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【麒麟がくる第35回感想あらすじ】
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殺陣とワイヤーアクション
暗殺の罠――その中をズンズンと進んでゆく光秀。
障子越しに、次々と槍が突き出されてきました。
光秀は刀を使いつつ避けようとするも、脚を負傷してしまいます。
「出会え、出会え!」
「おのおの、のがすな!」
そう緊迫する中、光秀はなんとかして義昭のいる部屋までたどり着きます。
よい殺陣です。動き、ライティング、リアリティ。すべてが高度でした。
NHKは時代劇の継承に意義を感じているのでしょう。先週の『十三人の刺客』もすばらしかった!
そういえば実写版『るろうに剣心』の最終作公開が迫っておりますよね。
せっかくですので殺陣に関して、少しお話にお付き合いください。
特報映像を見ても【漫画をそのまま再現したい】そういう迫力あるアクションではあるのですが。
こういうアクションは日本の古武術観点から行くと、本来進んではいけない道であったと痛感してしまいます。
どうしたって、メインでアクション指導する谷垣健治さんは、香港仕込みの殺陣になってしまう。
香港では1980年代のジャッキー・チェン以降、動きが軽くなった。1990年以降はワイヤーアクション全盛期に突入しますが、あれは中国の【武侠における軽功】の再現であって、日本の武術にはない動きが入ってしまいます。
日本の武術、和装、伝統的な殺陣と相性がよろしくない。
念のために言っておきますと、私は谷垣さんもその盟友ドニー・イェンも大好きなのです。しかし……日本の時代劇にあまり取り入れるものではないと、苦い思いはあった。
それに、香港ですら最近は1970年代以前回帰のアクションになってきて、ああいう動きはもうちょっと古いのです。
ワイヤー全盛期『マトリックス』からもう20年は経過しましたから。
『麒麟がくる』の殺陣について『もっさりしている』という感想もありますが、原点回帰していると思えば納得できませんか? むしろこちらが本来の動きですし。
古いものを捨て去る機会ではないか?
荒い息遣いをして、光秀が義昭の前にたどり着きました。
異変を察知し、近習も下がらせ、二人きりになる義昭。
「面をあげよ」
光秀は痛む脚をかばいつつ、ゆっくりと面をあげて笑います。
「何がおかしい!」
そう問われ、光秀は3年前の本国寺でのことを思い出しています。
三好の一党に襲われ、公方様と穴蔵に逃げ込んだ。そして今日、我が命を狙われ、この穴蔵に逃げ込んでいる。
将軍になった直後の義昭が襲撃される! 本圀寺の変で何が起きた?
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3年前の穴蔵はおそろしくはあったものの、些か楽しい思い出でもあったと光秀は言います。
「楽しい?」
そう。あのころは、互いの心が通じていた。
公方様は都は穏やかでなくてはならぬと仰せられ、光秀も父から聞かされた都の思い出を語った。花咲き誇る都へ戻さねばと、公方様と光秀は同じ思いであった。あのころは、まだ新しい気持ちがあったものの。
「僅か三年で万事古うなった、思うことも見るものも」
義昭がそう漏らします。
すると光秀は這い寄って、今日はそのことをお話したくて参ったと言います。
近江で初めてお会いして、上洛するまで3年。そしてこの3年、古いものを捨て去る良い区切りではないかと。
古きものとは、摂津殿たち幕府の古き者のこと。
けれども、義昭は迷いがある。
捨て去ってそのあとどうするのか?
信長が勝手気ままに京を治めるのを黙って見ているというのか?
光秀は、そうならぬよう努めると誓います。
信長に坂本城を直ちに返して、二条城で公方様を守る。我らは将軍をお守りせねば――。
そう原則論をキッパリと断言します。
松永久秀が、光秀から2万石もらうという話を信じ、その心根の美しさに打たれた理由もわかります。
光秀の心の奥には、武士の誇りがある。自分の名誉や利益よりも、公方様を守ることを貫きたい。その心は確かに美しいといえばそうなのです。
信長とわしは性が合わぬ
義昭もこの心が通じたのか、涙を浮かべます。
「その傷で茶会に出るわけには行くまい」
やっと優しい義昭が戻ってきた。だからこそ、光秀の傷を気遣える。
誰かあると問いかけると、ちょうど三淵藤英がやってきていました。
挨拶を抜きにして、藤英に茶会は取りやめると言い切る義昭。そなたの口から摂津に伝えろと聞かされますが、藤英は先ほど摂津にはお会いしたと言います。
しかも茶とも思えぬものものしさ、引き下がる様子もない。
引き下がらねば、弟・藤孝の兵が門前にいる。公方様のお下知ならば、そのものたちを中に入れる。
それでよろしいかどうか聞いてきます。
義昭はやむを得まいと藤英に任せます。藤英から万が一摂津殿が従われぬ場合はどうするのかと問われ、義昭は言い切ります。
「従わねばとらえよ! 政所の役を免ずる」
「はっ、ただちに」
藤英は即座に立ち去ります。
すると義昭はしみじみとこう漏らすのです。
「今日の茶は飲んだところで苦い茶であったろう。ただ言うておくぞ。信長とわしは性が合わぬ。会うた時からそう思うてきた。三淵やそなたが頼りじゃ」
光秀はそう言う義昭を、じっと悲しい顔で見るしかありません。
どちらが正しいのか、優れているのか。のみならず、相性が合わねば人はすれ違ってしまうのだと。
藤孝の家来が踏み込み、摂津側の家来をとらえます。公方様のご上意、神妙に受けろと言われ、摂津晴門は悪あがきをします。
「なぜじゃ、なぜじゃ、おのれ! 離せ、離せっ、おのれ!」
かくして、幕府は悪い膿を出し切ったのかというと……どうでしょう?
摂津晴門はいなくなっても、義昭の心には信長への敵意が残されています。
そしてその火の粉は、光秀の心にも届くのでしょう。
帝はいかなる人物か
数日後、脚を引きずりつつ光秀はどこかへ向かいます。
面会の相手は伊呂波太夫でした。
お礼なら駒ちゃんにどうぞ、と言う伊呂波太夫。
細川藤孝は明智様贔屓だから話を通しやすかったとのこと。命拾いしたと感謝する光秀に、伊呂波太夫は幕府からお偉方がごっそり抜けて、これからいよいよ明智様の肩の荷が重くなると言います。
光秀は肩が音をあげているとちょっとおどけるのでした。
さらに光秀は、伊呂波太夫に帝のことを聞こうとします。
信長が脚繁く通う帝とはどのような方なのか? それを知りたがっているんですね。
帝に褒められることを喜んでいるけれど、我ら武士は将軍様をそうすべき。わからなくはないが、やはりわからない。
光秀はそう言いながら、伊呂波太夫に帝のことを知っているのか聞いているのです。
けれども、伊呂波太夫は幼い頃に一度見たことがあるだけでした。
そう言われ、光秀は「つまらぬことをお聞きした」と話を終えようとします。
ここで伊呂波太夫は、帝の覚えがめでたい方がいると言い出す。この近くにいて、これから栗をお届けしようと思っていると。
「お会いになってみます?」
そう誘われ、光秀はその家に向かいます。
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