいます。

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弓矢では屈指の腕前なのに、鉄砲は当てられないのだとか。戦で持ち歩かぬよう、願っているとまで言うのです。

それはどうでしょう?
発射音がありますからね。馬は神経質です。発射音をまだ慣れぬ馬に聞かせるだけでも、結構な効果を期待できます。

鉄砲とはそういうもの。火縄銃にせよ、マスケット銃にせよ、命中率は低いのです。

・威力

・集団銃撃

・発射音による威嚇効果

・弓矢よりも腕力がいらない

・装填と発射を複数人でできる

ポイントはこのあたりです。
日本の火縄銃には命中精度を高めたものもありますし、猟銃もそこは高めてあります。ただし、ヨーロッパでも傭兵が持つようなマスケット銃の命中精度はかなり低いのです。

織田信長の「三段撃ち」は、後世の創作という認識が広まっています。当時の銃器の使い方を前提としていれば、集団銃撃があるべき運用ではありました。

発射音も考慮する必要があるんですね。例えばアイヌは、発射音で獲物が逃げることをふまえ、昭和まで弓矢を用いることがしばしばあったと記録されています。

そこへ、佐助がやって来ます。叔父上がお呼びだそうです。

 


稲葉山城へ向かう

明智光安のところへ光秀が行くと、鳥と戯れつつご機嫌そうです。

なんでも稲葉山城城から呼び出しだとか。東庵の治療も大詰めで、その世話になったお礼をしたいそうです。

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そりゃホクホク顔になりますよね。恩義を主君に売れましたもの。

稲葉山城では、斎藤利政(斎藤道三)の正室・小見の方が回復しつつあります。娘の帰蝶も、うれしそうに母を見守っています。

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駒は道具を片付けています。帰蝶は駒との別れを惜しむのです。

「せっかく親しうなれたのに、名残惜しいこと」

東庵だけ帰って、そなたはとどまればよいのに。そう言います。

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駒はそう言っていただけるだけでも嬉しいと言いつつも、東庵は側にいなければギャブルに金を使うからと返します。

碁。双六。闘鶏。足相撲。なんでも賭けるって。

これは斎藤利政も喜んでいるのかな、と思うじゃないですか。

美濃に来られてどれだけ経ったかと切り出し、小見にも改善がある、さすが京都の名医だと褒めるのです。

出発帰還を確認すると、明朝だそうです。そのまま京都へ向かうのかと聞いてくる。

ところが、利政は情報収集大好きな戦国大名だから。そこはぬかりがない。

織田信秀のところに行くよな?

・仲良しだよね?

・三年前、双六で借金十貫あるよな?

そう問い詰めてくる。

勘弁してくれよ!
借金の金額まで調べているって、もう嫌だよ!

そのうえで、織田信秀の調子の悪さもわかっている。精彩を欠いているんだよな、とぶん投げてくる。

東庵が医者としての守秘義務をかざすと、そこは曲げてでも頼むという。

美濃と尾張は不倶戴天の敵!
病を知っていれば策略の立てようがあるというもの!

それでも断ったら首を刎ねるまでだと利政は言い切る。美濃を見ているからには、もう名目は何でもいいんですよね。

光秀も、お前が連れてきたから責任とれと脅される。無駄のない脅迫を学べる、素晴らしい大河ドラマだ!

やっぱり、こういうものを見たい気持ちはありますよね。故・笠原和夫氏を思い出すなあ。

なんというストレートな脅迫でしょう。利政の脅迫はいいですねえ。退路を絶っているから、もう終わるしかない。スマートなやり口です。参考にしよう。

しかも、諜報活動に応じなければ光秀に斬首をやらせようとする。

東庵も、飲むしかないのですが、そうとなれば「双六の借金十貫」を薬代に上乗せしたいと交渉するのだから、大したもの。それがお嫌なら首を刎ねろと言い返すのだから、よいではないですか。

