こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【麒麟がくる第38回感想あらすじ】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
蹴鞠に興じる宮中へ
アリ! アリ! オウ! アリ! ヤア! アリ!
そう叫びながら、鞠を蹴る公達の姿。京では、誠仁親王が蹴鞠に興じていました。
「クランクインの日の撮影だったので、ガチガチに緊張しました!サッカー経験はありますが、蹴鞠(けまり)は右脚しか使ってはいけないとか、掛け声にも細かいルールがあってかなり大変でした。でも、蹴鞠皇子としては大好きな信長さんに見守っていただき光栄でした!」(加藤清史郎)#麒麟がくる pic.twitter.com/p2cZjvAFlm
— 【公式】大河ドラマ「麒麟がくる」毎週日曜放送 (@nhk_kirin) December 27, 2020
そんな彼を見守る中には信長もいます。
黒と赤の装束だろうと、一目で彼だけ異質とわかるのだから、やはりすごい。
「参議、そなたは蹴鞠はやらぬのか?」
そう問われ、信長は父・信秀より手解きは受けましたが、春宮(とうぐう)様のようにはできないと答えます。
-
戦国大名・織田信秀(信長の父)の生涯~軍事以上に経済も重視した巧みな手腕
続きを見る
次に参った時は容赦はせぬぞ。腕前を披露せよ。春宮は無邪気にそう語りかけてくる。
信長は「その儀はひらに……」とかわすのでした。
ここで春宮は信長が献上した瓜が美味であったとも語ります。
これもややこしい、東洋らしい伝統といえばそうなのですが。皇帝なり、王なり、その一族は、みだりに食べ物の好みを言えません。
なぜなら産地があるものですから。
特定の物ばかりを食べると、偏りがあると思われかねない。名君は、どの地方のものも平等に食べ、かつ褒めることが求められます。
今回のように、わざわざ献上品を褒めるということは、信任の情を感じていると言うようなもの。
極めて重要です。
ちなみにこれは現在の皇族でもそれはあるようです。
昭和天皇が好きなテレビ番組は何か? そういう質問があっても、ストレートには語られません。
伝わる逸話は、お付きのものが「あの番組を楽しみにしておられました……」とリークしたからなのですね。上に立つものは本来、個人の好みすら大っぴらにそうそうできない。大変なものです。
「帝の御意思です」とは
ここで二条晴良が奥に信長を呼びます。
そして信長に、誠仁親王は信任が高まっていると語るのです。
が、この二条がそんなに素直なわけもない。
帝が春宮に譲位し、鳥羽上皇の御世の如き朝廷にしたい旨を告げてくる。しかも帝の意思だのなんだの言いますが、果たしてどうだか。
これは日本史の重要なポイントですが「帝の御意思です」という触れ込みは疑った方がよろしい。
平安時代の摂関政治にせよ。幕末の【偽勅】にせよ。
周囲が勝手にそう言っているだけであることがあまりに多く、力関係を見ていくと、別のものが浮かび上がってきます。
-
孝明天皇の生涯を知れば幕末のゴタゴタがわかる~会津に託した宸翰と御製とは?
続きを見る
隣の三条西実澄もムッとしているようでもある。
信長は、それが帝の叡慮ならばその儀は進めても異論はないと言います。
ただし、そのための御所の造営、儀式にはざっと1万貫(現在の15億円)かかると言います。今日明日にはご用意できないと釘を刺す。
晴良は今や足利将軍に替わって世を治めんとする織田殿に、1万貫などものの数でもないはずだと言うものの、信長は乗ってこない。実澄は、信長様にはまだ敵がおり、戦にかかる金が馬鹿にはなるまいと理解を示します。
晴良は善は急げと言う。それに信長殿に聞いていると言う。
ご譲位は時を移さず行うべきだと述べる信長。実澄はこの言葉に何かを悟っているようです。
先のない天下が朧気に見えてきた……
本作はなかなか難しい。
このあと、帝との会話で真意が見えてきます。
帝が見るに、関白には焦りがある。実澄も「御意」と同意します。
二条関白家は足利家とつながりがある。それが今、足利家の敵である信長につかざるを得ない。信長を引き寄せたい思惑が見抜かれています。
帝が信長側の意向を尋ねると、実澄は蘭奢待切り取り以降、二条家と接近していると告げます。
帝は、信長には公卿の暮らしを助けるために様々な手を打ってもらい、感謝はしていると言う。
けれども関白と近づき過ぎれば、足利家と同じ道を辿ることになりかねぬと懸念しています。
最終章に突入し、信長の天下はそもそも先がないという誘導もうっすらと見えてきた気がする。信長は、結局、敬愛する帝も心服させられてはいません。
帝はここで、万葉好みの鳥はどうしているのか実澄に聞きます。
信長のことを最も知っている方じゃと、女官たちが噂しているとか。実澄に、かの者と話したいと告げるのでした。
-
過酷な戦国時代を生き抜いた正親町天皇~信長や秀吉とはどんな関係を築いた?
