麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第38回 感想あらすじ視聴率「丹波攻略命令」

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菊丸の正体は

太夫から丹波の園部まで向かうと聞いた菊丸は、向こうにおいでの駒さんに会うかと聞いてきます。

駒の待つ場所へ向かう光秀。

部屋に入ると、駒が一礼してきました。光秀が、商いは繁盛していると聞いていると前置きすると、駒は何も変わらないものの、菊丸さんが来てくれてよろず捗りましたと言います。

そのうえで、先日、枇杷庄(びわのしょう)で公方様に会ったことを振り返ります。

とても寂しいところで、お会いした時、涙が流れて、私も泣いてしまった。

必ずまた京へ戻ると、諸大名と信長様を倒すと戦の話ばかりをしていたと。

先週は感動的であった場面ですが、今回は別の意味も見えてきます。そうやって抗戦しようとするから、三淵藤英は命を落としたともいえます。一体、何が正しいのか……。

ここで菊丸が、丹波に行ってくる芳三が寺の名を確かめたいと告げてきます。

寺の名を駒から聞き、書き写している菊丸の筆跡を見て、光秀の目の色が変わります。

以前、道ゆく父子連れから渡された、信玄の死を告げる手紙と同じ筆跡ではないか!

そこまで記憶し、咄嗟に引き出せる光秀の記憶術です。ただ、菊丸の正体を悟り、光秀は思うところがあるようです。それは悪感情ではないのです。

後日、一行は丹波に着きました。

反信長国衆の多いところで園部はその中心。別れようとする菊丸に、丹波で会うべき人物は誰か?と光秀は尋ねます。

丹波は難しい国だが小畠永明様なら……そう返す菊丸。光秀は納得しています。

「やはりそうか。流石に詳しいのう、菊丸。わかった、かたじけない」

光秀らしい会話とも言える。ストレートに菊丸の正体を尋ねないで、その見識を確認しました。

 

一に戦、二に戦~丹波で話し合いは不可能だ

光秀は伊呂波太夫の介添えを受け、近衛前久に面会します。

鼓の音を聞かれると、光秀は見事だと返す。なんでも丹波では退屈な暮らしで、鼓くらいしか楽しみもないとか。

前久は、信長が攻めてくることを確認します。

言葉を濁しつつ、聞きたき儀があると尋ねる光秀。

近衛様は二条様に追われ、一向衆の本願寺に助けを求めた。その一向宗が信長と戦になり、その流れでここにきた。そう確認します。そのうえで、どちらに着くのかと尋ねる。

前久はバツが悪そうに、そもそも信長のような武将が好きだと言います。

それが、なんの因果か、信長が二条と手を組んだゆえにかかる仕儀。二条と信長の結びつきに苦労しているのです。

光秀は、これからはそんな前久を手伝う所存と告げつつ、地図を押し出します。

宍人城の小畠永明に会わせていただきたいこと。

丹波国の民が望むこと。

年貢はどう納めるのか?

争いの元は金か、領地か?

どうすれば争いが収まるのか?

前久は苦い顔をします。その志は結構なれど、丹波は京都に接している。朝廷や大名が並び、話し合いどころではない。

そう言われても光秀は、小畠との話し合いを望みます。

前久は小畠も自分と同じ意見だろうとぼやくばかり。一に戦、二に戦で話し合いは成立しない。この国に一年もいればそれがわかる。そう諦めています。

そして天正3年(1575年)3月。

次なる戦が始まりました。

丹波の国衆は信長に従わず、丹波攻略に乗り出す光秀。

長い戦の始まりでした。

 

MVP:二羽の窮鳥、三淵藤英と斎藤利三

今回は、三淵藤英と斎藤利三という者を使い、光秀の本質を描き出す――そんな技巧が見て取れます。

窮鳥の懐に入るは、仁人の憫れむ所なり。況(いわん)や死士、我に帰す。当にこれを棄つべけんや。

逃げ場を失った鳥が懐に飛び込んでくれば、猟師であろうとも、憐れんで殺せない。

ましてや、死を覚悟している武士が助けを求めてきたら、どうして見捨てられましょう?