加減が難しいけれども、こういうやりとりができると、きっと社会で役立ちますよ。今の時代、給与交渉は出来るビジネスパーソンの基礎です。

これには依頼をした方の利政もニッコリしちゃいますね。こういう度胸と機転がないと、スパイとしては使えませんからね。

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ここで、利政が光秀に声をかけてくる。

動揺している光秀がぼんやりすると、叔父上が咳払いして殿についていけと促すのです。

そして二人きりになると、利政は満足げにこう言います。

「十兵衛、そなた京でおもしろい魚を釣って参ったな……」

光秀は織田方につながりのある医者であることを謝りますが、利政にとってはそこが良いわけです。大名や公家とつながりがある医者って、いいんですよね。

医者、芸人、連歌師、茶人。こういう人たちはスパイと用いることに最適なのです。あやしまれずに大名家を行き来できるから、こりゃもう使いたい。

そのうえで、織田方に潜入させる東庵の監視を光秀に頼む。

生真面目な彼が、京都で見つけた東庵に責任を感じているところは、当然織り込み済み。しかも、一緒に連れて参った娘(駒)を人質にするとも続け、戻らねば殺すと宣言します。

「釣った魚は始末しろ」

そうきっちり脅迫をする利政。うーん、理想的な脅迫。人生に役立つ大河だな……。

そのうえで、こう来ました。

「十兵衛、鉄砲はどうした? 使いこなせるようになったか? 戦で使えるものなら使ってみたい。鉄砲のことならじきじきにわしに言え」

ちょっとしたセリフのようで、悲しいものがある。先週、利政の嫡男・斎藤高政(斎藤義龍)は、鉄砲なんてどうでもいいから自分や光秀に任せたと悲しそうに言っていましたね。

それは誤解です。
そこを歩み寄れず、理解できなかったが故に……。

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画面外にいる人物の影すら感じさせる、高度な作劇です。

 


東庵、尾張到着

背中に月とウサギがいる東庵。月は「陰」の象徴です。駒のことをよしなにと頼み、出発しました。

光秀は悩み、駒はせっせと薬を煎じている。こういう医術の場面が毎回細かくて素敵ですね。

尾張の古渡城に東庵が到着しました。

平手政秀が嬉しそうにしてはいる。美濃にいるとはつゆ知らず、京都に迎えにやろうとしていたとか。

この時点で、織田家には何らかの医学的な問題があるとわかります。

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目の前では、侍たちが蹴鞠をしておりました。

東庵は、もそっと早うお知らせすればよかったかな、と言うものの、尾張と美濃が合戦中だからできなかったことを伝えます。

なんでも尾張は負け戦ばかりで、我らもほとほと弱ると政秀はこぼします。

さて、信秀は戦上手なのかどうか。ちょっと気になる。合戦そのものはそこまで上手でなくとも、商業手段が抜群ですと、それだけでも強いものです。

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それにどうしたって、考えてしまう。そんな信秀の嫡男のことを……。

東庵は、すこぶるご健勝だと言います。なんと言っても、蹴鞠をする中に信秀もいるんですね。

今川勢を押し返したとき、肩に流れ矢を受けたそうです。肩か。それならば、足を使う蹴鞠ならば問題なく、水をごくごくと飲む信秀は、元気そうではあるのです。

京都の公家相手には、蹴鞠と和歌が上達すれば侮られないと練習の理由を語ります。

もし信秀が、和歌の稽古をしていれば健康状態に疑念が湧きそうなものですが、蹴鞠となるとそうでもない……。

この場にいる全員が、互いに信じ切っているかどうか?

