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【麒麟がくる第32回感想あらすじ】
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鉄砲を譲る条件は
駒の申し出は、信長と潜在的に対立している義昭のためにはなりません。
つまり、駒と義昭は通じ合っているようで、同床異夢ということです。
ここは光秀だけでなく、公方様の寵愛を受ける駒がいればこそ、順慶も乗ってきたのでしょう。
160挺譲るかわりに、約束をつけてきます。
近々、公方様に私を引き合わせていただきたい。
明智様は、織田信長様に引き合わせていただきたい。
松永久秀の排斥を訴えているわけではなく、同列におそばにおいていただきたい。
順慶は人脈を条件につけました。
しかし光秀もあっさりとは話を引き受けず、それなら鉄砲の数を上乗せ。かくして200挺が手に入ったのです。
ここで茶会も始まると告げられて、交渉は終わります。光秀は駒の助け舟に感謝するのでした。
駒はそれでも出過ぎた真似と謙遜をしている。自分が身の丈にあわぬことをしているような気がするとつぶやきます。身なりも身につかぬ気がすると、それに対し光秀が答えます。
「よくお似合いと存じまする。万(よろず)お気になさらぬことです」
駒は光秀に恋をしていたこともある。けれども、光秀は服だけ褒めて、容姿ジャッジをしない。セクハラ対策がバッチリな男です。
そんな光秀は、なまじそういう色っぽいトークスキルが皆無であるため、【鈍兵衛】というあだ名まで頂戴していました。口がうまくない男のようで、実はそうでもありません。
目的のためならば、口八丁手八丁。今週は、そんな光秀のトークスキルを見せつける回であり、弁舌で味方を勝利に近づけました。
本作は、合戦シーンが少ないと指摘されます。
けれどもこれは世界を見据えた歴史ドラマ規範に沿っているということかと思います。
【合戦が見どころ】というのは少々古くなっている。
合戦とは、事前の準備や駆け引き、心理戦も十分に楽しいもの。あの有名な戦いの背後では、こんな心理戦や駆け引きがあった。
本作はそういう見せ方を模索してると感じます。
視聴者がそれについてこられるかどうか。そういう問題もありますが、それでも前に進まなければならず、踏ん張りどころでしょう。
『真田丸』で合戦シーンの迫力不足を指摘した記憶があります。
これも実はアップデートをしていて、撮影技術が向上したと思えます。映像効果の使い方がこなれてきていて、短くとも迫力がある。往年の大河らしさだけでなく、新たな挑戦をしています。
浅井朝倉と対峙する織田
永楽通宝の旗印のもと、いざ信長が出陣!
蝉の声が聞こえる夏の戦い。
金ヶ崎の敗北から僅か2ヶ月後、織田軍が徳川軍とともに朝倉・浅井の両軍と対峙する【姉川の戦い】が始まりました。
銃声が響く中、柴田勝家が叫ぶ。佐久間盛信も雄叫びをあげる。
彼らはトークスキル抜群の光秀や藤吉郎より出番が少ないものの、ゆえにできることもあります。
腹の底から気合を入れて叫ぶこと。甲冑を着て、戦うこと。それがこうもカッコいい、胸にグッとくるという根源的な大河を見る喜びを叶えてくれる。そういう存在感があります。
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兵力に勝る織田信長が敵を切り崩し、朝倉・浅井は逃げ帰ったと説明されます。
エイエイオー! エイエイオー! エイエイオー!
信長も爽快感のある勝鬨をあげるのでした。
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このあと、近江・横山城へ。
佐久間盛信が信長の大勝利を祝うと、信長は得意げな顔になっています。
信長……いや、わかっていたけれど、性格も口も悪い。
前回の板挟みで苦悩していた長政と市を思い出すと、あまりに酷い態度といえばそうです。市のことを考える気がない。これは帰蝶もそういう傾向を感じますが。
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といっても、信長は役立つ相手のご機嫌は取れます。此度は徳川殿のお手柄だと家康を褒めるのです。
その家康は自信たっぷりな顔で、万(よろず)信長様のお力だと言い切る。
でも、この顔を見てくださいよ。これは自分の活躍も力もわかっている。極めて自信満々です。
信長はここで、光秀のこともポンと腕を叩きつつ、鉄砲を集めたことを褒めます。
信玄と対峙の家康
家康が、光秀に声をかけています。
明日にも三河に戻る所存。この戦で朝倉の力はようわかった、恐るるに足らぬ相手であると語ります。
いったい家康は、賢く見通す目で何を見て、そう言い切るのか……。
陣太鼓の鳴らし方が雑であるとか、武具の手入れが悪いとか。そういう細かいことを観察し、弱さを察知して言い切るのでしょう。
単に勝てたからだけでなく、構造そのものも見切っている可能性を感じます。
彼のように慎重な人って、よほど確たる根拠とデータ集めをしないと言い切らないと思うのです。
逆に家康が断言したら手遅れということでしょう。本作の家康も十分、怖い……。
しかし家康も安穏とはしていられません。
朝倉よりも手強い武田信玄が、三河にも手を伸ばし始めていました。これからは武田と戦うとキッパリと宣言。
その過程で、武藤喜兵衛なんていう奴に苦しめられたりするわけです。『真田丸』の真田昌幸ですね。
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そして気になることとして、幕府の動きをあげます。公方様が盛んに文を送り、武田信玄に上洛を促している。
その上で光秀に囁きます。
「油断なされますな。公方様はああ見えて、食えぬお方じゃ」
そう言い切る家康はどうなのか。一番煮ても焼いても食えぬ男がそう囁く、圧倒的な恐怖がそこにはある。
風間俊介さんの穏やかで無害そうな顔、すっきりとさわやかな声音がおそろしい。
家康は、実際におそろしい男です。何人殺したかとか、そういう話じゃない。
この男の頭の中にあるものが、江戸幕府を作りました。日本人の価値観や精神性を現在に至るまで決定づける、そういう世の中を生み出したのです。
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風間さんの家康を見ていると、なんだか何かに吸い込まれそうになってきます。
そういう日本人像を形成した家康は、本作でも特別です。光秀がその中に流れ込んでいないと、すっきりしないのでしょう。
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや
先週の光秀と家康の場面を見て、
・光秀は流されやすい
・理想に近い人を見つけるとすぐにホイホイ崇拝する
なんて感想も見受けられました。
むしろ光秀は、波長が合わない相手に対して取る塩対応が圧巻だと思います。机を並べて学んだ斎藤高政(斎藤義龍)への態度は、当たりがかなりキツかった。
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もっと流されやすいタイプだったら、相手が髙政にせよ、朝倉義景にせよ、安楽な道を選んでコロリとお腹を見せていませんか?