続きを見る
さて、存在感を見せる正親町天皇。彼が本能寺黒幕説も出ているようですが、私はそれはないと思います。
というよりも、黒幕説は採用しないと思うのです。
どうして本能寺黒幕説は尽きないのか? 問題はそこなのです。
願望ではありませんか? あれほど賢い信長が、あんなノーガードで宿泊するとは思いたくない。あれほど素晴らしい光秀が、短絡的な行動はしないだろう……陰謀論の根底には、願望があるものです。
その願望をどう否定するか?
人間は完璧ではないということ。
要するに、本能寺に嫡男と泊まってしまった際、信長は自信過剰、慢心があった――そう思うのです。
-
なぜ光秀は信長を裏切ったか? 本能寺の変における諸説検証で浮かんでくる有力説
続きを見る
人間の能力値は常に100発揮されるものと思いたいものですが、そうではありません。
どんな猛者だろうが、体調不良であれば敗北するかもしれない。どんな知恵者だろうが、何らかの要因で間違えることはある。
そういう心の隙間を本作は描いてきました。
織田信秀、斎藤高政、今川義元……こうした人物は、気の緩みから危うい目にあってきましたよね。信長も、光秀も、結局のところ人間なのです。
本能寺の変がなまじ前代未聞の出来事であったから、そういうことも起こる。
その先例から学んだ家康は、嫡男・秀忠と同時行動しないようになったのだと。
ではどうして正親町天皇がこうも目立ち、不穏なのか?
それは朝廷を心服させられない信長の限界を見せるためだとも思えてきます。
一方で正親町天皇が光秀に関心を寄せることで、それを対比として見せる。
信長は心服させることができない。光秀はそれができる。そのことが積もり積もって、信長の限界と破滅につながってゆくのでしょう。
前久が丹波にいる
鼓と笛の音が流れ、女たちが舞う京都の裏町に、光秀がやってきます。
そこへすっと姿を見せるのは伊呂波太夫。
彼女は、一番のお偉方が御家来衆も連れず、お危のうございません?と問いかけてきます。
光秀は鼓が聞きたい、鼓上手の近衛様が戻ってきていないかと答えます。
近衛前久が戻るのならば、二条関白が放っておかない――つまり丹波にいる。近衛は、丹波の赤井直正に妹を嫁がせているから、そこにいると見抜いています。
-
丹波の戦国武将・赤井直正の生涯~光秀を最も苦しめた“悪右衛門尉”とは?
続きを見る
そのうえで、もう一度お会いしたいと訴える。
太夫には頼み事ばかりして申し訳ないが、そこを頼みたい。丹波国を見てみたい。
敵ばかりですよ……そうそっけない伊呂波太夫。
むろん礼はすると光秀が伝えると、そんな礼など不要だから近衛前久が京都へ戻れるよう、信長に頼んで欲しいと彼女は訴えます。
最終章で、光秀と信長の結束はますます強まっている。光秀は、そのことは前久様にあって相談しようと持ち掛けます。
かくして伊呂波太夫は光秀の願いを受け入れ、丹波においでくださるようにすればお目通りできるようにする、前久には話を通しておくと言いました。
道に詳しいものがいるかと尋ねられると、お駒ちゃんのもとにいると伊呂波太夫は返します。
場面変わって、東庵の診療所には菊丸がおりました。
秀吉の母・なかが飲みたかった物をさっと出す菊丸。なかは驚き、うちにもこういう人が一人欲しいのよ、どこで見つけてきたのかと問いかけます。
-
大政所(なか)は豊臣兄弟の母~天下人となった秀吉にどんな影響を与えた?
続きを見る
東庵は笑いとばし、見つけたわけではなくブンブンのように勝手に飛んできたと言います。
「はい、私はブンブンでございます」と飛ぶ真似をする菊丸。
そこへ光秀がやってきます。
まさかここにいるとは思わなかった、太夫に聞いて驚いたと喜びを見せる光秀に対して、菊丸はご挨拶に伺いたかったものの偉い方なので畏れ多くて……と言葉を濁します。
「何を申しておる、私は十兵衛だぞ!」
明るくそう言い切る光秀。何気ないようで、揺るぎない何かが見えてきます。
十兵衛は十兵衛。
最終章にはいり、光秀も彼自身の本質へ回帰してゆく。揺るぎないものがあればこそ、十兵衛は十兵衛だからこそ、本能寺へ向かってゆくのか?
※続きは【次のページへ】をclick!