気になります。

信秀は、蹴鞠や和歌をステータスシンボルとして楽しんでいるけど、汗を掻くだけで何が楽しいのかわからないとこぼします。

うーん、それはゲームにすることでしょうね。和歌をコンペにして、賞品を出すとか。勝敗をつけるとか。そうすればおもしろくなるでしょう。

そのものはそこまで楽しくなくとも、競争を導入すれば楽しくなりますからね。

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それと情報収集です。

この会話も重要。全国の大名が、ステータスシンボルを求めた。それが戦国時代です。

再来年の『鎌倉殿の13人』の時代だと、こうだぞ。

「ヒャッハー!」

「汚物は消毒だあ〜」

「(書物を破り捨てながら)こんなもんケツ拭く紙にもなりゃしねえのによぉ!」

そういう世界観なんだ。
平家って、和歌ばっかり詠んでいるから負けると散々源氏どもからコケにされているじゃないですか。

そういう世界観と、あの三谷氏が結びつくんだから期待しかない! 祝言でターゲットを殺す『真田丸』の真田昌幸が、紳士的に見えるんだ、きっと……。

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戦国武士は、むしろ和歌を詠めないと恥ずかしい。洗練されて教養は身についているのです。再来年の大河にも期待が膨らみますが、今年に戻りましょう。

織田信秀は……経済力はあっても、まだ文化資本が低いんですね。今川義元とはそこが違うということでもある。

そんな信秀さんの嫡男は「ステータスシンボルのためにつまんないことしたくないもん! 馬で走る方が好きだもん!」とだだをこねる子なんだと想像します……。そこに政秀は絶望し、父母は泣き、弟は困惑すると。

つまんない蹴鞠よりも、双六やろうか!
そう意気投合する信秀と東庵。双六好きの田舎医者だと開き直る、そんな東庵と信秀の双六タイムです。

「やるか!」

「望むところ、今日は負けませぬ」

「よ〜し!」

遊び始める二人。打ち解けているようで、実はそうでもない。

 

尾張潜入作戦開始

終わりの国境では、番兵が警備をしております。

「銭を払え、さもなけば通さぬぞ!」

「止まれ! 荷物を改める。包みを開け」

戦国時代を考えるのであれば、他の時代との比較がよろしい。

江戸時代は藩境があったものです。それでもそこまで危険ではなかった。

当時は、子どもが家や奉公先から逃げて、旅行をしてしまうことすらできました。所持金がなくとも、泊めてご飯くらいあげよう。そういう余裕があったんですね。

犬だって、お伊勢参りできちゃったそうですし。

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平和だったということでもありますが、情報の流れをそこまで厳しく制限していなかったわけでもない。

機密情報の流れが、今週はかなり大事になってきます。

そんな国境に、光秀と菊丸がやって来ます。

「我ら兄弟です」

「兄弟です」

ちょっと怪しまれつつ、ここは突破できたようです。

ハセヒロさんの真価が発揮されていて、おそろしいほどではある。

彼が美形であることは疑いようがありません。とはいえ、本木雅弘さんのような華々しい美形とはまた違う。

キャストビジュアルで、光秀が地味だのなんだのそんな声もあったものですが。それは違うと思うのです。

ハセヒロさんは、美形だということを隠せる。実に器用な演技ができます。菊丸と兄弟と言われても、納得感が出てくるというか。地味になれるのです。

「待て!」

「貴様何者じゃ!」

「ひっとらえよ!」

背後で、別の誰かが捕まるから緊張感が増す。

常にスパイがいる。そう思い続ける社会って、実はかなり大変だ。そう痛感できる本作です。

ここでちょっと第1回冒頭を思い出してみましょう。もしも光秀が菊丸を怪しいと斬り捨てていたら、今回はありえませんでした。

光秀のゆるいところと、親切心も考えたいところです。

菊丸は、十兵衛様を兄様と呼んでよろしいのかと確認します。わしとおぬしは兄弟だと光秀が言う。兄弟に見えるかと菊丸が戸惑っていると、似ておらぬ兄弟はいくらでもいると光秀は返します。

当時は異母きょうだいが今よりずっと多いことも考えたい。親子ほど年齢差があるきょうだいもおります。

ただ、年齢的には菊丸が兄じゃないか?というツッコミが出てくる。あ、それは思いますよね。

「そうか。わしがおぬしを兄さあと呼べばいいのか」

光秀がしょうもないことにこだわるタイプならば、身分の低い奴を兄とすることにムッとするかもしれない。しかし光秀はそうじゃない。

「では兄さ」

「なんだ十兵衛」

二人の設定を再確認しておきますと……。

・住所:西三河

・目的地:あちこちの市場

・売り物:薬草

・態度:いつも通りでよい

・任務内容:城下で薬を売るだけ、カンタンなお仕事です!