実際はそうでもなく、義昭への評価も厳しい。
波長が合わない相手への究極の“塩対応”が、本能寺に繋がるんだと感じます。
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや――。
光秀の高い志は、スケールの大きさゆえに理解されにくい一面もあるのでしょう。
そして、そんな光秀を見ていると、どうにも自分の胸もチクチクしてくるところがあります。
レビュー記事で
「今度のこの枠のドラマはガッカリだ」
「彼の演技は好きだ。個人的に何の恨みもない! だが、このドラマのこの役には褒めるべき点がない!」
みたいなことを言うと“この前まで好きだったのに!”とえらい怒られたりします。
それは流されやすいわけでもない。むしろ逆。特定の人物が関与している作品だから――という理由で手放しに褒めるのは、洗脳ではありませんか?
君子は豹変す――。
今では悪い意味で使われることが大半ですが、本来の意味は違います。
過ちに気がつけばすぐに軌道修正する。
この本来の使われ方が、今こそ大事だと思います。
日常にも同様のことは潜んでおりますね。
例えば、最初は無課金で始めたゲームなのに、途中から課金しないとマトモに遊べない。そういうアプリは即座に削除!
という具合に、過ちに気づいたら、その時点で撤退することが大事ではありませんか?
だらだらと茹でカエルになってもよいのですか?
戦略的撤退ってやつですね。
それに、今むしろ問題とされているのって【サンクコスト】【コンコルド効果】です。
◆「コンコルド効果」が教える終戦が8月15日の理由(→link)
『真田丸』では真田昌幸が言い切ってました。
「朝令暮改の何が悪い! より良い案が浮かんだのに、己の体面のために前の案に固執するとは愚か者のすることじゃ!」
嫌われることまで織り込み、覚悟を決めて意見を変えて何が悪いのか。初志貫徹以外の道だってあるでしょう。
駄目だとわかればキッパリやめられるか?
『麒麟がくる』にも【サンクコスト】の判断で明暗が分かれる人物が登場することでしょう。
百足が枕元を歩いたくらいで……
姉川で勝利したところで、信長の戦いは続きます。
浅井・朝倉に勝ちきれていないうえに、三好一党が四国から息を吹き返したのです。
摂津の海老江城にある信長の陣には、足利義昭もやって来ます。信長はそのことに一生ものの感謝を告げる。
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そして義昭もこう語ります。
「我が枕元に一匹の百足が歩みおってきた。これはめでたきしるしぞ! 百足は決してあとには退かん。三好の一党に打ち勝つとの神仏のお告げとみたぞ!」
ここでの信長の、ニンマリとした笑顔は何なのか――。
心中、軽蔑している顔ではありませんか?
そんな百足が枕元を歩いたくらいで勝てたら苦労しない。そんなことなら、そのへんから百足をとっつかまえて毎晩枕元にばら撒いてやる。証拠はあるのか? 百足のおかげで勝てた奴出して来い! そのくらいのことを思っていそうで、やはり怖い。
現に、このあと信長が苦杯を舐めることになると語られます。
信長の中で、義昭はどんどん、しょうもない存在になっていくのが手に取るようにわかる。
ここで駒が、自宅に穴を掘って金を隠そうとする東庵と話す場面が入ってきます。
何気ない場面のようで、戦況が説明されるのですね。
駒からすれば、公方様が出ていくからには勝利するはず。
それなのに摂津の一向宗、本願寺の鉄砲を持参した門徒らが三好方につき、厄介なことになっている。それを見て、越前の朝倉がまた京に向かって出陣したというのです。
正面では三好と本願寺と対峙し、背後には朝倉と浅井が迫る。
信長は窮地に陥るのです。
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