そんな鳥を憐れむ光秀と、そうすることすら思いつかない猫のような信長。

最終章、この二人がすれ違ってゆきます。

のみならず、この鳥のような二人は、光秀の過去と未来、武士、幕府のことも描いていると言える。

室町幕府を支えた幕臣は、気高い最期を迎えました。

一方で斎藤利三には大きな未来があります。

彼自身は、本能寺の後で光秀と運命を共にします。今回の言葉通り、光秀に殉じたのです。

けれども、その利三には福という娘がいました。

この娘は育ち、徳川家康の孫・竹千代の乳母となるのです。

乳母として、竹千代を守り抜いた福。春日局の名で知られるようになった彼女は、その忠誠心や意志の強さが賞賛を浴び、大河ドラマにも描かれることとなります。

そう考えると、まるで光秀が呼び寄せた麒麟の声が、斎藤利三とその娘・福を通して徳川という新たな幕府の安定化を図ったように思えなくもない――歴史ロマンってこういうことかと、痺れます。

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最終章に入って、本作は未来をも見据えるようになりました。

徳川の忍びである菊丸を見逃す光秀。そしてこの斎藤利三。そもそも光秀は、幼い家康に干し柿と希望を与えておりました。

ちなみに公式サイトで松永久秀の波乱が見られるようになっています。

そんな松永久秀に、大和の未来を夢見て、尽くしてきた一族がいます。

剣術に秀でた柳生家です。

柳生一族の出である宗矩は、春日局、松平信綱とともに、家光を支えた鼎となるのです。

この感動を『柳生一族の陰謀』でも見て粉砕されてください。

NHKリメイク版は吉田鋼太郎さんが宗矩なので、より混乱が増してお薦めできます。あ、そういえば朝廷からも強い麿が頑張ってましたね。

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すみません、話が前のめりになりましたが。

谷原章介さんは、白い百合に自らを例えてもまったく違和感のない、清浄な美しさがあって怖いほどでした。

人間の自死であり、過剰な美化はよろしくないのではないか?

そんな思いすら風に紛れて飛んでゆくようで、ただただ引き込まれました。

そして須賀貴匡さんですか。『八重の桜』の久坂玄瑞って素晴らしかったな、そう思っていた方です。

こういう年代の役者さんが、和服の所作をこなし、語彙が豊富で難しい長いセリフをきっちりと読み、堂々たる演技をしていること。それを見ることが、こうも愉快で楽しいとは。

こういう須賀さんのような人がいてこそ、日本の時代劇は受け継がれていくのであり、大事なことだとしみじみと思えるのです。

斎藤利三には未来がありますが、それは須賀さんにせよ同じこと。時代劇の未来は続くと思わせる、立派な演技でした。

うまいとか、下手とか、そういうことを超えて、希望や未来そのものです。

最近のNHKは、時代劇のレベルがあがっています。

近代ものの『おちょやん』、『新十郎探偵帖』も上出来。正月時代劇の『ライジング若冲』もおもしろそう。

『麒麟がくる』からも門脇麦さんと石橋蓮司さんが出ております。時代劇復活の狼煙がNHKからあがることが、こんなに嬉しいとは思ってもいないことです。

 

総評

真っ直ぐに飛んでいくようで、螺旋を描いて登っていくような、独特の味わいが出てきた本作。

そんな圧巻の最終章です。

人間は、生まれて育ち成長し、大人になって変わるものだと思われてきた。

けれどもそれは誤解や願望かもしれない。

折れて、妥協して、世間の要望や空気を読んで振る舞うことを覚えるけれども、幼いからと自由を味わえたころのように、なまじ地位が上がると戻れるようになる。

自分の本質を出しても、許されるようになってしまう。

そのためなのか?