人間というのは、嘘をつくときでも、若干の真実は混ざります。そのほうがリアリティが生まれる。菊丸の出身地や販売経験、駒経由の薬草知識を使います。

光秀の医療知識を示す史料も発見されました。職業的な医師であるかどうかはさておき、それを踏まえた作劇とも言える。高度です。

菊丸は味噌売り経験があるそうです。今では味噌と醤油はおなじみですが、味噌のほうが古いものです。醤油は、江戸時代だとトレンドまっしぐら、新しい調味料という認識でした。

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橋を歩いてゆくだけで絵になるところではありますが。そんな簡単なお仕事のわけないだろ。そう突っ込みたくはなりますね。

 


信秀と双六で遊ぼう

信秀と東庵は双六タイム。

信秀は、美濃を出る時、利政に何か言われたのではないかと探ります。戦国大名って、本当に嫌ですよね。おちおち世間話もできない。

任務は織田様の観察、ギャラは十貫。九貫に利息一貫つけただけと東庵はあっさり認めます。

「あの蝮に博打の肩代わりをさせたか、はははは、愉快じゃのお!」

「何事も隠し事はよろしからずと思いまして」

信秀、はしゃぐ。ほのぼのしているかどうかは、わかりません。

ここで東庵がおどおどしたり、不穏な動きをしたら?
死への一直線でしょう。

金額は些細なようで、実は重要なものです。ディテールがしっかりしていないのであれば、疑念を抱くところです。

彼らは戦国大名ですから、何を見るかくらい、想像はできている。

「うむ、それがよい。わしは見ての通り達者でやっておる。そう伝えてくれ」

「今川との戦で流れ矢が当たったと聞きましたが」

瓜をもっしゃもっしゃする信秀は、元気ではあります。

「うむ、ここだ」

信秀は油断したのかな。
この人は用心深いし、賢いとは思う。けれどもちょっとガードが緩くなる時があるのかな。

ほうほう。御免と断って、東庵はにおいを嗅いでいます。

「痛みはございますか?」

「まだ僅かにある」

「傷を受けてどれほどになります?」

「三月近くじゃ」

「ふーん……」

そう軽く見てから、東庵はこう聞きます。

「何故、この私のことをお呼びになりました?」

信秀は語り出します。
傷のことではない。夜寝ておると、びっしょりと嫌な汗をかく。昼間はけろりとしている。どの医者が診てもわけがわからん。

そこで思い立ったと言いつつ、東庵は双六が目当てだったのでは、と返します。

「近からずといえども、遠からずだな」

「いやご喧騒なご様子を伺い、安堵いたしました」

「うむ」

あー……これは怖いし、やっぱり役立つ大河ドラマですね。

不眠って、甘く見られがちではあります。けれども、ちょっと睡眠時間が短くなるだけでも、人間の認知能力は削られてしまう。

信秀の全盛期はもう終わった――そういうこと。
我々はそうならぬようスマートフォンで睡眠ログでも取りましょう。

信秀は、わしの番だと前置きして、東庵から美濃の様子を聞こうとします。

ここへ近習が来て、東庵に薬草を届けるよう仰せつかった者が来たと告げるのです。

「ほほう、来ましたか」

古渡城へ参る途中、市場で珍しい薬草を売っておりましたので、届けるよう命じていた――そうスラスラと説明します。あんまりスラスラしていると、かえって疑われるかもしれませんよ。

「さあどこにいるのですかな」

「東庵、まだ決着がついておらん。これが終わってからにせよ」

「ああ、はいはい。えー、しばらく待つよう伝えてくだされ」

「重六出ろ、重六!」

本当に勝負をつけたかったのか。それとも来客について何か得たかったのか。

そこまで考えたい、戦国大名の殺伐ライフです。実際に送ったら絶対楽しくないぞ!

 

竹千代の悲しみと、光秀の慈愛

「東庵殿、遅いな」

はい、光秀と菊丸が待たされております。そこへ身なりのよい少年がやって来ます。松平竹千代という名前です。

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「この館の者か? 商いで参った者か?」

「へえ」

「われを三河の刈谷まで連れてってくれぬか? 刈谷の城へ。母上がおられるのじゃ。母上の元へいきたい。われは今から熱田へ移される。熱田へは行きとうない。頼む」

「竹千代様! 竹千代様はいずこじゃ」

そう探す声が聞こえて来ます。

「どこにおられますか?」

「お探しせよ!」

「竹千代様ぁ!」

大河で出てくるこの人に、こんなにも心動かされるなんて……。

どうしたって、狸親父だの、明治政府以降のネガティブキャンペーンだの、国民的時代小説家の影響だの、焼き味噌だの。『真田丸』の伊賀越えだの、そういうものがあるのか、三英傑で一番過小評価されているような気もする徳川家康の幼少期ですが。

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国際的には三英傑で一番有名です。

BBCに至っては「シーザーとナポレオンに匹敵する」と言い切りましたもんね。

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※文句があるならBBCに言ってくれ……

そうだ、この人は、こんな少年時代だった。いくら教育を受けられて、衣食住は保証されていても。母(於大の方)に会えない心は傷ついているのです。

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ここで竹千代を突き出さないのが、光秀という人物。薬草の下に匿います。

「こっちではない!」

「探せ!」

そして探す者がいなくなってから、やっと籠から出します。

「私にできるのはここまでです」

光秀は、子どもだからと侮らぬ説明します。

この館は守りが固い。大勢のものが目を光らせている。抜け出すのは無理。御身が大事な人質だから、三河の母上も覚悟されて送り出されたはず。抜け出されてお戻りになられても、辛いを思いをなされるだけかもしれませぬぞ。

竹千代はそれでも訴えるのです。

「……三年もお会いしてない。会えばよう帰ってきたと」

父上も刈谷におられるのかと確認され、竹千代は訴えるのです。母上を刈谷に追い払って、敵の今川義元の家来に成り下がっている。そんな父上は大嫌いじゃ!

そう訴えても、逃げきれぬとうなずかれ、この少年は悲しそうにするしかありません。

ここで光秀は、干し柿を渡します。

「噛まずに口に含んでおくと、ずっと甘くて気が晴れますよ。今は辛くとも、日がかわり、月がかわれば、人の心も変わります。いずれ母上に会える日が来ます。無理はせず、待つことです」

家康といえば「鳴くまで待とう」。そんな連想もありますが、光秀の言動は奥深いものがある。

・日がかわり、月がかわれば

→日月、陰陽のうつりかわり。ただ、「時間が経てば」と言ってはいない。

・干し柿で気を晴らす

→光秀は人の心を癒す。事実は変えられなくても、心を変えることで相手の苦痛を和らげる。

このあと、明智光秀を名残惜しそうに見ながら去っていくのも、納得できるのです。

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彼と話すこと。接すること。そのことで、心が穏やかになって離れたくなくなる。そういう力が光秀にあって、それこそが才能なのです。

菊丸は、百姓じゃが同じ三河者として、あの御方の気持ちはわかると言います。

今川義元の駿河と、織田信秀尾張。年中荒らされて、どちらの国を頼りにしなければやっていけない。今は我慢して尾張に頭を下げて、我が君を人質に差し出している。悔しいけれど、そうやってやっていくしかない――。

そうなのです。
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