本作の人物でも、ほぼ同時に命を終える二人が本質へ戻っていくような不思議な作りになってきます。

信長はすねる。怒る。帰れと光秀に怒鳴ってしまう。大好きな相手に喜んで欲しくて、金平糖や南蛮服を渡す。

蘭奢待で満足したのか、かえって帝への依存が薄くなり、原点である光秀に認められたいところへ戻ってきたように思える。

やはり、染谷さんでよかった。

童顔だのなんだの言われましたが、この信長はずっとピュアで、子どものような感性と瞳を持ち続けるのでしょう。無邪気であるのに、権力と武力があるからこそ、ちょっと動くだけで周囲が傷つけられてしまうのです。

人のようではない純粋さでも、鋭い爪牙を持つ獣と同じものがある。なんと悲しい人なのか……。

光秀も、十兵衛は変わらぬと言い切る。

若い頃の思い出を持ち出す。斎藤道三相手に怒り、帰ると言い切った若侍時代とそっくりな行動を取ってしまう。

理想主義も錆び付いておらず、まずは話し合いたいと持ちかけるのです。とことん不器用で、十兵衛は十兵衛じゃと言いたくもなる。

彼も悲しい人なのかもしれない。

あるいは、このうえなく幸せなところもある人なのか?

人のようではない純粋さでも、真っ直ぐに飛ぶ鳥のようなものがあります。

そんな光秀が言うことは綺麗事?

お花畑の平和主義?

大河にありがちな善人描写をしたいから、戦をスルーするという記事がここのところよく見られます。

それは雑な決めつけであるとも思えるのです。

確かに過去の大河には、そういうものはあります。

けれども今年は、かなりこれまでの作品から変えてきた理論やテーマ、焦点の当て方があるのでそこをもっと見ていきたい。

今回、前久にしつこく光秀は話し合いを持ちかけました。しかし結局は丹波攻略になってしまう。ならばあの申し出は無意味だったのか?

そうではないでしょう。本作で光秀が取り戻しつつある本質を描くために、必要だと思うのです。

三国志』に出てくる馬謖の言葉として、こんなものがあります。

心を攻めるを上と為し、城を攻めるを下と為す。心戦を上と為し、兵戦を下と為す。

諸葛亮はこうした助言を受けて、南征では心服を目指したとされています。

光秀は大名を心服させられぬ信長に、憤りすら感じている。そんな信長と己はちがう。もっと上を為すために、心戦を挑みたいのだと思います。

百戦百勝は善の善なる者に非ず。

たとえ勝利しても、敵だけでなく味方も消耗するからには、戦いを避けることがセオリーなのです。

別に綺麗事でも、お花畑でもない。それが当然のこと。だからこそ、光秀は人の心を知り、動かし、戦を避ける道を通らねば前へ進めない。

この心戦、心の戦いこそが本作の重要な点であり、かつ最終章の焦点かと思います。

この作品は明確に、人間描写といいますか、心理描写を重視していると言えましょう。また、そういう観点で見た方が、楽しめるのではないでしょうか。

同時に、本作は古びることがないとも言える。斎藤道三も引用していた『孫子』は、あれほど古いにも関わらず、いまだに現役の軍事学として通用します。

それはなぜか?

【軍事心理学】の書物だからでしょう。

人の心を動かす様を分析しているからこそ、兵器や技術が進歩しようと使える。人の心は普遍的でありながら、解析は不十分である、未知の領域といえます。

その深淵に本作は踏み込んでゆくのです。

人はどうして花のように芳しく咲けないのか?

鳥のように目標へ向かい飛んでゆけないのか?

それは無心になれないからかもしれない。心はいつも人を縛り付け、支配し続けます。

あの台湾の唐鳳(オードリー・タン)は『詩経』と『老子』から大きな影響を受けているそうですけれども、古典から読み解けるものもあります。

東洋の思想書は、心の動きを解析したものが多い。だから古びない。

また、このドラマはコロナ禍に重なることも多いとされます。

コロナ禍だけではなく、現代人が直面するいろいろな事情を掬い取ることができる――そんな作品だと思います。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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◆麒麟がくる全視聴率

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
麒麟がくる/公式サイト

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